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第5章 二人の女王

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──ユウ…




そう、レイに呼ばれた様な気がしてジンジン痛む頭を押さえながら目を開くと、景色が一変していた。
先程まで支部内だったのに、ここはどう見ても…
「どこだ、ここ?」
夜のロンドンの街の広場の様な辺り…
一体ここは…


「まぁ、お帰りなさいませ」


“フフフ”と笑った女を見た瞬間、俺は息を呑んだ。
メイドの様な格好の褐色の肌の女の顔は右側だけがマスクが剥がれた様に捲れていて、下からアイリーンの顔が覗いていた。
良く見ると右腕もボロボロで、剥がれた皮膚の下から白い腕が見える。

「さぁさぁ、ワイズリー様に囚われていたお二人は状況が理解出来無いでしょうから、私がちゃちゃっと説明します。どうかご拝聴下さいな」

良く見ると女の後ろにアイリーンが倒れているのが見えた。
更にその後ろには科学班達が拘束されている。





「姫様ことレイ・アストレイ様はノアの一人…第0使徒“方舟アーク”方舟の核なのです。」





「…は?」
意味が分からなかった。
「白い少女は14番目に記憶として抜かれた過去の姫様です。過去の白い方舟ですね」
あの子供が…
モヤシが奏者となっていた前の方舟そのもの?



「おかえりなさい。やさしいおにいちゃんたち」





=アグスティナ=






「「千年公、どいて~!!」」



そう声がしたと同時に伯爵様は潰された。
上から降って来たデビット様とジャスデロ様は、伯爵様の上に着地すると、伯爵様が拘束していたレイの両脇に立つと同時にそれぞれレイの手を取った。
「大丈夫か、レイ?」
「ジャスデビ来たよ?」
「何なんデスカ、イッタイ♡」



「いらっしゃいましたね。お待ちしてました、ジャスデビ様」



床に丸まってグスグス泣く伯爵様を無視して、ニッコリと笑ってそう言ったアグスティナを見て、二人は驚いた様に目を見開いた。
「お前、それ…」

「再度ご紹介しましょう」

アグスティナは左腕で抱いていたパールをそのボロボロの右腕で抱き、空いた手を白いレイに向けた。
「14番目のノア様によって前の方舟に記憶として封印されていた過去のレイ様です」
「はじめまして、今代のボンドム
白いレイが服の裾を摘んで少し腰を落としたのを見たアグスティナは、今度はアレンと神田を見てニッコリと笑った。


「そしてここは現在の方舟の中ですの」


「現在の…方舟…じゃあ、僕等が知ってるレイの…」
「えぇ、アレン・ウォーカー」
少し考える様に時間を置いた神田は、見るからに不機嫌だと分かる表情を更に歪ませた。
「…テメェは何なんだ」
「あぁ、それはきっとここに居る他の皆様全員が気になっている事ですよ」



「ソウ、ソレなんですヨ♡お前は一体なんなんデスカ」




伯爵様の一際低い声が響いた。
しかしアグスティナは恐れる事無くニッコリと笑った。
「私、姫様付きの護衛アクマ、アグスティナと申します」

「そんなワケ無いでショウ」


「ふふ、ですよね」
楽しそうに笑ったアグスティナが一瞬歪んだ様に見えた。
次の瞬間アグスティナがその場でクルリと回ると、その姿は今までのモノと変わっていた。
身体に張り付いたキャミソールとデニムのズボンを身に纏った、鎖骨の下にハートの模様の様なタトゥーのある女だった。
ショートカットの天辺では毛が一束、尻尾の様に揺れている。





「アッシは“真珠”姫宮たる我が主の飼い猫さ!!」





「姫宮…主だと?」
「そう、アッシの主…お前らには“月”とか“アイリーン”って呼ばれてるこの美女さ!さっきの顔を見て分からなかったのかぃ?」
“真珠”と名乗った元アグスティナがクルリと一回転すると、その姿が月の姿へと変わった。
『ア…ティナ…』
『ん~?何だってぇ?』


