第5章 二人の女王
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112
彼の吐いた煙が彼を薄く包む。
“いつもの挨拶”の様な会話を口にした彼がこちらを振り向き、緋色の綺麗な髪が靡いた。
『クロス…』
私を一瞥したクロスは、私の耳元に顔を寄せて匂いを嗅ぐ様にクンッと息を吸うと、今度はしゃがんでリーバーに顔を近付けた。
「な…何すか…」
立ち上がったクロスの鋭い眼光がリーバーを見下ろし、次に私を見据えた。
不機嫌そうに寄せた眉が眉間に皺を作った。
「く…クロス・マリアン!!貴方、今まで一体!!」
「身体に傷を作った挙げ句、他の男に抱かれるとは良い度胸だ」
『…………はい…?』
「お前からそいつの匂いがする」
青筋を浮かべたルベリエの言葉を遮ってまで、この人は一体何を言っているんだろうか。
『…何を言ってるの?リーバーは私を心配してくれただけよ。貴方には関係無いでしょう?』
「アイリーン…」
「こいつは男だ」
『男だから何だっていうの』
意味が分からない。
『リーバーは素敵な人よ。私に害は無いし…第一、リーバーみたいなモテそうな人がこんなおばさんを相手にするわけ無いでしょ…貴方、男性を』
「アイリーン、お願いだから煽らないでくれ」
『はい…?』
青い顔をしたリーバーにそう言われ、アイリーンは首を傾げた。
リーバーの隣で同じく青い顔をしたバクが何度も頷いている。
「今は“そういう事”にしといてやる」
不機嫌そうなクロスはアイリーンの額にキスを落とした。
「お前は俺のだ」
『また勝手な事を言っ』
「これから何があろうと、俺はお前を“帰す”気なんか更々無い」
「帰す…?」
『……』
「全て終わったら覚悟しとけ」
=二隻の方舟=
『意ッ味、分かんない!!』
何なの、あの人間…エクソシストの男は。
影から出て来たし、あの女の力でだろうけど…急に現れて好き勝手にベラベラと…
『人の事無視して話さないでよねぇ』
『あらあら、貴方不評よ』
「あ?仕方無ぇだろ興味無ぇんだから」
『まぁ、嘘ばっかり』
クスクス笑うアイリーンと、不機嫌なクロスのやり取りを見たレイは、フンッと短く息を吐いた。
『私を見てなきゃダメだよぉ?』
レイは、アレンと交戦中のデビットとジャスデロの間に飛ぶと、二人の腕に抱き付いて向かってくるアレンに向かってベーっと舌を出した。
「ッ、レイ!そこを退いてくださ」
『ここは方舟 の中なんだから』
瞬間、石畳の地面を突き破って生えてきた蔦は上へ上へと伸びる毎に枝分かれをし数を増やし、太く成長してアレンを絡め取る様に捕えて締め付けた。
「ッ、アァアアァア…ッ!」
アレンの苦しそうな声が響く中、動こうとしたアイリーンをクロスが腕を掴んで止めた。
『私をちゃんと見てないと…見ててもこうなっちゃうんだからさ♪』
「ギャハハ、弟子ゲットぉ!」
「ヒヒ、動けないね!動けない間にプレゼントしてあげるよ」
デビットとジャスデロは、お互いにレイに抱き付かれていない方の手で銃を取ると、アレンに向けて構えた。
「「紫ボム!!!」」
二人の銃から放たれた紫ボムがアレンに当たる瞬間、白い壁の様なモノがアレンの前に現れた。
紫ボムが当たると壁は弾け飛んでその一欠片一欠片が白い鳥になり飛んで行った。
「ヒヒ、マジックショー?」
「んなわけ無ぇだろ」
「ひとのことは…むし」
そう声がして下を見ると、古い私が蔦の根元に触れてニッコリと笑った。
「それはあなたもいっしょじゃない」
少女の背に白い十字架が現れ、そこから伸びた白いリボンが蔦を斬り裂いた。
リボンはアレンを絡め取ると少女の隣へと降ろす。
「ぁ…ありがとう、レイ」
少女はニッコリ笑ってアレンに応えると、再びレイを見据えた。
少女の背の白い十字架は、絶対に私が外で使う“アレ”と一緒だ。
「ぜっこうちょう…って、わけじゃないけど、わたしだって方舟なの」
デビットとジャスデロから手を離したレイが警戒するその視線の先…
白い十字架からは大きな人形の指が十字架をこじ開ける様に出て来た。
グググと徐々に開かれる十字架の先に見えるのは大きな瞳だった。
「そんナ、マサカ…破壊された筈デハ…!!」
「すきかってできるとおもわないで」
瞬間、一気に飛び出してきた人形に押し出される様にしてアレンは吹き飛び、アイリーンはそれを横抱きに受け止めた。
