第6章 EGOIST
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レイが涙を覚える事なんて一生無くていいと思った。
だからずっとずっと…
笑わせ続けるつもりだった。
なのに僕等は何をしてるんだろう。
「レイ!!!」
アレン・ウォーカーのイノセンスから伸びる何本もの帯を髪の毛で切り裂いて、記憶の戻ったレイの元へ駆け付けた。
建物の屋根に立ったレイが構えた漆黒のヴァイオリンが何だか酷く不気味に見えた。
「レイ…」
僕等を見て笑ったレイは相変わらず可愛くて…
でもその笑顔はいつもと違っていて…
次の瞬間見せたレイの表情は、僕等の心臓を鷲掴みにした。
『ごめんね…ジャスデビ』
=イノセンス=
『“錠・音ノ鎖”』
クロスの止める声が響く中…
千年伯爵のレイを呼ぶ声が響く中…
ジャスデビの伸ばした腕はレイに届く事は無かった。
構えたイノセンスのf字孔から溢れるレイを取り囲む音符という名の記号の書き記す旋律…
『開錠』
レイがそう口にすると、それぞれが絡み合い、繋がり、いつしかそれは鎖となった。
『イノセンス解放』
弓を鞭を扱う様に振るう。
増え続け、何重にも重なり合う鎖がレイを隠す様に取り囲んだ。
『“使徒ノ枷”』
レイを囲む様に固く巻き付けられた鎖の球体…
それが弾ける様に解けた瞬間、中から現れたのは、先程までのレイでは無かった。
長さをバラバラに切られた黒髪、体に張り付く黒服。
目元を覆う黒いアイマスク。
レイを取り囲んでいた鎖がジャラジャラと音を立てて両手両足に付いた枷を掴み、首輪に繋がれる。
「何だよ…アレ…」
宙に浮かんでいたレイの体は、ふわりと先程まで立っていた屋根の上に立った瞬間、消え去った。
驚いて目を見開いたジャスデビの体が後方に吹き飛び、ロードを庇う様に抱えていたワイズリーが横殴りに吹き飛ばされる。
千年伯爵は、腕をクロスにして頭上に構えると“それ”を止めた。
ジャスデビが激突した時計塔と、ワイズリーが激突した噴水が崩れる中、振り下ろした右脚を千年伯爵に止められたレイは、一瞬だけピタリと止まった。
「レイ……♡」
レイは飛び上がると、空中で体を捻り、千年伯爵を蹴り飛ばした。
地に着地したレイを先程まで千年伯爵と対峙していたクロスが羽交い絞めにする。
『何ヲスル』
「呑まれたか」
『呑マレタ…?コレガ本来アルベキ姿ダ』
バキッという音と共にクロスの腕をすり抜けたレイは、ジャラジャラと鎖の音を立ててクルッと回った。
「呑まれたって…どういう事ですか、師匠!!」
「煩ぇ!!お前らはアイリーンを見てろ!!」
そう叫んだクロスは、黒い男を睨み付けるとレイに向かって突っ込んで行った。
「見てろって…」
『難しい、話よ…ね』
「喋んな、アイリーン」
「いや、悪いが喋ってもらう」
「何言ってるんですか、神田!」
「この男は絶対に何も話さねぇ…だったらアイリーンに聞くしかねぇだろ……レイは…どうしちまったんだ」
『……あ、れは…』
「あれは…何だ」
『レイのイノセンス…の、本来の…姿』
「あれが…本来の姿?」
小さく返事をしたアイリーンは、目を閉じた。
『いつも、は…“音ノ鎖”という…名の“鍵”で、能力をセーブしてる』
「つまり兵器って事でしょ」
カツン…とヒールの音を立てて成長した姿の少女が屋根から飛び降りて来た。
右手で小さくなった人形を抱き、左手で気を失ったユエの首根っこを掴んで引き摺っている。
「あれがイノセンスの…お兄ちゃん達が信じてるモノの正体」
そう言って少女は空中で伯爵達と戦い続けるレイを見上げた。
「いくら戦ってもイノセンスはノアである黒いレイを縛り付ける。それはあの子を逃がさない為と…ノアに対する脅しでもあるんじゃないかな」
“姫は我々の手の内にある、それをよく考えろ”
「自分達の思い通りに世界を動かす為に人間を操り、縛り付ける。正義だと謳い人間を酔わせるんだ……人間は愚かだから神の導きだと思ってそれに従う」
