第5章 二人の女王
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「千年伯爵…」
そう声を掛けられて伯爵は声のした方を振り向いた。
全身黒い服に身を包んだ男は、同じく黒い服に身を包んだ二人の少年と一人の少女を連れていた。
「また貴方ですか、アディントン元帥」
「あぁ、また俺だ」
「今日は弟子もご一緒ですか。我輩は貴方が嫌いですよ…何度も何度もしつこく仕掛けてきて、負けそうになるとイノセンスを使って逃げる」
「当たり前だろ、貴様は俺達の敵で殺すべき相手だ。確実に殺す為に命が危うければ一時撤退して、再度仕掛けるまでだ」
溜め息を吐いた伯爵が“面倒臭いデスネ♡”と言って“千年伯爵”へと姿を変えると、四人のエクソシストはそれぞれ対アクマ武器を構えた。
『チィ、何してるの?』
「レイ♡」
千年伯爵が振り向くと、背にしていた店の扉の前には人形を抱いた金髪に白いワンピースの少女が立っていた。
「ドレスは決まったんデスか?♡」
『うん、良いのが出来そう』
「アァ、一応紹介しておきまショウ♡我輩の可愛いレイですヨ♡」
飛び回りながら“か~わいいデショ〜♡”とアピールする千年伯爵と困り顔のレイを見て、アディントン元帥は無表情のまま手を上げた。
「その娘は人間か?」
「そんなワケ無いでショ〜♡」
「そうか、分かった」
『チィ、この人達…』
「あぁレイ、相手してあげなさい♡コイツ等、忌々しいエクソシストですヨ♡」
レイは一歩前に出ると、人形を抱いていない方の手でスカートの裾を摘むと綺麗に一礼した。
『こんにちは、エクソシスト…第0使徒“方舟 ”レイです』
「アディントンだ」
「……師匠、応じなくても…」
「礼儀だ」
レイは楽しそうにクスクス笑うと、人形を前へ突き出す様に両手で抱き上げた。
『フランソワーズ、遊んであげましょう』
人形の首が傾げる様にカクンと動いた瞬間、レイは人形を抱く手を離した。
地に落ちるよりも早く、人形が巨大化してレイをその腕で護る様に覆い被さる。
レイは四人を見据えてニッコリと笑った。
『これから貴方達を殺します』
=遠い記憶=
「漸く死にましタ♡」
真白な街並み…その一部を真っ赤に染めた血溜まりを前に、千年伯爵は笑いながら跳び回った。
「長かったデスよォ♡どこから嗅ぎ付けたのか我輩の前にちょこちょこ現れて、劣勢になるとちょこちょこ逃げ回って…ひっ常に鬱陶しかったデス♡」
『何だか面倒臭い人だね』
「デスガ…何だか寂しい気もしまス」
『チィったら優しいんだからぁ』
“ウフフ♡”と笑った千年伯爵は、アディントンのイノセンスを踏み潰して破壊した。
「貴方のイノセンスでも流石に方舟の中からは逃げ出せませんでしたネェ♡」
千年伯爵が見下ろすアディントンは何も返さない…返せない。
色を失った虚ろな瞳は何も映さない。
「お休みなさい、アディントン元帥♡」
『お休みなさい、その弟子達』
アディントンとその弟子達の遺体が血溜まりに沈み、方舟に呑み込まれていく中、レイは自分に覆い被さる様に地に手を付いているフランソワーズを見上げた。
『フラン、もういいよぉ』
レイがそう声を掛けると、フランソワーズは一瞬で元のサイズに戻るとレイの腕の中へと落ちた。
『お疲れ様、フラン』
「相変わらず…フランソワーズは戦闘能力は高いデスがレイのお世話は全く出来ませんネ♡」
『良いんだよ、フランは~』
瞬間、何かが頬を伝う感覚がして、レイは頬に触れた。
何か濡れて…
『涙…?』
胸を締め付けられる様な感覚に、レイは表情を歪めるとフランソワーズをギュッと抱き締めた。
千年伯爵もボロボロと涙を流している。
「どういう事デスか…コレは…」
苦しい、悲しい、寂しい、怖い…
『皆…が…消えて逝く…』
ワイズリー、ラストル、トライド、ジョイド、フィードラ、デザイアス……
一人ずつ…一人ずつ私の中から消えて逝く…
『何で…何でこんな急に』
「残ってるのは二人デスネ…しかもロードが瀕死デス」
『嫌…嫌…』
「レイ」
不意に方舟内に現れた一筋の涙を流したボロボロの青年を見たレイは、フランソワーズを手放すと、次々と溢れ続ける涙をそのままに、青年に抱き付いた。
『クロくん!!!』
