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18
『大丈夫なんですか?』
ケイトはクロアに後ろから薄手の黒い上着を着せながらそう口にした。
ケイトが心配して言った言葉に、クロアは小さく笑うだけだった。
『大丈夫よ』
『‥無理しないで下さいよ』
笑うのを止めたクロアは、ケイトに向き合うと頬を優しく撫でた。
『楽しみなさい』
=送り火=
数年に一度の“舟の火送り”に皆で行く為に僕はクロアさんと藍華、アリスとARIAカンパニーへ向かった。晃さんとアテナさんは先に行ってるとの事だった。
ARIAカンパニーへ着いて直ぐ灯里に呼ばれた僕達は、クロアさん達を一階において、藍華とアリスと二階の灯里の部屋へ行く。
そして部屋に入った瞬間、灯里を見て固まった。
『皆の分一式‥浴衣買い揃えちゃった!』
浴衣を両手に楽しそうに笑う灯里を見てケイトは顔を青く染めた。
「買い揃えたって、あんた‥」
「はい、アリスちゃんの好きなムッくん柄だよ!」
そう言った灯里が浴衣と帯を差し出せば、アリスは目を輝かせた。
「ムッくん柄!」
「で…こっちが藍華ちゃんの分で、こっちがケイトちゃんの分ね」
灯里が藍華とケイトにそれぞれ違う柄の浴衣と帯を手渡し、手渡された浴衣を見たケイトは更に顔を青く染めた。
“着付けが出来無い”という藍華とアリスに灯里が教える事になり、ケイトは浴衣と帯…腰紐に帯締めに下駄。
自分用に用意された必要な物全てを抱えて扉に駆け寄った。
『ぼ‥僕、違う部屋で着替えてくるね!』
「へ…?」
「何でですか?」
『背中に傷があるんだ』
「「「え…‥」」」
“女の子に見せられないよ”と口にしたケイトは、小さく“ごめんね”とこぼすと部屋を出て行った。
部屋を出たケイトは、洗面所に向かうと中から鍵を掛けて着ていた服を脱いだ。
そして洗面台に付いた鏡に自分を映した。
『色々…見せらんないよな‥』
色々誤魔化す術はあった。
でもそれにも色々と問題は付きもので…
『さて、着替えるか』
着ていた洋服を畳んだケイトは、直ぐに浴衣を着込んだ。
ばっちゃんに着付けを習っていて良かった…これで着付け方を知らなかったらクロアさんを呼ばなくてはいけなくなる所だった。
ちゃっちゃと着替えたケイトは、洗面所の前で灯里達が降りてくるのを待つと、一緒にクロア達が待つリビングへと向かった。
「あんだ、その格好は!」
迎えてくれたのは晃さんの大きな声とクロアさんの押し殺した笑い声だった。
「あらあら、クロアちゃんったら」
「クロアさん‥何故爆笑?」
『僕、自分からはこういう格好しないから‥』
僕を見て笑ってるんだと思う。
でも…それにしても笑い過ぎな気がする。
暫く声を押し殺して笑っていたクロアは“ふぅ”と溜め息を吐きながら目に浮かんだ涙を拭った。
『ケイトは髪留めないの?』
『え…あぁ』
「あ、ケイトちゃん!ケイトちゃんの分の髪飾り用意してあるよ」
ケイトが手首に付けていたヘアゴムで髪を結おうとした瞬間、灯里がそう声を上げた。
灯里が手にしていた小さな紙袋から取り出したのは、花の髪飾りだった。
浴衣に合わせた淡い水色の髪飾りだった。
『ケイト、おいで‥』
クロアはケイトの手を引いて椅子に座らせると、ケイトの髪を手櫛で解かし始めた。
そして一通り解かし終わると、ケイトのヘアゴムと髪飾りを手にする。
左側の前髪を巻き込んで横の髪を編み込んでいき、先をヘアゴムで結ぶと、その編み込んだ髪で花の形を作り、最後にその中心に髪飾りを付けた。
『はい、完成』
「凄ッ!!」
「ほへ~…」
「プロの技です」
「クロアは手先が器用だからな」
そう言いながらケイトをどけて“私にもやれ”と椅子に座った晃に、クロアは短く“やだ”と答えた。
「何故だ」
『面倒臭い』
眉間に皺を寄せて黙り込んだ晃は、立ち上がるとケイトに抱き付いて頭を撫で回した。
「いいなぁ~‥可愛いなぁ~」
『晃さ‥』
『やらないよ』
