burrasca
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
19
『社長、ご飯ですよ!』
そうハヤトを呼びながらフライパンのオムレツをひっくり返したケイトは、皿に盛り付けるとテーブルへと運んだ。その足取りは、心なしかいつもより弾んでいて軽い。
『御機嫌ね』
自分の席へと着いたクロアがそう言えば、ケイトは嬉しそうに微笑んだ。
『初めての指名ですから!』
=小さな紅葉=
その予約が入ったのは三ヶ月も前の話だった。
クロアさんへの予約の電話を次々に受けている中、その電話はきた。
最初は思わず聞き間違えかと思った。半人前の自分に予約が入ると夢にも思っていなかったのだ。
何故三ヶ月も前に電話がきたのか…
理由は簡単だ。
半人前の僕がお客様を舟 に乗せるには、指導員であるクロアさんの同乗が必要だ。
だから僕への予約なのに三ヶ月前に連絡がきた。
正直ギリギリだった。
後数日遅れていたらクロアさんのスケジュールがいっぱいで断らなくてはいけなくなる所だった。
それ程クロアさんは凄いのだ。
いつかこんな風になれたら…
『お客様がいらっしゃったよ、ケイト』
“はい”と返事をして表へ出たケイトは、客を目にして固まった。客の顔にどこか見覚えがあったからだ。
長い銀髪に緋色の瞳…精巧な人形の様な女性だった。
『同乗させていただきます、指導員のクロンティア・心葉・ヴァータジアークで御座います』
「宜しく御願いします」
『ケイト、挨拶を……ケイト?』
「私の事、覚えてるかしら?」
こんな美人忘れないと思うんだけどな…
記憶を遡って女性を思い出そうとするケイトは、ふと女性が腕に抱いていた黒い犬を見て手を叩いた。
『あの時のお姉さん!!』
『知り合いか‥?』
クスクス笑っていた女性は、笑うのを止めると嬉しそうに微笑んだ。
「前に火星 に来た際にこの狐がはしゃぎ過ぎて水路に落ちてしまって……通りすがったケイトさんが助けてくれたんです」
“有り難う御座いました”と礼を言う女性を見ながら、ケイトは他の事を考えていた。
この犬、狐だったんだ。てっきり雑種の犬かと…
『ケイト』
『ぁ、はい!御指名いただきました、颯のケイト・ハドルトソンです』
そう言って舟 へ乗り込んだケイトは、左手で杭に掴まると、右手を女性に差し出した。
『御手をどうぞ、皐月様』
女性…皐月とクロアを乗せたケイトの舟 はゆっくりと発進し、ネオ・ヴェネツィアを回る。舟 を漕ぎながらケイトは小さく溜め息を吐いた。
皐月様もクロアさんも綺麗だから二人並ぶと凄く絵になるな…
さっきから通行人に見られてる気がするし。
ふと視界の端に合同練習をしていた顔馴染みの三人を見付けて、ケイトは困った様に微笑んだ。
何かびっくりされてる…
「あら、御友達?」
『はい‥皆会社は違いますが、いつも一緒に練習してる仲間です』
“素敵ね”と言って微笑んだ皐月の頬に、肩へ飛び乗った黒狐がそっと擦り寄った。
『可愛いですね…えっと‥』
「“紅葉”よ。甘えん坊で困っちゃうわ」
『皐月様が大好きなんですよ』
「そうね」
嬉しそうに笑った皐月を見てクロアが微笑んだ。
『手の掛かる子程‥』
「可愛いのよね」
そう行って笑いあう二人を見て、ケイトは首を傾げた。
手が掛かるのに可愛い?良く分からないな……僕って手が掛かってるのかな?
『ケイト』
『はい』
『マリアの前を通って』
「御願いね」
『はい!』
二人はすっかり仲良しの様だ。
サン・マルコ広場や溜め息橋等の案内をしながら向かった、晃さんお気に入りの水路脇にある小さなマリア像。
相変わらず綺麗で静かな此の場所を皐月様は気に入った様で、僕等は暫くそこへ止まっていた。
お昼はクロアさんのオススメであり、僕等はお馴染みのパスタ店へ皐月様と一緒に行った。
予約は昼までだったが気にしなかった。
今日の颯 は皐月様以外のお客を取っていない。
だから皐月様が“さようなら”と言うまで‥
クロアさんが“終了だ”と言うまで、案内を続けた。
「長々と済みませんでした」
夕日に染まるネオ・ヴェネツィアを背に、皐月はそう言って頭を下げた。
『いえ、そんな‥!』
「予約時間を四時間も過ぎてしまって…」
『いいんですよ!それに僕等今日は皐月様しか予約入れてませんし』
『私共も休日の様に楽しんでしまいましたし‥』
皐月はクスクスと笑い出すと“有難う”と言って微笑んだ。
『ケイトの案内は如何でしたか?』
クロアさんの突然の質問に心臓が飛び上がった。そして‥
「ん——…‥まだ少し不慣れな所があるわね」
皐月様の言葉にがっくりと肩を下ろした。
そんなケイトを見て可笑しそうに笑った皐月は、ケイトの目の前まで歩み出た。
「穏やかで優しくて楽しくて」
皐月はそう言いながらそっとケイトの頬に触れると一際綺麗に微笑んだ。
「とても素敵だったわ」
胸が高鳴った。
初めての指名で舞い上がって間違えた事もあった。
でも“素敵だった”と言ってもらえた…
「そろそろ失礼します。さぁ紅葉、御礼なさい」
皐月の腕に抱かれていた紅葉は、一鳴きすると地に飛び降り、そっとケイトの足にその小さな額を当てた。
「さぁ、帰りましょ」
皐月の胸目掛けて飛び上がった紅葉を抱き留めた皐月は、微笑んで一言残すと、夕日に染まるネオ・ヴェネツィアへ消えていった。
「有難う御座いました」
素敵な一日を‥
本当に有難う——…‥
.