少女は“そうでしょ?”とラビの腕の中で苦しむアイリーンを見下ろした。
「ほんと、ばっかみたい」
『えぇ…ッ、ほんとに』
アイリーンはニッコリと笑って“でも”と続けた。
『それだけじゃ無いわ…人間、も…捨てたもんじゃ、ないわよ』
“お兄ちゃん達を信じるって事?”そう頭の中に直接少女の声が響き、アイリーンは顔を上げた。
『…アレン、貴方は正義を…貴方に力を与えた神、を…信じてる?』
「僕が信じるのは仲間です」
『その仲間の一人である私が…今、この事態を引き起こしているのに?』
「それでも信じます。貴女は僕の大事な仲間だから」
ラビの腕の中で苦しみ続けるアイリーンは“ね”と言って笑うと、立ち上がろうとした神田の手を掴んだ。
「何を」
『レイに…手、を出しちゃ、駄目よ…』
「俺はただ!」
「ユウ!!」
『貴方達が、手を出したら…ソイツの思う壺よ。クロスと…私、に、任せなさい』
苦しそうに唸りながら体を捻るアイリーンを見て、ずっと黙っていた“ソイツ”と呼ばれた男は相変わらずの無表情のまま鼻で笑った。
「あの男もお前も…何も出来ぬと知りながらまだ抗うか」
『出来るわ』
青い顔で“私はあの子とクロスを信じてるもの”と言ってアイリーンは笑った。
『私は“ハート”なんでしょう?』
その一言に一番反応したのは結界の中のルベリエだった。
「ハート…?!」
『そう、ハート…』
「どういう事ですか、アイリーン・ネイピア元帥!!」
「…いい加減に黙ったらどうだ。お前はもうイノセンスに縛られたただの人形だ」
『正確には…ッ!』
ゴホゴホと咳き込んだアイリーンは口角を上げて笑った。
『私のイノセンスたる貴方がハートなんでしょう?』
「な…!!」
「こいつ!!?」
「イノセンスが…ハート?」
「…何故気付いた」
『この私に憑いた時点で可笑しいと思ったわよ』
「最初からか…」
『人型に、なるとは思わなかったけど…“壊れない身体”が欲しかったんでしょ?』
「……アイリーン・ネイピアを助けるとは言ったが、お前の本名は違う。レイ・アストレイとの約束は無効だ」
『まぁ、良く言うわ…最初から殺す予定だった癖に』
鼻で笑った男が水に沈む様に一瞬で影の中へと消えた瞬間、アイリーンはまた茨の痣に締め付けられる様に苦しみ始めた。
黒く染まった緋色の瞳の目が見開き、大粒の涙が溢れる。
『嫌、ね…こんなに手も足も出無いの…久し、振り』
パリンッと音を立てて、薄い硝子のドームの様な結界の一つが割れて、リーバーとバクはアイリーンの元に駆け寄った。
『駄目じゃない…結、界、破っちゃ…』
「叩きまくっただけで割れる程脆い貴様の結界が悪いんだ!…そこまで消費してる証拠だろ」
『あら…フォーを招喚して叩かせるなんて…狡いわよ』
クロスの元に向かって飛んで行くフォーを目を細めてアイリーンは見た。
ボロボロと涙を零すアイリーンをラビから引き受けて抱いたリーバーは、そっとアイリーンの涙を指の腹で拭う。
「お前ら、レイを止めてきてくれ」
『駄目、よ!!絶対に、手を出さな、いで!!』
アイリーンの悲鳴の様な声に、アレン達が答える事は無かった。
レイの元に向かうべく、三人はほぼ同時に地を蹴った。
「大丈夫だ、アイリーン…“止めるだけ”だから」
止めるだけ。それのリスクをその場にいる誰もが分かっていた。
そして数人を除いて…皆それを恐れていた。
アイリーンは目を閉じると、荒い息を整える様にゆっくりと息を吸って…吐いた。そして目を開けると、その手を少女に向かって伸ばした。
『御嬢さん、私の願いを聞いてくれないかしら?』
「願い?」
『これを切りたいのよ』
影を指さして手招きするアイリーンの唇に耳を寄せた少女は、ずっと掴んでいたユエの首根っこを離した。
「手も足も出せないって言ってたけど…頭はいけるみたいだね」
額に汗を浮かべて、青い顔のアイリーンはニッコリと笑った。
