夢に落ちるその前に
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1
「毎日こうだと少し退屈ね…三人で花を摘みにでも行けたらいいのに」
三人で“内側だけでいいから”それが姉様の口癖の様なものだった。
「姉様、私色んな色の薔薇が欲しいわ」
『じゃあ丁度良い所があるわ。私、内緒で薔薇を育てているの…園内にあるから今度摘みに行きましょ』
そう三人で話していただけで幸せだったのかもしれない。
でも私は…私達は望んでしまった。
『大切な色は、ちゃんと揃ってるわ』
遠い…遠い空を──…
=動物園=
【動物園】
昔、誰かがそう呼び…そして呼ばれていた広大な土地と巨大な建物を誇るここは、今はあちこちボロボロで、原形を留めているものは数少無い。ボロボロの建物、荒れ果てた庭、崩壊した噴水…誰が見ても“廃屋”という言葉が出てくるだろう。
そんな動物園の人目につかない一角で、私は重たい瞼を開いた。
長い長い眠り…
長い長い夢から…
解き放たれたのだ。
「目が覚めたか、ローズ」
歪む景色、寝惚け眼の先で声の主である青年が優しく微笑んだ。部屋の光と寝惚け眼の所為で少しぼやけるが、私はこの人が誰かはっきりと分かる。
長い黒髪に蒼眼…優しい声。
私の大切な…
『おはよう、クロム』
私の大切なシュヴァリエ…
私の大切な……
薔薇に包まれる様に寝台で眠っていた少女ローズは、両腕を伸ばすとクロムと呼んだ青年に抱き付いた。
「おはよう、ローズ」
『私、まだ生きてたのね…』
「あぁ」
『嬉しい…ねぇ、私はどれくらい眠っていたの?』
相変わらずのクロムの無表情が愛おしい。彼はいつでも私の側に居てくれる。
「…もう…二百年近くなる」
クロムの言葉に、ローズは目を見開くとクロムから身体を離した。
『二百…?私……二百年も…』
信じられ無い。嘘では無いのかと、一瞬クロムを疑ってしまったが、クロムは無駄な嘘など絶対に吐かない。
何故私はそんなに眠っていたのだろうか?
周りを見渡すとそこは記憶にある部屋の風景とは違っていた。
壁が軽く崩れ、そして焦げた様な痕がある。
何これ…
これじゃあまるで…
『二人…二人はどうしたの?ジョエルとハジは?』
二百年…その数字と目の前の光景が私に言い様の無い不安を与える。
分かっている…感じる。二百年で何もかもが変わってしまっている──…
「ローズが眠りについて一年経った頃、ディーヴァが塔から出た」
『ディーヴァが?ジョエルはあれ程、外に出す気は無いって言っていたじゃない』
私がどんなに頼んでも駄目だった。ジョエルは簡単に意見を変える人では無い筈だ。
「ジョエルの誕生日に小夜がジョエルを驚かせようとディーヴァを外に出したんだ…」
そこまで話すとクロムは口を閉じてしまった。
『…何故止めるの?教えて、クロム』
何があったのか知りたい…そうローズがクロムに問い掛けると、クロムは再び口を開いた。
「屋敷内の者は皆、ディーヴァに殺された」
『ディーヴァ…』
「……残ったのは小夜とハジと…後はアンシェルとかいうおっさんだけだ」
アンシェル?おっさん……あぁ、あの下睫毛のおじ様か…姿見せた事無いから忘れてた。
いや、それより気になるのは…
『ハジとアンシェルは何故生きているの?』
ディーヴァなら二人共…どちらにしてもハジは確実に殺す筈だ。
ハジが生きているなんて可笑しい。
「アンシェルはディーヴァの…ハジは小夜の“シュヴァリエ”になったらしい」
『…二人がシュヴァリエを?』
二人がシュヴァリエの創り方をしっていたなんて盲点だった。シュヴァリエに関して二人は無知だと思っていたのだ。
それに二人がシュヴァリエを創る必要など無いとも思っていた。
