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23
何を綺麗と言うのか‥
それは私が決める事だ。
=綺麗な花束=
朝…クロアは決まってベッドに入ったまま、ゆるゆると伸びをする。その姿は日頃のクロアとはほど遠いものがあった。
ベッドから起き上がったクロアは、先ず部屋に備え付けられた流しで顔を洗い、歯を磨いた。
そしてクローゼットから颯 の制服を出して着替えると、髪をとかし、背の高いテーブルに置かれた眼帯を取って右目に付ける。
瞬間、とろんとした眠そうな目から、いつもの目に変わる…ここまできて漸くクロアは覚醒するのだ。
これで颯 の生ける伝説‥
クロンティア・K・ヴァータジアークの完成だ。
クロアは直ぐに朝食を作りに部屋を出た。が、直ぐに戻ってきてベッド脇に揃えられたヒールに足を滑り込ませた。目は覚めても頭はまだボーっとしている。
再度部屋を後にして下に降りると、直ぐに朝食の支度を始めた。
暫くして眠っているハヤトを肩に引っ掛けたケイトが降りてきた。
“おはようございます”と言って人懐っこそうな笑みを浮かべたケイトは、子犬にそっくりだ。
ケイトはテーブルに皿を並べると、今度はお湯を沸かして紅茶を淹れ始める。
それを見たクロアは、右手でフライパンを操りながら、左手で砂糖の瓶をケイトに差し出した。
ティースプーンにフォークにナイフ、ハヤト用のミルクを用意し、オムレツを皿に乗せれば朝食の完成だ。
オムレツだけじゃ足りないケイトの席にだけ、二つのパンが用意される。
ケイトの“いただきます”という元気な声で開始される朝食は、クロアだけはハヤトを起こす所から始める。
クロアが、テーブルの上の自分の皿の前で眠り続けるハヤトの背に手を添えて数回優しく叩いてやれば、ハヤトは直ぐに目を覚ました。そして一鳴きすると、直ぐに食事に取り掛かる。
こうしてまったりと朝食を取ると、ケイトはハヤトと共に合同練習に向かい、クロアは仕事に掛かる。
クロアの日々の仕事時間は、ケイトが纏めてくれたスケジュール表を基準にまわる。
一日平均五組の客を相手にし、倒れてからはやっていないが、以前は飛び込みの客もとっていた。
仕事と仕事の合間の空き時間や、昼休みは一人の時も多かったが、大抵は三大妖精の誰かと過ごした。
そんな同じ事の繰り返しだが、クロア個人は大好きで幸せな時間に次なる異変が起きたのは、合同練習終わりのケイトが灯里、藍華、アリスを連れて帰ってきた日の事だった。
『ただいま、クロアさん!』
そう帰ってきたケイトの声が耳に届いた瞬間、左目に何か物が入った様な感覚を覚えたクロアは、反射的に下を向いて目を瞑った。
微かな痛みはあったものの、実際異物は入っていない様だった。
目を開けて顔を上げた瞬間、クロアの世界は一変した。
『……御帰り‥四人共』
『…どうかしたんですか?』
「きゅ、急にごめんなさい」
「ご迷惑でしたか‥」
ケイトの一言に反応した三人が慌てだし、クロアは困った様に笑った。
『目にゴミが入ってびっくりしただけよ』
『…‥そうですか‥』
納得いってない様な顔のケイトを見て小さく溜め息を吐いたクロアは、ふと目の前に差し出された物に目を見開いた。
『アリスがクロアさんの為に摘んできてくれたんですよ』
差し出されたのは大きな花束だった。
いろんな種類の沢山花がアリスの小さな腕の中に収まっている。一生懸命摘んで持ってきてくれたんだなと思うと、自然と顔が綻んだ。
『綺麗ね』
「好きな花とか知らなかったんで全種類摘んできたらこんなにでっかくなっちゃいました」
『有難う、アリス』
「どの花が好きですか?コレとかでっかい綺麗ですよね」
「本当だ、クロアさんに似合う!」
「違う違う、クロアさんは青系よ」
『えぇ‥この花綺麗ね、ありが‥』
『いつから紫好きになったんですか?』
『…ぇ』
『その花、紫じゃないですか…クロアさん紫苦手でしたよね?』
ケイトが不思議そうな顔をしているのは当たり前だった。
私は紫が拒絶する程苦手なのだから‥クロアは慌てて手にしていた紫の花を抱きかかえた花束の中に埋めた。
『‥苦手といえば苦手よ。そうだな…私は青とか水色の方が‥』
『…どの花ですか?』
「ケイトちゃん?」
『青い花束なんて選び放題ですね、クロアさん』
「ケイト、あんた‥」
『どれが良いですか?』
藍華の言葉を遮ってそう言ったケイトは楽しそうに笑った。
ケイトは考えているんだろうか‥
クロアは花束を見据えると、一本の花を引き抜いた。
『この花が良いわ』
引き抜いた花をケイトの髪にそっと挿すと、笑っていたクロアは笑うのを止めた。
『クロアさん‥』
『‥何だ』
『これは薄紅‥薔薇色です』
薄‥紅…?
