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28
『必ず伺います』
そう言って携帯電話の通話を切ったケイトは、唯その場に立ち尽くした。
何でだろう…
待ち詫びた日の筈なのに‥
笑えない…‥
=ソラの色=
クロアさんが倒れたという噂は直ぐに広まった。
物陰だったとはいえ、ブチントーロの甲板で倒れて以来仕事を一切取っていないのでバレても仕方無いとは思っていたし、あくまで“倒れた”という噂だったのが正直幸いだった。
“倒れた”という噂だけで電話は引っ切り無し掛かってくるし、見舞いに来る人も絶え間なく訪れた。
クロアさんが今までどんな仕事をしてきたのかが良く分かる状況ではあるが、受け入れる事は無理だった。
対応していてはクロアさんの看病が出来無いし、クロアさん自身が休まるとも思えなかった。
クロアさんの部屋の窓以外の窓という窓を全て閉め、店のシャッターを下ろし、鳴り止まない電話を止める為に電話線も引き抜いた。
倒れた当の本人であるクロアさんはロード…元い、エルリックさんに“三日だけ待って欲しい”と、最初で最後の我が儘を言った。
最初の我が儘だからこそエルリックさんは驚き、最後の我が儘だからと頼んだからこそエルリックさんは聞き入れた。
“もう少しだけ颯 に居たい”
それがクロアさんの願いだった。
ゆっくりと部屋の扉を開けて中を覗くと、人口呼吸器を付けたクロアさんがベッドで眠っていた。
寄り添う様に傍らに丸まって寝ているハヤト社長は、クロアさんが倒れてからずっとクロアさんの側に居る。
良く一人で勝手に出掛けていたハヤト社長がずっとクロアさんにくっついているのには理由があった。
エルリックさんが帰って直ぐ眠りについたクロアさんが、一日経っても目覚めないのだ。
眠りが浅くて短いのが悩みのクロアさんが…
『クロア…さん…‥』
そう呟けば、寝ていたハヤト社長が顔を上げて小さく一鳴きした。
『社長…僕はどうしたら良いんでしょうか‥?』
弱い僕を咎める様に目を細めたハヤト社長は、ただクロアさんの手に顔を擦り寄せた。
クロアさんの左手の薬指に光るリングが、僕にエルリックさんを思い出させた。
『弱くて済みません‥社長』
「ニィ」
ふとハヤト社長に袖を噛んで引っ張られ、片膝を折ると、綺麗な姿勢でベッドの上に座ったハヤト社長と目が合った。
『どうしたんですか?』
そう問い掛ければ、ハヤト社長の短い手が僕の額にそっと当てられた。
「……」
『僕…行ってきますね、社長。社長とクロアさんの分も見てきます』
「ニゥゥ」
離れていくハヤト社長の手に少し違和感を覚えた。
だけどハヤト社長が可愛らしく笑って先程までの様にクロアさんの脇に丸まったものだから、僕は何となく声を掛けなかった。
眠っているクロアさんと眠りについたハヤト社長を起こさない様にそっと出掛けたのだ。
店の周りに人が居ないのを確認してから自分の舟 に飛び乗り、直ぐに出発した。
一人で舟 に乗ったのは何時ぶりだろうか?
