burrasca
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26
『助けて…助けて下さい…‥』
何で…
何でこうなるんだろう‥
『お願‥い』
次から次へと‥
何で…何でこんな…‥
『止めて下さい‥』
=海との結婚=
ある春の昼下がり、ベッドの上に上半身を起こした形で座っているクロアは、目の前の協会員に向かってにっこりと微笑んだ。
『引き受けましょう』
『クロアさん‥?!』
「それは…こちらとしては大変嬉しいんだが‥体調の方は大丈夫なのかね?」
『そうですよ、クロアさん!治るまで動かないで下さい!』
ツカツカと歩み寄ってきてそうまくしたてるケイトに、クロアは困った様に小さく笑った。
『海との結婚は四年に一度しか行われないのよ?私に四年後まで待てと?』
サン・マルコ広場の岸部を目指して何百艇もの舟 がパレードをし、ネオ・ヴェネツィアと海との永遠の愛を誓う“海との結婚”は、四年に一度行われる大事な式典だ。
階級による参加の不可等が無く、水先案内人 総出で行われるこの式典は、水先案内人 にとっては特に一大イベントの式典だった。
『絶対駄目ですよ!大体クロアさんはいつも大丈夫と言いながら』
『ケイト‥』
『無茶ばっかりして結局は倒』
『黙っていろ』
『っ…』
聞いた事のないくらい低い声が僕を遮った。
初めて怒られた様な気がして、少し冷や汗が溢れた。
『貴方が決める事じゃないし、貴方には私を止める事も出来無い』
どう‥しよう…
どうしよう‥
分からない‥
どうしたら…‥
『静かにしてなさい』
広いサン・マルコ広場に敷き詰まった人の波に飲まれながらも、暁に担がれて場所取りをしいていたウッディーの所へ辿り着いたアルは、小さく息を吐いた。
「それにしても凄い人出だな」
「四年に一度の由緒正しきお祭りですからね」
リーンゴーン、リーンゴーンと重みのある鐘の音と共に式典は始まった。
先ず先頭はペアだ。ペアによる露払いが行われると、その後にシングルが続く。
黒い舟 を司る水先案内人 は一糸乱れぬ動きで舟 を突き進めていたが、ふと二手に分かれて花道をつくるとピタリと動きを止めた。
「ん、止まったぞ」
「主力艦隊の登場ですよ」
ネオ・ヴェネツィアを象徴するプリマ…白い舟を司る水先案内人 だ。
「アリシアさん!アリシアさんはどこだ?!」
「あかつきん、静かにするのだ」
カメラを片手にそう騒ぐ暁をウッディーが慌てて止めようとする中、アルは楽しそうに笑った。
「心配しなくても大丈夫ですよ、暁くん…英雄には英雄の登場の仕方があるんです」
そう…彼女達がプリマに埋もれる事は無い。
「我らが水先案内人 の頂点に立つ三人、水の三大妖精と伝説の戦士は‥」
そこまで話してアルは目を見開いて固まった。
それぞれの会社の制服の水先案内人 達とは違い、衣装に身を包んだ三大妖精。
四年前はその三大妖精が率いる総督を守るガレー船の前に確かにクロアの姿があったのだ。
舟 を漕ぎながら舟謳 にあわせて舞う様をアルははっきり覚えていた。
その姿が今回は無い…
もしやと思ってプリマ達の列を一通り見てみたが、クロアさんの姿は無かった。
「クロアさん…?」
「準備は出来たかい?」
物陰から式典の進み具合を見ていたら、そう声を掛けられた。
振り返ると、見慣れた顔がいつもの様にニコニコと笑っていた。
『グランマ……そう‥貴女の仕業ですか』
「なんの事?」
『私は理事に“四年前と同じ事を”と頼まれた。しかし今、私は総督が乗るお召し舟…ブチントーロに乗せられている』
私は四年前と同じ様に自分の舟 で自分で進むつもりだった。それなのに…
『どういう事ですか。私はここに立ちたく無かった』
「ケイトに頼まれたのよ」
『ケイト‥に…?』
「“助けて下さい”“自分では止められないから止めて下さい”そう言ってたわ。私には辞めさせる権利が無いから、理事長…総督に進言したのよ……せめて一人にならない様に」
グランマは小さく溜め息を吐くと、クロアの衣装の裾の汚れを叩いておとした。
「貴女は何がしたいの、クロア」
私は…
私は唯、今を…‥
「天上の謳声 が歌い出したわ‥いってらっしゃい、私のクロア」
クロアは目を閉じて一息吐くと、飾り刀を片手に船先まで歩いて行き、踊り出した。
丁寧に舞い続け、暫くしてグランマが歩み寄って来るとそっと脇に避け、グランマに付き従う様に服の裾を持って腰をおった。
「海よ‥おお愛しく偉大なる者よ」
グランマの言葉に合わせて顔を上げると、視界の端にケイトや灯里達が見えた。
ケイト達がそうしている様に右手を上げる。
「永遠の平和を祈念して‥」
手から離れて宙を舞うシルバーリングを目で追った。
リングが舞う四年に一度の景色はモノクロではあったが酷く綺麗で…
私はそっと目を閉じた。
「ネオ・ヴェネツィアはここに汝と結婚せり」
この身は…
ネオ・ヴェネツィアの海と共に——…‥
.