「す、すすすすす済みません!!!」
『あら、構わないのよ』
「殺す…」
『怖い事言わないの、クロス』
「それよりも僕…凄く恥ずかしいです…」
『あら、御免なさいね』
巨大な人形が動く音で、アイリーンの小さな笑い声は掻き消えた。
ずっと戦っていたティキやシェリル、ラビと神田もピタリと動きを止めた。
「何さ…アレ」
「……」
「方舟 はまだ、いきてる」
少女は自分の胸倉を掴むと、一気にそれを斜め上に引っ張った。
白いワンピースが少女の身体から剥がれる様に脱げて、人形がその大きな身体を地に倒した為に生まれた風に激しく靡いた。
少女の姿を隠す白いワンピース。
それが風に飛ばされた瞬間現れたのは…
「私はクロくんに頼まれて留まっていただけ」
青いリボンの付いた白いワンピース。
白いヒール…
「別にどこも壊れてないし、ずっとこっそり修正を続けてた」
白い爪…桜色の唇。
白く長い手足…
「ダウンロードが始まった時は流石に少し焦ったけど…プラントなんか必要じゃ無いし」
長い金の髪…
それを飾る白と青のリボン。
「ブランクはあるけど…私は貴女より遥かに方舟を理解している」
金で縁どられた大きな眼…
蒼い瞳…
「骨董品でも、新品さんに遅れをとるつもりは無いよ」
少女の身体からレイと同等な外見のそれへと成長を遂げた白い方舟である少女…その両脇に手を付いた人形は、グッとその身体を持ち上げた。
「遊んであげましょう、フランソワーズ」
フランソワーズがユエに襲いかかると同時に、少女は地を蹴ってレイに向かった。
『クロス』
アイリーンは影から二梃の拳銃を取り出すと、クロスに投げる。
“あぁ”低く声を漏らしたクロスは、それを受け取ると、千年伯爵に突っ込んでいった。
そしてアイリーンは、アレンをレイを助けに入ったデビットとジャスデロを止めに入らせると、リーバー達科学班とルベリエに結界を張った。
『そこに居れば安全よ。大人しくしてなさいな』
「アイリーン・ネイピア元帥!貴女は一体何なんですか?」
『何と言われてもな…』
「ルベリエ!貴様、今はそれどころじゃ」
「私は貴女をずっと監視していた!ここに来る瞬間までずっと」
『えぇ、分かってるわ。尾行も付いていたし、ゴーレムも』
「貴女の強さは異常だ」
『……それも…分かってるわ』
「貴女は何なんですか」
『……』
「神に仕える使徒なのか、我らを妨害する者なのか、それとも……それとも貴女は本当は!」
『秘密』
“秘密よ”と言って微笑んだアイリーンは一瞬で消え去り、気配を絶った。
一方レイは、白い方舟の核である少女相手に苦戦していた。
存在自体に腹が立っていた。
私以外に方舟 が存在するのは嫌だったし、その嫌な存在が自分よりも方舟を理解しているというのも嫌だった。
どちらも仕方無い事なのは分かっている。
14番目の起こした一件で飛んだ私の記憶が一人歩きしてしまったのは、方舟が力のある存在なのだから仕方無いし、最近まで自分が方舟 なのだという事を忘れていた私がこの少女に知識で勝てる訳は無い。
全てを見透かしている様な話しぶりも正直気に食わない。
そんな少女が、こちらの攻撃をダンスを踊る様に可憐にかわしてゆく。
腹が立って仕方無い。
アレンに応戦しながらレイの荒々しい攻撃を見たジャスデロは“ヒ…”と声を漏らした。
「レイ、怒ってるよ」
「あー…じゃあ、さっさと終わらせて行ってやるか」
「はいよー」
二人が歌いだす。
聞き覚えのあるその歌声に、アレンは一瞬顔を青く染めると、再びデビットとジャスデロに突っ込んで行った。
「レディーだったら戦いも優雅に熟さなきゃ駄目だよぉ」
少女がスカートの一部を握り締める様に掴むと、布は一瞬で白い柄になった。
それを引き抜く様に腕を上げると、スカートから真っ白なレイピアが引き抜かれる。
直ぐにレイもドレスの腰周りに付いた黒いファーを掴むと、真っ黒なレイピアを引き抜いた。
白と黒の剣がぶつかり合い、高い音が耳に響く。
「剣術も踊る様に♪荒々しいと殿方にモテないよ~」
『そんなの、どうでもいい。私は家族がいれば十分!』
「…家族ねぇ」
交わる剣を押す様に、レイはグッと身体を少女に近付けた。
『ただの記憶にしてはやるじゃない』
「ただの記憶?何か誤解してるんじゃないの?」
誤解…?