いつも絶対に誰かが一緒に居てくれた。
灯里、藍華、アリス、ハヤト社長…‥クロアさん‥必ず誰かが一緒に居てくれた。
『寂しい…な‥』
独りぼっちな現実が嫌になって少し涙が溢れそうになった。ギュッと握り締めたオールに力を込めて漕ぎ続ける。待ち合わせ場所に向かって…
暫く通ってなかった水路。
懐かしいそこを通り抜けて辿り着いたのは僕がクロアさんと初めて来た場所だった。
「ケイトちゃん!」
『灯里…』
呼ばれた方を見ると、灯里と藍華、オレンジぷらねっとの幹部、そして協会員が居た。これからなにが起きるのかが手に取る様に分かった。
「ケイト・ハドルトソン…クロアの具合はどうかね?」
『何とも申し上げ難いです…今はただ‥眠ってます』
そっと訊ねてきた協会員の問に淡々とそう返した。
僕は医者じゃないのだから、そんな事ちゃんとは答えられない。
僕には…クロアさんが眠ってる様にしか見えない。
“颯 に居たい”というクロアさんをエルリックさんが定めた期限までハヤト社長と見守る事しか出来無いのだ。
「あ、アリスちゃん達来たよ!」
そして今も僕は‥
『灯里、静かにな』
「ぁ、そうだね」
「あの子、きっとでっかいビックリするわね」
『さぁ…案外驚かないかもよ』
僕は…
黄昏に染まる少女をクロアさんの分まで見る事しか出来無いんだ——…‥
『只今戻りました』
そう口にしながらクロアさんの寝室の扉を開けた瞬間、違和感を覚えた。
『ハヤト…社長…?』
眠るクロアさんの傍らにずっと寄り添っていたハヤト社長が居なくなっていたのだ。
『ハヤト社長…?』
こんな事って…
『ハヤト社長‥ハヤト社長!!』
こんな事は有り得ない。
ハヤト社長がクロアさんを置き去りにするなんて‥
『ハヤト…ハヤト社長ぉぉ!!』
部屋中探してもどこにもハヤト社長は見当たらなかった。
何で…
何でこんな事…‥
『クロア‥さん…』
何で…
何で‥ハヤト社長…‥
『クロアさん‥ハヤト社長はどこに行ったんですか?』
ハヤト社長…クロアさんは貴方の大切な人じゃ無かったんですか?
何で‥
何で居ないんですか…
『クロアさん、ハヤト社長は…ッ!!』
フラフラとベッドに歩み寄ったケイトは、床に膝を付いてクロアの手を握った瞬間、目を見開いた。
『な……ッ‥』
体温が異常に低い‥
『ア‥アリスが昇格したんですよ‥しかもペアからプリマに』
やばい…涙が‥
『ッ‥僕、見てきましたよ』
泣かないって決めたのに何でこんなに溢れてくるんだろう。
こんな…
こんなに止めどなく…‥
『アリスの旅立ちを‥』
大粒の涙をこぼしながら、ケイトはクロアの冷え切った手をさすった。
『クロアさ‥クロアさん…』
『泣くな‥ケイト…』
伏せていた顔を上げると、クロアさんが優しく微笑んでいた。
救われた様な気がした。
『クロアさん‥』
冷え切った冷たい手に…
ゆっくりと優しく頭を撫でられた。
『アリスの…通り名は‥?』
『“黄昏の姫君 ”』
『黄昏の惑星に姫君の誕生ね』
“はい”と言って涙を浮かべた目で嬉しそうに笑ったケイトに、クロアは優しく微笑んでケイトの目元の涙を指で拭った。
『クロアさん、僕‥』
『ハヤトを‥捜しなさい、ケイト』
『……え‥?』
嫌な予感がする…
『ハヤトを捜して…颯 を繋ぐの。ケイトの夢を叶えるのよ』
クロアの言葉に下唇を噛んだケイトは、ベッドに横になっているクロアの顔の横に両腕を付いた。
『僕の夢には貴女が必要不可欠なんです…分かっている筈でしょ、クロアさん』
『ねぇ…前に進みなさい』
『クロアさ‥』
『大好きよ‥私の大切な』
そっと僕の頬に添えられたクロアさんの冷たい手が優しく僕の頬を包み込む。
『“昊の騎士”』
『そらの‥きし…』
『“昊の騎士 ”』
右目の眼帯を外したクロアさんの蒼眼と灰眼が弧を描いて僕を見据える。
『私の‥明るく高い夏の空』
僕が‥クロアさんの夏空…
『謳って…ケイト』
クロアさんの綺麗なオッドアイが真っ直ぐに僕の瞳を見据える。
『貴方の舟謳 を…‥』
僕は謳った‥
それがクロアさんの願いならばと。
『‥クロアさん』
謳い終わった僕は、左手でクロアさんの左の薬指に光るリングを隠すと、そっとキスを落とした。
『ッ……』
後ろめたい気持ちと‥
悲しさと喪失感…‥
数え切れない何かが‥
『ク…‥ゥあ゙あぁぁぁあぁあぁ』
僕を襲うんだ——…‥
.
