夢に落ちるその前に
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5
『ディーヴァ…ここにいたのね』
そう言って、ローズは地下に隠されたコンテナをすっと撫でた。
やっと見付けた。
二百年振りに聴きたい歌…
『さぁ、歌って…』
=記憶の欠片=
「ちょっとした人気者ね」
今日のお昼の食堂はいつもと違ったざわめき方をしている。
「小夜、気にすることないよ…誰かの悪戯だと思うし」
ミンは自分のパンを黙々と食事を続ける小夜に差し出しながらそう囁いた。
「え…?」
皆に見られている意味がいまいち良く分からない小夜は、そう不思議そうに首を傾げた。
「でも、まさか小夜がねぇ‥」
「何?」
「“ファントムの青い薔薇”だもんねぇ」
一人がそう口にし、同意する様に皆が頷く中、小夜は気にせずにまたパンを口にした。
「小夜がファントム様に選ばれたって事でしょ?」
「でも薔薇はもう一輪贈られたらしいわよ?」
「誰に?!」
皆が身を乗り出し、問われた子はお昼を食べ続ける小夜を一瞥すると口を開いた。
「ローズ」
「ローズ?!」
「小夜とローズ、良く似てるからねぇ…」
「じゃあ、ファントム様に選ばれたのは二人って事?」
青い薔薇…
贈られた者はファントムに選ばれし者であり同時に‥
死する者——…‥
ローズを探さなくてはいけない。
彼女の命が危ないのだから…
『久しぶり、ハジ』
ハジは自分を呼んだ相手をその目で確認すると、慌てて懐から短剣を取り出し、持っていた園芸用の鋏と共に構えて相手と間合いを取った。
一方、距離を取られた相手‥ローズはハジを見据えるとニッコリ微笑んだ。
「薔薇園の姫…」
『警戒する事無いわ。危害を加えるつもりは無いのだから‥昔みたいにローズと呼びなさい』
ローズはハジに近付きながら辺りの薔薇を見回した。
「何故…ここにいるのですか、ローズ」
『小夜姉様とディーヴァが居ると思ったから』
会イタカッタ…
ズット…ズットズットズット…‥
『思った通り。小夜姉様は来たし、ディーヴァも居たわ』
「ディーヴァがいたのですか!」
驚いたハジは一歩前へと踏み出した。
ハジは見付ける事が出来無かったのだろう。
主に忠実で‥真剣なハジは好きだ。
その心はとても優しくて美しくて、格好良い。
『言っておくけど教える気は無いわ…私は小夜姉様の味方でもディーヴァの味方でも無いもの』
「では何をしにここへ…」
『総てを見届ける為に』
ローズは咲いていた薔薇を一輪素手で摘み取り、棘で傷付いた肌から溢れて流れ出た血を舐め取った。
私は傍観者。そして私は当事者。
だから私は…
『そして、自ら定めを受ける為に』
その為に二人に会いに来た。
その為に…
『そろそろ生徒が食堂から出て来るわね。見られたら厄介だし…またね、ハジ』
ローズはハジの服の胸元に摘み取った薔薇をそっと挿した。
『そのエプロン似合ってるわ』
ローズはそう一言残しニッコリ微笑むと、庭を立ち去った。
一方ローズの危険を案じた小夜は、薔薇が贈られてから毎日ローズを探したが、いくら探してもローズに会う事は出来無かった。
そんなある日、ローズのクラスメートの“裏庭に居れば会えるかもしれない”という助言を受けた小夜は、社会科見学の前に裏庭にやって来た…が、居たのは長い黒髪に蒼眼の青年だけだった。
「何の用だ」
「ファントム…」
「ファントムでは無い。不愉快な事を言うな」
「あ、ごめんなさい…」
不機嫌そうな顔をした青年は、片膝を付くと薔薇の世話を再開した。
確かにこの間の夜に部屋を抜け出した時に出くわしたあのファントムとは雰囲気が違う。
小夜は一歩踏み出すとローズを探すべく、口を開いた。
「あの…ローズさんいませんか?」
「……会いたいのか‥?」
薔薇の世話の為下を向いていた青年がそう呟き、顔を上げた。
分かり難いが、表情が先程よりかは幾分明るい‥が、それは私の一言で壊された。
「ローズさんはファントムに狙われてます、だから…」
「帰れ」
「ぇ…」
「その様な理由ならば帰れと言っているんだ」
「その様なって!」
この人は何を言っているのだろうか?恋人が狙われてると言っているのに“その様な理由”って…
「記憶の欠片を取り戻したのかと思えば…」
記憶の欠片?
どういう意味…?
「ローズは強い…その様な心配は無用だ。何より俺が護るべき者だ。貴様は関係無い」
「なっ‥」
「そろそろ社会科見学に行く時間だろ、とっとと行け」
小夜に反論する余地も与えずそう言った青年は、園芸道具を手に小夜を置いてさっさとその場を立ち去った。
「どういう事…?」
二人の関係性もよく分からないし、自分が護ると言うだけなら兎も角“ローズは強い”って?
なにも解決せず、モヤモヤとしながら社会科見学へ向かったが、トラブルは続く…
悩みも、この頭の中に引っかかる様な何か…
記憶の欠片…?
