burrasca
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
12
何時の日か。
あの子が飛び立てる様に——…
=灰色の瞳=
「今日の合同練習は灯里と二人なんですよ」
そう言うケイトに朝食を食べさせてハヤトと一緒に送り出したクロアは、珈琲の入ったマグカップを片手にダイニングテーブルの椅子へと腰を降ろした。今日の仕事は午後からだから、一人でゆっくりとお昼のメニューを考えられる。
メニューを考えながら右目の眼帯を取ると、閉じた右目を一撫でした。やはり眼帯を取ると涼しくて心地良い。
珈琲を一口口にすると両目共閉じ、ゆっくりと夏の暑さの中を微かに流れる風を感じる。
「あの‥すみませ~ん」
暫くそうしていると、ふと、そう聞き覚えのある声が耳に届き、クロアは閉じていた目を開いた。
『灯里?』
“ぷいにゅ”と微かに声がするのでアリア社長も居る様だ。
何でまた灯里が…ケイトと擦れ違ったのか?
“全く”と呟きながら席を立ったクロアは、次の瞬間、床に崩れた。
『ッ…』
服の裾が引っかかったらしく、腰掛けていた椅子も床に倒れた。鈍い音が頭に響く。
『………ッ、痛‥』
「クロアさん?!」
何かが倒れる音がして扉を開けてみたら、クロアさんが倒れていた。
「クロアさん!!」
「ぷいにゅ!!」
慌てて駆け寄ると、クロアさんは頭を抑えて倒れていた。
『……ッ』
「クロアさ‥」
汗を浮かべて表情を歪ませたクロアさんの右目にはいつもの眼帯が無く、その閉じられたら右目には刃を縦に振り下ろした様な傷があった。
「ど、どうしよう……ケイト…ケイトちゃん、居る?!」
いくら呼んでもケイトちゃんからの反応は無かった。
どうして…どうして‥
「ケイトちゃ‥っ」
何も出来無い自分が情けなくて、涙が溢れた。
『灯里‥』
「クロアさん!」
『落ち着きなさい』
「でも‥」
『大丈夫、唯の偏頭痛だから』
額に浮かんだ汗を拭いながら“何時もの事よ”と言ったクロアさんは、ゆっくりと立ち上がると、倒れた椅子を起こして座った。
『私、偏頭痛が酷くて‥でも少し休めば大丈夫だから』
そう言ったクロアさんに違和感を覚えた。理由は簡単だった。
いつもは眼帯で隠されている右目が何にも遮られずにそこに居て…
更にはその瞳が灰瞳だったからだった。
「ぷいにゃあぁぁ!!」
泣きながら飛び付いてきたアリアを抱き止めたクロアは、ゆっくりとアリアの背を撫でてやった。
『灯里』
ふとクロアに呼ばれ、灯里は慌てて“はい”と返事をした。
『ケイトには内緒にね』
「え‥?」
『“また無理して!”』
クロアがそう口にした瞬間、灯里は目を見開いた。
び…びっくりした。今のって‥
『って、怒られちゃうからな』
悪戯っぽく笑うクロアを前に、灯里はパチパチと手を叩いた。
「凄い…そっくり」
“また無理して!”と言ったクロアさんの声はケイトちゃんにそっくり…寧ろそのものだった。
『私の特技だ』
楽しそうに笑ったクロアは、テーブルに置いてあったマグカップに入った珈琲を一口口にすると“さて”と灯里を見据えた。
『灯里』
「はひ」
『ケイトはとっくに出たぞ』
「………はひ?」
出た?
