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22
「クロア、ちょっと顔を貸せ!」
仕事と仕事の間の休憩時間にケイトとティータイムを取っていたクロアは、入ってくるなりそう大きな声で言った晃を見て数度まばたきを繰り返した。
=誕生日=
晃さんに引き摺られる様に連れ出されたクロアさんが少し心配になって後を追い掛けると、途中でアテナさんと合流した。
そのまま先頭を歩く晃さんについて行くと、着いたのはARIAカンパニーだった。
「ぁ、こんにちは!」
掃除をしていた灯里は、僕達に気付くとそう言って手を止めた。
「今日はどうしたんですか?」
「いや…たまたま通りかかっただけだから」
灯里の問いに、辺りを見回していた晃はそう何も無かった様に答えた。
「うそうそ。アリシアちゃんが居なくてガッカリしているのよね」
「アテナ!」
『アリシア?』
灯里に中に通してもらい、腰を落ち着けると、アテナさんは理由を分かってない僕等を見て小さく笑った。
「今日は何の日でしょう?」
『はい‥?』
「今日ですか?」
いきなり言われても…
今日何かあったっけ‥?
『……あぁ‥アリシアの誕生日か』
灯里が出してくれた紅茶を口にしながら、クロアさんがそう呟いた。
「アリシアさんの……あ、裏誕生日ですね!」
一年が二十四ヶ月ある火星 の暦では、誕生日は地球 の二年に一度しか祝えない。
だから火星 には十二ヶ月後の同じ日に誕生日を祝う“裏誕生日”という風習があった。
「そう…だから私達、アリシアちゃんにプレゼントを渡しに来たの」
「はひ~そうだったんですか」
「久々に取れた半休をアリシアちゃんのために使うなんて、晃ちゃんは本当に優しいわよね」
「私はただ、シケた顔して働いてるあいつをひやかしついでに、久々に取れた休みを自慢しに‥」
『あ、なるほど…だから晃さん、今朝僕に電話でクロアさんの空き時間を聞いたんですね』
朝から何かと思ったが、こういう事だったとは…
「私にも朝一で電話してきたのよ」
「えへへ、友達想いの素敵な照れ屋さんですね」
「すわっ!恥ずかしいセリフ禁止!!」
誕生日かぁ…いいなぁ…‥
……あれ‥?
僕、クロアさんの誕生日しか知らないや。
後で皆に聞こう‥
『で、アリシアは?』
「知らん」
『…居ないの?』
「だから事前に今日のお仕事の確認しようって言ったのに‥」
『確認‥取らなかったんだな』
「すわっ!んなもん、めんどくさい!」
言い切った。
晃さんらしいって言えば晃さんらしいけど‥
『全くもぅ…』
『灯里、アリシアさん何時上がり?』
「えっと…今日の営業は今のお客様が最後だから、十八時からの舟 協会の会合までフリーです」
『アテナ空き時間は?』
「えっと、一時間」
『ギリギリ…なんとかなりそうですね、クロアさん』
上手くいくだろうと踏んだその時、電話のコールが鳴り響いた。
灯里が駆け寄って受話器を取る。
「はいっ、ARIAカン‥」
《もしもし、灯里ちゃん?》
「アリシアさん!」
良く聞こえる電話だな…
と言うかこのタイミングで電話って嫌な予感する。
“今から帰るわね”とかだと良いんだけど‥
《今リアルト橋で飛び込みのお客様が入ったの…舟 協会の会合まで時間ギリギリになるから》
「え?」
《営業が終わったら今日の会場まで送り迎えする役員の方と待ち合わせ場所に直接向かうわね。それから、会合は深夜終わりだからこのまま直帰になります》
「あっ」
《それじゃ、お客様をお待たせしてるから》
「はひっ」
終わった。
灯里が口を挟む間も無く終わった。
“プー、プー、プー”と電話が切れた音が響く中、灯里は受話器そっと置いた。
静寂が辺りを包み込む。
「晃ちゃ‥」
「アテナ、そろそろ仕事に戻る時間じゃないのか?」
「ぁ‥うん」
腕時計に目を落としたアテナが“じゃ、行くね”と言えば、晃はニコッと歯を見せて笑った。
「おうっ、おつかれ」
『おつかれ、アテナ』
クロアさんがそう言うのと同時に、僕は小さく頭を下げた。
「さて…私も夜から社内の研修会がはいってるし、ぼちぼち帰るとするか。お前も戻った方が良いだろう」
『そうね…一旦舟 を取りに行かなくちゃ』
