burrasca
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27
ただ一緒に…
=嘘=
沈んでいく。
下へ下へと…ゆっくりゆっくりと‥
取り囲む水とその深さで海だと気付いた。
水の冷たさが気持ち良い…
仄暗い海を逆様に闇の底へと沈んでいく中、視界の端に水面の光がちらついた。
日の光を受けて輝く様は綺麗で、何だかずっと見ていたくなった。
『…夢……か‥』
目を開けると見慣れた景色が視界に広がった。自分の部屋だった。
口元に違和感を覚えて震える手で触れてみると、人工呼吸器がついていた。
殆ど無い力でずらして外す。
普通に呼吸がしたくて無理矢理外したが、いざ外してみると少し息苦しくて…ほんの少しだけ後悔した。
『何してるんですか』
ふとそう声が響き、声のした部屋の扉の方に目を向けると、ボトルとグラスの乗ったトレーを持った不機嫌そうなケイトが立っていた。
ツカツカとヒールの音を立ててクロアの寝ているベッドに歩み寄ったケイトは、手にしていたトレーをベッド脇のテーブルに置くと、浅く息をつくクロアの口にそっと人工呼吸器を戻した。
『勝手に外さないで下さい』
『何でこんな物が‥』
『ブチントーロの甲板で倒れて…それでドクターが“少しは楽になるから”って持ってきてくれたんですよ』
ドクターがここへ…?
“放っておいてくれ”そう言ったのに‥
『ドクターに全部聞きました』
全部‥?
全部ってそんな‥
『余計な‥事を…‥』
『何が余計な事ですか!』
『私はドクターに‥』
『じゃあ僕は逆に聞きます』
『ケイト、私は』
『何で僕に余計な隠し事をしたんですか』
ギュッと拳を握り締めたケイトが怒っているのか悲しんでいるのか良く分からなかった。
でも…責められてるのは確かだと思った。
『僕は頼りないですか?』
そんな事無い‥
『僕が信じられないですか?』
そんな事無い‥
『何で…ッ、何で‥』
私は唯‥
「離れたまえ」
そう聞き慣れた声が室内に響き、クロアはベッド脇に立ったケイトに伸ばそうとした手を引っ込めた。
そっとベッドの上に元あった様に手を置く。
『来ないで下さい』
『ケイト‥』
ベッドに横になったクロアを背に庇う様に立ったケイトは、一歩一歩近付いてくる金髪の美丈夫、顧客のロードを睨み付けた。
『僕‥今機嫌が悪いんです…貴方の顔なんて見たくない』
「クロンティアを見に来たんだ君等関係無い」
『クロアさんは僕が看ます。お引き取り下さい“ロード”』
嫌味のつもりでそう口にした。
クロアさん以外に“ロード”と呼ばれるのが嫌ならば、何度だって呼んでやる。
そう思っていた。
御得意様だろうと関係無かった。
兎に角何とかして部屋から追い出したかった‥
「クロンティアは私が引き取る」
『…はい…‥?』
「クロンティアは私が引き取ると言ったのだよ、ケイト・ハドルトソン」
鈍器で頭を殴られた様な気がした。
頭がクラクラする。
『名前…やっと覚えたんですか』
「餞別代わりだ」
『そんなもの要りません』
何やってんだろ…
聞きたいのはそんな事じゃ無いのに…‥怖くて聞き返せない。
「現実を受け入れられないか?君が聞きたいのはソレでは無いだろう、ケイト…‥いや、ハドルトソン」
『……私が何者か‥やっぱり気付いてたんですか』
「当たり前だろう」
もうヤダ…もう何も聞きたく無い。
「現実をもう一度叩き付けてやろう」
『…ロード!!』
「黙っていろ、クロンティア。君は私に嘘を吐いたんだ」
『ッ…』
「“嘘は許さない”とちゃんと言った筈だ」
『しかしロード…!』
「もう“ロード”じゃ無い」
『ッ、…はい…‥エルリック』
“エルリック”とロードの真の名が部屋に静かに響いた。
僕はそれが‥
何を指し示すか知っていた。
ちゃんと分かっていた‥
“逆らえない”と…
「クロンティアは私が娶る」
分かっていた——…‥
.
