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29
その日の空は‥
雲一つ無い快晴の空だった。
=僕のエトワール=
こんな事になるだなんて誰が想像しただろう‥
きっと誰も想像してなかった。
私だって…
あのでっかい幸せがずっと続くと思っていた。
「クロアさん…ッ、クロアさ‥ん」
沢山の参列者達の啜り泣く声があちこちから小さく響く中、列の最前列に居たアリスは、隣に立つ灯里の嗚咽の混じった声に、目を伏せた。
「クロアさ、クロアさん‥ッ」
「灯里先輩…」
昨日…私がプリマになった日…クロアさんは亡くなった。
具合が悪い事は知っていた。
でもケイト先輩が大丈夫だと言い続けていたから何も心配は無いと思っていた。
療養していれば直ぐに治ると思っていた。
心配掛けない様にというケイト先輩の優しさだと今更気付くなんて…
ケイト先輩にだけ辛い思いをさせるだなんて‥
だからこの場にケイト先輩が居なくても納得が出来た。
きっと辛過ぎて来れないんだと‥
「クロア‥さん…」
柩に向かってクロアさんの名前を呼び続ける灯里先輩も、ハンカチで溢れ続ける涙を抑えるアリシアさんも、灯里先輩を支えながら静かに泣き続ける藍華先輩も、眉間に皺を寄せて立ち尽くす晃さんも、声を押し殺して泣くアテナ先輩も…
皆‥抱えきれない喪失感に苛まれている。
最後にクロアさんに一目会おうと訪れた参列者も…当然だが、誰一人平気そうな人等居なかった。
「本日はクロンティア・心葉・ヴァータジアークの為にお集まりいただき誠に有難う御座います」
裏口から現れた金髪の美丈夫…
エピファニアにカフェで逢った“ロード”がそう話し出すと、灯里先輩はクロアさんを呼ぶのを押し殺す様にして止めた。
「…誰…‥?」
「あの人はクロアさんの‥」
「クロンティアの夫のエルリックです」
「…え?」
そう声を漏らして大きく目を開いたアリスは、二度瞬きをした。
そんなアリスを視界にとらえたエルリックは、小さく可笑しそうに笑った。
「と言っても新居に移る二日前にクロンティアが亡くなってしまったんで、書類上の夫婦なんですが」
ロードさん改めエルリックさんの話では、亡くなる二日前に書類を提出したが、皆への報告や挙式は新居に移り住んで落ち着いてからする予定だったと言う。
確かにクロアさんの事を考えるならそれが最良だったかもしれない。
「これより告別式を‥」
『御待ち下さい』
エルリックさんの言葉を遮って聞こえた声は、少し違和感はあったが聞き慣れた声だった。
だから声の方を振り返って声の主を目にした瞬間、私は固まった。
「ケイト…先輩‥?」
入り口の扉を背に立っていたのは確かにケイト先輩だった。
だけどいつものケイト先輩では無かった。
黒のスーツに黒のシャツに黒いネクタイに黒い靴‥
全身を漆黒で覆われたケイト先輩の肩まであった薄茶色の髪の毛は短く、声もいつもより少し低かった。
これではまるで…
「ケイト…あんたまさか‥男?」
藍華先輩の漏らした言葉にケイト先輩が答える事は無かった。
ケイト先輩は唯真っ直ぐにエルリックさんの元へ歩いて行ったのだ。
横を通ったケイト先輩は、ヒールを履いていない所為か、いつもより小さく見えた。
エルリックさんは苦虫を噛み潰した様な顔をしていたが、口を出す事は無かった。
『皆様、本日は御集まりいただき誠に有難う御座います。颯 のケイト・ハドルトソンです……色々と私に問いたい事があるでしょうが、どうか今日は目を瞑って下さい』
困った様に小さく笑ったケイト先輩が一瞬クロアさんとかぶった。
『クロアさんは誰一人…私も含め、誰にも悟られぬ様に病魔と闘っていました。
倒れたとしれた後、誰が見舞いに来ても私とエルリックさん以外に会おうとしませんでした…会ってしまえば“大丈夫”でない事がバレてしまいますから……クロアさんはこのネオ・ヴェネツィアが‥火星 が……皆さんが大好きでしたから…皆さんに心配を掛けない様にという配慮だったんでしょう』
「そんなもの要るか!」
そう声を上げたのは晃さんだった。
相変わらず眉間に皺を寄せた顔で真っ直ぐにケイト先輩を睨みつけている。
「そんなもの要らなかった。私はずっと心配だった…“早く治したいから”と会うのを拒まれて余計に心配になった」
“大丈夫だなんて絶対嘘だ”
そう分かってはいても晃は動けなかった。
「休日にどうやって踏み込もうかずっと考えてた」
クロアの鋭い瞳と声に拒絶される事を想像すると晃はどうしても踏み出せ無かった。
