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「子供の頃、どんな大人になりたいって思ってた？」



灯里のその唐突な質問に、僕は思わず口を噤んだ。
アリシアさんの様になりたいと言う藍華の話を聞きながら、僕は遠い昔を思い出した。



遠い昔を——…‥





＝理想の大人＝





合同練習を終えたケイトは、颯（ハヤテ）に着くと制服である帽子とポンチョを脱ぎ捨てて寝転がる様にソファーに腰を降ろした。
時計に目をやって時間を確認すると、それをクロアさんのスケジュールボードに移した。

『もう少しでクロアさん帰ってきますね…‥社長‥』

そう呟けば、後から部屋に入ってきたハヤト社長が返事をする様に小さく鳴いた。
ケイトはソファーに完璧に横になると、目を閉じた。
“子供の頃、どんな大人になりたいって思ってた？”そういう灯里の質問に僕は答えられ無かった。
昔の僕は親が嫌いだった。
大人が嫌いだった。
人間が…嫌いだった…‥
親は今でも嫌いだが‥兎に角、そんな僕には“なりたい大人”等無かった。
考えもしなかった。
自分達の為に‥自分の為に関係の無いものまで汚していく大人が嫌だった。
だから絶対に大人なんかになりたく無くて‥
大人が造った地球に居たく無くて‥
成長して大人に加わるだなんて想像もしたく無くて…

死にたいとさえ思った。

死ねば大人になる事も無い。
地球に居なくてもいい。
死ねば‥
この空気を吸わなくても済む。
死ねば…



『風邪をひくぞ、ケイト』



大好きな声がそう響いたので目を開けると、クロアさんが僕が脱ぎ捨てた帽子とポンチョを抱えて立っていた。
『お帰りなさい‥クロアさん』
『ただいま、ケイト』
ケイトがソファーに横になっていた身体を起こすと、肩にハヤトを乗せたクロアはケイトの横へと腰を降ろした。
『どうかしたか？』
『クロアさんは昔…』
『ん‥？』


『どんな大人になりたいって思ってました？』


僕は大人になんかなりたくないって思っていた。
ずっと、ずっと‥
クロアさんはどんな大人に…

『…‥最初はグランマみたいになりたいって思ってた‥』

小さく呟いたクロアさんの答えは、妙に納得出来た。
グランマがあらゆる面でどんなに素晴らしいか知っているからだ。
『警察に入ってからは護る事の出来る大人になりたかった‥』
そう言ったクロアは、帽子とポンチョを脱ぐと、膝の上へと置いた。





『結局、両方叶わなかった』





“私は中途半端なんだよ”と言うクロアさんを真っ直ぐと見据えたケイトは、口を開いた。
『そんな事ありません』
『え？』
『クロアさんは僕を護ってくれたし、諭して居場所もくれた‥』
たとえ貴女がなれて無いと思っても、僕が証明出来る。
僕だけは証明出来る‥


『僕にとってクロアさんは凄く素敵な大人の女性です』


頬を仄かに赤く染めたクロアさんは“意味分かりますよね”と聞くと、小さく“まぁな”と呟いた。
『…‥有難う…ケイト』
『いいえ、クロアさん』
大人だなんて汚いモノになりたく無かった僕は、クロアさんと出会って変わった。
大人になるくらいなら死ぬ方がマシだなんて思わなくなった。
灯里…‥僕、どういう大人になりたいか分かったよ。

僕は、僕を助けてくれたクロアさんに色んなモノを返したい。

だから‥
他人を護る事しか考えてない。
そんなクロアさんを…





護れる大人になりたい——…‥


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