「チッ…」
どうやら晃さんの作戦…と言うか駄々だったらしい。
クロアさんが切り捨てた瞬間に小さく舌打ちをした晃さんは、大人しく僕を離した。
「あらあら」
『晃は昔から全然変わらない』
「ほんとに」
「すわっ!!」
僕達は拗ねた晃さんを宥めながら会場へと向かった。
『灯里ぃ、藍華ぁ!二人共林檎飴食べる~?』
林檎飴の出店に肘をついて体重を掛けていたケイトは、振り返るとそう声を上げた。
「はひ、た、食べる!」
「もう要らないわよ!」
『了~解!』
灯里の返事を聞いたケイトは、そう返すと林檎飴を三本持って皆の所に帰ってくると、灯里に一本差し出した。
「あんた良く食べるわね」
『そうかな‥?』
藍華に言われて食べた物を思い出してみる。
杏飴に‥じゃがバター・たこ焼き・綿飴・バーベキュー串に焼きそば・焼きイカ・かき氷…で、この林檎飴。うん、結構食べてるね。
「別にケイトが肥ろうとあたしは関係無いし」
“それより”と続けた藍華はそっと辺りを伺った。
「見られてる、見られてる」
「はひ…三大妖精勢揃いの上、クロアさんもいるからね」
三大妖精とクロアさんを見ると、そこだけ空気が違う様に見えた。
ケイトは左手に持った林檎飴をかじると、振り返りながら右手に持った林檎飴を差し出した。
『アリス、林檎飴……アリス?』
振り返った先にアリスはいなかった。
辺りを見回していると、長い黒髪を一つに結った男と目が合った。
「何だ‥って、もみ子じゃねぇか!」
ケイトの隣にいた灯里を見た男がそう声を上げ、林檎飴をかじっていった灯里は顔を上げた。
「暁さん!」
『もみ…子?』
何だそれ‥もみ…もみって何だ。
「こいつはお前の知り合いか」
「はひ、颯 のケイトちゃんです。
ケイトちゃん、こちら
火炎之番人 の暁さん…藍華ちゃんと話してるのは地重管理人 のアル君だよ」
確かに少し離れた所で藍華と小さな男の子が話をしていた。
暁さんとアル君ね…
「颯 だと?」
ふと眉を寄せてそう言った暁に、ケイトは眉を寄せた。
颯 だと何だというんだ‥
「はい、クロアさんもあちらにいらっしゃいますよ。暁さんはアル君と来たんですね」
「あぁ、ウッディーも一緒だったんだがはぐれちまった」
「えぇ?!」
「お焚きのメイン会場に行けばあえるだろ」
アリス…さっきから姿が見えないけど、メイン会場で会えるだろうか?
……捜すか‥
「さて‥久々だから会っておくか」
そう言ってクロアに向かって歩いて行った暁にケイトはついて行った。
アリス、何もないと良いけど…
「よぅ、久しぶりだな“星屑の幻想 ”」
そう声を掛けられては振り向くと、見知った顔が笑っていた。
『暁…』
「最近どうよ、調子は」
『ぼちぼちだな』
「ぼちぼちねぇ‥」
暁の全てを見透かしたかの様な目が怖くて目を逸らすと、暁の後ろにいたケイトと目があった。
困った様に眉を寄せたクロアは、そっと目を伏せた。
『ウッディーやアルはどうしたんだ』
「アルはあっちでガチャペンと話してる…ウッディーははぐれた」
『ぁ、クロアさん!実はアリスも見当たらなくて…』
「アリスちゃんいないの‥?」
『困ったわね‥』
アテナの心配そうな声にクロアはそう漏らした。
祭りはサン・マルコ広場を中心に結構広い範囲で行われている。普通に探しては時間が掛かってしまうだろう。
『私が探すわ』
視力が異常に強化されたこの右目なら直ぐに見付けられる。
そう思って眼帯に手を掛けた瞬間、暁に戒める様に手を掴まれた。
『暁…』
「止めとけ」
“こんな事で使うな”という暁に賛同する様に近付いてきた晃が頷いた。
「お焚きのメイン会場に行けば会えるだろ」
掴んでいた手を離した暁は、ふらっとどこかへいなくなったと思ったら直ぐに帰ってきた。
「これでも食ってろ、馬鹿」
そう言って差し出されたのは小さな林檎飴だった。
『子供じゃないんだから…』
そうクロアが呟くと、暁はクロアの唇に林檎飴を押し付けた。
『むぐ…何をするん』
『クロアさん』
