burrasca
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25
御帰り——…‥
=スペシャル・オムライス=
応接室も兼ねたリビングのソファーでケイトの話を聞いていたクロアは、グラスを片手に楽しそうに笑った。
『アテナがそんな事をね‥』
『アリス凄くびっくりしてました』
『アテナが自ら率先して実行するのは珍しい‥余程アリスを気に入ってるんだな』
空になったグラスを持って立ち上がったクロアはそのままキッチンへと向かった。
グラスを流しへ置くと、白い制服を汚さない様にエプロンを付ける。
『クロアさん、昼食なら僕が作りますよ!』
慌ててクロアを追い掛けてキッチンに入ったケイトは、エプロンを付けながらそう言った。
未だ体調の優れないクロアさんには少しでも座っていてほしかった。
もっと言えばベッドで寝ていてほしかった…でもクロアさんがそれを許さないのを僕はちゃんと知っている。
だからほんの些細な事にでも手を伸ばすんだ…
『じゃあ一緒に作りましょ』
『え‥?』
微かに微笑んだクロアは、ケイトの乱雑に結ばれたエプロンのリボンを綺麗に結び直すと、冷蔵庫から食材を出し始めた。
『オムライスのレシピ教えてあげるわ』
それは嬉しい申し出だった。
僕はクロアさんの料理の中でオムライスが一番好きだったが、そのレシピを知らなかった。
だから僕が食事当番の日で、尚且つオムライスが食べたくなった日はいつも、その味を再現しようとして失敗していた。
だから…
『嬉しいです』
嬉しかった。
好きな物を自分で作れる事もだが‥
『大袈裟だな‥本当にオムライスが好きなんだな』
楽しそうに笑う大好きなクロアさんからものを教わるのが好きだったから。
クロアさんの中にあるものを僕だけが吸収する事を許された感覚に陥るから…
『大好きです!』
好きだった。
教わる事は嬉しかった…
吸収するのは楽しかった‥
『じゃあ先ず材料を切りましょう』
颯 のキッチンには料理本も無ければ、計量カップや計量スプーン等、計る道具も無い。
クロアさんの作る料理はクロアさんが自分で考えて目測で計って作っているからだ。
だから僕も目測で覚えるしかない。
野菜や鶏肉の量から、卵に入れる生クリームの量…クロアさん特製のデミグラスソースの調合も何もかも‥
全て“このくらいね”と言うクロアさんの声をバックに覚えていく。
僕はこの作業が苦手だった。
こんなに沢山の目測を記憶していくのは、至難の業だ。軽く頭が痛くなる。
でも苦手だが平気だった。
楽しいから‥
嬉しいから…
好きだから頑張れる。
好きだから覚えていける。
『ケイト、お皿取って』
『はい』
チキンライスの乗ったお皿を左手で持ったクロアさんは、右手でフライパンに注いだ卵を軽く菜箸で混ぜると、手首を器用に使ってレモン型に丸め、綺麗なオムレツを作った。
そしてそれをチキンライスの上へ乗せ、ナイフで切り込みを入れる。
丸まった卵が綺麗に広がり、半熟卵の美味しそうなオムライスが出来上がった。
仕上げに特製のデミグラスソースを掛ければ完成だ。
『やってみる?』
『はい!』
クロアさんからフライパンを受け取って意気込んでオムレツ作りに取り掛かったが…見事に失敗した。
どうもナイフで切った時にふわりと広がる綺麗な半熟にならない。
小さくクスクスと笑ったクロアさんは、僕の作ったオムライスにデミグラスソースを掛けるとダイニングテーブルへと持って行ってしまった。
残ってるのはクロアさんが作った綺麗なオムライスだけだ。
まさか…
そう思って残されたオムライスを持って後を追うと、丁度クロアさんが僕のオムライスを一口食べた瞬間だった。
『クロアさん、そんな‥僕の失敗作食べなくても』
『自分の作ったの食べてもね』
“それに”と続けたクロアさんは、唯嬉しそうに微笑んだ。
『とっても美味しいよ、ケイト』
食後の紅茶は何にしようとか‥
在り来たりな話をしながら、お互いに作ったオムライスを食べあった。
いつもしている事なのに、何故かいつも以上に楽しかったのを覚えている。
ずっと続くとさえ思えた。
だから…
『あら、飲み物が無くなったわね』
そう言ってクロアさんがキッチンに飲み物を取りに行った瞬間、キッチンから何かが落ちた音とグラスが割れる音がした時はびっくりして現実に戻された感覚を覚えた。
そして‥駆け込んだキッチンでクロアさんが倒れているのを見た時は現実から離れたくなった。
『どう言うことですか』
《今聞いた通りだよ。うちで処方した薬を飲ませて寝かせておくだけで良い》
倒れたクロアさんに処方薬を飲ませて慌ててクロアさんの主治医に電話をした。
“直ぐ連れて行きますんで用意しておいて下さい”そう言った僕に主治医は信じられない事を次々と言った。耳を疑いたくなった。
《うちに連れて来られても、同じ事をするだけだよ…なら無駄に動かさない方が良い》
『何を言って‥』
《彼女を抑える薬は他に無いんだ…薬が抑えられない部分は彼女が自分で抑えるしか無い》
それはどういう事‥?
誰も…誰も苦しんでいるクロアさんを助ける事が出来無いって事…?
クロアさんは一人で‥
また‥一人で闘い続けるの…?
《静かに寝かせてあげなさい》
——御帰り…‥
オムライスを食べる度に思い出す。
あの日の小さな笑顔を——…‥
.