「私はただの記憶じゃない。方舟の力で私が存在してると思ってるの?」
“大間違いよ”と言って少女はクスリと笑った。
「私は貴女より前の記録 全部よ」
『全…部…?』
「そう全部。私は私の身体が生きていた時間よりも前のメモリーを持ってる」
“私”が生まれる前の聖戦全てを…
「貴女、自分の事を方舟の力を使うスイッチか何かと勘違いしてるんじゃない?方舟はね、装置であり器でしかないのよ」
『器…』
「方舟は沢山のデータやプラントを収納する器であり、転送機能を使う装置でもある。それを動かす力は方舟 である私達なのよ」
“私達は力そのもの”と、少女は楽しそうにフフッと笑った。
「チィを簡単に殺せる唯一の存在なんだよ♪」
『ッ…!!』
レイは少女を突き飛ばして離れると、後ろに飛び退いて距離を取った。
『お前、チィを殺す気か!!』
「エ…♡ナ、何てショックな…」
泣きながら丸くなって落ち込む千年伯爵に声を掛けたのは、頭痛に襲われて唸っているワイズリーの頭に乗っかったぬいぐるみ…ロードだった。
「ちょっとちょっと、千年公!!よそ見しちゃダメだよぉ!!!」
「ワォ♡我輩、落ち込んでる最中なのにィ…」
容赦無く攻撃を続けるクロスの攻撃を避けてそう言った千年伯爵を見て、クロスは舌打ちをした。
「あはは、大丈夫だよチィ!殺さないよ~、多分ね」
「多分ッテ…♡」
『殺すって何よ』
多分って何よ?
殺す可能性があるって事じゃない。
何で殺すのよ…
昔とはいえ、私自身なんでしょ?
何で家族を殺すのよ。
『絶対にさせない…』
シャールを失った。
怒 を失った。
『お前もエクソシストも人間も皆殺しだ』
チィを殺せるくらいの力があるんなら…
私はその力でチィをコイツから助ける。
チィだけじゃない…
『家族は私が護るんだから!!』
「いい加減にしろ」
そう耳元で低い声がした瞬間、私の視界は真っ黒になっていた。
視線を上げると緋色の髪の例の男の顔があった。
そして視線を下げると、腹部には男の拳が埋まっていた。
『な…っ』
いつの間に…
「キレると周りが見えなくなるのは相変わらずだな」
相変わらず…?
