第6章 EGOIST
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「“適合”とか言うから、イノセンスをやるものかと思ったぞ」
バクの言葉にアイリーンは小さく笑った。
『流石にイノセンスの移し方は分からないわ…あげるのは私の元々持っている力よ』
「あげてしまって大丈夫なのか?」
『大丈夫よ、全部じゃないから』
全部あげたら何か変わるかもしれない。しかし全部あげてしまったら、ハワードの肉体が死んでしまう。
アイリーンは目を閉じ、座禅を組んで魔法陣の上に座るリンクに目を向けた。
アイリーンの額に浮かんだ汗をリーバーが袖で拭う。
「アイリーン、急かすつもりは無いが外が…」
エクソシストもノアもボロボロだ。
平気な顔で戦っているのはレイだけ…
『ハワード、もう良いわ』
“教えた通りにね”と言ってアイリーンが影の中から引き抜いた刀身まで真黒な刀を手渡すと、それを受け取ったリンクは、気を失ったティキとシェリルの前に立つと、印を結び始めた。
「……本当に…上手くいくのか、アイリーン」
『大丈夫。彼等もレイの安全を望んでるもの』
印を結び詠唱を終えたリンクが刀を構え、アイリーンは微笑んだ。
『斬りなさい、ハワード』
=泣き虫涙の首飾り=
バラバラと…斬り捨てられた黒は地に落ちたティキとシェリルの体に落ちてから床に広がったアイリーンの影へと溶け込んでいった。リンクが刀を地に突き立てる様に突き刺すと、やはりそれも溶け込む様に影に沈んでいく。
「イノセンスを攻撃するから…監査官を呼び出したのか」
『アレン達にやらせたら咎落ち判定されちゃうもの』
「アイリーン元帥、どちらのノアでしょう」
『ティキ・ミック…目元に黒子のある男性よ』
“了解”と短く返して、リンクはティキを担ぎ上げた。
そしてリーバーに抱き起されたアイリーンの隣にティキを下ろし、ティキが座る形になる様に自分は背後へと回る。
『手を…』
そう足されて、リンクは膝を立ててティキの体を固定すると、その両腕を掴んでアイリーンに向けた。
アイリーンは自身の左手の親指を口に入れるとそれを噛んだ。
口許に少量口紅の赤とは違う赤が溢れる。
左手の人差指で切れた指に溢れる血を掬い、ティキの手の甲にサラサラと何かを書いてゆく。
三人はそれを見ていた。
『ティキ』
“ティキ、起きなさい”と優しい音色で何度か声を掛けられ、男…ティキ・ミックは目を覚ました。
全身を襲う痛みに唸る様に声をもらしながら顔を歪めたティキは、アイリーンと目が合うと……固まった。
「…………ちょっと待って…月?」
『そうよ』
確かにいつもの銀髪緋眼の見慣れた感じでは無いが、これはイノセンスを発動した月だ。
それは気を失う前に見たので覚えてる。
しかしこれは…
「どうしちまったんだよ…お前」
綺麗な緋色の瞳を囲う黒…全身を締め付ける様に這う茨の痣……
異常だ。
『イノセンスに侵されてるのよ』
「侵されてる…?」
『このままだと良くて死亡、悪いとイノセンスに肉体を乗っ取られるわ』
何だよ、それ…
イノセンスは人間の味方じゃなかったのか?
『それとね、ティキ…落ち着いて見て頂戴』
月の白く細い指が差した先…それを見て、黒くてもやもやした何かが噴出した。
「なんだよ…アレ」
何で…何でレイが、少年達は兎も角…
双子や千年公と戦ってんだよ。
『記憶が戻って…イノセンスを使ったのよ』
「…それで?」
『結果あの子はイノセンスに呑まれたわ』
瞬間、弾かれた様にアイリーンに覆い被さったティキは、その細い首を両手で絞めた。
「戻した結果がコレか…?」
「止めろ、貴様!!アイリーンの所為ではない!!!」
「黙ってろ、人間!!」
「レイはアイリーンを助ける為にイノセンスを使ったんだ!それを誘導したのはアイリーンのイノセンスだ!!」
………どういう事だ?
