夢に落ちるその前に
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6
「さぁ、ローズ!私とダンスを踊ろう」
静かな闇夜を切り裂く貴方の楽しそうな笑い声…今の貴方が何を求めているかは私でも直ぐに分かった。
『私には永遠に先約がいるのよ』
赤い薔薇は捜し求め…
青い薔薇は闇雲に染める‥
そして紫の薔薇は…‥
「先約?そんなもの私が打ち崩そう」
『あら、意外と強引ね』
クスリと小さく笑ったローズは、そっと人差し指を唇に寄せた。
『静かになさい、私の花婿』
=ワルツ=
「ヴィオ!!」
リクは視界の端に一人の少女を見付けると、慌ててその後を追いながら声を掛けた。
小夜達が青い薔薇を受け取った数日前…リクは片足の少女ムイと友達になり、そのムイ達が暮らす施設に訪ねて驚いた。
施設には自分の義姉である小夜にそっくりな少女がいたのだ。
自分よりも少々高い背。
少し撥ねた肩辺りまでの黒髪。
綺麗な紫の瞳。
人懐こく明るい性格…
小夜が自分と同じ歳の頃に戻った様な…ヴィオはそんな少女だった。
「何してるの?」
「ピアノを弾きたくて…リクも一緒に来る?」
リクは嬉しそうに頷くと、ヴィオと共にピアノのある部屋へと向かった。
部屋に着くまでリクは小夜の話をし続けた。他に会話になる様なものが無かったからだった。
ヴィオと一緒に居たかったが、会話が無いのも辛い…頭に出て来るのはヴィオにそっくりな自分の義姉。
「リクって小夜の話ばっかり…カイに至っては私を小夜として扱うのよ?“もう食わねぇのか?”って言ってご飯よそられても私、そんなに沢山食べれないし」
ピアノのある部屋に入ったヴィオは、両手を腰に当てると軽く頬を膨らませて見せた。
「カイ兄ちゃんらしいや」
ヴィオはピアノの椅子に腰掛けると“そうだね”と言いながらクスクス笑った。
僕はヴィオの笑顔が‥
ヴィオが好きだった。
だからあの日‥
朝、目覚めてヴィオが消えていたのが、哀しくて仕方無かった。
「どうだったんだ?」
「ん、バッチリ!」
深夜…廃墟と化した古い教会に足を踏み入れたヴィオは、月明りの差し込む割れたステンドグラスの下に立っている青年の問いにニッコリと微笑んで答えた。
「試しに薬かじってみたけど正解だった。死ぬかと思ったわよ…それにしても良くやってくれるわよね、名前を利用した挙句リクを哀しませるモノ作って」
ヴィオは“面倒臭い”と口にすると、頬を軽く膨らませた。
「癖になったか?」
青年の言葉にヴィオは首を傾げた。
“何が”とでも言いたそうだ。
青年は溜め息を吐くと、ヴィオの頬を指差した。
「あぁ、これ‥そうね、癖になったかも。子供の演技って楽しいけど大変ね」
「不器用」
「演技の出来無いクロムに言われたく無い」
言葉を詰まらせたクロムはそれ以上何も言わず、唯ゆっくりとヴィオ近付いた。
「行くぞ、ローズ」
クロムが手を差し出すと、まだ幼いヴィオの身体が一瞬にして美しい少女のものへと変わった。幼かった声も美しい響きへと変わる。
ヴィオという幼い少女から本来の姿に戻ったローズは両目に指を入れると、紫のカラーコンタクトを取外し、クロムの手を取った。
『あぁ、疲れた…カラーコンタクトって結構疲れるのね』
月の光に照らされて気怠そうな表情のローズのオッドアイが妖しく輝いた。
ねぇ、ファントム…
私に薔薇を贈るなら——…‥
「ローズ、ドレス決めた?」
同室の少女、ジェーンの声に反応し、ベッドに寝転んで本を読んでいたローズは伏せていた顔を上げた。
ドレス…そうか、今日はダンスパーティーだった。
『えっと…』
ローズは本を閉じて立ち上がると、自分のクローゼットからカールに貰った青いドレスを取り出した。
『コレにするわ』
「青かぁ…じゃあ、私は青以外にしよ」
少女は鼻歌混じりに、再びクローゼットを漁り始める。
「そういえばローズ、小包届いてたわよ」
『包み?』
少女の指差す方を見ると、彼女の机の上には小さな包みが置かれていた。
『誰‥?』
私に包みを贈る者何かいない筈だ。
青いドレスを着込んだローズは、包みを綺麗に解くと、中身を見て表情を緩めた。
『良く分かってる』
ローズは包みに入っていた一輪の紫の薔薇を手に取ると、首に付いたチョーカーにさした。
生徒全員が心待ちにしていたパーティーは、話に聞いた通り中々豪華なものだった。所詮中々のレベルだが。
辺りを見回すと、遠くで小夜姉様がチキンを美味しそうに食べているのが見えた。
『小夜姉様ったら‥』
ローズは手で緩む口許を隠しながらそれを見ていたが、差し出された手に気付くとそちらに視線を向けた。
「私と踊って頂けませんか?」
手を差し出していたのは金髪蒼眼の青年だった。
どこかで会った気がする…
どこかで…‥
——どうかなさいましたか?