「あとな、そろそろ思い出せ」
歪んだ視界が私を酔わせる。
崩れる私を男は何故か支えた。
捨てればいいのに…
「アイリーン!!」
『はいはーい♪』
間の抜けた返事と共にユエと戦うフランソワーズの背に現れたアイリーンが飛び降り、レイの世界はひっくり返った。
直ぐに押し倒されたのだと分かった。
おばさんの後ろに空が広がっている…
「「「「レイ!!!」」」」
家族達の声が聞こえた。
回る目を動かして左を見ると、青い顔のジャスデビがアレン・ウォーカーに止められてるのが見えた。
何故かジャスデビの長いサラサラの金髪が目に入った。
『き…れい……』
『術式立てるの大変だったのよ…効いてくれなかったら悲しいわ』
長い銀髪が視界にカーテンを引く。
そっと額に触れたその手は何だが冷たかった。
「レイ!!」
「歌って、フラン!!!」
人形の歌は酷く耳障りな機会音と悲鳴の混じった様な歌だった。
私を助けようとする皆もエクソシストも関係無く戦闘不能にする歌声…
そんな歌声よりも私の頭には鐘の音が響いていた。
『戻っていらっしゃい、私のレイ』
鐘の音が聴こえる…
低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は…
何の音色だっただろう──…
彼の吐いた煙が彼を薄く包む。
“いつもの挨拶”の様な会話を口にした彼がこちらを振り向き、緋色の綺麗な髪が靡いた。
『クロス…』
私を一瞥したクロスは、私の耳元に顔を寄せて匂いを嗅ぐ様にクンッと息を吸うと、今度はしゃがんでリーバーに顔を近付けた。
「な…何すか…」
立ち上がったクロスの鋭い眼光がリーバーを見下ろし、次に私を見据えた。
不機嫌そうに寄せた眉が眉間に皺を作った。
「く…クロス・マリアン!!貴方、今まで一体!!」
「身体に傷を作った挙げ句、他の男に抱かれるとは良い度胸だ」
『…………はい…?』
「お前からそいつの匂いがする」
青筋を浮かべたルベリエの言葉を遮ってまで、この人は一体何を言っているんだろうか。
『…何を言ってるの?リーバーは私を心配してくれただけよ。貴方には関係無いでしょう?』
「アイリーン…」
「こいつは男だ」
『男だから何だっていうの』
意味が分からない。
『リーバーは素敵な人よ。私に害は無いし…第一、リーバーみたいなモテそうな人がこんなおばさんを相手にするわけ無いでしょ…貴方、男性を』
「アイリーン、お願いだから煽らないでくれ」
『はい…?』
青い顔をしたリーバーにそう言われ、アイリーンは首を傾げた。
リーバーの隣で同じく青い顔をしたバクが何度も頷いている。
「今は“そういう事”にしといてやる」
不機嫌そうなクロスはアイリーンの額にキスを落とした。
「お前は俺のだ」
『また勝手な事を言っ』
「これから何があろうと、俺はお前を“帰す”気なんか更々無い」
「帰す…?」
『……』
「全て終わったら覚悟しとけ」
=二隻の方舟=
『意ッ味、分かんない!!』
何なの、あの人間…エクソシストの男は。
影から出て来たし、あの女の力でだろうけど…急に現れて好き勝手にベラベラと…
『人の事無視して話さないでよねぇ』
『あらあら、貴方不評よ』
「あ?仕方無ぇだろ興味無ぇんだから」
『まぁ、嘘ばっかり』
クスクス笑うアイリーンと、不機嫌なクロスのやり取りを見たレイは、フンッと短く息を吐いた。
『私を見てなきゃダメだよぉ?』
レイは、アレンと交戦中のデビットとジャスデロの間に飛ぶと、二人の腕に抱き付いて向かってくるアレンに向かってベーっと舌を出した。
「ッ、レイ!そこを退いてくださ」
『ここは
瞬間、石畳の地面を突き破って生えてきた蔦は上へ上へと伸びる毎に枝分かれをし数を増やし、太く成長してアレンを絡め取る様に捕えて締め付けた。
「ッ、アァアアァア…ッ!」
アレンの苦しそうな声が響く中、動こうとしたアイリーンをクロスが腕を掴んで止めた。
『私をちゃんと見てないと…見ててもこうなっちゃうんだからさ♪』
「ギャハハ、弟子ゲットぉ!」
「ヒヒ、動けないね!動けない間にプレゼントしてあげるよ」
デビットとジャスデロは、お互いにレイに抱き付かれていない方の手で銃を取ると、アレンに向けて構えた。
「「紫ボム!!!」」
二人の銃から放たれた紫ボムがアレンに当たる瞬間、白い壁の様なモノがアレンの前に現れた。
紫ボムが当たると壁は弾け飛んでその一欠片一欠片が白い鳥になり飛んで行った。
「ヒヒ、マジックショー?」
「んなわけ無ぇだろ」
「ひとのことは…むし」
そう声がして下を見ると、古い私が蔦の根元に触れてニッコリと笑った。
「それはあなたもいっしょじゃない」
少女の背に白い十字架が現れ、そこから伸びた白いリボンが蔦を斬り裂いた。
リボンはアレンを絡め取ると少女の隣へと降ろす。
