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24
目覚めぬ夢に‥
ずっと染まっていられたら…‥
=しゃぼんの国=
寒空の一月六日…エピファニアの街には今日いっぱいで片付けられ、棚や物置の奥底に仕舞われてしまうクリスマスイルミネーションがキラキラと輝いていた。
カフェで一人お茶をしていたアリスは、小さく頬を膨らませた。アテナ先輩のお気に入り、ホットチョコが冷えた体にほんのり染み渡っていた。
「でっかいつまらないです‥」
サンタクロースも魔女ベファーナも存在しないと知ってしまった年からこのイベントは全然楽しめない。小さい頃には確かに感じていたドキドキやワクワクが全くと言って良い程感じられないのだ。
まるで楽しい夢から覚めた様な…現実に返された感覚。
唯でさえ喪失感でつまらないというのに、今日は合同練習が無い上、皆さん忙しい様で…灯里先輩も藍華先輩もケイト先輩もアテナ先輩も…皆、忙しいなんてでっかい不運です。
『隣‥良いかな』
行儀悪くテーブルに肘をついて膨れていたら、聞き慣れた声にそう声を掛けられたら。
「ど、どうぞ!」
『ありがとう』
目にかかった綺麗な銀髪を耳に掛けながら椅子に座ったクロアさんは、注文を聞きに来た店員にレモンティーを頼んだ。
その身に纏われているのは、いつもの颯 の制服では無かった。
「お出かけですか?」
『そう‥ちょっと待ち合わせしててね』
何となくケイト先輩では無い気がした。
『アリスは‥今日は一人?』
「はい…合同練習はありませんし、皆さん忙しい様で」
『そう言えばケイトも何か忙しそうだったな』
“だから黙って来てしまった”と言うクロアを見て、アリスは“あぁ、やっぱりな”と一人で納得した。
そして次に疑問が浮かんだ。
「クロアさんってケイト先輩をどう思ってるんですか?」
『え?』
自然と出てしまった言葉だった。
慌てて口を抑えたが、もう遅い事は明白だった。ここはもう勢いで聞くしかない。
「ケイト先輩はクロアさんをとっても大切にしています」
『そうね』
「当たり前ですが、クロアさんが倒れてからは尚更です」
『そうね』
「でもクロアさんは黙って出掛けても平気なんですか?」
大切なクロアさんの体調を…クロアさん自身を心配しているケイト先輩に何も言わないなんて…
『そうする方が良いのよ』
そう言ったクロアさんは、ちょうど届いたレモンティーを一口口にした。
『ケイトが私から離れられなくなる』
「それは‥駄目な事なんですか?」
小さく微笑んだクロアは同時に困った様に眉を寄せた。
『いつの日か私が水先案内人 で無くなった時にケイトが困るわ』
びっくりした。
だってクロアさんの口からそんな言葉が出てくるなんて思わなかったから…
クロアさんはずっと水先案内人 を続けるものだと思い込んでいたから‥
「…辞めちゃうんですか?」
『“いつかそうなる”という話よ』
いつか…いつの日か、私もアテナ先輩と‥
そう考えてみたけど、何にも想像がつかなかった。
水の三大妖精やクロアさんが水先案内人 を辞める何て想像がつかなかった。
いつまでも…
今みたいな関係が続く様に思えた。
「待たせたね、クロンティア」
そう低い声がしたと同時にクロアさんの肩に大きな手が置かれた。
クロアさんに向けていた顔を上げてみれば、金髪の綺麗な顔立ちの男性がクロアさんの肩に手を置いて立っていた。
『ロード』
「待たせてしまって済まないね」
『いいえ、アリスが居たんで楽しかったですよ』
「オレンジぷらねっとか」
「は、はい、アリス・キャロルです」
アリスの制服を見て呟いた男に、アリスは立ち上がってそう挨拶した。
「クロンティアが世話になったね」
「そんな‥!」
微笑んだ男性が綺麗で…
何だか顔が赤くなりそうになった。
でっかい美形です‥
『じゃあアリス、私達そろそろ行くわね』
「は、はい」
綺麗に微笑んだクロアさんの腰に自然に男性の手が回されたが…不思議と厭らしくは見えなかった。
楽しそうに笑いあいながら歩く二人は、一枚の絵画の様だった。
二人がネオ・ヴェネツィアの人混みの中に消えていくまで見ていたアリスは、そっとホットチョコを口にした。
冷えきってしまったチョコの甘さが‥
何だか凄く甘く感じられた。