あぁ…なるほど。
思い出した。数ヵ月前に潜入したパーティーで私はこの人に会ったんだ。
ローズは青年の手を取ると、ニッコリ微笑んだ。
『えぇ、喜んで』
青年のダンスは変わっていなかった。相変わらず上品で上手い。
「薔薇が良くお似合いですよ」
青年は微笑みも変わらず、柔らかかった。
歪んだ此の世界で何かを手に入れたとでも?
まさかね…
『貴方も青い薔薇が良く似合っているわ‥ねぇ、頼みがあるのだけど』
「何ですか?」
ローズは嬉しそうに微笑むと小夜に視線を向けた。
『あそこに私に似た子がいるでしょ?あの子と踊って欲しいの』
「別に構いませんよ?」
『ありがとう』
ローズはクロムが近付いて来るのを確認すると、青年から離れ、青年の背を小夜に向かって軽く押した。
『いつの日か“薔薇園へ招待するわね”ソロモン』
「ッ…!!」
青年、ソロモンは慌てて振り返ったが、既にローズの姿はどこにも見当たらなかった。
「貴女はあの時の…」
ソロモンが思わず漏らしたその声だけが、ホールに鳴り響くワルツに虚しく掻き消された。
『クロム…ちょっと寄り道してから一旦、薔薇園に帰ろう』
あれだけ我慢したんだ‥
もう我慢等する事は無い。
.
「さぁ、ローズ!私とダンスを踊ろう」
静かな闇夜を切り裂く貴方の楽しそうな笑い声…今の貴方が何を求めているかは私でも直ぐに分かった。
『私には永遠に先約がいるのよ』
赤い薔薇は捜し求め…
青い薔薇は闇雲に染める‥
そして紫の薔薇は…‥
「先約?そんなもの私が打ち崩そう」
『あら、意外と強引ね』
クスリと小さく笑ったローズは、そっと人差し指を唇に寄せた。
『静かになさい、私の花婿』
=ワルツ=
「ヴィオ!!」
リクは視界の端に一人の少女を見付けると、慌ててその後を追いながら声を掛けた。
小夜達が青い薔薇を受け取った数日前…リクは片足の少女ムイと友達になり、そのムイ達が暮らす施設に訪ねて驚いた。
施設には自分の義姉である小夜にそっくりな少女がいたのだ。
自分よりも少々高い背。
少し撥ねた肩辺りまでの黒髪。
綺麗な紫の瞳。
人懐こく明るい性格…
小夜が自分と同じ歳の頃に戻った様な…ヴィオはそんな少女だった。
「何してるの?」
「ピアノを弾きたくて…リクも一緒に来る?」
リクは嬉しそうに頷くと、ヴィオと共にピアノのある部屋へと向かった。
部屋に着くまでリクは小夜の話をし続けた。他に会話になる様なものが無かったからだった。
ヴィオと一緒に居たかったが、会話が無いのも辛い…頭に出て来るのはヴィオにそっくりな自分の義姉。
「リクって小夜の話ばっかり…カイに至っては私を小夜として扱うのよ?“もう食わねぇのか?”って言ってご飯よそられても私、そんなに沢山食べれないし」
ピアノのある部屋に入ったヴィオは、両手を腰に当てると軽く頬を膨らませて見せた。
「カイ兄ちゃんらしいや」
ヴィオはピアノの椅子に腰掛けると“そうだね”と言いながらクスクス笑った。
僕はヴィオの笑顔が‥
ヴィオが好きだった。
だからあの日‥
朝、目覚めてヴィオが消えていたのが、哀しくて仕方無かった。
「どうだったんだ?」
「ん、バッチリ!」
深夜…廃墟と化した古い教会に足を踏み入れたヴィオは、月明りの差し込む割れたステンドグラスの下に立っている青年の問いにニッコリと微笑んで答えた。
「試しに薬かじってみたけど正解だった。死ぬかと思ったわよ…それにしても良くやってくれるわよね、名前を利用した挙句リクを哀しませるモノ作って」
ヴィオは“面倒臭い”と口にすると、頬を軽く膨らませた。
「癖になったか?」
青年の言葉にヴィオは首を傾げた。
