夢に落ちるその前に
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2
『あ…つい』
黒いダブルボタンのジャケットを着込んだローズは、そう呟くと首に張り付く短くなった黒髪を掻き上げた。ブーツの中もズボンの裾の所為で大分蒸れている。
隣に立っていたクロムは、長い黒髪を結んでいた細いリボンを解くと、ローズに差し出した。
『いいわ、貴方がつけていて』
小さく微笑んだローズは、手にしていたヴァイオリンケースを床に置いてリボンを受け取ると、クロムの後ろに回り込んでその髪を元通りにリボンで結んだ。
『さぁ、行きましょうか』
そう言ってヴァイオリンケースを持ち直したローズは、ふと周りの視線に気付くと困った様に小さく笑った。
この格好はこの時代では…特にここでは酷く目立つ様だ。
『取り敢えず買い物からね』
=姉妹の行方=
『海ぃ!!』
海を目の前に、ローズはそう言って両腕を空に向かって伸ばした。
そんなローズのスカートが風に靡き、クロムはそっとローズを抱き締めてそれを抑える。
「ローズ…」
戒める様なクロムの声に、ローズは楽しそうにクスクスと笑った。
『だって夜の海しか見た事ないんだもの…本当にこんな色だったのね』
夜の世界しか知らなかった。
初めての光景…
皆と一緒に見たかった。
『綺麗ね、クロム』
“あぁ”と小さく返したクロムにローズが嬉しそうに笑うと、クロムはそれに返す様に小さく微笑んだ。
『そろそろ行こうか、クロム』
「そうだな。でもその前に…」
『その前に?』
「この格好どうにかならないか?」
そう言って身体を離したクロムは、困った様に自分とジーンズとローズのミニスカートを交互に見た。空港を出て直ぐに洋服店に向かって買った物だった。
『だって…あの格好は目立つもの』
ヴァイオリンケースに年代物の黒服。
音楽団みたいな二人組が海辺を歩いていたら目立って仕方無い。
「だがそれは……足…出し過ぎだろう」
『慣れれば涼しくて良いわよ』
「そういう問題じゃ…」
足許に置いてあった二つの紙袋を手にしたローズは、困った様に溜め息を吐くクロムの目の前に“それより”と、紙袋を持ち上げた。
『……これ…どうする?』
「…コインロッカーに預けるか」
『コインロッカー?』
「コインを入れると荷物を預けられる鍵付きの箱だ」
『凄い!そんな物があるの?』
キラキラとした目で“直ぐに行きましょ”と言うローズに、クロムは紙袋とヴァイオリンケースを纏めて右手に持つと、左手をローズに差し出した。
ローズは、クロムの腕に抱き付く様に腕を絡め、そのまま歩き出した二人は、駅のコインロッカーに荷物を預けると、直ぐに本来の目的の場所へと向かった。
商店街を抜けて下校中の学生と擦れ違う様に歩いて向かったのは“学校”だった。
『ふふ、皆同じ格好ね』
「制服だからな」
三つ子故に似ている顔を見られない様に、洋服店で一緒に購入したサングラスを掛けて軽く俯くと、そっと学生達を盗み見た。
お揃いの洋服を着て歩く彼等、彼女等は、皆楽しそうに話しながら歩いている。
こういう時代まで待って…二人を外に連れ出すつもりだったんだけどな。
「着いたぞ」
そう言われて前を見ると、目の前の柵の向こう側には白い箱を積み重ねた様なビルとは違い、横に長い建物が建っていた。
狭い敷地を圧迫する様に建てられた建物に簡易的な門。楕円の線が書かれた土だらけの庭にロールケーキの様な形の孤立した建物。
『色々な物が押し込まれてる』
「必要な物をぎゅうぎゅうにな」
『……どこに?』
「あそこだ」
クロムの指差す先に大切な人がいた。
土の庭を走って行って固定された棒を背から飛び越える姿…随分と雰囲気は変わっていたが、確かにアレは…
『小夜姉様』
私のたった一人の姉様だ。
ローズはクロムの腕に絡めていた腕を解くと、サングラスを外して目の前の柵を掴んで身を寄せた。
『姉様…』
「………会っていくか?」
耳元に響く声に、ローズは首を横に振った。
『記憶が…無いんでしょ?だったらいいわ』
あの姉様は私を知らない。あの姉様はディーヴァを知らない。
私の存在も…ディーヴァと敵対している事も…自分の存在さえも…
『ギリギリまで幸せでいてもらいたい』
「いいのか?」
『えぇ、次に行きましょ…私は姉様が見たかっただけよ』
ハジが接触するまでは…
連中が話すまでは…
ディーヴァが目覚めるまでは…