『アグスティナをどこにやった!!』



『姫さんや…』
そこまで口にして、月の姿をした真珠は咳払いをした。
『御姫様、そもそも貴女が出会った…貴女が知っているアグスティナが全部、私…真珠が化けた偽者だったのよ』
『全部…偽者?』
“そうそう”と口にした月の姿をした真珠が宙に拘束された科学班達に空いている右手を翳すと、シェリル様の拘束が解けた科学班は次々と地に崩れた。
直ぐにバクとリーバーが地に横になった月に“アイリーン”と声を掛けながら駆け寄った。

『御姫様、貴女の望むアグスティナは本来存在しないのよ』

“つまりね”と、再度クルリと一回転して月の姿から元の姿へと戻った真珠は、パールを両腕で包む様に抱き締めると、困った様に首を傾げた。





「アンタにとってはアッシが本物のアグスティナなのさ」





「どういうつもりだ…」
「何でレイに近付いたの…」
ジャスデビ様の言葉に真珠は小さく唸ると右手を腰に当てた。


「恋だわね」


『「「「「「………は?」」」」」』
瞬間、俺を含め全員が間抜けな声をもらして固まった。
「ってのは冗談で、仕事半分私情半分が本当さ!」
何を考えてるんだ、あの馬鹿は。
戦っていたティキ様とシェリル様とラビまで動きを止めたというのに冗談とは…

「なるほど。恋とまではいかないが情がわいたか」

「そうそう!名前にも少しビックリしたし、中々に面白い性格の生徒だったからなぁ。やっと使い物になったな、ワイズリー」
“頭痛は大丈夫かい?”と笑いながら問う真珠に、ワイズリーは“まだ痛いのう”と答えた。
生徒…アジア支部で俺とシャールがあの双子と紅に鍛えられていた様に、パールはコイツに鍛えられていたのか…


『分からない』


「何がだい、姫さん?」
『本物のアグスティナはどこ?私は兎も角、チィを騙せるだなんて…』
「我輩も気になってたんデスヨ♡貴女はアグスティナそのものの様ダッタ♡」


「本物のアグスティナはもう居らんよ、レイ、千年公」


「そうそう、アグスティナはもう存在しないさ」
『存在…しない』
「アッシは主に姫さんの護衛と監視を命じられて、本物のアグスティナを破壊した。
目を通して伯爵にバレない様に、エクソシストに化けてアグスティナの前に現れ、最初に目を潰した…んで、壊した後にアグスティナに化けて伯爵の元に行ったのさ!
アグスティナは強いアクマだからなぁ、目を潰されれば姫専属のアクマになる事は目に見えていた」
はしたなく脚を開いてしゃがんだ真珠は、話しながらリーバーに抱かれた月の腹の上にパールを寝かせた。

「で~もなぁ~…いくらアグスティナが強いって言っても、所詮はアクマの力。だから主に化けた上からアグスティナに化けたんだ。
主はアッシが知っている誰よりも強いからな、防御力も最高!!そしてそれをコピーするアッシの転写能力も最高だからなぁ!!」

真珠は楽しそうに両手を広げながら立ち上がると、その場で二回程クルクルと回った。





「最高の模造品の完成ニャハハハハ!!」





「所詮偽者でショウ」

楽しそうな真珠の笑い声は、伯爵様の言葉と同時にピタリと止んだ。
「所詮作り物…しかも他人のコピーじゃないデスカ♡」


「だから?」


そう言った真珠がレイになった瞬間、レイの姿の真珠は伯爵様の隣にしゃがんで、その膝に肘を付いて頬杖を付いていた。
「!!」
『…私?』

『私はね、月以外は全て完璧に転写出来るんだよぉ~だから、チィは勝てっこないよ』

楽しそうに笑ってまた一瞬で元居た場所へと立ち、元の姿に戻った真珠の言葉を俺は…きっと俺以外も信じた。
レイの…その性格も能力も…ちょっとした所作さえも、全てコピーしている様にしか見えなかった。
アイツはきっと…
他人の全てを自分に映せる。



「お前自身はどうなんだ」



そう問い掛けたのはティキ様だった。
「鋭いな、ティキ~察しの通りアッシ自身の戦闘力は低い。多分お前でも勝てるだろうさ」
「…引っ掛かる言い方だな」
「ニャハハハハ、ごめんね~」
“さて”と真珠は笑うのを止めた。