「何で…どうして言ってくれなかったんだ、ケイト!!」
瞬間、一筋の涙が晃さんの頬を伝った。
ずっと我慢していたのだろう。そっとアリシアさんが晃さんの肩に触れた。
「晃ちゃん…」
「ッ…答えろ、ケイト!!」
『クロアさんは僕の絶対です』
深い響きの声はそう淡々と答えた。
晃さんがケイト先輩を真っ直ぐ睨みてけている様にケイト先輩も真っ直ぐに晃さんを見ていた。
『クロアさんが望むなら僕は従うのみ‥僕は僕が全てを知っていて、尚且つクロアさんの願いをきける自分の中での最善が取れれば良い』
そう言ってケイト先輩は困った様に笑った。
『…歪んでる』
クロアさん…こうなってしまうんだと分かっていたら、もっとクロアさんと一緒に居たのに…私は迷惑だと言われても側に居たかった。なのにケイト先輩だけ苦しめて…
『結果的に皆さんを苦しめてしまった事、深く御詫び申し上げます』
私は貴女を呪いますよ…
大好きな…大好きな貴女を…‥
「クロア‥さん…」
溢れ続ける涙を拭く事無く流し続けながら、私はクロアさんとケイト先輩を想った。
ネオ・ヴェネツィアには…クロアさんを送り出す重々しい鐘の音が鳴り響いていた。
『クロアさん…』
ゴーン、ゴーン…
そう鐘の音が鳴り響く中、私はそっとクロアさんの柩へと近付いた。
式も終わり、もう辺りには誰も居なかった。
静まり返った中にコツコツと革靴が石畳を蹴る音がした。
『何やってるの、アリス?』
振り返ると、ケイト先輩がこちらに向かって歩いて来る途中だった。
『皆、中庭で話してるよ』
「クロアさんを見に来ました」
『ん…会ってあげて、クロアさんアリスに会いたがってたから』
「私に…」
そっと柩の中を覗いてみると、クロアさんは今にも目覚めそうな綺麗な顔をしていた。
もう話が出来無いなんて‥
もう笑ってくれないなんて…
もう目覚めないなんて‥
信じられなかった。
「ケイト先輩‥男性なんですか?」
『その質問に答えるのが面倒臭くてこっそり逃げてきたのに、アリスもその質問すんだ?』
ふざけて笑うケイト先輩に始めて少し腹が立った。
「するに決まってます。私はずっと騙されてたんです」
『……そうだね』
笑うのを止めたケイト先輩は小さく“ごめん”と口にすると、クロアさんが眠る柩に腰掛けた。
『昔話をしようか』
「昔話‥?」
小さく微笑んだケイト先輩は、そっとクロアさんの手を取った。
『僕と…僕の星空の出逢いの話を‥』
——ねぇ…
私達と散歩しない?
その日の空は‥
雲一つ無い快晴の空だった。
=僕のエトワール=
こんな事になるだなんて誰が想像しただろう‥
きっと誰も想像してなかった。
私だって…
あのでっかい幸せがずっと続くと思っていた。
「クロアさん…ッ、クロアさ‥ん」
沢山の参列者達の啜り泣く声があちこちから小さく響く中、列の最前列に居たアリスは、隣に立つ灯里の嗚咽の混じった声に、目を伏せた。
「クロアさ、クロアさん‥ッ」
「灯里先輩…」
昨日…私がプリマになった日…クロアさんは亡くなった。
具合が悪い事は知っていた。
でもケイト先輩が大丈夫だと言い続けていたから何も心配は無いと思っていた。
療養していれば直ぐに治ると思っていた。
心配掛けない様にというケイト先輩の優しさだと今更気付くなんて…
ケイト先輩にだけ辛い思いをさせるだなんて‥
だからこの場にケイト先輩が居なくても納得が出来た。
きっと辛過ぎて来れないんだと‥
「クロア‥さん…」
柩に向かってクロアさんの名前を呼び続ける灯里先輩も、ハンカチで溢れ続ける涙を抑えるアリシアさんも、灯里先輩を支えながら静かに泣き続ける藍華先輩も、眉間に皺を寄せて立ち尽くす晃さんも、声を押し殺して泣くアテナ先輩も…
皆‥抱えきれない喪失感に苛まれている。
最後にクロアさんに一目会おうと訪れた参列者も…当然だが、誰一人平気そうな人等居なかった。
「本日はクロンティア・心葉・ヴァータジアークの為にお集まりいただき誠に有難う御座います」
裏口から現れた金髪の美丈夫…
エピファニアにカフェで逢った“ロード”がそう話し出すと、灯里先輩はクロアさんを呼ぶのを押し殺す様にして止めた。
「…誰…‥?」
「あの人はクロアさんの‥」
「クロンティアの夫のエルリックです」
「…え?」
そう声を漏らして大きく目を開いたアリスは、二度瞬きをした。
そんなアリスを視界にとらえたエルリックは、小さく可笑しそうに笑った。
「と言っても新居に移る二日前にクロンティアが亡くなってしまったんで、書類上の夫婦なんですが」
