第5章 二人の女王
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「何の用だ」
任務から帰って直ぐに室長室に呼び出された俺は、そう言ってコムイを睨み付けた。
風呂に入りに行こうと思ったのに…
「噂は知ってるだろう?」
そう言ってコムイが指差した先…
リーバーが見張る様に立っている開けっ放しの扉の先の科学班室…そこにはリナリーに髪を梳かしてもらっている見慣れない女が居た。
科学班の野郎共に囲まれて少し困った様にヘラヘラ笑っているのに何だかイラついた。
「“ノアに囚われていた少女”だよ、神田くん」
「あれが…」
伯爵に捕まっていたマヌケ。
特別な何かを持っているかもしれない人間…
「興味あるかい?あ、もしかして一目惚れとか?!!」
「別に。下らねぇ事言ってっと叩き斬るぞ」
いつもの様に馬鹿みたいな反応をしたコムイは、一瞬困った様に笑うと、俺を真っ直ぐに見据えた。
「彼女はノアだ」
「……何言ってんだ」
一瞬何を言われたか分からなかった。
この馬鹿がついに壊れたんだと…
「彼女はノアだよ。しかも何故かイノセンスに選ばれたエクソシストであり、クロス元帥の弟子だ」
そう少し思ったが、違うらしい。
これは本当な話だ。
“特別な何かを持っているかもしれない人間”どころか、俺等にしてみれば特別そのものだったのだ。
=約束=
「…なら叩き斬るだけだ」
コムイの言葉に一瞬固まった神田は、そう口にすると腰に差した六幻に触れた。
境遇に同情したりなんかしない。
あの女がノアだってんなら斬るだけだ。
「神田くん、彼女がノアだと知っているのは一部の科学班とヘブくんとリナリーだけなんだ」
「は?」
どういう意味だ…脅しか?
「ブックマンとラビには…任務から戻り次第伝えるつもりだ」
「そういう問題じゃねぇ」
正直ラビの事何か知ったこっちゃねぇし…ブックマンなんか特に。
そもそも問題は…
「何で教団側…上が知らねぇんだ」
「知られたら彼女が殺されちゃうからだよ」
「知った事か」
それが普通だろ。
イノセンスに選ばれようが、ノアはノアだ。
「彼女はエクソシストだ。それに僕達の切り札になる」
「はっ、利用するってワケか」
鼻で笑うと、コムイは表情を歪めた。
「そうだね…そういう事になる」
「随分素直だな」
「伯爵の彼女に対する扱いは変だ。それは…どんな理由かは分からないが彼女が伯爵にとって有益な存在だという証拠だ。
それに……自分は切り札だって…彼女が言い出したんだよ」
気にくわねぇ。
何故そこまでして教団に潜り込む?
「彼女は戦力になる。でもこちらで生きていくには彼女の正体を知ってる協力者が必要だ」
「知るか。第一そんなもん保護を理由に元帥に任せりゃいいだろ」
なんなら師であるクロス元帥に。
「無理だよ」
「は?」
「彼女は監禁からの解放と同時に元帥になった」
「……は?」
ノアが元帥…?
