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第6章 EGOIST

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119





ネア…



コーネリア・D・キャンベルという男は14番目という名の異端の存在だった。

『色の名前は大体覚えたよ…ネアはクロ、私はシロだね!』
「あぁ、そうだな。お前の髪は金色っていうんだぞ」
『キン?』
「そう、金だ」

13人しかいない筈の使徒…
そこに現れた“14番目”の存在。

『ネアはクロ一色だけど私は三色よね。ドレスはシロ、髪はキン、瞳はアオ』
「リボンもブルーだな。…お前いつまで若作りしてる気だ?」
『レディーに失礼ね。私はこの何度目かの人生を謳歌してるのに』

それは興味深く魅力的で…
彼の性格もまた、惹かれるものがあった。

『それにしても日本語って素敵ね!こんなに色んな意味を持つ言葉を操る言語だったなんて…私、初めて知ったわ』



私は彼を気に入っていた。
気に入り過ぎていた。



『私、ネアのことクロって呼ぼうかな』
「いいんじゃないか」

それがどんな未来を紡ぐのか…
当時の私はそんな事を考える事等全く無かった。
目先の問題にしか目が向いて無かった。

「シロは光、クロは闇。シロはクロが無きゃ輝けないし、クロはシロがいなきゃその暗さが分からない」

如何にこの聖戦という名の馬鹿馬鹿しい戦いにピリオドを打ち、世界に終焉を与えるのか。
ネアという言葉では言い表せない存在をどうしようかと…
そんな事で頭がいっぱいだった。

「俺にはお前が必要で、お前には俺が必要」

ネアがいればそれでいい。
そう思える程に執着していたなんて…
14番目という存在がこんなに方舟を惹きつけるだなんて、神も想像もしてなかったろう。



「そうだろ、シロ」





=小さな恋=






噴水の縁に腰掛け、少女は足をブラブラと揺らした。
隣に座った優しい目をした青年。彼の持つ手帳…そこに書き記したものを見ながら少女は楽しそうに歌を口遊んでいた。
手帳の真っ白なページを飾る黒いインクをその細い指でなぞりながら歌う。
決して大きくない少女の声は、広場の雑踏の音に消え、隣に座る青年の耳にしか届いていない様だった。

「あ、あの、すみません」

おずおずと声を掛けてきた少年に目を向けると、少女は首を傾げた。
『何かしら』
「は、花を買ってくれませんか?」
良く見れば少年は数種類の花の入った籠を抱えていた。
少女が青年を振り返れば、青年は懐から出したコインを少年に渡すと、籠の中から花を一輪取り、少女の髪に挿した。
「あ、あの、きれいです」
『ありがとう』
「あと…う、歌もきれいでした!」
吐き出す様に一気にそう言った少年を見て、少女は笑った。
『ありがとう!でも忘れてね…じゃあ、行って』
「ぇ?」
『行けと言ってるの。他のお客さんを探しなさい』
妖艶に笑う少女を見てビクッと肩を震わせた少年は、人混みの中に消えて行った。
「優しく、しなきゃ駄目だよ」


「そうだぞ、レイ!」


「ネア…」
少女は声のした方を振り返るとフッ…と短く息を吐いた。
「マナの言う通りだ。普通の女の子は花売りを威嚇したりしない…あの餓鬼ビビってたぞ」
『歌を聴かれたから忘れろと言った、私にかかわろうとしたから遠ざけた。方舟アークとしては凄く親切な行動をしたわ!……それより…遅いよ、クロくん』
「まあまあ‥僕と居るのは詰まらなかったですか?」
『楽しかったわ。私、マナと居ると癒されるもの』
「それは光栄です」
「なんだよ、それ。俺と居ると癒されないみたいじゃないか」


『癒し能力をマナと比べたらクロくんは格段に劣るよ。今だって待たされたわけだし、クロくんから得るもの無し』


「うっわ、バッサリだな!待たせた事に関しては悪いのじゃ俺じゃないぞ!アレンが迷子になるのが悪いんだ!」
「ハハ、ごめんね」
ネアの隣でニッコリと笑った青年、アレンにレイは一言“うん”と返事をした。
『アレンの迷子はいつもの事だもん、見失ったクロくんが悪いよ』
「俺の責任?!」
そっと置かれた手がレイの頭を優しく撫でる。
レイ、その花凄く似合ってるよ」
“可愛い”と言って笑うアレンはレイを立たせると、その小さな手を握った。
「…レイ、お前よく俺の事を“女たらし”と言うが…アレンの間違いだろ」
「え…ハハ、ネアには負けるよ」
『クロくん、最低~』

「分かった。お前等、俺で遊んでるだろ」





ゴーン…ゴーン…ゴーン……


鐘の音がする。





「あぁ、もうこんな時間か」
「さぁ、ランチは何にしましょう」
『ティラミス!』
「それはデザートです」
『グラタン!』
「はい、分かりました。レイはグラタンが好きですね」