って事はまさか…
『入れ違いだな』
やっぱり…
『ケイトが引き返してくるまでここで待ってなさい』
「でも‥」
困った様に眉を寄せる灯里とは裏腹に、クロアに抱き付いていたアリアはクロアの隣の椅子に座ると、テーブルをポンポンと叩いた。クロアも楽しそうに微笑む。
『後輩を動かさせて上げなさい』
「じゃ、じゃあ私が動かなくっちゃです!」
“私の方が後輩なんで”と言って慌てる灯里の手をとったクロアは、灯里を椅子に座らせると再度口を開いた。
『先輩も時には動くべきだ』
「……何だかはちゃめちゃです」
『…気にするな』
そう言ったクロアさんが何だか可愛く見えた。
クロアさんは一旦キッチンに行くと飲み物を持って来てくれた。
“カタン”と音を立てて目の前に置かれた上品なグラスから紅茶の良い香りがした。
「ふぁ~…良い匂い」
灯里の言葉を聞いて灯里のグラスに手を伸ばそうとするアリアの行く手を遮ったクロアは、アリアの前に別のグラスを置いた。
『アリア社長はこっちです』
置かれたグラスの中身を見たアリアはほっぺに手を当てるとキラキラと目を輝かせた。
『ミルク好きでしたよね』
「ぷいにゅ~!!」
“冷えてて美味しいですよ”と言うクロアさんの言う通りだった。
出された紅茶は程良い甘さが美味しいアイスティーだったし、アリア社長のミルクもひんやりと冷えている様で、グラスが汗をかいていた。
灯里とアリアに飲み物を出して席についたクロアは、二人が飲み出したのを見ると、テーブルの上に置きっぱなしになっていた眼帯をそっと右目に付けた。
「あ…あの、クロアさん‥」
静かに眼帯を付けるクロアを盗み見る様に見た灯里は、そう切り出した。
「あ、あの‥」
『ん?』
「右目‥見えるんですか?」
眼帯の下に隠れていたクロアさんの右目‥傷も気になったが、それよりも気になったのは更に奥に隠された綺麗な灰眼。
それは光を映している様だった。
“あぁ”と納得した様に声を漏らしたクロアさんは薄く微笑んだ。
『見えすぎるから封じてあるんだよ』
「見えすぎる‥?」
『眼鏡でわざと視力を弱めるのは気が進まないし、こうしておけば急場でも夜目が利く』
“便利だろ”と言って微笑むクロアさんに少し違和感を覚えた。
今度は外見的違和感では無くて精神的なものだったが、私にはクロアさんのそれを“少し”以上感じ取る事は無理だった。
そのまま暫くクロアさんと話をしていたら、ケイトちゃんが帰ってきた。
ケイトちゃんも帰ってくるまでに色々あったらしく、時計を見れば時間はお昼に近かった。
ケイトちゃんに何があったのか聞いた後、ちょっと早めの昼食でクロアさんお手製のオムライスを食べた。
程良い酸味のチキンライスとふわふわとろとろの卵にデミグラスソースの掛かった、お店で出てくる様な凄く美味しいオムライスだった。
「ふぁ~‥美味しかったぁ」
自分の舟 に乗り込んだ灯里は、そう言いながら備え付けたソファーに腰掛けた。
アリアも満足そうに船体に寝ころんでいる。
『オムライスはクロアさんの得意料理だから特に美味しいんだ』
ハヤト社長を肩に乗せて、私の舟 に自分の舟 を寄せながら嬉しそうに笑うケイトちゃんが何だか眩しかった…
「ケイトちゃん‥」
『ん‥?』
あの時の“少しの違和感”をケイトちゃんに言おうか迷って…私は直前で口を噤んだ。
ケイトちゃんならクロアさんが何も言わなくても感じ取れるのかな…とも思ったが、クロアさんに対する違和感が私の杞憂かもしれないのでケイトちゃんには言わない事にした。
「今度アリシアさんの料理食べに来てね!」
『そうだな‥アリシアさんも料理上手そうだから楽しみだな』
違う‥言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。
私には自信が無かった。
クロアさんの全てを知ってる…私がそう思える程にクロアさんを大好きなケイトちゃんに、クロアさんの話をする事に‥
一欠片も自信が持て無かった。
“楽しみだ”と楽しそうに笑うケイトちゃんの笑顔が‥
私の胸を少し締め付けた——…
.