『社長、ご飯ですよ!』
そうハヤトを呼びながらフライパンのオムレツをひっくり返したケイトは、皿に盛り付けるとテーブルへと運んだ。その足取りは、心なしかいつもより弾んでいて軽い。
『御機嫌ね』
自分の席へと着いたクロアがそう言えば、ケイトは嬉しそうに微笑んだ。
『初めての指名ですから!』
=小さな紅葉=
その予約が入ったのは三ヶ月も前の話だった。
クロアさんへの予約の電話を次々に受けている中、その電話はきた。
最初は思わず聞き間違えかと思った。半人前の自分に予約が入ると夢にも思っていなかったのだ。
何故三ヶ月も前に電話がきたのか…
理由は簡単だ。
半人前の僕がお客様を
だから僕への予約なのに三ヶ月前に連絡がきた。
正直ギリギリだった。
後数日遅れていたらクロアさんのスケジュールがいっぱいで断らなくてはいけなくなる所だった。
それ程クロアさんは凄いのだ。
いつかこんな風になれたら…
『お客様がいらっしゃったよ、ケイト』
“はい”と返事をして表へ出たケイトは、客を目にして固まった。客の顔にどこか見覚えがあったからだ。
長い銀髪に緋色の瞳…精巧な人形の様な女性だった。
『同乗させていただきます、指導員のクロンティア・心葉・ヴァータジアークで御座います』
「宜しく御願いします」
『ケイト、挨拶を……ケイト?』
「私の事、覚えてるかしら?」
こんな美人忘れないと思うんだけどな…
記憶を遡って女性を思い出そうとするケイトは、ふと女性が腕に抱いていた黒い犬を見て手を叩いた。
『あの時のお姉さん!!』
『知り合いか‥?』
クスクス笑っていた女性は、笑うのを止めると嬉しそうに微笑んだ。
「前に
“有り難う御座いました”と礼を言う女性を見ながら、ケイトは他の事を考えていた。
この犬、狐だったんだ。てっきり雑種の犬かと…
『ケイト』
『ぁ、はい!御指名いただきました、颯のケイト・ハドルトソンです』
そう言って
『御手をどうぞ、皐月様』
女性…皐月とクロアを乗せたケイトの
皐月様もクロアさんも綺麗だから二人並ぶと凄く絵になるな…
さっきから通行人に見られてる気がするし。
ふと視界の端に合同練習をしていた顔馴染みの三人を見付けて、ケイトは困った様に微笑んだ。
何かびっくりされてる…
「あら、御友達?」
『はい‥皆会社は違いますが、いつも一緒に練習してる仲間です』
“素敵ね”と言って微笑んだ皐月の頬に、肩へ飛び乗った黒狐がそっと擦り寄った。
『可愛いですね…えっと‥』
「“紅葉”よ。甘えん坊で困っちゃうわ」
『皐月様が大好きなんですよ』
「そうね」
嬉しそうに笑った皐月を見てクロアが微笑んだ。
『手の掛かる子程‥』
「可愛いのよね」
そう行って笑いあう二人を見て、ケイトは首を傾げた。
手が掛かるのに可愛い?良く分からないな……僕って手が掛かってるのかな?
『ケイト』
『はい』
『マリアの前を通って』
「御願いね」
『はい!』
二人はすっかり仲良しの様だ。
サン・マルコ広場や溜め息橋等の案内をしながら向かった、晃さんお気に入りの水路脇にある小さなマリア像。
相変わらず綺麗で静かな此の場所を皐月様は気に入った様で、僕等は暫くそこへ止まっていた。
お昼はクロアさんのオススメであり、僕等はお馴染みのパスタ店へ皐月様と一緒に行った。
予約は昼までだったが気にしなかった。
今日の
だから皐月様が“さようなら”と言うまで‥
クロアさんが“終了だ”と言うまで、案内を続けた。
「長々と済みませんでした」
夕日に染まるネオ・ヴェネツィアを背に、皐月はそう言って頭を下げた。
『いえ、そんな‥!』
「予約時間を四時間も過ぎてしまって…」
『いいんですよ!それに僕等今日は皐月様しか予約入れてませんし』
『私共も休日の様に楽しんでしまいましたし‥』
皐月はクスクスと笑い出すと“有難う”と言って微笑んだ。
『ケイトの案内は如何でしたか?』
クロアさんの突然の質問に心臓が飛び上がった。そして‥
「ん——…‥まだ少し不慣れな所があるわね」
皐月様の言葉にがっくりと肩を下ろした。
そんなケイトを見て可笑しそうに笑った皐月は、ケイトの目の前まで歩み出た。
「穏やかで優しくて楽しくて」
皐月はそう言いながらそっとケイトの頬に触れると一際綺麗に微笑んだ。
「とても素敵だったわ」
胸が高鳴った。
初めての指名で舞い上がって間違えた事もあった。
でも“素敵だった”と言ってもらえた…
「そろそろ失礼します。さぁ紅葉、御礼なさい」
皐月の腕に抱かれていた紅葉は、一鳴きすると地に飛び降り、そっとケイトの足にその小さな額を当てた。
「さぁ、帰りましょ」
皐月の胸目掛けて飛び上がった紅葉を抱き留めた皐月は、微笑んで一言残すと、夕日に染まるネオ・ヴェネツィアへ消えていった。
「有難う御座いました」
素敵な一日を‥
本当に有難う——…‥
.