「そろそろ良いよな、姫」


『えぇ…時間稼ぎさせちゃって悪かったわね、真珠』
そう答えたのは月だった。
月の方に顔を向けると、月は相変わらずリーバーの腕に抱かれていた。
「もう、大丈夫かい?」
『えぇ、傷は大分塞がったわ』
月の言葉に、レイは苦虫を噛み潰した様な顔をした。
『チィ、やられた』
「そうデスネ…治癒能力があるとハ♡」
本来なら知っている筈だったが…今のアイツは記憶が無いからな…



『皆には黙ってて頂戴ね、真珠。御姫様が殺されちゃったら堪らないわ』



「あぁ、構わないよ。彼等にそんな嘘が何時までも通用するとは思えないけどね」
月と真珠が笑い合う中、レイはデビットとジャスデロに声を落として話し掛けた。

『デビット、ジャスデロ、フォローして…あの寝てるおばさんも、ティナに化けてた奴も…相当強い』

「あぁ」
「分かった」





「じゃあ、始めよう」





そう言って笑った真珠が次の瞬間、伯爵様へと姿を変え、白いレイはキラキラと目を輝かせた。
「うわぁ~…チィ、苦戦しそうだねぇ」
「コレハ…♡フフ、初体験ですネ♡」


『ラビ、アレン、ユウ…あの子を取り戻す為に時間を作って頂戴』


月の言葉を聞くと同時にラビはティキ様に、アレンはデビット様とジャスデロ様に、神田はシェリル様に突っ込んで行った。
相変わらず頭痛で頭を抱えたワイズリー様の脇をすり抜け、白いレイレイの前に立つ。
「アナタのあいてはわたし」
『古い私のクセに私の味方じゃないのね』
「敵でもないよ」
伯爵様の姿をした真珠は伯爵様の真似をする様に“フフフ”と笑った。

「サァ、千年伯爵♡我輩達も始めまショウカ?♡」





『真珠』





「ニャ…」
月の声にビクッと震えた真珠は、そう声をもらすと元の姿に戻った。
『貴女…何時まで居るつもりなの?もう充分よ、早く行って上げなさい』
「でも」

『貴女が迎えて…貴女が送り出すんでしょう?』

“そう言ったじゃない”と言う月に困った様に眉を寄せた真珠は、不意打ちで攻撃を仕掛けた伯爵様を避けると、トンッとひとっ跳びで月の元へ跳んだ。
「ごめんニャ…」
『行っていらっしゃい』
「送ったら直ぐに戻るから」
『はいはい、分かったわ』
真珠は自分に伸ばされた月の手に擦り寄る様にしながら、月の下から抜け出る様に広がった影に沈んで消えた。
真珠を逃がさない様に突っ込んで行った伯爵様の手が空を切り、月はそんな伯爵様を術で弾き飛ばすと、自分の腹の上に寝かせられたパールを抱いてスッと立ち上がった。

「ア〜…逃がしてしまいましたネェ」

空中でクルクルと回転した伯爵様は、着地すると首を傾げた。
「我輩の相手は貴女がシテくれるんですかネ?♡」
『そうして差し上げたいんだけど…、ここに来るまでに随分消耗してるのよね。貴方の作戦通りなんでしょう?』
「エェ、勿論♡」
レイと喧嘩した上に、小さなレイに御腹に穴空けられちゃったわけだから、血も足りていないのよね……だから遠慮したいのよ』
「我輩が許すトデモ?♡」
『思わないわ。でも残った力はあの子の為に使いたいもの』

「許ストデモ?」


『勿論、思わないわ』
“だからね”と言うと、月はそっと広がったままだった自分の影に撫でる様に触れた。



『足止めをしないと』



それは久々に見る姿だった。
影から抜け出る様に出て来たそれは、月達を護る様に伯爵様の前に立ちはだかって、煙を吐きながらニヤリと笑った。





「よぉ、デブ。随分楽しそうなパーティーじゃねぇか」















「…貴方ハ招待してませんヨ♡」





隠れんぼ~のクロスちゃ~ン♡


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