『助けて…助けて下さい…‥』
何で…
何でこうなるんだろう‥
『お願‥い』
次から次へと‥
何で…何でこんな…‥
『止めて下さい‥』
=海との結婚=
ある春の昼下がり、ベッドの上に上半身を起こした形で座っているクロアは、目の前の協会員に向かってにっこりと微笑んだ。
『引き受けましょう』
『クロアさん‥?!』
「それは…こちらとしては大変嬉しいんだが‥体調の方は大丈夫なのかね?」
『そうですよ、クロアさん!治るまで動かないで下さい!』
ツカツカと歩み寄ってきてそうまくしたてるケイトに、クロアは困った様に小さく笑った。
『海との結婚は四年に一度しか行われないのよ?私に四年後まで待てと?』
サン・マルコ広場の岸部を目指して何百艇もの
階級による参加の不可等が無く、
『絶対駄目ですよ!大体クロアさんはいつも大丈夫と言いながら』
『ケイト‥』
『無茶ばっかりして結局は倒』
『黙っていろ』
『っ…』
聞いた事のないくらい低い声が僕を遮った。
初めて怒られた様な気がして、少し冷や汗が溢れた。
『貴方が決める事じゃないし、貴方には私を止める事も出来無い』
どう‥しよう…
どうしよう‥
分からない‥
どうしたら…‥
『静かにしてなさい』
広いサン・マルコ広場に敷き詰まった人の波に飲まれながらも、暁に担がれて場所取りをしいていたウッディーの所へ辿り着いたアルは、小さく息を吐いた。
「それにしても凄い人出だな」
「四年に一度の由緒正しきお祭りですからね」
リーンゴーン、リーンゴーンと重みのある鐘の音と共に式典は始まった。
先ず先頭はペアだ。ペアによる露払いが行われると、その後にシングルが続く。
黒い
「ん、止まったぞ」
「主力艦隊の登場ですよ」
ネオ・ヴェネツィアを象徴するプリマ…白い舟を司る
「アリシアさん!アリシアさんはどこだ?!」
「あかつきん、静かにするのだ」
カメラを片手にそう騒ぐ暁をウッディーが慌てて止めようとする中、アルは楽しそうに笑った。
「心配しなくても大丈夫ですよ、暁くん…英雄には英雄の登場の仕方があるんです」
そう…彼女達がプリマに埋もれる事は無い。
「我らが
そこまで話してアルは目を見開いて固まった。
それぞれの会社の制服の
四年前はその三大妖精が率いる総督を守るガレー船の前に確かにクロアの姿があったのだ。
その姿が今回は無い…
もしやと思ってプリマ達の列を一通り見てみたが、クロアさんの姿は無かった。
「クロアさん…?」
「準備は出来たかい?」
物陰から式典の進み具合を見ていたら、そう声を掛けられた。
振り返ると、見慣れた顔がいつもの様にニコニコと笑っていた。
『グランマ……そう‥貴女の仕業ですか』
「なんの事?」
『私は理事に“四年前と同じ事を”と頼まれた。しかし今、私は総督が乗るお召し舟…ブチントーロに乗せられている』
私は四年前と同じ様に自分の
『どういう事ですか。私はここに立ちたく無かった』
「ケイトに頼まれたのよ」
『ケイト‥に…?』
「“助けて下さい”“自分では止められないから止めて下さい”そう言ってたわ。私には辞めさせる権利が無いから、理事長…総督に進言したのよ……せめて一人にならない様に」
グランマは小さく溜め息を吐くと、クロアの衣装の裾の汚れを叩いておとした。
「貴女は何がしたいの、クロア」
私は…
私は唯、今を…‥
「
クロアは目を閉じて一息吐くと、飾り刀を片手に船先まで歩いて行き、踊り出した。
丁寧に舞い続け、暫くしてグランマが歩み寄って来るとそっと脇に避け、グランマに付き従う様に服の裾を持って腰をおった。
「海よ‥おお愛しく偉大なる者よ」
グランマの言葉に合わせて顔を上げると、視界の端にケイトや灯里達が見えた。
ケイト達がそうしている様に右手を上げる。
「永遠の平和を祈念して‥」
手から離れて宙を舞うシルバーリングを目で追った。
リングが舞う四年に一度の景色はモノクロではあったが酷く綺麗で…
私はそっと目を閉じた。
「ネオ・ヴェネツィアはここに汝と結婚せり」
この身は…
ネオ・ヴェネツィアの海と共に——…‥
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