クロアの言葉を遮ってふとそう口にしたケイトは、そっとクロアの手を取った。
『その目を簡単に使わないで下さい』
『ケイト‥』
『アリスを探す事くらい僕にも出来るんですから、それくらい僕にやらせて下さい……クロアさんは‥なるべく安静にしてて下さい‥』
「ガキの言う通りだぞ、クロア」
『暁‥』
唇に押し付けられた林檎飴をかじったクロアは、困った様に…‥そしてどこか嬉しそうに笑った。
『甘い‥』
『灯里達と何話してたんだ?』
そう声を掛けられたかと思ったら、ケイト先輩が隣に腰掛けた。
楽しかった“舟の火送り”は終わったというのに、辺りにはまだ舟 の焼けた匂いがしていて、まだ体に祭りの余韻が残ってる…
「夏は直ぐ過ぎて行くなと‥」
『あぁ、確かに』
「後は…」
“ん‥?”と聞いてくるケイト先輩が何だか凄く年上に見えて少し可笑しかった。
「来たる秋に挑む意気込みを」
『何だそれ』
少し呆れた様に笑ったケイト先輩に何だか違和感を覚えた。
何だか胸がもやもやする‥
ケイト先輩は“そうだ”と呟くと、今度は楽しそうに笑うと赤い物体を差し出した。
『はい、林檎飴』
「…でっかいです」
買った事の無い大きさの林檎飴がそこにはあった。食べるの凄く時間掛かりそう‥
『まぁ、一番大きいやつだからな』
「良く考えて買って下さい。こんな大きいの買っちゃって」
『アリスに似合うと思ったんだ』
「どこがですか。私はそんなに林檎飴が好きそうですか…お菓子を良く食べるイメージがありますか?」
『でっかい林檎飴持ったアリス可愛いだろうなって思って』
「っ…」
赤くなったアリスは、林檎飴を受け取りながら視線を逸らすと、小さく“ありがとうございます”と口にした。
そんなアリスを見たケイトは唯楽しそうに笑った。
『でっかい林檎飴みたいだ』
こんな日々が‥
ずっと続けば良いだなんて…
でっかい我が儘でしょうか…‥
.
『大丈夫なんですか?』
ケイトはクロアに後ろから薄手の黒い上着を着せながらそう口にした。
ケイトが心配して言った言葉に、クロアは小さく笑うだけだった。
『大丈夫よ』
『‥無理しないで下さいよ』
笑うのを止めたクロアは、ケイトに向き合うと頬を優しく撫でた。
『楽しみなさい』
=送り火=
数年に一度の“舟の火送り”に皆で行く為に僕はクロアさんと藍華、アリスとARIAカンパニーへ向かった。晃さんとアテナさんは先に行ってるとの事だった。
ARIAカンパニーへ着いて直ぐ灯里に呼ばれた僕達は、クロアさん達を一階において、藍華とアリスと二階の灯里の部屋へ行く。
そして部屋に入った瞬間、灯里を見て固まった。
『皆の分一式‥浴衣買い揃えちゃった!』
浴衣を両手に楽しそうに笑う灯里を見てケイトは顔を青く染めた。
「買い揃えたって、あんた‥」
「はい、アリスちゃんの好きなムッくん柄だよ!」
そう言った灯里が浴衣と帯を差し出せば、アリスは目を輝かせた。
「ムッくん柄!」
「で…こっちが藍華ちゃんの分で、こっちがケイトちゃんの分ね」
灯里が藍華とケイトにそれぞれ違う柄の浴衣と帯を手渡し、手渡された浴衣を見たケイトは更に顔を青く染めた。
“着付けが出来無い”という藍華とアリスに灯里が教える事になり、ケイトは浴衣と帯…腰紐に帯締めに下駄。
自分用に用意された必要な物全てを抱えて扉に駆け寄った。
『ぼ‥僕、違う部屋で着替えてくるね!』
「へ…?」
「何でですか?」
『背中に傷があるんだ』
「「「え…‥」」」
“女の子に見せられないよ”と口にしたケイトは、小さく“ごめんね”とこぼすと部屋を出て行った。
部屋を出たケイトは、洗面所に向かうと中から鍵を掛けて着ていた服を脱いだ。
そして洗面台に付いた鏡に自分を映した。
『色々…見せらんないよな‥』
色々誤魔化す術はあった。
でもそれにも色々と問題は付きもので…
『さて、着替えるか』
着ていた洋服を畳んだケイトは、直ぐに浴衣を着込んだ。
ばっちゃんに着付けを習っていて良かった…これで着付け方を知らなかったらクロアさんを呼ばなくてはいけなくなる所だった。
