第5章 二人の女王
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「教団がどうなろうが俺にはどうでもいいことだ」
どうでもいい事だった。
たとえそこで生まれ、育ったとしても…
「君がそう思うのも無理無い。でも…気を遣わせてくれないか」
コイツがこう言うのも…
こう言い続けるのも…正直どうでもいい事だった。
過ぎ去った過去はもうどうにもならない。
「九年前…中央庁が圧した人造使徒計画で君を造り出したのは我々の一族だ」
失ったものも…
戻る事は無いんだから。
「第二エクソシストなどという幻想に囚われ大きな過ちを犯したのは」
俺は教団を助け様とは思わない。
俺は教団を信じようとも思わない。
俺はこいつ等を恨みもしなければ許しもしない。
俺はただ…
「僕のチャン家とレニーのエプスタイン一族なのだから…」
手の届くモノを…
この手に取り戻したいだけだ──…
=禁忌を犯して人は進む=
「“アルマ=カルマ”」
リーバー班長の助手として北米支部を訪れて…僕は初めて“それ”を見た。
硝子張りの床の中に保存液と共に寝かされていたのは、ツギハギだらけのまだ小さな少年だった。
「只の子供ではない…九年前、教団が造り出した人造使徒の成り損ない」
人造使徒計画で生まれた二体の被験体“第二エクソシスト”
被験体“Alma ”は当時のチャン家、エプスタイン家の当主を始め研究所職員、四十六名を暴走により惨殺。
生き残ったもう一人の被験体“YU ”は“Alma ”が再生しなくなるまで…
彼をバラバラに破壊した。
支部長達の遣り取りを聞きながら読み進めていた分厚い資料…
ツギハギに身体を繋ぎとめられ、昏睡状態のまま眠り続ける“Alma ”を見て“YU ”が誰なのか気付いた時…
涙と共に胃が引っ繰り返った。
胃の中のものを吐き出してしまった僕をリーバー班長が抱えてトイレに連れて行ってくれた。
便器を抱える様に蹲りながら、僕の所為で一緒に部屋を追い出されてしまったペック班長の文句に謝りながら、頭の中ではアルマ=カルマの顔と神田の顔がグルグルと回っていた。
自分のやってる事が分からなくなって…
教団への不振と恐怖やら、神田への申し訳無い気持ちやら、自分の今までの振る舞いの能天気さやら…数え切れない色んなもので気持ちがどっと落ち込んで…胃が…胸が苦しくて、気持ち悪くて……
涙が止まらなかった。
リーバー班長に背を擦られて少し落ち着いたが、頭の中はグルグルとまともに考えられない状況のままだった。
「はんちょ…」
「ん…?」
「自分のやってる事が…分からなくなりました」
「……」
「何で…連れて来たんですか…?」
「……」
「教団って…なんなんですか」
聞いてはいけない事だと分かっていた。
リーバー班長が答えられるものではないし、リーバー班長をただ困らせるだけの質問だという事も分かっていた。
でも口にせずにはいられなかった。
リーバー班長が口を開いて何かを言おうとした瞬間、支部内に“ノア襲撃”の警報が鳴り響いた。
ふらつく身体をリーバー班長に引っ張り起こされて、ペック班長とその助手と…四人でシェルターに向かって走った。
警報で“方舟は不通”だと言っていたが、不安は無かった。
きっとアレンが…
皆が助けに来てくれる。
そう信じていた。
だからこそ全力で逃げた。
自分に出来る事は逃げる事だから…全部丸投げにして皆に自分の命を預けるんじゃなくて、全力で走ろうと思った。
笑う膝で必死に前を走る班長を追い掛けた。
けど僕らの身体は、ある瞬間、ピクリとも動かなくなった。
自分では全く動かせなくなった身体は、突っ張る様に両腕を広げた状態で、シェルターとは違う場所に向かって歩き出す。
「班長!」
そう叫んだつもりだったが、声も出なかった。
ただ操り人形の様に連れて行かれたのは、アルマ=カルマの部屋だった。
「やあ、コンバンワ♡」
先程までと違うのは、千年伯爵達が居た事だ。
千年伯爵と、二人のノアと数体のレベル4…そして床には…
神田が倒れていた。
その目や耳からは血を流している。
一気に血の気がひいた。
「遠慮なく並んデ、並んデ♡」
支部長達や長官…他の研究員達は、僕らと同じポーズで壁に沿う様に立たされていて、僕らの身体も勝手に同じ様に端に並ばされた。
「何も頭潰す事ないのにぃ~綺麗な子を~!!」
突然、ぬいぐるみがそう喋りだし、ターバンを巻いたノアが溜め息を吐いた。
アイツも…ノア?!