「あぁ、落ち着けレイ」
『ぅぁ…ッ、で、でも皆がぁ』
嗚咽の混じる声でそう口にすれば、クロくんは私を抱き締めて優しく頭を撫でてくれた。
「残るはロードってコトですネ…」
「…あぁ、そうだな」
「我輩、ちょっと行ってきますネ♡」
『チィ…』
「大丈夫デスヨ、レイ♡」
『でも…』
「我輩が死んだ所なんて見た事無いでショウ?♡」
『…気を付けてね』
「大丈夫ですヨ♡を連れて帰ってきますネ♡」
千年伯爵は、レイの頭を撫でてその綺麗な金髪に触れると、方舟を出て行った。
『クロくん、大丈夫?』
「あぁ、大丈夫だ」
『でもボロボロ…』
「流石に苦戦したからな」
『何でこんな事になったの?』
「……」
『何で皆一気に……エクソシストが攻めてきたの?』
私の問いにクロくんが答える事は無かった。
『クロくん…?』
クロくんはやっぱり何も言わなかった。
暫く私を抱き締めていたクロくんは、そっと私の額にキスをすると、真っ直ぐに私を見据えた。
「俺を信じてるか、シロ」
『…もちろん』
私のメモリーにずっと刻まれているチィ…
そんなチィよりも私には数年前に出会ったクロくんの方が大事だった。
「この先何があっても俺を信じるか、シロ」
そう問われ、レイは次々に溢れる涙を服の袖で拭うと、真っ直ぐにクロを見返した。
『絶対に』
“そうか”と言って微かに微笑んだクロくんは、私の頭を撫でると、目を塞ぐ様に私の目の前に手を翳した。
私はそっと目を閉じる。
瞬間、何かが壊れる音がした…直ぐに何が壊れたか分かった。
『フラン…』
「シロ」
『……クロくん、胸が痛い』
「…そうだな。でも直ぐに治まる」
“チィ、ごめんね”そう心の中で謝った。
何が起こるかは知らないが、何となくチィには迷惑が掛かるものだと思ったから。
「目が覚めた時に理由が分かる様にしておく」
『うん…でもね』
「何だ」
『理由なんか分からなくても良いよ。きっとクロくんと同じ事を思うもん』
耳元で囁くクロくんの声に何故か涙が溢れた。
「方舟の機能を停止。良いと言うまで江戸に留まれ」
クロくんの言葉が私の中に響き渡る。
私を通して方舟に響き渡る。
「待ってろ…シロ」
俺が迎えに来るまで──…
「千年伯爵…」
そう声を掛けられて伯爵は声のした方を振り向いた。
全身黒い服に身を包んだ男は、同じく黒い服に身を包んだ二人の少年と一人の少女を連れていた。
「また貴方ですか、アディントン元帥」
「あぁ、また俺だ」
「今日は弟子もご一緒ですか。我輩は貴方が嫌いですよ…何度も何度もしつこく仕掛けてきて、負けそうになるとイノセンスを使って逃げる」
「当たり前だろ、貴様は俺達の敵で殺すべき相手だ。確実に殺す為に命が危うければ一時撤退して、再度仕掛けるまでだ」
溜め息を吐いた伯爵が“面倒臭いデスネ♡”と言って“千年伯爵”へと姿を変えると、四人のエクソシストはそれぞれ対アクマ武器を構えた。
『チィ、何してるの?』
「レイ♡」
千年伯爵が振り向くと、背にしていた店の扉の前には人形を抱いた金髪に白いワンピースの少女が立っていた。
「ドレスは決まったんデスか?♡」
『うん、良いのが出来そう』
「アァ、一応紹介しておきまショウ♡我輩の可愛いレイですヨ♡」
飛び回りながら“か~わいいデショ〜♡”とアピールする千年伯爵と困り顔のレイを見て、アディントン元帥は無表情のまま手を上げた。
「その娘は人間か?」
「そんなワケ無いでショ〜♡」
「そうか、分かった」
『チィ、この人達…』
「あぁレイ、相手してあげなさい♡コイツ等、忌々しいエクソシストですヨ♡」
レイは一歩前に出ると、人形を抱いていない方の手でスカートの裾を摘むと綺麗に一礼した。
『こんにちは、エクソシスト…第0使徒“
「アディントンだ」
「……師匠、応じなくても…」
「礼儀だ」
レイは楽しそうにクスクス笑うと、人形を前へ突き出す様に両手で抱き上げた。
『フランソワーズ、遊んであげましょう』
人形の首が傾げる様にカクンと動いた瞬間、レイは人形を抱く手を離した。
地に落ちるよりも早く、人形が巨大化してレイをその腕で護る様に覆い被さる。
レイは四人を見据えてニッコリと笑った。
『これから貴方達を殺します』
=遠い記憶=
「漸く死にましタ♡」