「ぁ…ありがとう、レイ」
少女はニッコリ笑ってアレンに応えると、再びレイを見据えた。
少女の背の白い十字架は、絶対に私が外で使う“アレ”と一緒だ。
「ぜっこうちょう…って、わけじゃないけど、わたしだって方舟なの」
デビットとジャスデロから手を離したレイが警戒するその視線の先…
白い十字架からは大きな人形の指が十字架をこじ開ける様に出て来た。
グググと徐々に開かれる十字架の先に見えるのは大きな瞳だった。
「そんナ、マサカ…破壊された筈デハ…!!」
「すきかってできるとおもわないで」
瞬間、一気に飛び出してきた人形に押し出される様にしてアレンは吹き飛び、アイリーンはそれを横抱きに受け止めた。
「す、すすすすす済みません!!!」
『あら、構わないのよ』
「殺す…」
『怖い事言わないの、クロス』
「それよりも僕…凄く恥ずかしいです…」
『あら、御免なさいね』
巨大な人形が動く音で、アイリーンの小さな笑い声は掻き消えた。
ずっと戦っていたティキやシェリル、ラビと神田もピタリと動きを止めた。
「何さ…アレ」
「……」
「
少女は自分の胸倉を掴むと、一気にそれを斜め上に引っ張った。
白いワンピースが少女の身体から剥がれる様に脱げて、人形がその大きな身体を地に倒した為に生まれた風に激しく靡いた。
少女の姿を隠す白いワンピース。
それが風に飛ばされた瞬間現れたのは…
「私はクロくんに頼まれて留まっていただけ」
青いリボンの付いた白いワンピース。
白いヒール…
「別にどこも壊れてないし、ずっとこっそり修正を続けてた」
白い爪…桜色の唇。
白く長い手足…
「ダウンロードが始まった時は流石に少し焦ったけど…プラントなんか必要じゃ無いし」
長い金の髪…
それを飾る白と青のリボン。
「ブランクはあるけど…私は貴女より遥かに方舟を理解している」
金で縁どられた大きな眼…
蒼い瞳…
「骨董品でも、新品さんに遅れをとるつもりは無いよ」
少女の身体からレイと同等な外見のそれへと成長を遂げた白い方舟である少女…その両脇に手を付いた人形は、グッとその身体を持ち上げた。
「遊んであげましょう、フランソワーズ」
フランソワーズがユエに襲いかかると同時に、少女は地を蹴ってレイに向かった。
『クロス』
アイリーンは影から二梃の拳銃を取り出すと、クロスに投げる。
“あぁ”低く声を漏らしたクロスは、それを受け取ると、千年伯爵に突っ込んでいった。
そしてアイリーンは、アレンをレイを助けに入ったデビットとジャスデロを止めに入らせると、リーバー達科学班とルベリエに結界を張った。
『そこに居れば安全よ。大人しくしてなさいな』
「アイリーン・ネイピア元帥!貴女は一体何なんですか?」
『何と言われてもな…』
「ルベリエ!貴様、今はそれどころじゃ」
「私は貴女をずっと監視していた!ここに来る瞬間までずっと」
『えぇ、分かってるわ。尾行も付いていたし、ゴーレムも』
「貴女の強さは異常だ」
『……それも…分かってるわ』
「貴女は何なんですか」
『……』
「神に仕える使徒なのか、我らを妨害する者なのか、それとも……それとも貴女は本当は!」
『秘密』
“秘密よ”と言って微笑んだアイリーンは一瞬で消え去り、気配を絶った。
一方レイは、白い方舟の核である少女相手に苦戦していた。
存在自体に腹が立っていた。
私以外に
どちらも仕方無い事なのは分かっている。
14番目の起こした一件で飛んだ私の記憶が一人歩きしてしまったのは、方舟が力のある存在なのだから仕方無いし、最近まで自分が
全てを見透かしている様な話しぶりも正直気に食わない。
そんな少女が、こちらの攻撃をダンスを踊る様に可憐にかわしてゆく。
腹が立って仕方無い。
アレンに応戦しながらレイの荒々しい攻撃を見たジャスデロは“ヒ…”と声を漏らした。
「レイ、怒ってるよ」
「あー…じゃあ、さっさと終わらせて行ってやるか」
「はいよー」
二人が歌いだす。
聞き覚えのあるその歌声に、アレンは一瞬顔を青く染めると、再びデビットとジャスデロに突っ込んで行った。
「レディーだったら戦いも優雅に熟さなきゃ駄目だよぉ」
少女がスカートの一部を握り締める様に掴むと、布は一瞬で白い柄になった。
それを引き抜く様に腕を上げると、スカートから真っ白なレイピアが引き抜かれる。
直ぐにレイもドレスの腰周りに付いた黒いファーを掴むと、真っ黒なレイピアを引き抜いた。
白と黒の剣がぶつかり合い、高い音が耳に響く。
「剣術も踊る様に♪荒々しいと殿方にモテないよ~」
『そんなの、どうでもいい。私は家族がいれば十分!』
「…家族ねぇ」
交わる剣を押す様に、レイはグッと身体を少女に近付けた。
『ただの記憶にしてはやるじゃない』
「ただの記憶?何か誤解してるんじゃないの?」
誤解…?