『悪足掻き、得意なのよ』
あのイノセンスを…
泣かせてやりましょう。
レイが涙を覚える事なんて一生無くていいと思った。
だからずっとずっと…
笑わせ続けるつもりだった。
なのに僕等は何をしてるんだろう。
「レイ!!!」
アレン・ウォーカーのイノセンスから伸びる何本もの帯を髪の毛で切り裂いて、記憶の戻ったレイの元へ駆け付けた。
建物の屋根に立ったレイが構えた漆黒のヴァイオリンが何だか酷く不気味に見えた。
「レイ…」
僕等を見て笑ったレイは相変わらず可愛くて…
でもその笑顔はいつもと違っていて…
次の瞬間見せたレイの表情は、僕等の心臓を鷲掴みにした。
『ごめんね…ジャスデビ』
=イノセンス=
『“錠・音ノ鎖”』
クロスの止める声が響く中…
千年伯爵のレイを呼ぶ声が響く中…
ジャスデビの伸ばした腕はレイに届く事は無かった。
構えたイノセンスのf字孔から溢れるレイを取り囲む音符という名の記号の書き記す旋律…
『開錠』
レイがそう口にすると、それぞれが絡み合い、繋がり、いつしかそれは鎖となった。
『イノセンス解放』
弓を鞭を扱う様に振るう。
増え続け、何重にも重なり合う鎖がレイを隠す様に取り囲んだ。
『“使徒ノ枷”』
レイを囲む様に固く巻き付けられた鎖の球体…
それが弾ける様に解けた瞬間、中から現れたのは、先程までのレイでは無かった。
長さをバラバラに切られた黒髪、体に張り付く黒服。
目元を覆う黒いアイマスク。
レイを取り囲んでいた鎖がジャラジャラと音を立てて両手両足に付いた枷を掴み、首輪に繋がれる。
「何だよ…アレ…」
宙に浮かんでいたレイの体は、ふわりと先程まで立っていた屋根の上に立った瞬間、消え去った。
驚いて目を見開いたジャスデビの体が後方に吹き飛び、ロードを庇う様に抱えていたワイズリーが横殴りに吹き飛ばされる。
千年伯爵は、腕をクロスにして頭上に構えると“それ”を止めた。
ジャスデビが激突した時計塔と、ワイズリーが激突した噴水が崩れる中、振り下ろした右脚を千年伯爵に止められたレイは、一瞬だけピタリと止まった。
「レイ……♡」
レイは飛び上がると、空中で体を捻り、千年伯爵を蹴り飛ばした。
地に着地したレイを先程まで千年伯爵と対峙していたクロスが羽交い絞めにする。
『何ヲスル』
「呑まれたか」
『呑マレタ…?コレガ本来アルベキ姿ダ』
バキッという音と共にクロスの腕をすり抜けたレイは、ジャラジャラと鎖の音を立ててクルッと回った。
「呑まれたって…どういう事ですか、師匠!!」
「煩ぇ!!お前らはアイリーンを見てろ!!」
そう叫んだクロスは、黒い男を睨み付けるとレイに向かって突っ込んで行った。
「見てろって…」
『難しい、話よ…ね』
「喋んな、アイリーン」
「いや、悪いが喋ってもらう」
「何言ってるんですか、神田!」
「この男は絶対に何も話さねぇ…だったらアイリーンに聞くしかねぇだろ……レイは…どうしちまったんだ」
『……あ、れは…』
「あれは…何だ」
『レイのイノセンス…の、本来の…姿』
「あれが…本来の姿?」
小さく返事をしたアイリーンは、目を閉じた。
『いつも、は…“音ノ鎖”という…名の“鍵”で、能力をセーブしてる』
「つまり兵器って事でしょ」
カツン…とヒールの音を立てて成長した姿の少女が屋根から飛び降りて来た。
右手で小さくなった人形を抱き、左手で気を失ったユエの首根っこを掴んで引き摺っている。
「あれがイノセンスの…お兄ちゃん達が信じてるモノの正体」
そう言って少女は空中で伯爵達と戦い続けるレイを見上げた。
「いくら戦ってもイノセンスはノアである黒いレイを縛り付ける。それはあの子を逃がさない為と…ノアに対する脅しでもあるんじゃないかな」
“姫は我々の手の内にある、それをよく考えろ”
「自分達の思い通りに世界を動かす為に人間を操り、縛り付ける。正義だと謳い人間を酔わせるんだ……人間は愚かだから神の導きだと思ってそれに従う」