「だって強そうだったんだもんのう…よかろうがセカンドなんだし。第一、キレーでもヤローだわい」
「この大雑把!」
プンプン怒るぬいぐるみを摘み上げていたターバンのノアは、ふと老師を見てニヤリと口角を上げて笑った。
「その通りだ、老師」
その通り…?
「“愛”と“悲劇”おぬしらが一番よくわかってたはず。触れてはならんものに触れるとそこから何が吹き出すか」
まさかあのノア、心の中が読め…
「黒の教団を最も憎むモノ。おぬしらは自らつくった悪魔に抹殺されるのだ」
自らつくった悪魔……って…アルマ=カルマ?
「あ──…そうだのう。確かにアルマは心を閉ざしておる…ワタシの魔眼でも覗けぬ程にな。じゃが……こちらはどうかのう?」
魔眼のノアがスッと手を出した先…ずっと倒れていた神田が、瞬間身じろいだ。気が付いたのだ。
「さぁさァ!アルマ=カルマちゃんに断罪の朝ヲ!♡」
ゆっくりと身体を起こした神田は、自分の身体を支える為に床についた手…その先を見て目を見開いた。
“コケコッコー!”と千年伯爵が騒ぐ中、神田はただじっと、床の中のアルマ=カルマを見ていた。
「待って待って、千年公!まだ招待客が残ってるじゃないか…て、あれ?」
喋っていたもう一人のノアは、ふと自分の足許に浮かび上がった紋様を見てピタリと動きを止めた。
直ぐに千年伯爵が床に視線を移す。
「あ…方舟♡」
「…僕の下からぁ?!!」
瞬間、ノアの足許…
紋様からノアと千年伯爵を弾き飛ばす様に飛び出てきたのは一人のノアと…
「仲間を返せ!!!」
アレンだった──…
「教団がどうなろうが俺にはどうでもいいことだ」
どうでもいい事だった。
たとえそこで生まれ、育ったとしても…
「君がそう思うのも無理無い。でも…気を遣わせてくれないか」
コイツがこう言うのも…
こう言い続けるのも…正直どうでもいい事だった。
過ぎ去った過去はもうどうにもならない。
「九年前…中央庁が圧した人造使徒計画で君を造り出したのは我々の一族だ」
失ったものも…
戻る事は無いんだから。
「第二エクソシストなどという幻想に囚われ大きな過ちを犯したのは」
俺は教団を助け様とは思わない。
俺は教団を信じようとも思わない。
俺はこいつ等を恨みもしなければ許しもしない。
俺はただ…
「僕のチャン家とレニーのエプスタイン一族なのだから…」
手の届くモノを…
この手に取り戻したいだけだ──…
=禁忌を犯して人は進む=
「“アルマ=カルマ”」
リーバー班長の助手として北米支部を訪れて…僕は初めて“それ”を見た。
硝子張りの床の中に保存液と共に寝かされていたのは、ツギハギだらけのまだ小さな少年だった。
「只の子供ではない…九年前、教団が造り出した人造使徒の成り損ない」
人造使徒計画で生まれた二体の被験体“第二エクソシスト”
被験体“
生き残ったもう一人の被験体“
彼をバラバラに破壊した。
支部長達の遣り取りを聞きながら読み進めていた分厚い資料…
ツギハギに身体を繋ぎとめられ、昏睡状態のまま眠り続ける“
涙と共に胃が引っ繰り返った。
胃の中のものを吐き出してしまった僕をリーバー班長が抱えてトイレに連れて行ってくれた。
便器を抱える様に蹲りながら、僕の所為で一緒に部屋を追い出されてしまったペック班長の文句に謝りながら、頭の中ではアルマ=カルマの顔と神田の顔がグルグルと回っていた。
自分のやってる事が分からなくなって…
教団への不振と恐怖やら、神田への申し訳無い気持ちやら、自分の今までの振る舞いの能天気さやら…数え切れない色んなもので気持ちがどっと落ち込んで…胃が…胸が苦しくて、気持ち悪くて……