鐘の音…
低過ぎず…高過ぎず…
なんだか心地良い。

『大好きよ!もちろん、マナのが一番』
「アハハ、光栄です」
「グラタンかぁ、いいね。お腹ペコペコだよ…時間が経つのは早いね」
「俺は腹減りで死にそうだわ…原因のアレンさんは反省してくださーい」










ゴーン…ゴーン…ゴーン……











「「姫、終わりました」」



『ご苦労様、ボンドム』
ボロボロで血塗れの教会。
ここがこんなになった理由は、ボンドムが遊び好きの所為だ。
一瞬で終われそうなものを…いちいちエクソシストを挑発して遊びたがる。まあ、いいけど。
「嫌ね、血生臭い。私に任せれば血なんて少量…体中をバキバキに折ってやるのに何で二人にやらすの、レイ?」
「煩い、ばばあ」
「黙ってろ、ばばあ」
「こっっの、餓鬼…ッ」
『デザイアス』
「…‥分かったわよ、喧嘩はしない」

『ボンドムは今日、私の警護だから離れられない。ボンドムがエクソシストを見て黙って見てられるわけ無いもん、好きにさせるのが一番。
ボンドム、貴方達はレディーにばばあなんて言っちゃ駄目だよ』

「「はーい」」
「やっだ、もう!レイったら超いい子!」
可愛いとじゃれつく様にレイを抱き締めるデザイアスを見て、ボンドムは表情を歪めた。
「もう、レイの護衛なんて私がいれば十分なのにぃ!」
「いや、お前護衛じゃないし」
「勝手に姫の後をくっ付いて回ってるだけだし」
「うっさい、小僧ども!」
『デザイアス…』
「あぁん、ごめんなさい」
「ストーカー女」
「変態女」
「黙れ、狂人双子!」
『……もう、いいや』





ゴーン…ゴーン…ゴーン……


鐘の音がする。





「そろそろ帰ろう、姫」
「皆、屋敷に戻る頃だ」
「嫌よ~レイ、私とお茶して帰りましょ!」
“紅茶とケーキと可愛いレイ…最高だわ”と言うデザイアスに、レイは目をキラキラと輝かせた。
『ケーキ?』
「そうよ、ケーキ♪ティラミスでも何でも何個でも奢っちゃうわ」


「じゃあ、行こうぜ」
「俺、お腹ペコペコなんだよね」
「あぁ、俺も」
「食べ放題とか最高」


「誰があんた達に奢るって言ったの!つーか、付いて来んじゃないわよ、私とレイのラブラブティータイムがぁぁ!!」
「変態だ」
「姫、離れよう」
「大丈夫、俺達護るから」
「エクソシストからも変態からも」
「だーかーらー、あんた達は誘ってな」

『楽しみだね、皆でケーキ♪』

「あぁん!もう、超可愛い!!!」
「「……」」
「もう、レイに免じて今日は許してやるわ!食べ過ぎんじゃないわよ!」
「単純」
「馬鹿」
「あ゙?何か言った?」



「「別に、な~んにも」」










ゴーン…ゴーン…ゴーン……











「おはようございます、レイ♡」



『……チィ』
「そのあだ名は決定なんデスネ♡」
『ん…おはよ~』
「ネアとレイは色なのに何デ…」

『イヤ?』

「そんな事ナイですヨ♡」
千年伯爵に支えられて起き上がったレイは、ググッと伸びをした。
『ぅあ~…よく寝た』
「もうお昼ですヨ」
『だって~…昨日は人数が多くてもう』
出会ったエクソシストを全員始末していたらすっかり疲れてしまった。
「お出掛けニ誰も連れて行かないからソウなるんデスヨ…それにしても、わざわざ方舟の中デ寝なくてモ」
『明け方に一回目が覚めてね…移動したの。誰にも起こされないでぐっすり寝たかったから』
“チィに見付かっちゃったけど”というレイを前に、千年伯爵は“ウフフ♡”と笑った。
レイがドコに居るかなんてお見通しデスよ♡」





ゴーン…ゴーン…ゴーン……


鐘の音がする。





「さァ、お昼にしまショ♡」
『んー…でも起きて直ぐには食べられないよ』
「まずハお茶からにしましょウ!いくらでも待ちますヨ♡」
『アハハ、それじゃあチィがお腹ペコペコになっちゃうね』
「イイんですよ、レイが一番デスから♡」


『ありがとう、チィ』










ゴーン…ゴーン…ゴーン……











『最近、何だか様子がおかしいの』



レイが小さくそう口にし、レイの正面に座っていた男は首を傾げて見せた。
「千年伯爵とゼノかい?」
『……』
小さく音楽の流れる喫茶店の窓際の一番端の席…黙ったままのレイは、紅茶を一口口にしたが、男が頼んでくれたティラミスに手を付ける事は無かった。
『人間である貴方に相談するのはおかしい事だって分かってる…』