「ハジは事故でシュヴァリエになったみたいだが…おっさんの方はどうだかな」
おっさん…いや、おじ様はどうでも良い。問題はその後の二人だ。
ローズは己の右目に付けられた眼帯代わりの包帯にそっと触れた。
『二人は…二人はどうしているの』
「…眠りと目覚めを繰り返して戦い続けている」
それから私はクロムから色々な話を聞いた。私が眠っていた間に調べておいてくれたらしい。
全てを聞き終えたローズは立ち上がると、ボロボロの部屋には似つかわしい頑丈な扉へフラフラと歩み寄った。鍵はかかっていない。
「ローズ…?」
ローズは扉をグッと押し開くと、外の世界へと踏み出した。
二百年振り日の光がとても眩しくて、目が酷く痛かった。
風がローズのウェーブのかかった長い黒髪と青いドレスを靡かせた。
とても心地好い…
『薔薇…クロムが植え直してくれたの?』
遠くに見える屋敷は廃墟と化しているし、私が眠っていた地下でさえボロボロだったのに、辺り一面には記憶と同じ様に沢山の薔薇が咲き誇っていた。
「……ローズ、これからどうする気だ」
『二人を見届け、全てを終わらせに行く』
クロムとここで暮す手もあった。
別に考えなかった訳では無いのだ。だってそれが一番幸せなものだから…
だけど二百年ぶりに見た空は変らず綺麗で、この空の下で姉妹達が戦い続けているだなんて、そんな現実が嫌だった。
「ローズ…」
クロムに腕を引かれ、唇を塞がれた。
『幸せを…分かつ事が出来ぬのならば』
クロムから離れたローズは、口から伝う血を手の甲で拭うと、右目の包帯を力任せに剥ぎ取った。
包帯の下から緋色の瞳が現れ、見事な紫眼だった左の瞳は、青へと姿を変える。
『私達の命に終止符を』
苦しんでいる二人を放っておくなんて、私には出来無かった。
待ってて…
私も直ぐに行くから──…
「毎日こうだと少し退屈ね…三人で花を摘みにでも行けたらいいのに」
三人で“内側だけでいいから”それが姉様の口癖の様なものだった。
「姉様、私色んな色の薔薇が欲しいわ」
『じゃあ丁度良い所があるわ。私、内緒で薔薇を育てているの…園内にあるから今度摘みに行きましょ』
そう三人で話していただけで幸せだったのかもしれない。
でも私は…私達は望んでしまった。
『大切な色は、ちゃんと揃ってるわ』
遠い…遠い空を──…
=動物園=
【動物園】
昔、誰かがそう呼び…そして呼ばれていた広大な土地と巨大な建物を誇るここは、今はあちこちボロボロで、原形を留めているものは数少無い。ボロボロの建物、荒れ果てた庭、崩壊した噴水…誰が見ても“廃屋”という言葉が出てくるだろう。
そんな動物園の人目につかない一角で、私は重たい瞼を開いた。
長い長い眠り…
長い長い夢から…
解き放たれたのだ。
「目が覚めたか、ローズ」
歪む景色、寝惚け眼の先で声の主である青年が優しく微笑んだ。部屋の光と寝惚け眼の所為で少しぼやけるが、私はこの人が誰かはっきりと分かる。
長い黒髪に蒼眼…優しい声。
私の大切な…
『おはよう、クロム』
私の大切なシュヴァリエ…
私の大切な……
薔薇に包まれる様に寝台で眠っていた少女ローズは、両腕を伸ばすとクロムと呼んだ青年に抱き付いた。
「おはよう、ローズ」
『私、まだ生きてたのね…』
「あぁ」
『嬉しい…ねぇ、私はどれくらい眠っていたの?』
相変わらずのクロムの無表情が愛おしい。彼はいつでも私の側に居てくれる。
「…もう…二百年近くなる」
クロムの言葉に、ローズは目を見開くとクロムから身体を離した。
『二百…?私……二百年も…』
信じられ無い。嘘では無いのかと、一瞬クロムを疑ってしまったが、クロムは無駄な嘘など絶対に吐かない。
何故私はそんなに眠っていたのだろうか?