ただ一緒に…
=嘘=
沈んでいく。
下へ下へと…ゆっくりゆっくりと‥
取り囲む水とその深さで海だと気付いた。
水の冷たさが気持ち良い…
仄暗い海を逆様に闇の底へと沈んでいく中、視界の端に水面の光がちらついた。
日の光を受けて輝く様は綺麗で、何だかずっと見ていたくなった。
『…夢……か‥』
目を開けると見慣れた景色が視界に広がった。自分の部屋だった。
口元に違和感を覚えて震える手で触れてみると、人工呼吸器がついていた。
殆ど無い力でずらして外す。
普通に呼吸がしたくて無理矢理外したが、いざ外してみると少し息苦しくて…ほんの少しだけ後悔した。
『何してるんですか』
ふとそう声が響き、声のした部屋の扉の方に目を向けると、ボトルとグラスの乗ったトレーを持った不機嫌そうなケイトが立っていた。
ツカツカとヒールの音を立ててクロアの寝ているベッドに歩み寄ったケイトは、手にしていたトレーをベッド脇のテーブルに置くと、浅く息をつくクロアの口にそっと人工呼吸器を戻した。
『勝手に外さないで下さい』
『何でこんな物が‥』
『ブチントーロの甲板で倒れて…それでドクターが“少しは楽になるから”って持ってきてくれたんですよ』
ドクターがここへ…?
“放っておいてくれ”そう言ったのに‥
『ドクターに全部聞きました』
全部‥?
全部ってそんな‥
『余計な‥事を…‥』
『何が余計な事ですか!』
『私はドクターに‥』
『じゃあ僕は逆に聞きます』
『ケイト、私は』
『何で僕に余計な隠し事をしたんですか』
ギュッと拳を握り締めたケイトが怒っているのか悲しんでいるのか良く分からなかった。
でも…責められてるのは確かだと思った。
『僕は頼りないですか?』
そんな事無い‥
『僕が信じられないですか?』
そんな事無い‥
『何で…ッ、何で‥』
私は唯‥
「離れたまえ」
そう聞き慣れた声が室内に響き、クロアはベッド脇に立ったケイトに伸ばそうとした手を引っ込めた。
そっとベッドの上に元あった様に手を置く。
『来ないで下さい』
『ケイト‥』
ベッドに横になったクロアを背に庇う様に立ったケイトは、一歩一歩近付いてくる金髪の美丈夫、顧客のロードを睨み付けた。
『僕‥今機嫌が悪いんです…貴方の顔なんて見たくない』
「クロンティアを見に来たんだ君等関係無い」
『クロアさんは僕が看ます。お引き取り下さい“ロード”』
嫌味のつもりでそう口にした。
クロアさん以外に“ロード”と呼ばれるのが嫌ならば、何度だって呼んでやる。
そう思っていた。
御得意様だろうと関係無かった。
兎に角何とかして部屋から追い出したかった‥
「クロンティアは私が引き取る」
『…はい…‥?』
「クロンティアは私が引き取ると言ったのだよ、ケイト・ハドルトソン」
鈍器で頭を殴られた様な気がした。
頭がクラクラする。
『名前…やっと覚えたんですか』
「餞別代わりだ」
『そんなもの要りません』
何やってんだろ…
聞きたいのはそんな事じゃ無いのに…‥怖くて聞き返せない。
「現実を受け入れられないか?君が聞きたいのはソレでは無いだろう、ケイト…‥いや、ハドルトソン」
『……私が何者か‥やっぱり気付いてたんですか』
「当たり前だろう」
もうヤダ…もう何も聞きたく無い。
「現実をもう一度叩き付けてやろう」
『…ロード!!』
「黙っていろ、クロンティア。君は私に嘘を吐いたんだ」
『ッ…』
「“嘘は許さない”とちゃんと言った筈だ」
『しかしロード…!』
「もう“ロード”じゃ無い」
『ッ、…はい…‥エルリック』
“エルリック”とロードの真の名が部屋に静かに響いた。
僕はそれが‥
何を指し示すか知っていた。
ちゃんと分かっていた‥
“逆らえない”と…
「クロンティアは私が娶る」
分かっていた——…‥
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