血…
血…
人ノ悲鳴‥
逃ゲ回ル人々…
死体ノ山…
血塗レノ刀‥
翼手ノ大群ト‥
‥血塗レノ私…‥?
「小夜!小夜、戦って!!」
嫌だ。
嫌だよ、ハジ…
私は‥
私は…‥
人殺し…!
化物‥!!
嫌…嫌‥
嫌‥嫌…嫌、嫌嫌…
姉様…
‥……誰‥?
小夜姉様‥
私達はいつも一緒よ…
懐かしい声‥
貴女は‥
一体誰なの…?
『あっ…小夜姉様、飛ばされちゃったぁ』
辺りの建物と比べるとやや高めな建物の屋根の上に腰掛けたローズは、街中で繰り広げられているファントムと小夜達の戦いを見ていた。
傍らにはクロムが控えている。
『あらあら、小夜姉様ったらあんなに怯えて…展示の写真見て思い出しちゃったのかしら?』
ローズは心配そうに小夜を見ながらクロムの服の袖を引っ張った。
「思い出さなければこの戦い、小夜達に勝機は無いだろ」
冷たく小夜達を見下ろすクロムを一瞥すると、ローズは軽く溜め息を吐いた。
『そうね…小夜姉様には酷だけど、思い出して貰わないと困るわよね』
「あぁ、大いにな」
可哀相な小夜姉様…所詮は人間である赤い盾に協力して身を委ねたりするから…
『何より私が寂しいわ。私を覚えててくれてるのがディーヴァとハジだけなんて…小夜姉様が私を忘れてるなんて哀しいし、それにディーヴァも哀しがるわ』
ローズはそう呟くと、自分の右目を瞼の上から優しく撫でた。
「そういえば見学の前に小夜が裏庭に来たぞ」
『小夜姉様が?』
「“ローズさんはファントムに狙われてる”だと」
『まぁ…小夜姉様が私の心配を?』
ローズは“姉様らしい”と呟きクスクス笑い出し、クロムは鼻で笑うとローズの腕を引いてローズを立ち上がらせた。
「自分の身を案ずるべきだろうにな」
『えぇ、正に』
ふとハジと目が合ったローズはハジに微笑みかけると、声は出さず唇だけを動かし“またね、ハジ”と伝え、クロムと共に姿を消した。
さぁ、思い出して‥
小夜姉様…
ベトナム戦争を‥
二百年前の事を…‥
早く覚醒しないと‥
ディーヴァが先に目覚めちゃうよ——…‥
.
『ディーヴァ…ここにいたのね』
そう言って、ローズは地下に隠されたコンテナをすっと撫でた。
やっと見付けた。
二百年振りに聴きたい歌…
『さぁ、歌って…』
=記憶の欠片=
「ちょっとした人気者ね」
今日のお昼の食堂はいつもと違ったざわめき方をしている。
「小夜、気にすることないよ…誰かの悪戯だと思うし」
ミンは自分のパンを黙々と食事を続ける小夜に差し出しながらそう囁いた。
「え…?」
皆に見られている意味がいまいち良く分からない小夜は、そう不思議そうに首を傾げた。
「でも、まさか小夜がねぇ‥」
「何?」
「“ファントムの青い薔薇”だもんねぇ」
一人がそう口にし、同意する様に皆が頷く中、小夜は気にせずにまたパンを口にした。
「小夜がファントム様に選ばれたって事でしょ?」
「でも薔薇はもう一輪贈られたらしいわよ?」
「誰に?!」
皆が身を乗り出し、問われた子はお昼を食べ続ける小夜を一瞥すると口を開いた。
「ローズ」
「ローズ?!」
「小夜とローズ、良く似てるからねぇ…」
「じゃあ、ファントム様に選ばれたのは二人って事?」
青い薔薇…
贈られた者はファントムに選ばれし者であり同時に‥
死する者——…‥
ローズを探さなくてはいけない。
彼女の命が危ないのだから…
『久しぶり、ハジ』
ハジは自分を呼んだ相手をその目で確認すると、慌てて懐から短剣を取り出し、持っていた園芸用の鋏と共に構えて相手と間合いを取った。
一方、距離を取られた相手‥ローズはハジを見据えるとニッコリ微笑んだ。
「薔薇園の姫…」
『警戒する事無いわ。危害を加えるつもりは無いのだから‥昔みたいにローズと呼びなさい』
ローズはハジに近付きながら辺りの薔薇を見回した。
「何故…ここにいるのですか、ローズ」
『小夜姉様とディーヴァが居ると思ったから』
会イタカッタ…
ズット…ズットズットズット…‥
『思った通り。小夜姉様は来たし、ディーヴァも居たわ』
「ディーヴァがいたのですか!」
驚いたハジは一歩前へと踏み出した。
ハジは見付ける事が出来無かったのだろう。
主に忠実で‥真剣なハジは好きだ。
その心はとても優しくて美しくて、格好良い。
『言っておくけど教える気は無いわ…私は小夜姉様の味方でもディーヴァの味方でも無いもの』
「では何をしにここへ…」
『総てを見届ける為に』
ローズは咲いていた薔薇を一輪素手で摘み取り、棘で傷付いた肌から溢れて流れ出た血を舐め取った。