『まだ…知らなくていいわ』
まだ…
まだ人間であるといい──…
『あ…つい』
黒いダブルボタンのジャケットを着込んだローズは、そう呟くと首に張り付く短くなった黒髪を掻き上げた。ブーツの中もズボンの裾の所為で大分蒸れている。
隣に立っていたクロムは、長い黒髪を結んでいた細いリボンを解くと、ローズに差し出した。
『いいわ、貴方がつけていて』
小さく微笑んだローズは、手にしていたヴァイオリンケースを床に置いてリボンを受け取ると、クロムの後ろに回り込んでその髪を元通りにリボンで結んだ。
『さぁ、行きましょうか』
そう言ってヴァイオリンケースを持ち直したローズは、ふと周りの視線に気付くと困った様に小さく笑った。
この格好はこの時代では…特にここでは酷く目立つ様だ。
『取り敢えず買い物からね』
=姉妹の行方=
『海ぃ!!』
海を目の前に、ローズはそう言って両腕を空に向かって伸ばした。
そんなローズのスカートが風に靡き、クロムはそっとローズを抱き締めてそれを抑える。
「ローズ…」
戒める様なクロムの声に、ローズは楽しそうにクスクスと笑った。
『だって夜の海しか見た事ないんだもの…本当にこんな色だったのね』
夜の世界しか知らなかった。
初めての光景…
皆と一緒に見たかった。
『綺麗ね、クロム』
“あぁ”と小さく返したクロムにローズが嬉しそうに笑うと、クロムはそれに返す様に小さく微笑んだ。
『そろそろ行こうか、クロム』
「そうだな。でもその前に…」
『その前に?』
「この格好どうにかならないか?」
そう言って身体を離したクロムは、困った様に自分とジーンズとローズのミニスカートを交互に見た。空港を出て直ぐに洋服店に向かって買った物だった。
『だって…あの格好は目立つもの』
ヴァイオリンケースに年代物の黒服。
音楽団みたいな二人組が海辺を歩いていたら目立って仕方無い。
「だがそれは……足…出し過ぎだろう」
『慣れれば涼しくて良いわよ』
「そういう問題じゃ…」
足許に置いてあった二つの紙袋を手にしたローズは、困った様に溜め息を吐くクロムの目の前に“それより”と、紙袋を持ち上げた。
『……これ…どうする?』
「…コインロッカーに預けるか」
『コインロッカー?』
「コインを入れると荷物を預けられる鍵付きの箱だ」
『凄い!そんな物があるの?』
キラキラとした目で“直ぐに行きましょ”と言うローズに、クロムは紙袋とヴァイオリンケースを纏めて右手に持つと、左手をローズに差し出した。
ローズは、クロムの腕に抱き付く様に腕を絡め、そのまま歩き出した二人は、駅のコインロッカーに荷物を預けると、直ぐに本来の目的の場所へと向かった。
商店街を抜けて下校中の学生と擦れ違う様に歩いて向かったのは“学校”だった。
『ふふ、皆同じ格好ね』
「制服だからな」
三つ子故に似ている顔を見られない様に、洋服店で一緒に購入したサングラスを掛けて軽く俯くと、そっと学生達を盗み見た。
お揃いの洋服を着て歩く彼等、彼女等は、皆楽しそうに話しながら歩いている。
こういう時代まで待って…二人を外に連れ出すつもりだったんだけどな。
「着いたぞ」
そう言われて前を見ると、目の前の柵の向こう側には白い箱を積み重ねた様なビルとは違い、横に長い建物が建っていた。
狭い敷地を圧迫する様に建てられた建物に簡易的な門。楕円の線が書かれた土だらけの庭にロールケーキの様な形の孤立した建物。
『色々な物が押し込まれてる』
「必要な物をぎゅうぎゅうにな」
『……どこに?』
「あそこだ」
クロムの指差す先に大切な人がいた。
土の庭を走って行って固定された棒を背から飛び越える姿…随分と雰囲気は変わっていたが、確かにアレは…
『小夜姉様』
私のたった一人の姉様だ。
ローズはクロムの腕に絡めていた腕を解くと、サングラスを外して目の前の柵を掴んで身を寄せた。
『姉様…』
「………会っていくか?」
耳元に響く声に、ローズは首を横に振った。
『記憶が…無いんでしょ?だったらいいわ』
あの姉様は私を知らない。あの姉様はディーヴァを知らない。
私の存在も…ディーヴァと敵対している事も…自分の存在さえも…
『ギリギリまで幸せでいてもらいたい』
「いいのか?」
『えぇ、次に行きましょ…私は姉様が見たかっただけよ』
ハジが接触するまでは…
連中が話すまでは…
ディーヴァが目覚めるまでは…
『まだ…知らなくていいわ』
まだ…
まだ人間であるといい──…