「上は彼女がノアだと知らない…戦力拡大の為に彼女を解放して元帥にしたのに、その元帥の保護に元帥をつけるだなんて規格外だ。
だったら元帥にエクソシストの援護をつけるしかない」
コムイは“それに”と話を続けた。
「何よりずっと閉じ込められていた上に、本来敵である僕達の中に飛び込むんだ。リナリーと君…そしてラビに戦場は勿論、教団内で彼女をサポートして欲しい」
色んな事にイライラして…
“戦場では彼女が助けてくれる”というコムイの言葉に余計腹が立った。
「断る」
そう口にしてさっさと室長室を後にした。
リーバーに止められたが、振り払って科学班室を突き抜ける。
「ぁ、神田待って!!」
不意に腕を掴まれ、振り払おうとしたが、リナリーは腕にしがみ付く様にしてそれを防ぐと“なに怒ってるの?”と、不機嫌そうにもらした。
「兄さんから話は聞いたでしょ?」
そうリナリーが俺を拘束する腕を緩めながら話し出すと、椅子に座っていた女が立ち上がって姿勢を正した。
「レイ・アストレイ元帥よ、こちらは神田ユ」
「関係無い」
リナリーの言葉を遮ってそう口にすると、六幻を抜いて女の首筋に添えた。
「俺はサポートなんてしない」
『…じゃあ、私が勝手にサポートするね』
ニッコリと笑う女が何を考えているのか…さっぱり分からなかった。
「…サポートされる事なんか無ぇさ」
そう言うと、神田は馬鹿にした様に“はっ”と笑った。
「…戦場で俺に背を向けるなよ。アクマと一緒に斬っっちまうかもしれねぇからな」
「神田!!」
リナリーの怒鳴り声が響く中、俺は科学班室を後にした。
これで良いと思った。
これであの女は俺に近付かないだろうし、俺はあの女を斬らなくて済む。
あの女は元帥なんだから、あの女が望めば俺はあの女の援護として同じ任務に就く事は無い。
そう思ってた。
思ってたのに…
「何なんだ、お前は」
『お前じゃなくて“レイ”だってば』
突き放したつもりだったのに何故か付き纏われている。
任務の同行は兎も角、教団内まで付いて回られると鬱陶しくて仕方無い。
『私、ユウが気に入ったんだもん♪』
「懐くな、その名で呼ぶな」
“えへへ♪”と楽しそうに笑われると余計腹が立った。
「次の任務はリナリーを連れて行け」
『イ〜ヤ!…リナリーは名前で呼んでもらえていいなぁ』
「嫌じゃねぇ、もう俺を指名すんな」
『だって戦い易いし~それにユウってば無茶し過ぎなんだもん、心配で心配で…』
「呼ぶなって言ってんだろ。それと余計なお世話だ」
『じゃあ、私が心配しない様に無茶はしないでね♪』
「鬱陶しい」
ノアである事は勿論、ノアの癖にエクソシストなのも元帥なのも…何もかもが気に食わなかった。
関わりたくなんか無かったのに、コイツはしつこくてしつこくて…
いくら突き放しても付き纏ってくる。
『謳え!!“守護者”』
辺りに響き渡るあの女の対アクマ武器のヴァイオリンの音色…その音色の影響で俺の自己治癒のスピードは格段に上がる。
今まで少しの間動けなかったのが、今では治癒しながら戦える。
これはコイツと組んで唯一得な事だ。
『ユウ!!追い付かないよ!!!』
「充分だろ」
『治癒途中で傷口開いちゃうってば!!!』
悲鳴にも近い女の声を無視してアクマの大群に突っ込んで行く。
「二幻昇華」
『ユウ!!!』
「俺の命を吸い高ま」
『止めて!!!』
瞬間、ガクンと足を引っ張られて俺は地に落ちた。
下を見ると、足に植物の蔦が何重にも絡まっている。
「クソ…ッ」
あの女…
「おい、これを外せ!!」
『止めてって言ったでしょ?!』
「いいからこれを外」
「死ねぇぇぇ、エクソシストォォ!!!」
「ッ…!!」
一度死ぬ覚悟をした。
大丈夫だ。
あの女も元帥なんだから俺が死んでる間、持ち堪える事なんか出来る筈だ。
しかしいくら経っても衝撃はこなかった。
「…?」
不思議に思って顔を上げると、俺の目の前にはアクマから立ちはだかる様にあの女が立っていた。
「……何を…してる」
クルリと振り返った女は血塗れの顔でニッコリと笑った。
『全部貰ったの』
「な…」
『これが…ユウのしている事だよ』
「レイ!!!」
そう言って崩れ落ちる様に地に倒れる姿を見て、俺はそう声を上げて女を受け止めた。
『えへへ…やっと名前で呼んでくれた』
「馬鹿じゃないのか、お前」
『もう傷付いちゃ駄目だよ?じゃないとまた私がボロボロになるから』
“何度も何度もね”そう言って女が…レイが笑う中、レイに倒されたアクマ達が起き上がり、俺はレイをそっと地に寝かせた。
『約束だよ、ユウ』
「……馬鹿が血塗れになると困るからな」
クスクス笑うレイを背に、神田は六幻を構えた。
『さて…私、もう動けないのよね』
「馬鹿だな」
『ユウ、私を助けてね』
私を…
助けてくれるんでしょ?