涙が止まらなかった。
リーバー班長に背を擦られて少し落ち着いたが、頭の中はグルグルとまともに考えられない状況のままだった。
「はんちょ…」
「ん…?」
「自分のやってる事が…分からなくなりました」
「……」
「何で…連れて来たんですか…?」
「……」
「教団って…なんなんですか」
聞いてはいけない事だと分かっていた。
リーバー班長が答えられるものではないし、リーバー班長をただ困らせるだけの質問だという事も分かっていた。
でも口にせずにはいられなかった。
リーバー班長が口を開いて何かを言おうとした瞬間、支部内に“ノア襲撃”の警報が鳴り響いた。
ふらつく身体をリーバー班長に引っ張り起こされて、ペック班長とその助手と…四人でシェルターに向かって走った。
警報で“方舟は不通”だと言っていたが、不安は無かった。
きっとアレンが…
皆が助けに来てくれる。
そう信じていた。
だからこそ全力で逃げた。
自分に出来る事は逃げる事だから…全部丸投げにして皆に自分の命を預けるんじゃなくて、全力で走ろうと思った。
笑う膝で必死に前を走る班長を追い掛けた。
けど僕らの身体は、ある瞬間、ピクリとも動かなくなった。
自分では全く動かせなくなった身体は、突っ張る様に両腕を広げた状態で、シェルターとは違う場所に向かって歩き出す。
「班長!」
そう叫んだつもりだったが、声も出なかった。
ただ操り人形の様に連れて行かれたのは、アルマ=カルマの部屋だった。
「やあ、コンバンワ♡」
先程までと違うのは、千年伯爵達が居た事だ。
千年伯爵と、二人のノアと数体のレベル4…そして床には…
神田が倒れていた。
その目や耳からは血を流している。
一気に血の気がひいた。
「遠慮なく並んデ、並んデ♡」
支部長達や長官…他の研究員達は、僕らと同じポーズで壁に沿う様に立たされていて、僕らの身体も勝手に同じ様に端に並ばされた。
「何も頭潰す事ないのにぃ~綺麗な子を~!!」
突然、ぬいぐるみがそう喋りだし、ターバンを巻いたノアが溜め息を吐いた。
アイツも…ノア?!
「だって強そうだったんだもんのう…よかろうがセカンドなんだし。第一、キレーでもヤローだわい」
「この大雑把!」
プンプン怒るぬいぐるみを摘み上げていたターバンのノアは、ふと老師を見てニヤリと口角を上げて笑った。
「その通りだ、老師」
その通り…?
「“愛”と“悲劇”おぬしらが一番よくわかってたはず。触れてはならんものに触れるとそこから何が吹き出すか」
まさかあのノア、心の中が読め…
「黒の教団を最も憎むモノ。おぬしらは自らつくった悪魔に抹殺されるのだ」
自らつくった悪魔……って…アルマ=カルマ?
「あ──…そうだのう。確かにアルマは心を閉ざしておる…ワタシの魔眼でも覗けぬ程にな。じゃが……こちらはどうかのう?」
魔眼のノアがスッと手を出した先…ずっと倒れていた神田が、瞬間身じろいだ。気が付いたのだ。
「さぁさァ!アルマ=カルマちゃんに断罪の朝ヲ!♡」
ゆっくりと身体を起こした神田は、自分の身体を支える為に床についた手…その先を見て目を見開いた。
“コケコッコー!”と千年伯爵が騒ぐ中、神田はただじっと、床の中のアルマ=カルマを見ていた。
「待って待って、千年公!まだ招待客が残ってるじゃないか…て、あれ?」
喋っていたもう一人のノアは、ふと自分の足許に浮かび上がった紋様を見てピタリと動きを止めた。
直ぐに千年伯爵が床に視線を移す。
「あ…方舟♡」
「…僕の下からぁ?!!」
瞬間、ノアの足許…
紋様からノアと千年伯爵を弾き飛ばす様に飛び出てきたのは一人のノアと…
「仲間を返せ!!!」
アレンだった──…