ピタリと首筋に冷たい物が当たった。
プツリと少しだけ肉が裂ける。
こんなもの、俺には効かないのに…
「大体の話は見えました、アイリーン元帥」
“こういう事ですね”と、ティキの首筋に刃物を押し当てていたリンクは、そっとそれを退けた。
「ノア…ティキ・ミックといいましたか」
「…それがどうした」
「アイリーン元帥のイノセンスを破壊して下さい」
「………は?」
「アイリーン元帥のイノセンスの破壊をお願いしているのです」
「いや、そりゃ分かってるけど」
正直、聞き間違いかと思った。
だって教団側の人間からイノセンスの破壊を頼まれるなんて…
けどこの状況なら仕方無いか…
『私の身体が乗っ取られてしまったら手が付けられなくなる。そうなってしまったら一筋の希望さえ失う……その前に止めて欲しいのよ、ティキ』
一筋の希望…
「俺がお前を助けたら…」
『何だい、ティキ』
「レイを助けてくれるか?」
月は俺に首を絞められてるままなのに、ふわりと笑った。
『元よりそのつもりだよ、ティキ』
ティキはそっと首から手を離すと、アイリーンの手を取った。
「どうしたらいい」
『私の影に入って男を捜して』
「男?」
「黒い肌に黒い髪、黒い目…全部が黒い男だ」
「なるほど、イノセンスであるあの男を破壊すれば、アイリーンは助かり、脅威が増える事も無いわけだな」
「イノセンスの男…てか影の中で黒い男って…見付かんなくねぇか?」
『手は打ってある』
“御願いね”とアイリーンが口にした瞬間、ティキの身体は一瞬で影の中へと沈んだ。
再びアイリーンが苦しみだす。
ギュッと固く握られた拳の指の間から血が溢れ、見開いた大きな目からはボロボロと涙が零れた。
「大丈夫か、アイリーン…」
「大丈夫ではないでしょう、班長殿」
「……痛いから…泣いているわけではないんだろう?」
『え…ぇ…』
「真珠の様な涙をボロボロボロボロと…」
『ッ…』
「お前は本当に泣き虫だな」
瞬間、バクを見て一際止まったアイリーンは、困った様に笑った。
『えぇ…えぇ、ほんと…う、に』
アイリーンは目を閉じると、ゆっくり息を吸った。
痛みと身体を支配されるその感覚…常闇に落とされる様なそれに支配されない様に。
ぎゅっと…手を握る。
「レイ!!僕が分からないんですか?!」
『コノ体ハ分カッテイルサ。“レイ”トシテデハ無イガナ』
レイが腕を振るい、その両腕に付けられた鎖が鞭の様にアレンを襲い、神田がその間に入り、鎖を六幻で受け止めた。
「神田…!」
「ボケっとすんな!お前の為じゃ無い!!」
間違っても…
二つの意味でレイを気付付けない様に。
そう思ってマントを自分を覆う様にして左手で掴んでいたアレンは、その手を離さない様に再度手に力を入れた。
ノアは倒さなくてはいけないものだ。
でもそれはレイにだけはやらせてはいけないものだから…
ジャスデビと伯爵を殺そうとするレイと、そんなレイを止めようとするジャスデビと伯爵。
僕と神田、ラビは望まれなくても…拒否されても、伯爵達に加勢するしかなかった。
レイを傷付けない様に…レイに伯爵達を傷付けさせない様に、レイに突っ込んで行っては攻撃を防ぎ続ける。
何て終わりの無い行為。
でもこうするしかなかった。
他にどんな方法があるだろう?
レイを止める方法…
イノセンスを解除させればレイは元に戻るのか?