ちゃっちゃと着替えたケイトは、洗面所の前で灯里達が降りてくるのを待つと、一緒にクロア達が待つリビングへと向かった。
「あんだ、その格好は!」
迎えてくれたのは晃さんの大きな声とクロアさんの押し殺した笑い声だった。
「あらあら、クロアちゃんったら」
「クロアさん‥何故爆笑?」
『僕、自分からはこういう格好しないから‥』
僕を見て笑ってるんだと思う。
でも…それにしても笑い過ぎな気がする。
暫く声を押し殺して笑っていたクロアは“ふぅ”と溜め息を吐きながら目に浮かんだ涙を拭った。
『ケイトは髪留めないの?』
『え…あぁ』
「あ、ケイトちゃん!ケイトちゃんの分の髪飾り用意してあるよ」
ケイトが手首に付けていたヘアゴムで髪を結おうとした瞬間、灯里がそう声を上げた。
灯里が手にしていた小さな紙袋から取り出したのは、花の髪飾りだった。
浴衣に合わせた淡い水色の髪飾りだった。
『ケイト、おいで‥』
クロアはケイトの手を引いて椅子に座らせると、ケイトの髪を手櫛で解かし始めた。
そして一通り解かし終わると、ケイトのヘアゴムと髪飾りを手にする。
左側の前髪を巻き込んで横の髪を編み込んでいき、先をヘアゴムで結ぶと、その編み込んだ髪で花の形を作り、最後にその中心に髪飾りを付けた。
『はい、完成』
「凄ッ!!」
「ほへ~…」
「プロの技です」
「クロアは手先が器用だからな」
そう言いながらケイトをどけて“私にもやれ”と椅子に座った晃に、クロアは短く“やだ”と答えた。
「何故だ」
『面倒臭い』
眉間に皺を寄せて黙り込んだ晃は、立ち上がるとケイトに抱き付いて頭を撫で回した。
「いいなぁ~‥可愛いなぁ~」
『晃さ‥』
『やらないよ』
「チッ…」
どうやら晃さんの作戦…と言うか駄々だったらしい。
クロアさんが切り捨てた瞬間に小さく舌打ちをした晃さんは、大人しく僕を離した。
「あらあら」
『晃は昔から全然変わらない』
「ほんとに」
「すわっ!!」
僕達は拗ねた晃さんを宥めながら会場へと向かった。
『灯里ぃ、藍華ぁ!二人共林檎飴食べる~?』
林檎飴の出店に肘をついて体重を掛けていたケイトは、振り返るとそう声を上げた。
「はひ、た、食べる!」
「もう要らないわよ!」
『了~解!』
灯里の返事を聞いたケイトは、そう返すと林檎飴を三本持って皆の所に帰ってくると、灯里に一本差し出した。
「あんた良く食べるわね」
『そうかな‥?』
藍華に言われて食べた物を思い出してみる。
杏飴に‥じゃがバター・たこ焼き・綿飴・バーベキュー串に焼きそば・焼きイカ・かき氷…で、この林檎飴。うん、結構食べてるね。
「別にケイトが肥ろうとあたしは関係無いし」
“それより”と続けた藍華はそっと辺りを伺った。
「見られてる、見られてる」
「はひ…三大妖精勢揃いの上、クロアさんもいるからね」
三大妖精とクロアさんを見ると、そこだけ空気が違う様に見えた。
ケイトは左手に持った林檎飴をかじると、振り返りながら右手に持った林檎飴を差し出した。
『アリス、林檎飴……アリス?』
振り返った先にアリスはいなかった。
辺りを見回していると、長い黒髪を一つに結った男と目が合った。
「何だ‥って、もみ子じゃねぇか!」
ケイトの隣にいた灯里を見た男がそう声を上げ、林檎飴をかじっていった灯里は顔を上げた。
「暁さん!」
『もみ…子?』
何だそれ‥もみ…もみって何だ。
「こいつはお前の知り合いか」
「はひ、
ケイトちゃん、こちら
火炎之番人
確かに少し離れた所で藍華と小さな男の子が話をしていた。
暁さんとアル君ね…
「
ふと眉を寄せてそう言った暁に、ケイトは眉を寄せた。
「はい、クロアさんもあちらにいらっしゃいますよ。暁さんはアル君と来たんですね」
「あぁ、ウッディーも一緒だったんだがはぐれちまった」
「えぇ?!」
「お焚きのメイン会場に行けばあえるだろ」
アリス…さっきから姿が見えないけど、メイン会場で会えるだろうか?