何時の日か。
あの子が飛び立てる様に——…
=灰色の瞳=
「今日の合同練習は灯里と二人なんですよ」
そう言うケイトに朝食を食べさせてハヤトと一緒に送り出したクロアは、珈琲の入ったマグカップを片手にダイニングテーブルの椅子へと腰を降ろした。今日の仕事は午後からだから、一人でゆっくりとお昼のメニューを考えられる。
メニューを考えながら右目の眼帯を取ると、閉じた右目を一撫でした。やはり眼帯を取ると涼しくて心地良い。
珈琲を一口口にすると両目共閉じ、ゆっくりと夏の暑さの中を微かに流れる風を感じる。
「あの‥すみませ~ん」
暫くそうしていると、ふと、そう聞き覚えのある声が耳に届き、クロアは閉じていた目を開いた。
『灯里?』
“ぷいにゅ”と微かに声がするのでアリア社長も居る様だ。
何でまた灯里が…ケイトと擦れ違ったのか?
“全く”と呟きながら席を立ったクロアは、次の瞬間、床に崩れた。
『ッ…』
服の裾が引っかかったらしく、腰掛けていた椅子も床に倒れた。鈍い音が頭に響く。
『………ッ、痛‥』
「クロアさん?!」
何かが倒れる音がして扉を開けてみたら、クロアさんが倒れていた。
「クロアさん!!」
「ぷいにゅ!!」
慌てて駆け寄ると、クロアさんは頭を抑えて倒れていた。
『……ッ』
「クロアさ‥」
汗を浮かべて表情を歪ませたクロアさんの右目にはいつもの眼帯が無く、その閉じられたら右目には刃を縦に振り下ろした様な傷があった。
「ど、どうしよう……ケイト…ケイトちゃん、居る?!」
いくら呼んでもケイトちゃんからの反応は無かった。
どうして…どうして‥
「ケイトちゃ‥っ」
何も出来無い自分が情けなくて、涙が溢れた。
『灯里‥』
「クロアさん!」
『落ち着きなさい』
「でも‥」
『大丈夫、唯の偏頭痛だから』
額に浮かんだ汗を拭いながら“何時もの事よ”と言ったクロアさんは、ゆっくりと立ち上がると、倒れた椅子を起こして座った。
『私、偏頭痛が酷くて‥でも少し休めば大丈夫だから』
そう言ったクロアさんに違和感を覚えた。理由は簡単だった。
いつもは眼帯で隠されている右目が何にも遮られずにそこに居て…
更にはその瞳が灰瞳だったからだった。
「ぷいにゃあぁぁ!!」
泣きながら飛び付いてきたアリアを抱き止めたクロアは、ゆっくりとアリアの背を撫でてやった。
『灯里』
ふとクロアに呼ばれ、灯里は慌てて“はい”と返事をした。
『ケイトには内緒にね』
「え‥?」
『“また無理して!”』
クロアがそう口にした瞬間、灯里は目を見開いた。
び…びっくりした。今のって‥
『って、怒られちゃうからな』
悪戯っぽく笑うクロアを前に、灯里はパチパチと手を叩いた。
「凄い…そっくり」
“また無理して!”と言ったクロアさんの声はケイトちゃんにそっくり…寧ろそのものだった。
『私の特技だ』
楽しそうに笑ったクロアは、テーブルに置いてあったマグカップに入った珈琲を一口口にすると“さて”と灯里を見据えた。
『灯里』
「はひ」
『ケイトはとっくに出たぞ』
「………はひ?」
出た?