『必ず伺います』
そう言って携帯電話の通話を切ったケイトは、唯その場に立ち尽くした。
何でだろう…
待ち詫びた日の筈なのに‥
笑えない…‥
=ソラの色=
クロアさんが倒れたという噂は直ぐに広まった。
物陰だったとはいえ、ブチントーロの甲板で倒れて以来仕事を一切取っていないのでバレても仕方無いとは思っていたし、あくまで“倒れた”という噂だったのが正直幸いだった。
“倒れた”という噂だけで電話は引っ切り無し掛かってくるし、見舞いに来る人も絶え間なく訪れた。
クロアさんが今までどんな仕事をしてきたのかが良く分かる状況ではあるが、受け入れる事は無理だった。
対応していてはクロアさんの看病が出来無いし、クロアさん自身が休まるとも思えなかった。
クロアさんの部屋の窓以外の窓という窓を全て閉め、店のシャッターを下ろし、鳴り止まない電話を止める為に電話線も引き抜いた。
倒れた当の本人であるクロアさんはロード…元い、エルリックさんに“三日だけ待って欲しい”と、最初で最後の我が儘を言った。
最初の我が儘だからこそエルリックさんは驚き、最後の我が儘だからと頼んだからこそエルリックさんは聞き入れた。
“もう少しだけ
それがクロアさんの願いだった。
ゆっくりと部屋の扉を開けて中を覗くと、人口呼吸器を付けたクロアさんがベッドで眠っていた。
寄り添う様に傍らに丸まって寝ているハヤト社長は、クロアさんが倒れてからずっとクロアさんの側に居る。
良く一人で勝手に出掛けていたハヤト社長がずっとクロアさんにくっついているのには理由があった。
エルリックさんが帰って直ぐ眠りについたクロアさんが、一日経っても目覚めないのだ。
眠りが浅くて短いのが悩みのクロアさんが…
『クロア…さん…‥』
そう呟けば、寝ていたハヤト社長が顔を上げて小さく一鳴きした。
『社長…僕はどうしたら良いんでしょうか‥?』
弱い僕を咎める様に目を細めたハヤト社長は、ただクロアさんの手に顔を擦り寄せた。
クロアさんの左手の薬指に光るリングが、僕にエルリックさんを思い出させた。
『弱くて済みません‥社長』
「ニィ」
ふとハヤト社長に袖を噛んで引っ張られ、片膝を折ると、綺麗な姿勢でベッドの上に座ったハヤト社長と目が合った。
『どうしたんですか?』
そう問い掛ければ、ハヤト社長の短い手が僕の額にそっと当てられた。
「……」
『僕…行ってきますね、社長。社長とクロアさんの分も見てきます』
「ニゥゥ」
離れていくハヤト社長の手に少し違和感を覚えた。
だけどハヤト社長が可愛らしく笑って先程までの様にクロアさんの脇に丸まったものだから、僕は何となく声を掛けなかった。
眠っているクロアさんと眠りについたハヤト社長を起こさない様にそっと出掛けたのだ。
店の周りに人が居ないのを確認してから自分の
一人で
いつも絶対に誰かが一緒に居てくれた。
灯里、藍華、アリス、ハヤト社長…‥クロアさん‥必ず誰かが一緒に居てくれた。
『寂しい…な‥』
独りぼっちな現実が嫌になって少し涙が溢れそうになった。ギュッと握り締めたオールに力を込めて漕ぎ続ける。待ち合わせ場所に向かって…
暫く通ってなかった水路。
懐かしいそこを通り抜けて辿り着いたのは僕がクロアさんと初めて来た場所だった。
「ケイトちゃん!」
『灯里…』
呼ばれた方を見ると、灯里と藍華、オレンジぷらねっとの幹部、そして協会員が居た。これからなにが起きるのかが手に取る様に分かった。
「ケイト・ハドルトソン…クロアの具合はどうかね?」