紅茶を最後に一口口に運んだクロアは、そう言うと立ち上がり、晃もそれに続く様に席を立った。
「プレゼント置いてくから、明日にでも渡してやってくれ」
赤いリボンの付いた小箱がコツンとテーブルに置かれた。
ケイトは手にしていたティーカップの中身を一気に飲み干すと、慌てて席を立った。
『残っても良いわよ』
『でも…』
迷う‥灯里と練習したいけど、クロアさんの体調も気になる。
急に崩れたら大変だし、ここは一緒に帰…
「晃さん!」
唐突にそう叫んだのは灯里だった。
「私この後自主トレしたいんですけど、付き合っていただけませんか?」
灯里の言葉に、クロアは何か良い事を思い付いた様に笑った。
『それは良い…ケイト、お前も行っておいで』
『でも‥』
『帰っても自主トレ以外やる事が無いだろう…だったら晃に指導してもらっておいで』
クロアはテーブルに置かれたプレゼントの小箱を手にすると、それを晃に握らせた。
『アリシアに会っておいで、晃。大丈夫、目が六個あるからな』
“きっと見つかるよ”と言うクロアさんの言った六個とは晃さんと灯里と僕の目だろう。
いつの間にか勘定に入ってる‥
まぁ…仕方無いか。
「言っとくが私の指導は厳しいぞ」
嬉しそうに笑った晃さんがそう言い、僕と灯里は声を揃えて返事をした。
仕事の為、颯 に帰って行くクロアさんを見送ると、僕等は直ぐに灯里の舟 で出掛けた。
街中の水路を回ってアリシアさんを探し回ったが、中々見付からない。
そうこうしてるうちに辺りは夕闇に染まり、街灯に灯が灯りだした。
「ありがとう、二人共…ぼちぼち戻ろう」
二人に迷惑をかけて‥
私は何をやってるんだろう。
「晃さん‥」
「本当はさ…今日はプレゼントを渡すのが目的じゃなかったんだ」
プレゼントはアリシアに渡ればそれで良かった。
私はただ…
「一人前に昇格してから無我夢中で頑張って……気が付くと私達は水の三大妖精なんて呼ばれてて…‥帰ってきたクロアも予約が殺到してて、四人共仕事で大忙しになってた。
それからは仕事の合間に何とか二人や三人で会う事は出来ても、四人で会える時間はめったにできなくなっちまった…」
夢を追い掛けてひたすら頑張った。
才能のある三人において行かれない様にひたすら頑張った。
「だからさ‥凄く思うんだ」
気付いたら…
「四人で逢える時間は‥とても大切なものなんだって」
気付いたら‥四人で居られなくなっていた。
だから…
「何でかな‥どうしても今日は久々に四人で逢いたい気分だったんだ」
ふいに逢いたくなる。
我が儘だと分かっていても、四人で逢いたくなる。
「…ったく情けない。小さな女の子じゃあるまいしな」
『そんな事無いと思います』
「え‥」
後ろからの声に振り向くと、ケイトちゃんと目が合った。
『大好きな人と離れてしまったら逢いたくなるのが当たり前なんです。逢える距離なのに逢えないもどかしさの中なら尚の事です…諦めがつかないですから!』
楽しそうに笑ったケイトちゃんは“情けなくなんか無いです”と言うと、今度は困った様に笑った。
『僕なんかもうクロアさんに逢いたくなってますよ』
「ケイトちゃん‥」
『何、灯里?』
「素敵な寂しがり屋さんだね」
『灯里…恥ずかしいセリフ禁止』
頬を赤く染めるケイトちゃんはいつものサバサバした雰囲気とは違く、何だか可愛らしかった。
「ケイトちゃん‥」
『晃さん、良かったら“ケイト”って呼んで下さい』
「ケイト…」
『はい!』
「ありがとうな」
何だか‥この子だから、クロアの側に居られるのだと思った。
大抵の子は今のクロアは冷たいと感じるだろうから…
本当にクロアを好いているケイトだからこそ、クロアと一緒に居られる。
クロア…
お前も良い後輩をもったな‥
『仕方の無い子だな』
声に反応して振り向けば、舟 に乗ったクロアがいた。
夕陽を浴びた銀髪がキラキラと輝いて綺麗だった。
『クロアさん!』
ケイトの表情が輝いたのが良く分かった。
ケイトは舟底を蹴ると、クロアの舟 に飛び移った。
「すわっ!飛び移るとは何事か!!」
『す、済みません』
『本当に仕方の無い子‥』
困った様に笑ったクロアが内心嬉しいであろう事なんて直ぐに分かった。
「クロア、営業は終わったのか?」
『今は舟 協会の会合に向かう途中』