って事はまさか…
『入れ違いだな』
やっぱり…
『ケイトが引き返してくるまでここで待ってなさい』
「でも‥」
困った様に眉を寄せる灯里とは裏腹に、クロアに抱き付いていたアリアはクロアの隣の椅子に座ると、テーブルをポンポンと叩いた。クロアも楽しそうに微笑む。
『後輩を動かさせて上げなさい』
「じゃ、じゃあ私が動かなくっちゃです!」
“私の方が後輩なんで”と言って慌てる灯里の手をとったクロアは、灯里を椅子に座らせると再度口を開いた。
『先輩も時には動くべきだ』
「……何だかはちゃめちゃです」
『…気にするな』
そう言ったクロアさんが何だか可愛く見えた。
クロアさんは一旦キッチンに行くと飲み物を持って来てくれた。
“カタン”と音を立てて目の前に置かれた上品なグラスから紅茶の良い香りがした。
「ふぁ~…良い匂い」
灯里の言葉を聞いて灯里のグラスに手を伸ばそうとするアリアの行く手を遮ったクロアは、アリアの前に別のグラスを置いた。
『アリア社長はこっちです』
置かれたグラスの中身を見たアリアはほっぺに手を当てるとキラキラと目を輝かせた。
『ミルク好きでしたよね』
「ぷいにゅ~!!」
“冷えてて美味しいですよ”と言うクロアさんの言う通りだった。
出された紅茶は程良い甘さが美味しいアイスティーだったし、アリア社長のミルクもひんやりと冷えている様で、グラスが汗をかいていた。
灯里とアリアに飲み物を出して席についたクロアは、二人が飲み出したのを見ると、テーブルの上に置きっぱなしになっていた眼帯をそっと右目に付けた。
「あ…あの、クロアさん‥」
静かに眼帯を付けるクロアを盗み見る様に見た灯里は、そう切り出した。
「あ、あの‥」
『ん?』
「右目‥見えるんですか?」
眼帯の下に隠れていたクロアさんの右目‥傷も気になったが、それよりも気になったのは更に奥に隠された綺麗な灰眼。
それは光を映している様だった。
“あぁ”と納得した様に声を漏らしたクロアさんは薄く微笑んだ。
『見えすぎるから封じてあるんだよ』
「見えすぎる‥?」
『眼鏡でわざと視力を弱めるのは気が進まないし、こうしておけば急場でも夜目が利く』
“便利だろ”と言って微笑むクロアさんに少し違和感を覚えた。
今度は外見的違和感では無くて精神的なものだったが、私にはクロアさんのそれを“少し”以上感じ取る事は無理だった。
そのまま暫くクロアさんと話をしていたら、ケイトちゃんが帰ってきた。
ケイトちゃんも帰ってくるまでに色々あったらしく、時計を見れば時間はお昼に近かった。
ケイトちゃんに何があったのか聞いた後、ちょっと早めの昼食でクロアさんお手製のオムライスを食べた。
程良い酸味のチキンライスとふわふわとろとろの卵にデミグラスソースの掛かった、お店で出てくる様な凄く美味しいオムライスだった。
「ふぁ~‥美味しかったぁ」
自分の
アリアも満足そうに船体に寝ころんでいる。
『オムライスはクロアさんの得意料理だから特に美味しいんだ』
ハヤト社長を肩に乗せて、私の
「ケイトちゃん‥」
『ん‥?』
あの時の“少しの違和感”をケイトちゃんに言おうか迷って…私は直前で口を噤んだ。
ケイトちゃんならクロアさんが何も言わなくても感じ取れるのかな…とも思ったが、クロアさんに対する違和感が私の杞憂かもしれないのでケイトちゃんには言わない事にした。
「今度アリシアさんの料理食べに来てね!」
『そうだな‥アリシアさんも料理上手そうだから楽しみだな』
違う‥言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。
私には自信が無かった。
クロアさんの全てを知ってる…私がそう思える程にクロアさんを大好きなケイトちゃんに、クロアさんの話をする事に‥
一欠片も自信が持て無かった。
“楽しみだ”と楽しそうに笑うケイトちゃんの笑顔が‥
私の胸を少し締め付けた——…
.