『シャボンの国のお姫様…ね』
アリスを驚かせる為の今日のパーティーの計画を楽しそうに話す受話器の向こうのケイトの声に、クロアは表情を緩めた。
《はい、皆で用意したんです。アテナさんがシャボンとキャンドル、藍華がテーブルと椅子と食器類、灯里はお菓子とジュースで、僕は料理だったんです》
『なるほどね‥だから朝から忙しく料理してたんだ』
《料理は得意では無いんで‥》
『ケイトは充分な腕前だよ…アリスはどうやって連れ出すの?』
《アテナさんが夜中にこっそり‥…クロアさん、本当に今日は帰れないんですか?》
『えぇ、そうなのよ…』
そうだった…今日は帰宅出来無い事を知らせる為に電話したんだった。
《折角のエピファニアなのに…夕食、クロアさんの好きなもの沢山作ったんですよ》
『御免ね、ケイト』
《冷蔵庫に入れておきます‥明日、一緒に食べましょうね》
『えぇ、そうね』
今日は一緒に夕食をとる事が出来無い。
早めに分かっていれば、ケイトをがっかりさせる事は無かったのにな…
『おやすみ、ケイト』
《おやすみなさい、クロアさん》
折角ケイトが用意してくれたのにと思ったが、真夜中のパーティーがあるから寂しくはないだろうとも思った。
そして…
今日という日をつまらないと言っていたアリスもきっと…
「終わったか、クロンティア」
『はい、ロード』
そう答えたクロアは、静かに受話器を置いた。
ロードがそっと手を取り、ソファーへ座らせてくれた。
「あの子は相変わらず君にべったりだな」
『…姉の様に思ってくれているのでしょう』
「姉ねぇ…それは大いに結構だが、ああ周りをうろうろされては邪魔だよ」
ロードがそう言うのも無理は無かった。
ロードは何においても他人に邪魔される事を嫌う。
『私の大事な子です…勘弁してやって下さい、ロード』
小さく笑ったロードは“困ったものだ”と洩らすとクロアの手をそっと取った。
「この家は気に入ったか?」
『はい、ロード』
「ではここに決まりだな」
“それと”と続けるロードの後ろに、夕闇に染まるネオ・ヴェネツィアが少し遠くに見えた。
モノクロの夕闇に色が欲しくなって眼帯を外したくなった。
「私はもう“ロード”じゃ無い」
ケイト…御免ね——…‥
.
目覚めぬ夢に‥
ずっと染まっていられたら…‥
=しゃぼんの国=
寒空の一月六日…エピファニアの街には今日いっぱいで片付けられ、棚や物置の奥底に仕舞われてしまうクリスマスイルミネーションがキラキラと輝いていた。
カフェで一人お茶をしていたアリスは、小さく頬を膨らませた。アテナ先輩のお気に入り、ホットチョコが冷えた体にほんのり染み渡っていた。
「でっかいつまらないです‥」
サンタクロースも魔女ベファーナも存在しないと知ってしまった年からこのイベントは全然楽しめない。小さい頃には確かに感じていたドキドキやワクワクが全くと言って良い程感じられないのだ。
まるで楽しい夢から覚めた様な…現実に返された感覚。
唯でさえ喪失感でつまらないというのに、今日は合同練習が無い上、皆さん忙しい様で…灯里先輩も藍華先輩もケイト先輩もアテナ先輩も…皆、忙しいなんてでっかい不運です。
『隣‥良いかな』
行儀悪くテーブルに肘をついて膨れていたら、聞き慣れた声にそう声を掛けられたら。
「ど、どうぞ!」
『ありがとう』
目にかかった綺麗な銀髪を耳に掛けながら椅子に座ったクロアさんは、注文を聞きに来た店員にレモンティーを頼んだ。
その身に纏われているのは、いつもの
「お出かけですか?」
『そう‥ちょっと待ち合わせしててね』
何となくケイト先輩では無い気がした。
『アリスは‥今日は一人?』
「はい…合同練習はありませんし、皆さん忙しい様で」
『そう言えばケイトも何か忙しそうだったな』
“だから黙って来てしまった”と言うクロアを見て、アリスは“あぁ、やっぱりな”と一人で納得した。
そして次に疑問が浮かんだ。
「クロアさんってケイト先輩をどう思ってるんですか?」
『え?』
自然と出てしまった言葉だった。
慌てて口を抑えたが、もう遅い事は明白だった。ここはもう勢いで聞くしかない。
「ケイト先輩はクロアさんをとっても大切にしています」
『そうね』
「当たり前ですが、クロアさんが倒れてからは尚更です」
『そうね』