「大丈夫だよ、レイ

『…ありがとう…あのね』
「うん」
『変わらない様に見えるの。家族達は気付いて無い…けど私には違和感がある』
「違和感…ね」
『殺す量が増えてきてる。アクマにする人間の量が急激に増えている…世界に終焉を与えるのだからそれが正しいのかもしれない。でも…これは急激過ぎるし、何より…』
「なにより?」


『日本が死んだ』


「日本?アジアの…島国の?」
『もうあそこに…あの国に人間は存在しない。滅ぼしてしまった…あそこにはアクマが溢れてる』
「……それはノアとしては変な事なの?」

『約束したの』

「約束?」
俯いたレイの手が、両手で包んでいたティーカップをギュッと握り締める。
『三人で縁日に行く約束だった。いつかは決めてなかったけど…行く約束をした。約束が破られた事なんか一度も無かった』
一度も無かった。
どんなに小さな約束も…今までは果たされていたのだ。
『きっと私との約束を忘れている。それ程に没頭している…急速にシナリオが進んでる…』





ゴーン…ゴーン…ゴーン……


鐘の音がする。





「帰るのかい?」
立ち上がったレイに、男はそう声を掛けた。
『門限が出来たの。命令される覚えはないし、破る事は簡単だけど…何か理由があると信じて従うわ』
「ごめんね…今日、僕は何もしていない」
『話を聞いてくれた…それで十分』
「…大丈夫かい?」
『ありがとう、アレン…大丈夫だよ。自分で色々調べてみるね』










ゴーン…ゴーン…ゴーン……











「方舟の機能を停止。良いと言うまで江戸に留まれ」



クロくんの言葉が私の中に響き渡る。
私を通して方舟に響き渡る…
近くの時計塔の鐘が鳴り響く中、クロくんの声だけがしっかりと耳に届いていた。

「待ってろ…シロ、俺が迎えに来るまで…」

そう耳元で声がして目を開けると、そこにクロくんはもう居なかった。
目の前に広がっていたのは見慣れた方舟の中だった。
しかし一つ違ったのは…色を失った様に真っ白になった方舟の街並み。
本当に…全てが気が狂う程に真っ白だった。



『“全てを忘却し破壊人形に成り果てたアイツを殺して俺が千年伯爵になる”…か』



少しずつ壊れていった彼に…
何で私は気付かなかったんだろう。
それでも傍に居ればいつか全てが元に戻るだなんて…

何でそんな夢を見てたんだろう。

『私…は、馬鹿だ』
噴水に腰掛けたレイは、涙をボロボロ流しながらそう小さく口にした。
嗚咽の混じる声が震え、口からは声を押さえるしゃっくりの様な音がした。

私は馬鹿だ。

私は壊れてゆく彼にきっと気付いていた。
なのに気付かないふりをした。
気付いた事を忘れようとしていた。
そして…
忘れたつもりでいた。
レイはふと顔を上げると“私”を見た。
スッと立ち上がって、流れる涙をそのままに“私”の方に歩いて来る。



『思い出したでしょ?私が持っていた…私達の記憶』



『私達の…記憶…』
『家族達がどんな子達だったのか。私と家族達に何があって、アレンが、ネアが、マナがどうしたのか』
どうしたのか…
どうしなければならなかったのか。
『私はこうなるまで会った事が無かったけど…クロスがどうしたかも貴女にも察しが付いた筈だ』
『クロス…』


『皆真剣だった。でもやっぱり原因が兄弟喧嘩なんて馬鹿馬鹿しすぎる』


『……』
『兄弟喧嘩に…他の兄弟達を巻き込んだのも』
“最悪の事件だ”と言って困った様に笑ったレイは、そっと私の手を取った。

『さぁ、目を閉じて…時間だ』

『時間…?』
『私ね、新しい方舟の侵食が始まっちゃってて、もうほとんど力が無いんだ…だからね、後は任せるよ』
“何を任せるかは…もう分かるでしょ?”そう問いかけられた瞬間、目の前が真っ白になり、耳元で優しい声がした。





『大丈夫、怖くないよ』





ゴーン…ゴーン…ゴーン……


鐘の音が聴こえる。
低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は、いつだって思い出の中にあった鐘の音だった。
いつだって…
全てを見ていた鐘の音だった。
真っ白な世界…

鐘の音の向こうで声がした…





『クロくん、大好き』




「…知ってる」

『神様よりも世界よりも家族よりも』

「あぁ」

『何よりも誰よりも』

「俺も…」















『「愛してる」』















うん、知ってるよ──…
あぁ、知ってるよ──…


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