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21
「何…してるの‥?」
そう、器用に橋の細い手摺りに立った少女に声を掛けた。
そんな私に少女は…
『さぼってるの』
そう淡々と返すと、肩に担いでいた小さな荷物を担ぎ直した。
=シュヴァリエ=
カウンターを拭き終えて一つ息を吐いた私は、長い髪を纏めていたヘアゴムを取った。
髪が微かに風に靡く。
「社長、お掃除終わったんでお散歩に行きませんか?」
エプロンを取りながらそう聞けば、おろしたての自分のデスクに寝転がっていたアリア社長は嬉しそうに飛び上がった。
「ぷいにゅ!」
この安心する可愛い声をこれから毎日聞けると思ったら心が和んだ。
帰りに夕飯の食材を買って来れる様に支度を済ませると、直ぐに舟 で出掛けた。ゆっくりゆっくり漕ぎ、ネオ・ヴェネツィアを回る。
ふと水路に架かった橋の手摺りに立った少女を見た…気がした。
驚いて漕ぐのを止めてしまったが、舟 は減速しながら橋の下を通過する。通り過ぎた橋を振り返ると、それは見間違えでは無かった。確かに橋の手摺りには少女が立っていたのだ。
私はそっと舟 を橋の近くに戻すと、少女を見上げた。
「何…してるの‥?」
『さぼってるの』
淡々とした声だった。
「何をさぼったの?」
『護身術の稽古』
「そう…‥そこに立っては危ないと思うんだけど」
『大丈夫だよ』
そう言って肩に担いでいた小さな荷物を舟 目掛けて落とした少女は“見てて”と言うと、橋の手摺りという極めて狭い場所で何かをし始めた。
古い映画で見た事のある動きだった。
「拳法‥?」
『一応そうだよ。初めたばっかりだからヘタクソだけど』
「そうかもしれないけど、一つずつが丁寧だったわ」
確かに少しぎこちない気がしたが、少女が出す一手一手がとても丁寧なのは分かった。
『…ありがとう‥』
動きを止めた少女は、そう小さく漏らした。
瞬間、私は少し良い事を思い付いた。
「ねぇ、提案なんだけど‥」
『提案?』
「私達とお散歩しない?」
“私達?”と不思議そうに返す少女に、アリア社長が可愛らしく鳴いて答えた。
「私の舟 でネオ・ヴェネツィアお散歩しましょ」
『……』
「水先案内人 の舟 に乗った事あるかしら?」
『……無い』
“じゃあ、是非どうぞ”と進めると、少女は橋の手摺りを離れて舟 の上へと飛び降りた。
高い所から飛び降りた割にはあまり舟 は揺れず、静かだった。
「ぷいにゃ!」
大人しく座った少女の膝にアリア社長が飛び乗り、少女は黙ってアリア社長の頭を撫でた。
「何でさぼっちゃったの?」
少女は一瞬伏せていた顔を上げて私を見たが、直ぐに膝の上のアリア社長に向けて顔を伏せた。
『剣術の方が好きなの。だから手ぶらは違和感がある』
「貴女、剣も扱えるの?」
『うん…刀は無理だけど』
「刀と剣って扱い方が違うの?」
『違うよ。そもそも刃の作りが違うんだから』
そう言われてみればそうだったかもしれない。
私は漕ぐのを止めると、しゃがみ込んで少女に視線を合わせた。
「凄いのね」
『凄くなんか無いよ。剣術出来ても勉強とか家事はさっぱりだもん…と言うか嫌いだし……人間として駄目駄目だよ』
「そんな事無いわ」
そんな事無い。
貴女は素敵なものを持っている‥
「私は凄く素敵な騎士さんだと思うわ」
貴女にしか出来無い事が必ずある。
それは素晴らしい事なんだから、磨き通せば良い。
小さく笑った私は“それにね”と続けた…
「勉強や家事なんかは頑張れば自分に必要な分だけ出来るものよ」