小さく頷いてそう言ったクロアは、舟底に降りると、ケイトの頭を優しく撫でた。
クロアの前では子犬みたいだな…
『晃さん!』
「ん‥?」
急に声を上げたケイトが指差す先を見れば、ポールに座ったアテナがこっちに向かって手を振っていた。何か飲んでいる様だ。
「アテナ…」
『四人にはなれなかったですけど…仕事の合間以外で三人ですよ!』
確かにそうだった。灯里ちゃんが舟 を近付けてくれ、クロアがそれに続いた。
「営業‥終わったんだな」
「うん、今から帰るところ…今日は残念だったわね」
『仕方無いさ』
「お互い忙しい身だからな」
『私はそろそろ向かわないとな』
そう漏らしたクロアは、オールを構えるとケイトを見据えた。
『一緒に来るか、未来の颯 ?』
『はい、クロアさ‥』
「あぁ————!!」
灯里の叫び声に、全員がビクリと肩を震わせて驚いた。
「な‥ッ、何だ何だ?!」
『どうした、灯里?』
そうケイトが聞いたが、灯里ちゃんは何も答えずに、唯一点を指差している。
指が指し示す方はクロアの向こう側だった。
「あら?」
「アリ…シア?」
夕陽を背負い、長い金髪を揺らして、先程クロアが来た方からアリシアはやってきた。
アリシアの舟 に乗っているのはお客様では無く、二人の協会員だった。
私はとっさにプレゼント片手に立ち上がった。
「協会員の皆様、姫屋所属の晃・E・フェラーリです…一瞬のご無礼をお許し下さい!」
後で怒られようが、知った事では無い。私は今日、この為に後輩を連れ回したんだ。
「受け取れ、アリシア!!」
全力で投げた。
勢いをつけすぎて前のめりに倒れたが、そんなの関係無かった。
「アリシアちゃん、お誕生日おめでとう!」
アテナの声がして慌てて顔を上げると、アリシアがプレゼントを手にした手を大きく振っていた。
隣をケイトを乗せたクロアの舟 が並んで進んでいる。
協会員より後に行くわけにはいかないな‥
「凄い…凄いです」
私とアテナの名を口にした灯里ちゃんは目を輝かせた。
「みらくるです!」
思わず二人で笑ってしまった。
ミラクル…か‥
「大袈裟だな、灯里ちゃんは」
でも…うん。そうだな‥
一瞬であれど、今日四人が揃うとは思っていなかった。
これは本当に…
「本当に奇跡だよな」
四人ならまた‥
奇跡が起こる気がする——…‥
.
「クロア、ちょっと顔を貸せ!」
仕事と仕事の間の休憩時間にケイトとティータイムを取っていたクロアは、入ってくるなりそう大きな声で言った晃を見て数度まばたきを繰り返した。
=誕生日=
晃さんに引き摺られる様に連れ出されたクロアさんが少し心配になって後を追い掛けると、途中でアテナさんと合流した。
そのまま先頭を歩く晃さんについて行くと、着いたのはARIAカンパニーだった。
「ぁ、こんにちは!」
掃除をしていた灯里は、僕達に気付くとそう言って手を止めた。
「今日はどうしたんですか?」
「いや…たまたま通りかかっただけだから」
灯里の問いに、辺りを見回していた晃はそう何も無かった様に答えた。
「うそうそ。アリシアちゃんが居なくてガッカリしているのよね」
「アテナ!」
『アリシア?』
灯里に中に通してもらい、腰を落ち着けると、アテナさんは理由を分かってない僕等を見て小さく笑った。
「今日は何の日でしょう?」
『はい‥?』
「今日ですか?」
いきなり言われても…
今日何かあったっけ‥?
『……あぁ‥アリシアの誕生日か』
灯里が出してくれた紅茶を口にしながら、クロアさんがそう呟いた。
「アリシアさんの……あ、裏誕生日ですね!」
一年が二十四ヶ月ある
だから
「そう…だから私達、アリシアちゃんにプレゼントを渡しに来たの」
「はひ~そうだったんですか」
「久々に取れた半休をアリシアちゃんのために使うなんて、晃ちゃんは本当に優しいわよね」
「私はただ、シケた顔して働いてるあいつをひやかしついでに、久々に取れた休みを自慢しに‥」
『あ、なるほど…だから晃さん、今朝僕に電話でクロアさんの空き時間を聞いたんですね』
朝から何かと思ったが、こういう事だったとは…
「私にも朝一で電話してきたのよ」
「えへへ、友達想いの素敵な照れ屋さんですね」
「すわっ!恥ずかしいセリフ禁止!!」
誕生日かぁ…いいなぁ…‥
……あれ‥?