『形で選んだんだ』
『何で好きな寒色の花を選ばなかったんですか』
『それは‥』
『……嘘なんですよ』
『え‥?』
ふと目に入ったアリスの顔色が悪くなっていた。灯里や藍華を見てみれば、目を見開いて固まっている。
何で…
自分の髪に挿された花を手に取ったケイトは、そっとクロアの髪に花を挿し返した。
『この花はちゃんと青い。この花はコバルトブルーなんです』
嘘…?
クロアはケイトの目を見据えながら固く拳を握り締めた。
『…謀ったな、ケイト』
『様子が可笑しかったんで‥』
参ったな…気付かれるなんて…
そんなに‥そんなに近くに…‥
『さっき目に異物が入った様な感覚があって思わず目を瞑った』
小さく溜め息を吐いたクロアはそう言うと、ゆっくりと椅子に座り、そっと花束をテーブルの上へと置いた。
大切に大切に…
うちに花瓶なんかあっただろうか?
『開いたら世界がモノクロになっていた』
『…クロアさん……‥』
ケイトの後ろに立っていたアリスの泣きそうな顔が私の胸を酷く締め付けた。
「あの、クロアさん‥一時的なものという可能性は…」
『ん…無い気がするわ』
「そんな‥」
『でもね。可能性があると思わない?』
「はい‥?」
右目の眼帯をそっとなぞれば、灯里が小さく“ぁ…”と声を漏らした。
ケイトと灯里は私の右目を知っている。
藍華とアリスが不思議そうにしている中、クロアはそっと右目の眼帯に手を掛けた。傷を見た藍華とアリスが息を飲んだのが分かった。
今も痛々しく残る傷…水先案内人 には酷く似付かわしいものだ。
ゆっくりと開かれた瞼の下から淡い灰色の瞳が姿を現した。
「灰色‥?」
「でっかい‥綺麗です…」
そう零した藍華とアリスにクロアはにっこりと微笑んだ。
『どうですか‥クロアさん』
「クロアさん…」
『本当に暖色の無い…私の好きな色の綺麗な花束ね』
モノクロの世界とカラーの世界‥
両方を同時に見ているこの感覚は、酷く奇妙だった。
視覚の感覚も‥
映し出す色も違う噛み合わない両目。
こういう理由で視覚で酔うとは思わなかった。
でも…
『ではクロアさん‥病院に行きましょうか』
『はい、はい』
でも片目であれ、色鮮やかなこの美しい世界を見ていられるのならば、そんな事はどうでも良い事だった。
私がもう色が戻らないと悟った左目。
これが小さなカウントダウンだなんて…
誰が気付いただろう——…‥
.
何を綺麗と言うのか‥
それは私が決める事だ。
=綺麗な花束=
朝…クロアは決まってベッドに入ったまま、ゆるゆると伸びをする。その姿は日頃のクロアとはほど遠いものがあった。
ベッドから起き上がったクロアは、先ず部屋に備え付けられた流しで顔を洗い、歯を磨いた。
そしてクローゼットから
瞬間、とろんとした眠そうな目から、いつもの目に変わる…ここまできて漸くクロアは覚醒するのだ。
これで
クロンティア・K・ヴァータジアークの完成だ。
クロアは直ぐに朝食を作りに部屋を出た。が、直ぐに戻ってきてベッド脇に揃えられたヒールに足を滑り込ませた。目は覚めても頭はまだボーっとしている。
再度部屋を後にして下に降りると、直ぐに朝食の支度を始めた。
暫くして眠っているハヤトを肩に引っ掛けたケイトが降りてきた。
“おはようございます”と言って人懐っこそうな笑みを浮かべたケイトは、子犬にそっくりだ。
ケイトはテーブルに皿を並べると、今度はお湯を沸かして紅茶を淹れ始める。
それを見たクロアは、右手でフライパンを操りながら、左手で砂糖の瓶をケイトに差し出した。
ティースプーンにフォークにナイフ、ハヤト用のミルクを用意し、オムレツを皿に乗せれば朝食の完成だ。
オムレツだけじゃ足りないケイトの席にだけ、二つのパンが用意される。
ケイトの“いただきます”という元気な声で開始される朝食は、クロアだけはハヤトを起こす所から始める。
クロアが、テーブルの上の自分の皿の前で眠り続けるハヤトの背に手を添えて数回優しく叩いてやれば、ハヤトは直ぐに目を覚ました。そして一鳴きすると、直ぐに食事に取り掛かる。
こうしてまったりと朝食を取ると、ケイトはハヤトと共に合同練習に向かい、クロアは仕事に掛かる。
クロアの日々の仕事時間は、ケイトが纏めてくれたスケジュール表を基準にまわる。
一日平均五組の客を相手にし、倒れてからはやっていないが、以前は飛び込みの客もとっていた。
仕事と仕事の合間の空き時間や、昼休みは一人の時も多かったが、大抵は三大妖精の誰かと過ごした。
そんな同じ事の繰り返しだが、クロア個人は大好きで幸せな時間に次なる異変が起きたのは、合同練習終わりのケイトが灯里、藍華、アリスを連れて帰ってきた日の事だった。