ロードさん改めエルリックさんの話では、亡くなる二日前に書類を提出したが、皆への報告や挙式は新居に移り住んで落ち着いてからする予定だったと言う。
確かにクロアさんの事を考えるならそれが最良だったかもしれない。
「これより告別式を‥」
『御待ち下さい』
エルリックさんの言葉を遮って聞こえた声は、少し違和感はあったが聞き慣れた声だった。
だから声の方を振り返って声の主を目にした瞬間、私は固まった。
「ケイト…先輩‥?」
入り口の扉を背に立っていたのは確かにケイト先輩だった。
だけどいつものケイト先輩では無かった。
黒のスーツに黒のシャツに黒いネクタイに黒い靴‥
全身を漆黒で覆われたケイト先輩の肩まであった薄茶色の髪の毛は短く、声もいつもより少し低かった。
これではまるで…
「ケイト…あんたまさか‥男?」
藍華先輩の漏らした言葉にケイト先輩が答える事は無かった。
ケイト先輩は唯真っ直ぐにエルリックさんの元へ歩いて行ったのだ。
横を通ったケイト先輩は、ヒールを履いていない所為か、いつもより小さく見えた。
エルリックさんは苦虫を噛み潰した様な顔をしていたが、口を出す事は無かった。
『皆様、本日は御集まりいただき誠に有難う御座います。
困った様に小さく笑ったケイト先輩が一瞬クロアさんとかぶった。
『クロアさんは誰一人…私も含め、誰にも悟られぬ様に病魔と闘っていました。
倒れたとしれた後、誰が見舞いに来ても私とエルリックさん以外に会おうとしませんでした…会ってしまえば“大丈夫”でない事がバレてしまいますから……クロアさんはこのネオ・ヴェネツィアが‥
「そんなもの要るか!」
そう声を上げたのは晃さんだった。
相変わらず眉間に皺を寄せた顔で真っ直ぐにケイト先輩を睨みつけている。
「そんなもの要らなかった。私はずっと心配だった…“早く治したいから”と会うのを拒まれて余計に心配になった」
“大丈夫だなんて絶対嘘だ”
そう分かってはいても晃は動けなかった。
「休日にどうやって踏み込もうかずっと考えてた」
クロアの鋭い瞳と声に拒絶される事を想像すると晃はどうしても踏み出せ無かった。
「何で…どうして言ってくれなかったんだ、ケイト!!」
瞬間、一筋の涙が晃さんの頬を伝った。
ずっと我慢していたのだろう。そっとアリシアさんが晃さんの肩に触れた。
「晃ちゃん…」
「ッ…答えろ、ケイト!!」
『クロアさんは僕の絶対です』
深い響きの声はそう淡々と答えた。
晃さんがケイト先輩を真っ直ぐ睨みてけている様にケイト先輩も真っ直ぐに晃さんを見ていた。
『クロアさんが望むなら僕は従うのみ‥僕は僕が全てを知っていて、尚且つクロアさんの願いをきける自分の中での最善が取れれば良い』
そう言ってケイト先輩は困った様に笑った。
『…歪んでる』
クロアさん…こうなってしまうんだと分かっていたら、もっとクロアさんと一緒に居たのに…私は迷惑だと言われても側に居たかった。なのにケイト先輩だけ苦しめて…
『結果的に皆さんを苦しめてしまった事、深く御詫び申し上げます』
私は貴女を呪いますよ…
大好きな…大好きな貴女を…‥
「クロア‥さん…」
溢れ続ける涙を拭く事無く流し続けながら、私はクロアさんとケイト先輩を想った。
ネオ・ヴェネツィアには…クロアさんを送り出す重々しい鐘の音が鳴り響いていた。
『クロアさん…』
ゴーン、ゴーン…
そう鐘の音が鳴り響く中、私はそっとクロアさんの柩へと近付いた。
式も終わり、もう辺りには誰も居なかった。
静まり返った中にコツコツと革靴が石畳を蹴る音がした。
『何やってるの、アリス?』
振り返ると、ケイト先輩がこちらに向かって歩いて来る途中だった。
『皆、中庭で話してるよ』
「クロアさんを見に来ました」
『ん…会ってあげて、クロアさんアリスに会いたがってたから』
「私に…」
そっと柩の中を覗いてみると、クロアさんは今にも目覚めそうな綺麗な顔をしていた。
もう話が出来無いなんて‥
もう笑ってくれないなんて…
もう目覚めないなんて‥
信じられなかった。
「ケイト先輩‥男性なんですか?」
『その質問に答えるのが面倒臭くてこっそり逃げてきたのに、アリスもその質問すんだ?』
ふざけて笑うケイト先輩に始めて少し腹が立った。
「するに決まってます。私はずっと騙されてたんです」
『……そうだね』
笑うのを止めたケイト先輩は小さく“ごめん”と口にすると、クロアさんが眠る柩に腰掛けた。
『昔話をしようか』
「昔話‥?」
小さく微笑んだケイト先輩は、そっとクロアさんの手を取った。
『僕と…僕の星空の出逢いの話を‥』
——ねぇ…
私達と散歩しない?