僕、クロアさんの誕生日しか知らないや。
後で皆に聞こう‥
『で、アリシアは?』
「知らん」
『…居ないの?』
「だから事前に今日のお仕事の確認しようって言ったのに‥」
『確認‥取らなかったんだな』
「すわっ!んなもん、めんどくさい!」
言い切った。
晃さんらしいって言えば晃さんらしいけど‥
『全くもぅ…』
『灯里、アリシアさん何時上がり?』
「えっと…今日の営業は今のお客様が最後だから、十八時からの
『アテナ空き時間は?』
「えっと、一時間」
『ギリギリ…なんとかなりそうですね、クロアさん』
上手くいくだろうと踏んだその時、電話のコールが鳴り響いた。
灯里が駆け寄って受話器を取る。
「はいっ、ARIAカン‥」
《もしもし、灯里ちゃん?》
「アリシアさん!」
良く聞こえる電話だな…
と言うかこのタイミングで電話って嫌な予感する。
“今から帰るわね”とかだと良いんだけど‥
《今リアルト橋で飛び込みのお客様が入ったの…
「え?」
《営業が終わったら今日の会場まで送り迎えする役員の方と待ち合わせ場所に直接向かうわね。それから、会合は深夜終わりだからこのまま直帰になります》
「あっ」
《それじゃ、お客様をお待たせしてるから》
「はひっ」
終わった。
灯里が口を挟む間も無く終わった。
“プー、プー、プー”と電話が切れた音が響く中、灯里は受話器そっと置いた。
静寂が辺りを包み込む。
「晃ちゃ‥」
「アテナ、そろそろ仕事に戻る時間じゃないのか?」
「ぁ‥うん」
腕時計に目を落としたアテナが“じゃ、行くね”と言えば、晃はニコッと歯を見せて笑った。
「おうっ、おつかれ」
『おつかれ、アテナ』
クロアさんがそう言うのと同時に、僕は小さく頭を下げた。
「さて…私も夜から社内の研修会がはいってるし、ぼちぼち帰るとするか。お前も戻った方が良いだろう」
『そうね…一旦
紅茶を最後に一口口に運んだクロアは、そう言うと立ち上がり、晃もそれに続く様に席を立った。
「プレゼント置いてくから、明日にでも渡してやってくれ」
赤いリボンの付いた小箱がコツンとテーブルに置かれた。
ケイトは手にしていたティーカップの中身を一気に飲み干すと、慌てて席を立った。
『残っても良いわよ』
『でも…』
迷う‥灯里と練習したいけど、クロアさんの体調も気になる。
急に崩れたら大変だし、ここは一緒に帰…
「晃さん!」
唐突にそう叫んだのは灯里だった。
「私この後自主トレしたいんですけど、付き合っていただけませんか?」
灯里の言葉に、クロアは何か良い事を思い付いた様に笑った。
『それは良い…ケイト、お前も行っておいで』
『でも‥』
『帰っても自主トレ以外やる事が無いだろう…だったら晃に指導してもらっておいで』
クロアはテーブルに置かれたプレゼントの小箱を手にすると、それを晃に握らせた。
『アリシアに会っておいで、晃。大丈夫、目が六個あるからな』
“きっと見つかるよ”と言うクロアさんの言った六個とは晃さんと灯里と僕の目だろう。
いつの間にか勘定に入ってる‥
まぁ…仕方無いか。
「言っとくが私の指導は厳しいぞ」
嬉しそうに笑った晃さんがそう言い、僕と灯里は声を揃えて返事をした。
仕事の為、
街中の水路を回ってアリシアさんを探し回ったが、中々見付からない。
そうこうしてるうちに辺りは夕闇に染まり、街灯に灯が灯りだした。
「ありがとう、二人共…ぼちぼち戻ろう」
二人に迷惑をかけて‥
私は何をやってるんだろう。
「晃さん‥」
「本当はさ…今日はプレゼントを渡すのが目的じゃなかったんだ」
プレゼントはアリシアに渡ればそれで良かった。
私はただ…
「一人前に昇格してから無我夢中で頑張って……気が付くと私達は水の三大妖精なんて呼ばれてて…‥帰ってきたクロアも予約が殺到してて、四人共仕事で大忙しになってた。
それからは仕事の合間に何とか二人や三人で会う事は出来ても、四人で会える時間はめったにできなくなっちまった…」
夢を追い掛けてひたすら頑張った。
才能のある三人において行かれない様にひたすら頑張った。
「だからさ‥凄く思うんだ」
気付いたら…
「四人で逢える時間は‥とても大切なものなんだって」