少女は“そうでしょ?”とラビの腕の中で苦しむアイリーンを見下ろした。
「ほんと、ばっかみたい」
『えぇ…ッ、ほんとに』
アイリーンはニッコリと笑って“でも”と続けた。
『それだけじゃ無いわ…人間、も…捨てたもんじゃ、ないわよ』
“お兄ちゃん達を信じるって事?”そう頭の中に直接少女の声が響き、アイリーンは顔を上げた。
『…アレン、貴方は正義を…貴方に力を与えた神、を…信じてる?』
「僕が信じるのは仲間です」
『その仲間の一人である私が…今、この事態を引き起こしているのに?』
「それでも信じます。貴女は僕の大事な仲間だから」
ラビの腕の中で苦しみ続けるアイリーンは“ね”と言って笑うと、立ち上がろうとした神田の手を掴んだ。
「何を」
『レイに…手、を出しちゃ、駄目よ…』
「俺はただ!」
「ユウ!!」
『貴方達が、手を出したら…ソイツの思う壺よ。クロスと…私、に、任せなさい』
苦しそうに唸りながら体を捻るアイリーンを見て、ずっと黙っていた“ソイツ”と呼ばれた男は相変わらずの無表情のまま鼻で笑った。
「あの男もお前も…何も出来ぬと知りながらまだ抗うか」
『出来るわ』
青い顔で“私はあの子とクロスを信じてるもの”と言ってアイリーンは笑った。
『私は“ハート”なんでしょう?』
その一言に一番反応したのは結界の中のルベリエだった。
「ハート…?!」
『そう、ハート…』
「どういう事ですか、アイリーン・ネイピア元帥!!」
「…いい加減に黙ったらどうだ。お前はもうイノセンスに縛られたただの人形だ」
『正確には…ッ!』
ゴホゴホと咳き込んだアイリーンは口角を上げて笑った。
『私のイノセンスたる貴方がハートなんでしょう?』
「な…!!」
「こいつ!!?」
「イノセンスが…ハート?」
「…何故気付いた」
『この私に憑いた時点で可笑しいと思ったわよ』
「最初からか…」
『人型に、なるとは思わなかったけど…“壊れない身体”が欲しかったんでしょ?』
「……アイリーン・ネイピアを助けるとは言ったが、お前の本名は違う。レイ・アストレイとの約束は無効だ」
『まぁ、良く言うわ…最初から殺す予定だった癖に』
鼻で笑った男が水に沈む様に一瞬で影の中へと消えた瞬間、アイリーンはまた茨の痣に締め付けられる様に苦しみ始めた。
黒く染まった緋色の瞳の目が見開き、大粒の涙が溢れる。
『嫌、ね…こんなに手も足も出無いの…久し、振り』
パリンッと音を立てて、薄い硝子のドームの様な結界の一つが割れて、リーバーとバクはアイリーンの元に駆け寄った。
『駄目じゃない…結、界、破っちゃ…』
「叩きまくっただけで割れる程脆い貴様の結界が悪いんだ!…そこまで消費してる証拠だろ」
『あら…フォーを招喚して叩かせるなんて…狡いわよ』
クロスの元に向かって飛んで行くフォーを目を細めてアイリーンは見た。
ボロボロと涙を零すアイリーンをラビから引き受けて抱いたリーバーは、そっとアイリーンの涙を指の腹で拭う。
「お前ら、レイを止めてきてくれ」
『駄目、よ!!絶対に、手を出さな、いで!!』
アイリーンの悲鳴の様な声に、アレン達が答える事は無かった。
レイの元に向かうべく、三人はほぼ同時に地を蹴った。
「大丈夫だ、アイリーン…“止めるだけ”だから」
止めるだけ。それのリスクをその場にいる誰もが分かっていた。
そして数人を除いて…皆それを恐れていた。
アイリーンは目を閉じると、荒い息を整える様にゆっくりと息を吸って…吐いた。そして目を開けると、その手を少女に向かって伸ばした。
『御嬢さん、私の願いを聞いてくれないかしら?』
「願い?」
『これを切りたいのよ』
影を指さして手招きするアイリーンの唇に耳を寄せた少女は、ずっと掴んでいたユエの首根っこを離した。
「手も足も出せないって言ってたけど…頭はいけるみたいだね」
額に汗を浮かべて、青い顔のアイリーンはニッコリと笑った。
『悪足掻き、得意なのよ』
あのイノセンスを…
泣かせてやりましょう。