ユウ──…
「何の用だ」
任務から帰って直ぐに室長室に呼び出された俺は、そう言ってコムイを睨み付けた。
風呂に入りに行こうと思ったのに…
「噂は知ってるだろう?」
そう言ってコムイが指差した先…
リーバーが見張る様に立っている開けっ放しの扉の先の科学班室…そこにはリナリーに髪を梳かしてもらっている見慣れない女が居た。
科学班の野郎共に囲まれて少し困った様にヘラヘラ笑っているのに何だかイラついた。
「“ノアに囚われていた少女”だよ、神田くん」
「あれが…」
伯爵に捕まっていたマヌケ。
特別な何かを持っているかもしれない人間…
「興味あるかい?あ、もしかして一目惚れとか?!!」
「別に。下らねぇ事言ってっと叩き斬るぞ」
いつもの様に馬鹿みたいな反応をしたコムイは、一瞬困った様に笑うと、俺を真っ直ぐに見据えた。
「彼女はノアだ」
「……何言ってんだ」
一瞬何を言われたか分からなかった。
この馬鹿がついに壊れたんだと…
「彼女はノアだよ。しかも何故かイノセンスに選ばれたエクソシストであり、クロス元帥の弟子だ」
そう少し思ったが、違うらしい。
これは本当な話だ。
“特別な何かを持っているかもしれない人間”どころか、俺等にしてみれば特別そのものだったのだ。
=約束=
「…なら叩き斬るだけだ」
コムイの言葉に一瞬固まった神田は、そう口にすると腰に差した六幻に触れた。
境遇に同情したりなんかしない。
あの女がノアだってんなら斬るだけだ。
「神田くん、彼女がノアだと知っているのは一部の科学班とヘブくんとリナリーだけなんだ」
「は?」
どういう意味だ…脅しか?
「ブックマンとラビには…任務から戻り次第伝えるつもりだ」
「そういう問題じゃねぇ」
正直ラビの事何か知ったこっちゃねぇし…ブックマンなんか特に。
そもそも問題は…
「何で教団側…上が知らねぇんだ」
「知られたら彼女が殺されちゃうからだよ」
「知った事か」
それが普通だろ。
イノセンスに選ばれようが、ノアはノアだ。
「彼女はエクソシストだ。それに僕達の切り札になる」
「はっ、利用するってワケか」
鼻で笑うと、コムイは表情を歪めた。
「そうだね…そういう事になる」
「随分素直だな」
「伯爵の彼女に対する扱いは変だ。それは…どんな理由かは分からないが彼女が伯爵にとって有益な存在だという証拠だ。
それに……自分は切り札だって…彼女が言い出したんだよ」
気にくわねぇ。
何故そこまでして教団に潜り込む?
「彼女は戦力になる。でもこちらで生きていくには彼女の正体を知ってる協力者が必要だ」
「知るか。第一そんなもん保護を理由に元帥に任せりゃいいだろ」
なんなら師であるクロス元帥に。
「無理だよ」
「は?」
「彼女は監禁からの解放と同時に元帥になった」
「……は?」
ノアが元帥…?