私は傍観者。そして私は当事者。
だから私は…
『そして、自ら定めを受ける為に』
その為に二人に会いに来た。
その為に…
『そろそろ生徒が食堂から出て来るわね。見られたら厄介だし…またね、ハジ』
ローズはハジの服の胸元に摘み取った薔薇をそっと挿した。
『そのエプロン似合ってるわ』
ローズはそう一言残しニッコリ微笑むと、庭を立ち去った。
一方ローズの危険を案じた小夜は、薔薇が贈られてから毎日ローズを探したが、いくら探してもローズに会う事は出来無かった。
そんなある日、ローズのクラスメートの“裏庭に居れば会えるかもしれない”という助言を受けた小夜は、社会科見学の前に裏庭にやって来た…が、居たのは長い黒髪に蒼眼の青年だけだった。
「何の用だ」
「ファントム…」
「ファントムでは無い。不愉快な事を言うな」
「あ、ごめんなさい…」
不機嫌そうな顔をした青年は、片膝を付くと薔薇の世話を再開した。
確かにこの間の夜に部屋を抜け出した時に出くわしたあのファントムとは雰囲気が違う。
小夜は一歩踏み出すとローズを探すべく、口を開いた。
「あの…ローズさんいませんか?」
「……会いたいのか‥?」
薔薇の世話の為下を向いていた青年がそう呟き、顔を上げた。
分かり難いが、表情が先程よりかは幾分明るい‥が、それは私の一言で壊された。
「ローズさんはファントムに狙われてます、だから…」
「帰れ」
「ぇ…」
「その様な理由ならば帰れと言っているんだ」
「その様なって!」
この人は何を言っているのだろうか?恋人が狙われてると言っているのに“その様な理由”って…
「記憶の欠片を取り戻したのかと思えば…」
記憶の欠片?
どういう意味…?
「ローズは強い…その様な心配は無用だ。何より俺が護るべき者だ。貴様は関係無い」
「なっ‥」
「そろそろ社会科見学に行く時間だろ、とっとと行け」
小夜に反論する余地も与えずそう言った青年は、園芸道具を手に小夜を置いてさっさとその場を立ち去った。
「どういう事…?」
二人の関係性もよく分からないし、自分が護ると言うだけなら兎も角“ローズは強い”って?
なにも解決せず、モヤモヤとしながら社会科見学へ向かったが、トラブルは続く…
悩みも、この頭の中に引っかかる様な何か…
記憶の欠片…?
血…
血…
人ノ悲鳴‥
逃ゲ回ル人々…
死体ノ山…
血塗レノ刀‥
翼手ノ大群ト‥
‥血塗レノ私…‥?
「小夜!小夜、戦って!!」
嫌だ。
嫌だよ、ハジ…
私は‥
私は…‥
人殺し…!
化物‥!!
嫌…嫌‥
嫌‥嫌…嫌、嫌嫌…
姉様…
‥……誰‥?
小夜姉様‥
私達はいつも一緒よ…
懐かしい声‥
貴女は‥
一体誰なの…?
『あっ…小夜姉様、飛ばされちゃったぁ』
辺りの建物と比べるとやや高めな建物の屋根の上に腰掛けたローズは、街中で繰り広げられているファントムと小夜達の戦いを見ていた。
傍らにはクロムが控えている。
『あらあら、小夜姉様ったらあんなに怯えて…展示の写真見て思い出しちゃったのかしら?』
ローズは心配そうに小夜を見ながらクロムの服の袖を引っ張った。
「思い出さなければこの戦い、小夜達に勝機は無いだろ」
冷たく小夜達を見下ろすクロムを一瞥すると、ローズは軽く溜め息を吐いた。
『そうね…小夜姉様には酷だけど、思い出して貰わないと困るわよね』
「あぁ、大いにな」
可哀相な小夜姉様…所詮は人間である赤い盾に協力して身を委ねたりするから…
『何より私が寂しいわ。私を覚えててくれてるのがディーヴァとハジだけなんて…小夜姉様が私を忘れてるなんて哀しいし、それにディーヴァも哀しがるわ』
ローズはそう呟くと、自分の右目を瞼の上から優しく撫でた。
「そういえば見学の前に小夜が裏庭に来たぞ」
『小夜姉様が?』
「“ローズさんはファントムに狙われてる”だと」
『まぁ…小夜姉様が私の心配を?』
ローズは“姉様らしい”と呟きクスクス笑い出し、クロムは鼻で笑うとローズの腕を引いてローズを立ち上がらせた。
「自分の身を案ずるべきだろうにな」
『えぇ、正に』
ふとハジと目が合ったローズはハジに微笑みかけると、声は出さず唇だけを動かし“またね、ハジ”と伝え、クロムと共に姿を消した。
さぁ、思い出して‥
小夜姉様…
ベトナム戦争を‥
二百年前の事を…‥
早く覚醒しないと‥
ディーヴァが先に目覚めちゃうよ——…‥
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