でもどうやってイノセンスを解除させるっていうんだ。
「アレン!!!」
ラビの声が耳に入った瞬間に、目の前が真っ暗になった。
何だかいやに寒くて、怠くて、音が…
何も聞こえない。
さっきまで聞こえていた暴れるレイが壊す建物の崩壊する音も、皆がレイを呼ぶ声も…
それなのに、何故か神田の声だけが聞こえた。
別段大きい訳でも無い。
寧ろ消えそうなその声が…
「…お前……泣いてるのか?」
それと…
聞いた事の無い筈の…
何故か懐かしい男の声が──…
「“適合”とか言うから、イノセンスをやるものかと思ったぞ」
バクの言葉にアイリーンは小さく笑った。
『流石にイノセンスの移し方は分からないわ…あげるのは私の元々持っている力よ』
「あげてしまって大丈夫なのか?」
『大丈夫よ、全部じゃないから』
全部あげたら何か変わるかもしれない。しかし全部あげてしまったら、ハワードの肉体が死んでしまう。
アイリーンは目を閉じ、座禅を組んで魔法陣の上に座るリンクに目を向けた。
アイリーンの額に浮かんだ汗をリーバーが袖で拭う。
「アイリーン、急かすつもりは無いが外が…」
エクソシストもノアもボロボロだ。
平気な顔で戦っているのはレイだけ…
『ハワード、もう良いわ』
“教えた通りにね”と言ってアイリーンが影の中から引き抜いた刀身まで真黒な刀を手渡すと、それを受け取ったリンクは、気を失ったティキとシェリルの前に立つと、印を結び始めた。
「……本当に…上手くいくのか、アイリーン」
『大丈夫。彼等もレイの安全を望んでるもの』
印を結び詠唱を終えたリンクが刀を構え、アイリーンは微笑んだ。
『斬りなさい、ハワード』
=泣き虫涙の首飾り=
バラバラと…斬り捨てられた黒は地に落ちたティキとシェリルの体に落ちてから床に広がったアイリーンの影へと溶け込んでいった。リンクが刀を地に突き立てる様に突き刺すと、やはりそれも溶け込む様に影に沈んでいく。
「イノセンスを攻撃するから…監査官を呼び出したのか」
『アレン達にやらせたら咎落ち判定されちゃうもの』
「アイリーン元帥、どちらのノアでしょう」
『ティキ・ミック…目元に黒子のある男性よ』
“了解”と短く返して、リンクはティキを担ぎ上げた。
そしてリーバーに抱き起されたアイリーンの隣にティキを下ろし、ティキが座る形になる様に自分は背後へと回る。
『手を…』
そう足されて、リンクは膝を立ててティキの体を固定すると、その両腕を掴んでアイリーンに向けた。
アイリーンは自身の左手の親指を口に入れるとそれを噛んだ。
口許に少量口紅の赤とは違う赤が溢れる。
左手の人差指で切れた指に溢れる血を掬い、ティキの手の甲にサラサラと何かを書いてゆく。
三人はそれを見ていた。
『ティキ』
“ティキ、起きなさい”と優しい音色で何度か声を掛けられ、男…ティキ・ミックは目を覚ました。
全身を襲う痛みに唸る様に声をもらしながら顔を歪めたティキは、アイリーンと目が合うと……固まった。
「…………ちょっと待って…月?」
『そうよ』
確かにいつもの銀髪緋眼の見慣れた感じでは無いが、これはイノセンスを発動した月だ。
それは気を失う前に見たので覚えてる。
しかしこれは…
「どうしちまったんだよ…お前」
綺麗な緋色の瞳を囲う黒…全身を締め付ける様に這う茨の痣……
異常だ。
『イノセンスに侵されてるのよ』
「侵されてる…?」
『このままだと良くて死亡、悪いとイノセンスに肉体を乗っ取られるわ』
何だよ、それ…
イノセンスは人間の味方じゃなかったのか?
『それとね、ティキ…落ち着いて見て頂戴』
月の白く細い指が差した先…それを見て、黒くてもやもやした何かが噴出した。
「なんだよ…アレ」
何で…何でレイが、少年達は兎も角…
双子や千年公と戦ってんだよ。
『記憶が戻って…イノセンスを使ったのよ』
「…それで?」
『結果あの子はイノセンスに呑まれたわ』
瞬間、弾かれた様にアイリーンに覆い被さったティキは、その細い首を両手で絞めた。
「戻した結果がコレか…?」
「止めろ、貴様!!アイリーンの所為ではない!!!」
「黙ってろ、人間!!」
「レイはアイリーンを助ける為にイノセンスを使ったんだ!それを誘導したのはアイリーンのイノセンスだ!!」
………どういう事だ?