“何が”とでも言いたそうだ。
青年は溜め息を吐くと、ヴィオの頬を指差した。
「あぁ、これ‥そうね、癖になったかも。子供の演技って楽しいけど大変ね」
「不器用」
「演技の出来無いクロムに言われたく無い」
言葉を詰まらせたクロムはそれ以上何も言わず、唯ゆっくりとヴィオ近付いた。
「行くぞ、ローズ」
クロムが手を差し出すと、まだ幼いヴィオの身体が一瞬にして美しい少女のものへと変わった。幼かった声も美しい響きへと変わる。
ヴィオという幼い少女から本来の姿に戻ったローズは両目に指を入れると、紫のカラーコンタクトを取外し、クロムの手を取った。
『あぁ、疲れた…カラーコンタクトって結構疲れるのね』
月の光に照らされて気怠そうな表情のローズのオッドアイが妖しく輝いた。
ねぇ、ファントム…
私に薔薇を贈るなら——…‥
「ローズ、ドレス決めた?」
同室の少女、ジェーンの声に反応し、ベッドに寝転んで本を読んでいたローズは伏せていた顔を上げた。
ドレス…そうか、今日はダンスパーティーだった。
『えっと…』
ローズは本を閉じて立ち上がると、自分のクローゼットからカールに貰った青いドレスを取り出した。
『コレにするわ』
「青かぁ…じゃあ、私は青以外にしよ」
少女は鼻歌混じりに、再びクローゼットを漁り始める。
「そういえばローズ、小包届いてたわよ」
『包み?』
少女の指差す方を見ると、彼女の机の上には小さな包みが置かれていた。
『誰‥?』
私に包みを贈る者何かいない筈だ。
青いドレスを着込んだローズは、包みを綺麗に解くと、中身を見て表情を緩めた。
『良く分かってる』
ローズは包みに入っていた一輪の紫の薔薇を手に取ると、首に付いたチョーカーにさした。
生徒全員が心待ちにしていたパーティーは、話に聞いた通り中々豪華なものだった。所詮中々のレベルだが。
辺りを見回すと、遠くで小夜姉様がチキンを美味しそうに食べているのが見えた。
『小夜姉様ったら‥』
ローズは手で緩む口許を隠しながらそれを見ていたが、差し出された手に気付くとそちらに視線を向けた。
「私と踊って頂けませんか?」
手を差し出していたのは金髪蒼眼の青年だった。
どこかで会った気がする…
どこかで…‥
——どうかなさいましたか?
あぁ…なるほど。
思い出した。数ヵ月前に潜入したパーティーで私はこの人に会ったんだ。
ローズは青年の手を取ると、ニッコリ微笑んだ。
『えぇ、喜んで』
青年のダンスは変わっていなかった。相変わらず上品で上手い。
「薔薇が良くお似合いですよ」
青年は微笑みも変わらず、柔らかかった。
歪んだ此の世界で何かを手に入れたとでも?
まさかね…
『貴方も青い薔薇が良く似合っているわ‥ねぇ、頼みがあるのだけど』
「何ですか?」
ローズは嬉しそうに微笑むと小夜に視線を向けた。
『あそこに私に似た子がいるでしょ?あの子と踊って欲しいの』
「別に構いませんよ?」
『ありがとう』
ローズはクロムが近付いて来るのを確認すると、青年から離れ、青年の背を小夜に向かって軽く押した。
『いつの日か“薔薇園へ招待するわね”ソロモン』
「ッ…!!」
青年、ソロモンは慌てて振り返ったが、既にローズの姿はどこにも見当たらなかった。
「貴女はあの時の…」
ソロモンが思わず漏らしたその声だけが、ホールに鳴り響くワルツに虚しく掻き消された。
『クロム…ちょっと寄り道してから一旦、薔薇園に帰ろう』
あれだけ我慢したんだ‥
もう我慢等する事は無い。
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