『ただいま、クロアさん!』
そう帰ってきたケイトの声が耳に届いた瞬間、左目に何か物が入った様な感覚を覚えたクロアは、反射的に下を向いて目を瞑った。
微かな痛みはあったものの、実際異物は入っていない様だった。
目を開けて顔を上げた瞬間、クロアの世界は一変した。
『……御帰り‥四人共』
『…どうかしたんですか?』
「きゅ、急にごめんなさい」
「ご迷惑でしたか‥」
ケイトの一言に反応した三人が慌てだし、クロアは困った様に笑った。
『目にゴミが入ってびっくりしただけよ』
『…‥そうですか‥』
納得いってない様な顔のケイトを見て小さく溜め息を吐いたクロアは、ふと目の前に差し出された物に目を見開いた。
『アリスがクロアさんの為に摘んできてくれたんですよ』
差し出されたのは大きな花束だった。
いろんな種類の沢山花がアリスの小さな腕の中に収まっている。一生懸命摘んで持ってきてくれたんだなと思うと、自然と顔が綻んだ。
『綺麗ね』
「好きな花とか知らなかったんで全種類摘んできたらこんなにでっかくなっちゃいました」
『有難う、アリス』
「どの花が好きですか?コレとかでっかい綺麗ですよね」
「本当だ、クロアさんに似合う!」
「違う違う、クロアさんは青系よ」
『えぇ‥この花綺麗ね、ありが‥』
『いつから紫好きになったんですか?』
『…ぇ』
『その花、紫じゃないですか…クロアさん紫苦手でしたよね?』
ケイトが不思議そうな顔をしているのは当たり前だった。
私は紫が拒絶する程苦手なのだから‥クロアは慌てて手にしていた紫の花を抱きかかえた花束の中に埋めた。
『‥苦手といえば苦手よ。そうだな…私は青とか水色の方が‥』
『…どの花ですか?』
「ケイトちゃん?」
『青い花束なんて選び放題ですね、クロアさん』
「ケイト、あんた‥」
『どれが良いですか?』
藍華の言葉を遮ってそう言ったケイトは楽しそうに笑った。
ケイトは考えているんだろうか‥
クロアは花束を見据えると、一本の花を引き抜いた。
『この花が良いわ』
引き抜いた花をケイトの髪にそっと挿すと、笑っていたクロアは笑うのを止めた。
『クロアさん‥』
『‥何だ』
『これは薄紅‥薔薇色です』
薄‥紅…?
『形で選んだんだ』
『何で好きな寒色の花を選ばなかったんですか』
『それは‥』
『……嘘なんですよ』
『え‥?』
ふと目に入ったアリスの顔色が悪くなっていた。灯里や藍華を見てみれば、目を見開いて固まっている。
何で…
自分の髪に挿された花を手に取ったケイトは、そっとクロアの髪に花を挿し返した。
『この花はちゃんと青い。この花はコバルトブルーなんです』
嘘…?
クロアはケイトの目を見据えながら固く拳を握り締めた。
『…謀ったな、ケイト』
『様子が可笑しかったんで‥』
参ったな…気付かれるなんて…
そんなに‥そんなに近くに…‥
『さっき目に異物が入った様な感覚があって思わず目を瞑った』
小さく溜め息を吐いたクロアはそう言うと、ゆっくりと椅子に座り、そっと花束をテーブルの上へと置いた。
大切に大切に…
うちに花瓶なんかあっただろうか?
『開いたら世界がモノクロになっていた』
『…クロアさん……‥』
ケイトの後ろに立っていたアリスの泣きそうな顔が私の胸を酷く締め付けた。
「あの、クロアさん‥一時的なものという可能性は…」
『ん…無い気がするわ』
「そんな‥」
『でもね。可能性があると思わない?』
「はい‥?」
右目の眼帯をそっとなぞれば、灯里が小さく“ぁ…”と声を漏らした。
ケイトと灯里は私の右目を知っている。
藍華とアリスが不思議そうにしている中、クロアはそっと右目の眼帯に手を掛けた。傷を見た藍華とアリスが息を飲んだのが分かった。
今も痛々しく残る傷…
ゆっくりと開かれた瞼の下から淡い灰色の瞳が姿を現した。
「灰色‥?」
「でっかい‥綺麗です…」
そう零した藍華とアリスにクロアはにっこりと微笑んだ。
『どうですか‥クロアさん』
「クロアさん…」
『本当に暖色の無い…私の好きな色の綺麗な花束ね』
モノクロの世界とカラーの世界‥
両方を同時に見ているこの感覚は、酷く奇妙だった。
視覚の感覚も‥
映し出す色も違う噛み合わない両目。
こういう理由で視覚で酔うとは思わなかった。
でも…
『ではクロアさん‥病院に行きましょうか』
『はい、はい』
でも片目であれ、色鮮やかなこの美しい世界を見ていられるのならば、そんな事はどうでも良い事だった。
私がもう色が戻らないと悟った左目。
これが小さなカウントダウンだなんて…
誰が気付いただろう——…‥
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