気付いたら‥四人で居られなくなっていた。
だから…
「何でかな‥どうしても今日は久々に四人で逢いたい気分だったんだ」
ふいに逢いたくなる。
我が儘だと分かっていても、四人で逢いたくなる。
「…ったく情けない。小さな女の子じゃあるまいしな」
『そんな事無いと思います』
「え‥」
後ろからの声に振り向くと、ケイトちゃんと目が合った。
『大好きな人と離れてしまったら逢いたくなるのが当たり前なんです。逢える距離なのに逢えないもどかしさの中なら尚の事です…諦めがつかないですから!』
楽しそうに笑ったケイトちゃんは“情けなくなんか無いです”と言うと、今度は困った様に笑った。
『僕なんかもうクロアさんに逢いたくなってますよ』
「ケイトちゃん‥」
『何、灯里?』
「素敵な寂しがり屋さんだね」
『灯里…恥ずかしいセリフ禁止』
頬を赤く染めるケイトちゃんはいつものサバサバした雰囲気とは違く、何だか可愛らしかった。
「ケイトちゃん‥」
『晃さん、良かったら“ケイト”って呼んで下さい』
「ケイト…」
『はい!』
「ありがとうな」
何だか‥この子だから、クロアの側に居られるのだと思った。
大抵の子は今のクロアは冷たいと感じるだろうから…
本当にクロアを好いているケイトだからこそ、クロアと一緒に居られる。
クロア…
お前も良い後輩をもったな‥
『仕方の無い子だな』
声に反応して振り向けば、
夕陽を浴びた銀髪がキラキラと輝いて綺麗だった。
『クロアさん!』
ケイトの表情が輝いたのが良く分かった。
ケイトは舟底を蹴ると、クロアの
「すわっ!飛び移るとは何事か!!」
『す、済みません』
『本当に仕方の無い子‥』
困った様に笑ったクロアが内心嬉しいであろう事なんて直ぐに分かった。
「クロア、営業は終わったのか?」
『今は
小さく頷いてそう言ったクロアは、舟底に降りると、ケイトの頭を優しく撫でた。
クロアの前では子犬みたいだな…
『晃さん!』
「ん‥?」
急に声を上げたケイトが指差す先を見れば、ポールに座ったアテナがこっちに向かって手を振っていた。何か飲んでいる様だ。
「アテナ…」
『四人にはなれなかったですけど…仕事の合間以外で三人ですよ!』
確かにそうだった。灯里ちゃんが
「営業‥終わったんだな」
「うん、今から帰るところ…今日は残念だったわね」
『仕方無いさ』
「お互い忙しい身だからな」
『私はそろそろ向かわないとな』
そう漏らしたクロアは、オールを構えるとケイトを見据えた。
『一緒に来るか、未来の
『はい、クロアさ‥』
「あぁ————!!」
灯里の叫び声に、全員がビクリと肩を震わせて驚いた。
「な‥ッ、何だ何だ?!」
『どうした、灯里?』
そうケイトが聞いたが、灯里ちゃんは何も答えずに、唯一点を指差している。
指が指し示す方はクロアの向こう側だった。
「あら?」
「アリ…シア?」
夕陽を背負い、長い金髪を揺らして、先程クロアが来た方からアリシアはやってきた。
アリシアの
私はとっさにプレゼント片手に立ち上がった。
「協会員の皆様、姫屋所属の晃・E・フェラーリです…一瞬のご無礼をお許し下さい!」
後で怒られようが、知った事では無い。私は今日、この為に後輩を連れ回したんだ。
「受け取れ、アリシア!!」
全力で投げた。
勢いをつけすぎて前のめりに倒れたが、そんなの関係無かった。
「アリシアちゃん、お誕生日おめでとう!」
アテナの声がして慌てて顔を上げると、アリシアがプレゼントを手にした手を大きく振っていた。
隣をケイトを乗せたクロアの
協会員より後に行くわけにはいかないな‥
「凄い…凄いです」
私とアテナの名を口にした灯里ちゃんは目を輝かせた。
「みらくるです!」
思わず二人で笑ってしまった。
ミラクル…か‥
「大袈裟だな、灯里ちゃんは」
でも…うん。そうだな‥
一瞬であれど、今日四人が揃うとは思っていなかった。
これは本当に…
「本当に奇跡だよな」
四人ならまた‥
奇跡が起こる気がする——…‥
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