『何とも申し上げ難いです…今はただ‥眠ってます』
そっと訊ねてきた協会員の問に淡々とそう返した。
僕は医者じゃないのだから、そんな事ちゃんとは答えられない。
僕には…クロアさんが眠ってる様にしか見えない。
“
「あ、アリスちゃん達来たよ!」
そして今も僕は‥
『灯里、静かにな』
「ぁ、そうだね」
「あの子、きっとでっかいビックリするわね」
『さぁ…案外驚かないかもよ』
僕は…
黄昏に染まる少女をクロアさんの分まで見る事しか出来無いんだ——…‥
『只今戻りました』
そう口にしながらクロアさんの寝室の扉を開けた瞬間、違和感を覚えた。
『ハヤト…社長…?』
眠るクロアさんの傍らにずっと寄り添っていたハヤト社長が居なくなっていたのだ。
『ハヤト社長…?』
こんな事って…
『ハヤト社長‥ハヤト社長!!』
こんな事は有り得ない。
ハヤト社長がクロアさんを置き去りにするなんて‥
『ハヤト…ハヤト社長ぉぉ!!』
部屋中探してもどこにもハヤト社長は見当たらなかった。
何で…
何でこんな事…‥
『クロア‥さん…』
何で…
何で‥ハヤト社長…‥
『クロアさん‥ハヤト社長はどこに行ったんですか?』
ハヤト社長…クロアさんは貴方の大切な人じゃ無かったんですか?
何で‥
何で居ないんですか…
『クロアさん、ハヤト社長は…ッ!!』
フラフラとベッドに歩み寄ったケイトは、床に膝を付いてクロアの手を握った瞬間、目を見開いた。
『な……ッ‥』
体温が異常に低い‥
『ア‥アリスが昇格したんですよ‥しかもペアからプリマに』
やばい…涙が‥
『ッ‥僕、見てきましたよ』
泣かないって決めたのに何でこんなに溢れてくるんだろう。
こんな…
こんなに止めどなく…‥
『アリスの旅立ちを‥』
大粒の涙をこぼしながら、ケイトはクロアの冷え切った手をさすった。
『クロアさ‥クロアさん…』
『泣くな‥ケイト…』
伏せていた顔を上げると、クロアさんが優しく微笑んでいた。
救われた様な気がした。
『クロアさん‥』
冷え切った冷たい手に…
ゆっくりと優しく頭を撫でられた。
『アリスの…通り名は‥?』
『“
『黄昏の惑星に姫君の誕生ね』
“はい”と言って涙を浮かべた目で嬉しそうに笑ったケイトに、クロアは優しく微笑んでケイトの目元の涙を指で拭った。
『クロアさん、僕‥』
『ハヤトを‥捜しなさい、ケイト』
『……え‥?』
嫌な予感がする…
『ハヤトを捜して…
クロアの言葉に下唇を噛んだケイトは、ベッドに横になっているクロアの顔の横に両腕を付いた。
『僕の夢には貴女が必要不可欠なんです…分かっている筈でしょ、クロアさん』
『ねぇ…前に進みなさい』
『クロアさ‥』
『大好きよ‥私の大切な』
そっと僕の頬に添えられたクロアさんの冷たい手が優しく僕の頬を包み込む。
『“昊の騎士”』
『そらの‥きし…』
『“
右目の眼帯を外したクロアさんの蒼眼と灰眼が弧を描いて僕を見据える。
『私の‥明るく高い夏の空』
僕が‥クロアさんの夏空…
『謳って…ケイト』
クロアさんの綺麗なオッドアイが真っ直ぐに僕の瞳を見据える。
『貴方の
僕は謳った‥
それがクロアさんの願いならばと。
『‥クロアさん』
謳い終わった僕は、左手でクロアさんの左の薬指に光るリングを隠すと、そっとキスを落とした。
『ッ……』
後ろめたい気持ちと‥
悲しさと喪失感…‥
数え切れない何かが‥
『ク…‥ゥあ゙あぁぁぁあぁあぁ』
僕を襲うんだ——…‥
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