……捜すか‥
「さて‥久々だから会っておくか」
そう言ってクロアに向かって歩いて行った暁にケイトはついて行った。
アリス、何もないと良いけど…
「よぅ、久しぶりだな“
そう声を掛けられては振り向くと、見知った顔が笑っていた。
『暁…』
「最近どうよ、調子は」
『ぼちぼちだな』
「ぼちぼちねぇ‥」
暁の全てを見透かしたかの様な目が怖くて目を逸らすと、暁の後ろにいたケイトと目があった。
困った様に眉を寄せたクロアは、そっと目を伏せた。
『ウッディーやアルはどうしたんだ』
「アルはあっちでガチャペンと話してる…ウッディーははぐれた」
『ぁ、クロアさん!実はアリスも見当たらなくて…』
「アリスちゃんいないの‥?」
『困ったわね‥』
アテナの心配そうな声にクロアはそう漏らした。
祭りはサン・マルコ広場を中心に結構広い範囲で行われている。普通に探しては時間が掛かってしまうだろう。
『私が探すわ』
視力が異常に強化されたこの右目なら直ぐに見付けられる。
そう思って眼帯に手を掛けた瞬間、暁に戒める様に手を掴まれた。
『暁…』
「止めとけ」
“こんな事で使うな”という暁に賛同する様に近付いてきた晃が頷いた。
「お焚きのメイン会場に行けば会えるだろ」
掴んでいた手を離した暁は、ふらっとどこかへいなくなったと思ったら直ぐに帰ってきた。
「これでも食ってろ、馬鹿」
そう言って差し出されたのは小さな林檎飴だった。
『子供じゃないんだから…』
そうクロアが呟くと、暁はクロアの唇に林檎飴を押し付けた。
『むぐ…何をするん』
『クロアさん』
クロアの言葉を遮ってふとそう口にしたケイトは、そっとクロアの手を取った。
『その目を簡単に使わないで下さい』
『ケイト‥』
『アリスを探す事くらい僕にも出来るんですから、それくらい僕にやらせて下さい……クロアさんは‥なるべく安静にしてて下さい‥』
「ガキの言う通りだぞ、クロア」
『暁‥』
唇に押し付けられた林檎飴をかじったクロアは、困った様に…‥そしてどこか嬉しそうに笑った。
『甘い‥』
『灯里達と何話してたんだ?』
そう声を掛けられたかと思ったら、ケイト先輩が隣に腰掛けた。
楽しかった“舟の火送り”は終わったというのに、辺りにはまだ
「夏は直ぐ過ぎて行くなと‥」
『あぁ、確かに』
「後は…」
“ん‥?”と聞いてくるケイト先輩が何だか凄く年上に見えて少し可笑しかった。
「来たる秋に挑む意気込みを」
『何だそれ』
少し呆れた様に笑ったケイト先輩に何だか違和感を覚えた。
何だか胸がもやもやする‥
ケイト先輩は“そうだ”と呟くと、今度は楽しそうに笑うと赤い物体を差し出した。
『はい、林檎飴』
「…でっかいです」
買った事の無い大きさの林檎飴がそこにはあった。食べるの凄く時間掛かりそう‥
『まぁ、一番大きいやつだからな』
「良く考えて買って下さい。こんな大きいの買っちゃって」
『アリスに似合うと思ったんだ』
「どこがですか。私はそんなに林檎飴が好きそうですか…お菓子を良く食べるイメージがありますか?」
『でっかい林檎飴持ったアリス可愛いだろうなって思って』
「っ…」
赤くなったアリスは、林檎飴を受け取りながら視線を逸らすと、小さく“ありがとうございます”と口にした。
そんなアリスを見たケイトは唯楽しそうに笑った。
『でっかい林檎飴みたいだ』
こんな日々が‥
ずっと続けば良いだなんて…
でっかい我が儘でしょうか…‥
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