周りを見渡すとそこは記憶にある部屋の風景とは違っていた。
壁が軽く崩れ、そして焦げた様な痕がある。
何これ…
これじゃあまるで…
『二人…二人はどうしたの?ジョエルとハジは?』
二百年…その数字と目の前の光景が私に言い様の無い不安を与える。
分かっている…感じる。二百年で何もかもが変わってしまっている──…
「ローズが眠りについて一年経った頃、ディーヴァが塔から出た」
『ディーヴァが?ジョエルはあれ程、外に出す気は無いって言っていたじゃない』
私がどんなに頼んでも駄目だった。ジョエルは簡単に意見を変える人では無い筈だ。
「ジョエルの誕生日に小夜がジョエルを驚かせようとディーヴァを外に出したんだ…」
そこまで話すとクロムは口を閉じてしまった。
『…何故止めるの?教えて、クロム』
何があったのか知りたい…そうローズがクロムに問い掛けると、クロムは再び口を開いた。
「屋敷内の者は皆、ディーヴァに殺された」
『ディーヴァ…』
「……残ったのは小夜とハジと…後はアンシェルとかいうおっさんだけだ」
アンシェル?おっさん……あぁ、あの下睫毛のおじ様か…姿見せた事無いから忘れてた。
いや、それより気になるのは…
『ハジとアンシェルは何故生きているの?』
ディーヴァなら二人共…どちらにしてもハジは確実に殺す筈だ。
ハジが生きているなんて可笑しい。
「アンシェルはディーヴァの…ハジは小夜の“シュヴァリエ”になったらしい」
『…二人がシュヴァリエを?』
二人がシュヴァリエの創り方をしっていたなんて盲点だった。シュヴァリエに関して二人は無知だと思っていたのだ。
それに二人がシュヴァリエを創る必要など無いとも思っていた。
「ハジは事故でシュヴァリエになったみたいだが…おっさんの方はどうだかな」
おっさん…いや、おじ様はどうでも良い。問題はその後の二人だ。
ローズは己の右目に付けられた眼帯代わりの包帯にそっと触れた。
『二人は…二人はどうしているの』
「…眠りと目覚めを繰り返して戦い続けている」
それから私はクロムから色々な話を聞いた。私が眠っていた間に調べておいてくれたらしい。
全てを聞き終えたローズは立ち上がると、ボロボロの部屋には似つかわしい頑丈な扉へフラフラと歩み寄った。鍵はかかっていない。
「ローズ…?」
ローズは扉をグッと押し開くと、外の世界へと踏み出した。
二百年振り日の光がとても眩しくて、目が酷く痛かった。
風がローズのウェーブのかかった長い黒髪と青いドレスを靡かせた。
とても心地好い…
『薔薇…クロムが植え直してくれたの?』
遠くに見える屋敷は廃墟と化しているし、私が眠っていた地下でさえボロボロだったのに、辺り一面には記憶と同じ様に沢山の薔薇が咲き誇っていた。
「……ローズ、これからどうする気だ」
『二人を見届け、全てを終わらせに行く』
クロムとここで暮す手もあった。
別に考えなかった訳では無いのだ。だってそれが一番幸せなものだから…
だけど二百年ぶりに見た空は変らず綺麗で、この空の下で姉妹達が戦い続けているだなんて、そんな現実が嫌だった。
「ローズ…」
クロムに腕を引かれ、唇を塞がれた。
『幸せを…分かつ事が出来ぬのならば』
クロムから離れたローズは、口から伝う血を手の甲で拭うと、右目の包帯を力任せに剥ぎ取った。
包帯の下から緋色の瞳が現れ、見事な紫眼だった左の瞳は、青へと姿を変える。
『私達の命に終止符を』
苦しんでいる二人を放っておくなんて、私には出来無かった。
待ってて…
私も直ぐに行くから──…
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