「私はただの記憶じゃない。方舟の力で私が存在してると思ってるの?」
“大間違いよ”と言って少女はクスリと笑った。
「私は貴女より前の
『全…部…?』
「そう全部。私は私の身体が生きていた時間よりも前のメモリーを持ってる」
“私”が生まれる前の聖戦全てを…
「貴女、自分の事を方舟の力を使うスイッチか何かと勘違いしてるんじゃない?方舟はね、装置であり器でしかないのよ」
『器…』
「方舟は沢山のデータやプラントを収納する器であり、転送機能を使う装置でもある。それを動かす力は
“私達は力そのもの”と、少女は楽しそうにフフッと笑った。
「チィを簡単に殺せる唯一の存在なんだよ♪」
『ッ…!!』
レイは少女を突き飛ばして離れると、後ろに飛び退いて距離を取った。
『お前、チィを殺す気か!!』
「エ…♡ナ、何てショックな…」
泣きながら丸くなって落ち込む千年伯爵に声を掛けたのは、頭痛に襲われて唸っているワイズリーの頭に乗っかったぬいぐるみ…ロードだった。
「ちょっとちょっと、千年公!!よそ見しちゃダメだよぉ!!!」
「ワォ♡我輩、落ち込んでる最中なのにィ…」
容赦無く攻撃を続けるクロスの攻撃を避けてそう言った千年伯爵を見て、クロスは舌打ちをした。
「あはは、大丈夫だよチィ!殺さないよ~、多分ね」
「多分ッテ…♡」
『殺すって何よ』
多分って何よ?
殺す可能性があるって事じゃない。
何で殺すのよ…
昔とはいえ、私自身なんでしょ?
何で家族を殺すのよ。
『絶対にさせない…』
シャールを失った。
『お前もエクソシストも人間も皆殺しだ』
チィを殺せるくらいの力があるんなら…
私はその力でチィをコイツから助ける。
チィだけじゃない…
『家族は私が護るんだから!!』
「いい加減にしろ」
そう耳元で低い声がした瞬間、私の視界は真っ黒になっていた。
視線を上げると緋色の髪の例の男の顔があった。
そして視線を下げると、腹部には男の拳が埋まっていた。
『な…っ』
いつの間に…
「キレると周りが見えなくなるのは相変わらずだな」
相変わらず…?
「あとな、そろそろ思い出せ」
歪んだ視界が私を酔わせる。
崩れる私を男は何故か支えた。
捨てればいいのに…
「アイリーン!!」
『はいはーい♪』
間の抜けた返事と共にユエと戦うフランソワーズの背に現れたアイリーンが飛び降り、レイの世界はひっくり返った。
直ぐに押し倒されたのだと分かった。
おばさんの後ろに空が広がっている…
「「「「レイ!!!」」」」
家族達の声が聞こえた。
回る目を動かして左を見ると、青い顔のジャスデビがアレン・ウォーカーに止められてるのが見えた。
何故かジャスデビの長いサラサラの金髪が目に入った。
『き…れい……』
『術式立てるの大変だったのよ…効いてくれなかったら悲しいわ』
長い銀髪が視界にカーテンを引く。
そっと額に触れたその手は何だが冷たかった。
「レイ!!」
「歌って、フラン!!!」
人形の歌は酷く耳障りな機会音と悲鳴の混じった様な歌だった。
私を助けようとする皆もエクソシストも関係無く戦闘不能にする歌声…
そんな歌声よりも私の頭には鐘の音が響いていた。
『戻っていらっしゃい、私のレイ』
鐘の音が聴こえる…
低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は…
何の音色だっただろう──…