「でもクロアさんは黙って出掛けても平気なんですか?」
大切なクロアさんの体調を…クロアさん自身を心配しているケイト先輩に何も言わないなんて…
『そうする方が良いのよ』
そう言ったクロアさんは、ちょうど届いたレモンティーを一口口にした。
『ケイトが私から離れられなくなる』
「それは‥駄目な事なんですか?」
小さく微笑んだクロアは同時に困った様に眉を寄せた。
『いつの日か私が
びっくりした。
だってクロアさんの口からそんな言葉が出てくるなんて思わなかったから…
クロアさんはずっと
「…辞めちゃうんですか?」
『“いつかそうなる”という話よ』
いつか…いつの日か、私もアテナ先輩と‥
そう考えてみたけど、何にも想像がつかなかった。
水の三大妖精やクロアさんが
いつまでも…
今みたいな関係が続く様に思えた。
「待たせたね、クロンティア」
そう低い声がしたと同時にクロアさんの肩に大きな手が置かれた。
クロアさんに向けていた顔を上げてみれば、金髪の綺麗な顔立ちの男性がクロアさんの肩に手を置いて立っていた。
『ロード』
「待たせてしまって済まないね」
『いいえ、アリスが居たんで楽しかったですよ』
「オレンジぷらねっとか」
「は、はい、アリス・キャロルです」
アリスの制服を見て呟いた男に、アリスは立ち上がってそう挨拶した。
「クロンティアが世話になったね」
「そんな‥!」
微笑んだ男性が綺麗で…
何だか顔が赤くなりそうになった。
でっかい美形です‥
『じゃあアリス、私達そろそろ行くわね』
「は、はい」
綺麗に微笑んだクロアさんの腰に自然に男性の手が回されたが…不思議と厭らしくは見えなかった。
楽しそうに笑いあいながら歩く二人は、一枚の絵画の様だった。
二人がネオ・ヴェネツィアの人混みの中に消えていくまで見ていたアリスは、そっとホットチョコを口にした。
冷えきってしまったチョコの甘さが‥
何だか凄く甘く感じられた。
『シャボンの国のお姫様…ね』
アリスを驚かせる為の今日のパーティーの計画を楽しそうに話す受話器の向こうのケイトの声に、クロアは表情を緩めた。
《はい、皆で用意したんです。アテナさんがシャボンとキャンドル、藍華がテーブルと椅子と食器類、灯里はお菓子とジュースで、僕は料理だったんです》
『なるほどね‥だから朝から忙しく料理してたんだ』
《料理は得意では無いんで‥》
『ケイトは充分な腕前だよ…アリスはどうやって連れ出すの?』
《アテナさんが夜中にこっそり‥…クロアさん、本当に今日は帰れないんですか?》
『えぇ、そうなのよ…』
そうだった…今日は帰宅出来無い事を知らせる為に電話したんだった。
《折角のエピファニアなのに…夕食、クロアさんの好きなもの沢山作ったんですよ》
『御免ね、ケイト』
《冷蔵庫に入れておきます‥明日、一緒に食べましょうね》
『えぇ、そうね』
今日は一緒に夕食をとる事が出来無い。
早めに分かっていれば、ケイトをがっかりさせる事は無かったのにな…
『おやすみ、ケイト』
《おやすみなさい、クロアさん》
折角ケイトが用意してくれたのにと思ったが、真夜中のパーティーがあるから寂しくはないだろうとも思った。
そして…
今日という日をつまらないと言っていたアリスもきっと…
「終わったか、クロンティア」
『はい、ロード』
そう答えたクロアは、静かに受話器を置いた。
ロードがそっと手を取り、ソファーへ座らせてくれた。
「あの子は相変わらず君にべったりだな」
『…姉の様に思ってくれているのでしょう』
「姉ねぇ…それは大いに結構だが、ああ周りをうろうろされては邪魔だよ」
ロードがそう言うのも無理は無かった。
ロードは何においても他人に邪魔される事を嫌う。
『私の大事な子です…勘弁してやって下さい、ロード』
小さく笑ったロードは“困ったものだ”と洩らすとクロアの手をそっと取った。
「この家は気に入ったか?」
『はい、ロード』
「ではここに決まりだな」
“それと”と続けるロードの後ろに、夕闇に染まるネオ・ヴェネツィアが少し遠くに見えた。
モノクロの夕闇に色が欲しくなって眼帯を外したくなった。
「私はもう“ロード”じゃ無い」
ケイト…御免ね——…‥
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