努力というものはいつだって人の未来を支える。
『お姉さんは…水先案内人 になりたくてなったの?』
「えぇ、勿論」
『僕はなりたいものが無いんだ……何にも心が動かない‥』
「……そう‥」
『でもお姉さんは素敵だと思った…舟 で水上を進むのも素敵だと思った‥』
少女は伏せていた顔を上げると、真っ直ぐに私を見据えた。
『僕、水先案内人 になりたい……かもしれない』
「あら」
『でも良く分からないんだ…こんな事初めてだから……だから今だけの感情かもしれない』
“でも”と続けた少女の目には迷いが無い様にも見えた、キラキラと…唯真っ直ぐに見えた。
『いつか…いつか貴女のいる会社を訪ねるかも‥しれない…』
凄く嬉しかった。
始まったばかりの世界に鮮明な色が付いた瞬間だった。
「待ってるわ」
小さな騎士さん——…‥
「あ…」
アリア社長と二人、星空を眺めながらふと私はそう漏らした。
アリア社長が不思議そうに首を傾げる中、私は困った様に笑った。
「にゅ?」
「あの子に名前を聞くのを忘れちゃったわ」
どうして忘れていたのかしら?
不思議…大切な事なのに‥
「星が綺麗ですね、社長」
「ぷいにゅ」
「あの子は…」
いつの日かあの子は来るとおもいますか‥?
ねぇ…
「社長」
「ぷい?」
「明日から“ARIAカンパニー”がはじまります」
私はねこさん…アリア社長の見つめる先を一緒に見る事にした。アリア社長と歩むと決めた。
明日からそれが本当に始まる‥
「アリア社長と私だけだけど…きっと大丈夫よね、アリア社長」
可愛く元気に返事をしたアリア社長が膝の上に乗り、私は空を仰ぎながら、社長の頭を撫でた。
「綺麗ですね、社長…」
地球 では見れなくなってしまった星空。
観光客には火星 の魅力の一つなのだろう。
「…エトワール…‥」
ふとその言葉が頭に浮かんだ。
あぁ…
きっとピッタリに違いない。
「あの子の通り名は星屑にしましょうか、アリア社長‥」
月の様に強く照らす事は出来無いけど‥
火星 を包み込む星屑…
護る力を持ってる貴女は‥
私達を優しく包み込む‥
星空の様だわ…‥
ねぇ‥
私達の幻想——…‥
.
「何…してるの‥?」
そう、器用に橋の細い手摺りに立った少女に声を掛けた。
そんな私に少女は…
『さぼってるの』
そう淡々と返すと、肩に担いでいた小さな荷物を担ぎ直した。
=シュヴァリエ=
カウンターを拭き終えて一つ息を吐いた私は、長い髪を纏めていたヘアゴムを取った。
髪が微かに風に靡く。
「社長、お掃除終わったんでお散歩に行きませんか?」
エプロンを取りながらそう聞けば、おろしたての自分のデスクに寝転がっていたアリア社長は嬉しそうに飛び上がった。
「ぷいにゅ!」
この安心する可愛い声をこれから毎日聞けると思ったら心が和んだ。
帰りに夕飯の食材を買って来れる様に支度を済ませると、直ぐに
ふと水路に架かった橋の手摺りに立った少女を見た…気がした。
驚いて漕ぐのを止めてしまったが、
私はそっと
「何…してるの‥?」
『さぼってるの』
淡々とした声だった。
「何をさぼったの?」
『護身術の稽古』
「そう…‥そこに立っては危ないと思うんだけど」
『大丈夫だよ』
そう言って肩に担いでいた小さな荷物を
古い映画で見た事のある動きだった。
「拳法‥?」
『一応そうだよ。初めたばっかりだからヘタクソだけど』
「そうかもしれないけど、一つずつが丁寧だったわ」
確かに少しぎこちない気がしたが、少女が出す一手一手がとても丁寧なのは分かった。