「上は彼女がノアだと知らない…戦力拡大の為に彼女を解放して元帥にしたのに、その元帥の保護に元帥をつけるだなんて規格外だ。
だったら元帥にエクソシストの援護をつけるしかない」
コムイは“それに”と話を続けた。
「何よりずっと閉じ込められていた上に、本来敵である僕達の中に飛び込むんだ。リナリーと君…そしてラビに戦場は勿論、教団内で彼女をサポートして欲しい」
色んな事にイライラして…
“戦場では彼女が助けてくれる”というコムイの言葉に余計腹が立った。
「断る」
そう口にしてさっさと室長室を後にした。
リーバーに止められたが、振り払って科学班室を突き抜ける。
「ぁ、神田待って!!」
不意に腕を掴まれ、振り払おうとしたが、リナリーは腕にしがみ付く様にしてそれを防ぐと“なに怒ってるの?”と、不機嫌そうにもらした。
「兄さんから話は聞いたでしょ?」
そうリナリーが俺を拘束する腕を緩めながら話し出すと、椅子に座っていた女が立ち上がって姿勢を正した。
「レイ・アストレイ元帥よ、こちらは神田ユ」
「関係無い」
リナリーの言葉を遮ってそう口にすると、六幻を抜いて女の首筋に添えた。
「俺はサポートなんてしない」
『…じゃあ、私が勝手にサポートするね』
ニッコリと笑う女が何を考えているのか…さっぱり分からなかった。
「…サポートされる事なんか無ぇさ」
そう言うと、神田は馬鹿にした様に“はっ”と笑った。
「…戦場で俺に背を向けるなよ。アクマと一緒に斬っっちまうかもしれねぇからな」
「神田!!」
リナリーの怒鳴り声が響く中、俺は科学班室を後にした。
これで良いと思った。
これであの女は俺に近付かないだろうし、俺はあの女を斬らなくて済む。
あの女は元帥なんだから、あの女が望めば俺はあの女の援護として同じ任務に就く事は無い。
そう思ってた。
思ってたのに…
「何なんだ、お前は」
『お前じゃなくて“レイ”だってば』
突き放したつもりだったのに何故か付き纏われている。
任務の同行は兎も角、教団内まで付いて回られると鬱陶しくて仕方無い。
『私、ユウが気に入ったんだもん♪』
「懐くな、その名で呼ぶな」
“えへへ♪”と楽しそうに笑われると余計腹が立った。
「次の任務はリナリーを連れて行け」
『イ〜ヤ!…リナリーは名前で呼んでもらえていいなぁ』
「嫌じゃねぇ、もう俺を指名すんな」
『だって戦い易いし~それにユウってば無茶し過ぎなんだもん、心配で心配で…』
「呼ぶなって言ってんだろ。それと余計なお世話だ」
『じゃあ、私が心配しない様に無茶はしないでね♪』
「鬱陶しい」
ノアである事は勿論、ノアの癖にエクソシストなのも元帥なのも…何もかもが気に食わなかった。
関わりたくなんか無かったのに、コイツはしつこくてしつこくて…
いくら突き放しても付き纏ってくる。
『謳え!!“守護者”』
辺りに響き渡るあの女の対アクマ武器のヴァイオリンの音色…その音色の影響で俺の自己治癒のスピードは格段に上がる。
今まで少しの間動けなかったのが、今では治癒しながら戦える。
これはコイツと組んで唯一得な事だ。
『ユウ!!追い付かないよ!!!』
「充分だろ」
『治癒途中で傷口開いちゃうってば!!!』
悲鳴にも近い女の声を無視してアクマの大群に突っ込んで行く。
「二幻昇華」
『ユウ!!!』
「俺の命を吸い高ま」
『止めて!!!』
瞬間、ガクンと足を引っ張られて俺は地に落ちた。
下を見ると、足に植物の蔦が何重にも絡まっている。
「クソ…ッ」
あの女…
「おい、これを外せ!!」
『止めてって言ったでしょ?!』
「いいからこれを外」
「死ねぇぇぇ、エクソシストォォ!!!」
「ッ…!!」
一度死ぬ覚悟をした。
大丈夫だ。
あの女も元帥なんだから俺が死んでる間、持ち堪える事なんか出来る筈だ。
しかしいくら経っても衝撃はこなかった。
「…?」
不思議に思って顔を上げると、俺の目の前にはアクマから立ちはだかる様にあの女が立っていた。
「……何を…してる」
クルリと振り返った女は血塗れの顔でニッコリと笑った。
『全部貰ったの』
「な…」
『これが…ユウのしている事だよ』
「レイ!!!」
そう言って崩れ落ちる様に地に倒れる姿を見て、俺はそう声を上げて女を受け止めた。
『えへへ…やっと名前で呼んでくれた』
「馬鹿じゃないのか、お前」
『もう傷付いちゃ駄目だよ?じゃないとまた私がボロボロになるから』
“何度も何度もね”そう言って女が…レイが笑う中、レイに倒されたアクマ達が起き上がり、俺はレイをそっと地に寝かせた。
『約束だよ、ユウ』
「……馬鹿が血塗れになると困るからな」
クスクス笑うレイを背に、神田は六幻を構えた。
『さて…私、もう動けないのよね』
「馬鹿だな」
『ユウ、私を助けてね』
私を…
助けてくれるんでしょ?
ユウ──…