真白な街並み…その一部を真っ赤に染めた血溜まりを前に、千年伯爵は笑いながら跳び回った。
「長かったデスよォ♡どこから嗅ぎ付けたのか我輩の前にちょこちょこ現れて、劣勢になるとちょこちょこ逃げ回って…ひっ常に鬱陶しかったデス♡」
『何だか面倒臭い人だね』
「デスガ…何だか寂しい気もしまス」
『チィったら優しいんだからぁ』
“ウフフ♡”と笑った千年伯爵は、アディントンのイノセンスを踏み潰して破壊した。
「貴方のイノセンスでも流石に方舟の中からは逃げ出せませんでしたネェ♡」
千年伯爵が見下ろすアディントンは何も返さない…返せない。
色を失った虚ろな瞳は何も映さない。
「お休みなさい、アディントン元帥♡」
『お休みなさい、その弟子達』
アディントンとその弟子達の遺体が血溜まりに沈み、方舟に呑み込まれていく中、レイは自分に覆い被さる様に地に手を付いているフランソワーズを見上げた。
『フラン、もういいよぉ』
レイがそう声を掛けると、フランソワーズは一瞬で元のサイズに戻るとレイの腕の中へと落ちた。
『お疲れ様、フラン』
「相変わらず…フランソワーズは戦闘能力は高いデスがレイのお世話は全く出来ませんネ♡」
『良いんだよ、フランは~』
瞬間、何かが頬を伝う感覚がして、レイは頬に触れた。
何か濡れて…
『涙…?』
胸を締め付けられる様な感覚に、レイは表情を歪めるとフランソワーズをギュッと抱き締めた。
千年伯爵もボロボロと涙を流している。
「どういう事デスか…コレは…」
苦しい、悲しい、寂しい、怖い…
『皆…が…消えて逝く…』
ワイズリー、ラストル、トライド、ジョイド、フィードラ、デザイアス……
一人ずつ…一人ずつ私の中から消えて逝く…
『何で…何でこんな急に』
「残ってるのは二人デスネ…しかもロードが瀕死デス」
『嫌…嫌…』
「レイ」
不意に方舟内に現れた一筋の涙を流したボロボロの青年を見たレイは、フランソワーズを手放すと、次々と溢れ続ける涙をそのままに、青年に抱き付いた。
『クロくん!!!』
「あぁ、落ち着けレイ」
『ぅぁ…ッ、で、でも皆がぁ』
嗚咽の混じる声でそう口にすれば、クロくんは私を抱き締めて優しく頭を撫でてくれた。
「残るはロードってコトですネ…」
「…あぁ、そうだな」
「我輩、ちょっと行ってきますネ♡」
『チィ…』
「大丈夫デスヨ、レイ♡」
『でも…』
「我輩が死んだ所なんて見た事無いでショウ?♡」
『…気を付けてね』
「大丈夫ですヨ♡を連れて帰ってきますネ♡」
千年伯爵は、レイの頭を撫でてその綺麗な金髪に触れると、方舟を出て行った。
『クロくん、大丈夫?』
「あぁ、大丈夫だ」
『でもボロボロ…』
「流石に苦戦したからな」
『何でこんな事になったの?』
「……」
『何で皆一気に……エクソシストが攻めてきたの?』
私の問いにクロくんが答える事は無かった。
『クロくん…?』
クロくんはやっぱり何も言わなかった。
暫く私を抱き締めていたクロくんは、そっと私の額にキスをすると、真っ直ぐに私を見据えた。
「俺を信じてるか、シロ」
『…もちろん』
私のメモリーにずっと刻まれているチィ…
そんなチィよりも私には数年前に出会ったクロくんの方が大事だった。
「この先何があっても俺を信じるか、シロ」
そう問われ、レイは次々に溢れる涙を服の袖で拭うと、真っ直ぐにクロを見返した。
『絶対に』
“そうか”と言って微かに微笑んだクロくんは、私の頭を撫でると、目を塞ぐ様に私の目の前に手を翳した。
私はそっと目を閉じる。
瞬間、何かが壊れる音がした…直ぐに何が壊れたか分かった。
『フラン…』
「シロ」
『……クロくん、胸が痛い』
「…そうだな。でも直ぐに治まる」
“チィ、ごめんね”そう心の中で謝った。
何が起こるかは知らないが、何となくチィには迷惑が掛かるものだと思ったから。
「目が覚めた時に理由が分かる様にしておく」
『うん…でもね』
「何だ」
『理由なんか分からなくても良いよ。きっとクロくんと同じ事を思うもん』
耳元で囁くクロくんの声に何故か涙が溢れた。
「方舟の機能を停止。良いと言うまで江戸に留まれ」
クロくんの言葉が私の中に響き渡る。
私を通して方舟に響き渡る。
「待ってろ…シロ」
俺が迎えに来るまで──…