ピタリと首筋に冷たい物が当たった。
プツリと少しだけ肉が裂ける。
こんなもの、俺には効かないのに…
「大体の話は見えました、アイリーン元帥」
“こういう事ですね”と、ティキの首筋に刃物を押し当てていたリンクは、そっとそれを退けた。
「ノア…ティキ・ミックといいましたか」
「…それがどうした」
「アイリーン元帥のイノセンスを破壊して下さい」
「………は?」
「アイリーン元帥のイノセンスの破壊をお願いしているのです」
「いや、そりゃ分かってるけど」
正直、聞き間違いかと思った。
だって教団側の人間からイノセンスの破壊を頼まれるなんて…
けどこの状況なら仕方無いか…
『私の身体が乗っ取られてしまったら手が付けられなくなる。そうなってしまったら一筋の希望さえ失う……その前に止めて欲しいのよ、ティキ』
一筋の希望…
「俺がお前を助けたら…」
『何だい、ティキ』
「レイを助けてくれるか?」
月は俺に首を絞められてるままなのに、ふわりと笑った。
『元よりそのつもりだよ、ティキ』
ティキはそっと首から手を離すと、アイリーンの手を取った。
「どうしたらいい」
『私の影に入って男を捜して』
「男?」
「黒い肌に黒い髪、黒い目…全部が黒い男だ」
「なるほど、イノセンスであるあの男を破壊すれば、アイリーンは助かり、脅威が増える事も無いわけだな」
「イノセンスの男…てか影の中で黒い男って…見付かんなくねぇか?」
『手は打ってある』
“御願いね”とアイリーンが口にした瞬間、ティキの身体は一瞬で影の中へと沈んだ。
再びアイリーンが苦しみだす。
ギュッと固く握られた拳の指の間から血が溢れ、見開いた大きな目からはボロボロと涙が零れた。
「大丈夫か、アイリーン…」
「大丈夫ではないでしょう、班長殿」
「……痛いから…泣いているわけではないんだろう?」
『え…ぇ…』
「真珠の様な涙をボロボロボロボロと…」
『ッ…』
「お前は本当に泣き虫だな」
瞬間、バクを見て一際止まったアイリーンは、困った様に笑った。
『えぇ…えぇ、ほんと…う、に』
アイリーンは目を閉じると、ゆっくり息を吸った。
痛みと身体を支配されるその感覚…常闇に落とされる様なそれに支配されない様に。
ぎゅっと…手を握る。
「レイ!!僕が分からないんですか?!」
『コノ体ハ分カッテイルサ。“レイ”トシテデハ無イガナ』
レイが腕を振るい、その両腕に付けられた鎖が鞭の様にアレンを襲い、神田がその間に入り、鎖を六幻で受け止めた。
「神田…!」
「ボケっとすんな!お前の為じゃ無い!!」
間違っても…
二つの意味でレイを気付付けない様に。
そう思ってマントを自分を覆う様にして左手で掴んでいたアレンは、その手を離さない様に再度手に力を入れた。
ノアは倒さなくてはいけないものだ。
でもそれはレイにだけはやらせてはいけないものだから…
ジャスデビと伯爵を殺そうとするレイと、そんなレイを止めようとするジャスデビと伯爵。
僕と神田、ラビは望まれなくても…拒否されても、伯爵達に加勢するしかなかった。
レイを傷付けない様に…レイに伯爵達を傷付けさせない様に、レイに突っ込んで行っては攻撃を防ぎ続ける。
何て終わりの無い行為。
でもこうするしかなかった。
他にどんな方法があるだろう?
レイを止める方法…
イノセンスを解除させればレイは元に戻るのか?
でもどうやってイノセンスを解除させるっていうんだ。
「アレン!!!」
ラビの声が耳に入った瞬間に、目の前が真っ暗になった。
何だかいやに寒くて、怠くて、音が…
何も聞こえない。
さっきまで聞こえていた暴れるレイが壊す建物の崩壊する音も、皆がレイを呼ぶ声も…
それなのに、何故か神田の声だけが聞こえた。
別段大きい訳でも無い。
寧ろ消えそうなその声が…
「…お前……泣いてるのか?」
それと…
聞いた事の無い筈の…
何故か懐かしい男の声が──…