『…ありがとう‥』
動きを止めた少女は、そう小さく漏らした。
瞬間、私は少し良い事を思い付いた。
「ねぇ、提案なんだけど‥」
『提案?』
「私達とお散歩しない?」
“私達?”と不思議そうに返す少女に、アリア社長が可愛らしく鳴いて答えた。
「私の
『……』
「
『……無い』
“じゃあ、是非どうぞ”と進めると、少女は橋の手摺りを離れて
高い所から飛び降りた割にはあまり
「ぷいにゃ!」
大人しく座った少女の膝にアリア社長が飛び乗り、少女は黙ってアリア社長の頭を撫でた。
「何でさぼっちゃったの?」
少女は一瞬伏せていた顔を上げて私を見たが、直ぐに膝の上のアリア社長に向けて顔を伏せた。
『剣術の方が好きなの。だから手ぶらは違和感がある』
「貴女、剣も扱えるの?」
『うん…刀は無理だけど』
「刀と剣って扱い方が違うの?」
『違うよ。そもそも刃の作りが違うんだから』
そう言われてみればそうだったかもしれない。
私は漕ぐのを止めると、しゃがみ込んで少女に視線を合わせた。
「凄いのね」
『凄くなんか無いよ。剣術出来ても勉強とか家事はさっぱりだもん…と言うか嫌いだし……人間として駄目駄目だよ』
「そんな事無いわ」
そんな事無い。
貴女は素敵なものを持っている‥
「私は凄く素敵な騎士さんだと思うわ」
貴女にしか出来無い事が必ずある。
それは素晴らしい事なんだから、磨き通せば良い。
小さく笑った私は“それにね”と続けた…
「勉強や家事なんかは頑張れば自分に必要な分だけ出来るものよ」
努力というものはいつだって人の未来を支える。
『お姉さんは…
「えぇ、勿論」
『僕はなりたいものが無いんだ……何にも心が動かない‥』
「……そう‥」
『でもお姉さんは素敵だと思った…
少女は伏せていた顔を上げると、真っ直ぐに私を見据えた。
『僕、
「あら」
『でも良く分からないんだ…こんな事初めてだから……だから今だけの感情かもしれない』
“でも”と続けた少女の目には迷いが無い様にも見えた、キラキラと…唯真っ直ぐに見えた。
『いつか…いつか貴女のいる会社を訪ねるかも‥しれない…』
凄く嬉しかった。
始まったばかりの世界に鮮明な色が付いた瞬間だった。
「待ってるわ」
小さな騎士さん——…‥
「あ…」
アリア社長と二人、星空を眺めながらふと私はそう漏らした。
アリア社長が不思議そうに首を傾げる中、私は困った様に笑った。
「にゅ?」
「あの子に名前を聞くのを忘れちゃったわ」
どうして忘れていたのかしら?
不思議…大切な事なのに‥
「星が綺麗ですね、社長」
「ぷいにゅ」
「あの子は…」
いつの日かあの子は来るとおもいますか‥?
ねぇ…
「社長」
「ぷい?」
「明日から“ARIAカンパニー”がはじまります」
私はねこさん…アリア社長の見つめる先を一緒に見る事にした。アリア社長と歩むと決めた。
明日からそれが本当に始まる‥
「アリア社長と私だけだけど…きっと大丈夫よね、アリア社長」
可愛く元気に返事をしたアリア社長が膝の上に乗り、私は空を仰ぎながら、社長の頭を撫でた。
「綺麗ですね、社長…」
観光客には
「…エトワール…‥」
ふとその言葉が頭に浮かんだ。
あぁ…
きっとピッタリに違いない。
「あの子の通り名は星屑にしましょうか、アリア社長‥」
月の様に強く照らす事は出来無いけど‥
護る力を持ってる貴女は‥
私達を優しく包み込む‥
星空の様だわ…‥
ねぇ‥
私達の幻想——…‥
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