御帰り——…‥
=スペシャル・オムライス=
応接室も兼ねたリビングのソファーでケイトの話を聞いていたクロアは、グラスを片手に楽しそうに笑った。
『アテナがそんな事をね‥』
『アリス凄くびっくりしてました』
『アテナが自ら率先して実行するのは珍しい‥余程アリスを気に入ってるんだな』
空になったグラスを持って立ち上がったクロアはそのままキッチンへと向かった。
グラスを流しへ置くと、白い制服を汚さない様にエプロンを付ける。
『クロアさん、昼食なら僕が作りますよ!』
慌ててクロアを追い掛けてキッチンに入ったケイトは、エプロンを付けながらそう言った。
未だ体調の優れないクロアさんには少しでも座っていてほしかった。
もっと言えばベッドで寝ていてほしかった…でもクロアさんがそれを許さないのを僕はちゃんと知っている。
だからほんの些細な事にでも手を伸ばすんだ…
『じゃあ一緒に作りましょ』
『え‥?』
微かに微笑んだクロアは、ケイトの乱雑に結ばれたエプロンのリボンを綺麗に結び直すと、冷蔵庫から食材を出し始めた。
『オムライスのレシピ教えてあげるわ』
それは嬉しい申し出だった。
僕はクロアさんの料理の中でオムライスが一番好きだったが、そのレシピを知らなかった。
だから僕が食事当番の日で、尚且つオムライスが食べたくなった日はいつも、その味を再現しようとして失敗していた。
だから…
『嬉しいです』
嬉しかった。
好きな物を自分で作れる事もだが‥
『大袈裟だな‥本当にオムライスが好きなんだな』
楽しそうに笑う大好きなクロアさんからものを教わるのが好きだったから。
クロアさんの中にあるものを僕だけが吸収する事を許された感覚に陥るから…
『大好きです!』
好きだった。
教わる事は嬉しかった…
吸収するのは楽しかった‥
『じゃあ先ず材料を切りましょう』
クロアさんの作る料理はクロアさんが自分で考えて目測で計って作っているからだ。
だから僕も目測で覚えるしかない。
野菜や鶏肉の量から、卵に入れる生クリームの量…クロアさん特製のデミグラスソースの調合も何もかも‥
全て“このくらいね”と言うクロアさんの声をバックに覚えていく。
僕はこの作業が苦手だった。
こんなに沢山の目測を記憶していくのは、至難の業だ。軽く頭が痛くなる。
でも苦手だが平気だった。
楽しいから‥
嬉しいから…
好きだから頑張れる。
好きだから覚えていける。
『ケイト、お皿取って』
『はい』
チキンライスの乗ったお皿を左手で持ったクロアさんは、右手でフライパンに注いだ卵を軽く菜箸で混ぜると、手首を器用に使ってレモン型に丸め、綺麗なオムレツを作った。
そしてそれをチキンライスの上へ乗せ、ナイフで切り込みを入れる。
丸まった卵が綺麗に広がり、半熟卵の美味しそうなオムライスが出来上がった。
仕上げに特製のデミグラスソースを掛ければ完成だ。
『やってみる?』
『はい!』
クロアさんからフライパンを受け取って意気込んでオムレツ作りに取り掛かったが…見事に失敗した。
どうもナイフで切った時にふわりと広がる綺麗な半熟にならない。
小さくクスクスと笑ったクロアさんは、僕の作ったオムライスにデミグラスソースを掛けるとダイニングテーブルへと持って行ってしまった。
残ってるのはクロアさんが作った綺麗なオムライスだけだ。
まさか…
そう思って残されたオムライスを持って後を追うと、丁度クロアさんが僕のオムライスを一口食べた瞬間だった。
『クロアさん、そんな‥僕の失敗作食べなくても』
『自分の作ったの食べてもね』
“それに”と続けたクロアさんは、唯嬉しそうに微笑んだ。
『とっても美味しいよ、ケイト』
食後の紅茶は何にしようとか‥
在り来たりな話をしながら、お互いに作ったオムライスを食べあった。
いつもしている事なのに、何故かいつも以上に楽しかったのを覚えている。
ずっと続くとさえ思えた。
だから…
『あら、飲み物が無くなったわね』
そう言ってクロアさんがキッチンに飲み物を取りに行った瞬間、キッチンから何かが落ちた音とグラスが割れる音がした時はびっくりして現実に戻された感覚を覚えた。
そして‥駆け込んだキッチンでクロアさんが倒れているのを見た時は現実から離れたくなった。
『どう言うことですか』
《今聞いた通りだよ。うちで処方した薬を飲ませて寝かせておくだけで良い》
倒れたクロアさんに処方薬を飲ませて慌ててクロアさんの主治医に電話をした。
“直ぐ連れて行きますんで用意しておいて下さい”そう言った僕に主治医は信じられない事を次々と言った。耳を疑いたくなった。
《うちに連れて来られても、同じ事をするだけだよ…なら無駄に動かさない方が良い》
『何を言って‥』
《彼女を抑える薬は他に無いんだ…薬が抑えられない部分は彼女が自分で抑えるしか無い》
それはどういう事‥?
誰も…誰も苦しんでいるクロアさんを助ける事が出来無いって事…?
クロアさんは一人で‥
また‥一人で闘い続けるの…?
《静かに寝かせてあげなさい》
——御帰り…‥
オムライスを食べる度に思い出す。
あの日の小さな笑顔を——…‥
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