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10
《地球 、地球 に到着で御座います。御降りの際は御忘れ物に御気を付けて御足下に‥》
左手に小さな手荷物。
それと肩にハヤト社長を携えて、僕は故郷である地球 に降り立った。
『うるさいな…』
ここはいつだってそう‥
地球は機械だらけで嫌いだ。
何でもかんでも機械機械機械…全ては制御された音。
ここはそんな…
無駄な音に溢れている。
=家族という名=
見慣れた街を暫く歩いたケイトは、噴水の前で足を止めると、ハヤトを肩から地に降ろした。
『ハヤト社長、三時間後にここで待ち合わせしましょう』
「…‥ニゥ‥」
心配そうに足に擦り寄って来たハヤト社長を優しく撫でながら“大丈夫ですよ”と口にすれば、ハヤト社長は大人しく離れてくれた。
『何があっても知らない人についてったら絶対に駄目ですよ』
「二」
『お腹が減っても三時間我慢して下さい』
「二」
『拾い食いしちゃ駄目ですよ』
「ニゥゥ!」
からかうケイトに、ハヤト怒った様に少し声を上げた。
小さくクスクス笑ったケイトは、ハヤトの頭を撫でると優しく微笑んだ。
『では社長、また後で』
ハヤトを置いて歩き出したケイトは、何にも見向きもせずにただ歩き続けた。
目的の場所を目指して‥
着いた先は町外れの丘の上の墓地だった。
一定の感覚をあけて並べられた墓石‥その中の一つに歩み寄ったケイトは、髪を一つに結うと墓石の前にしゃがみ込み、微かに微笑んだ。
『久しぶり…ばっちゃん』
祖母の墓にきたのは久しぶりだった。
颯 に入ってからだから随分経ったな‥
『ごめんね、ばっちゃん。花は…持ってこれなかった』
どうしても持って来れなかった。
花なんか置いてったら…
「やっと来たわね」
こいつらに来た事がバレちゃうから。
『何で分かった?』
そう口にしながら立ち上がり振り向くと、ビジネススーツを着た薄茶色の髪の女が立っていた。
「張ってたのよ」
『張ってた…ね』
「父さんが、ばあちゃんっ子のあんたは命日に墓参りに来るだろうから捕まえてこいって」
“命日の二日後に来ると思わなかったけど”といって舌打ちをする女を見てケイトは苦笑した。
命日から張り込まれてた…読まれてたわけか。
『随分お暇なことで』
「暇なわけ無いでしょ。全く、良い迷惑よ」
そう吐き捨てた女は、ケイトを睨み付けると、再度口を開いた。
「帰ってきなさい」
あぁ…
嫌だなもう‥
「父さんが呼んでるわ」
もう…面倒臭い。
「母さんもね」
面倒臭いし…くだらない。
『で?』
「ッ、何が気に食わないの?!あんたくらい恵まれた奴はいないの」
『それが何?』
「全てを手に出来るのよ!」
全てを…
“全て”を…‥ね‥
『そんなの望んで無い』
全てって何?
どうせ地位とか金とか…そんなものでしょ?
別に必要無いとは言わないよ。
でも…
『僕の望んでる物は“そこには”無いんだよ』
“じゃあね”と言って女の横を通り過ぎた瞬間、ギリッと歯を噛み合わせた音が耳についた。
「そんなにあそこが良いわけ」
酷く馬鹿にした様な言い方だった。
『良いよ』
でも我慢すれば済む事だ。
『あんたには分からないさ』
「くだらない‥」
我慢して立ち去れば良い…
上手くいけば ‥
「あんな落ちぶれた奴の所なんかに居て何を得られるっていうのよ!あんな片目の気取った…惨めな落ちぶれた女な‥グッ」
女が言い終わる前に女の胸ぐらを掴んだケイトは、その場に女を押し倒すと、胸ぐらを掴んだ手に力を入れて女の首を絞めた。女の苦しそうなくぐもった声が耳についた。
『ねぇ‥今何て言ったの姉さん?』
あぁ、どうしよう…
どうしよう…
『ねぇ、姉さんったらぁ~』
このまま怒りにまかせて殺しちゃいそうで恐い。
口角を上げて小さくクスクスと笑ったケイトは、ふと笑うのを止めると、女に顔を近付けた。
『あんたが馬鹿にして良い所なんて、クロアさんには何一つ無いんだよ』
何一つ…
あんたにも‥僕にも…
誰にも…‥
あの人を汚す事は出来ない。
『惨めな落ちぶれた女はさぁ…どう考えたってあんただよ』
姉さんの耳に唇を近付けてわざとそう低く‥最悪な言葉を囁いてやった。
僕のちょっとした仕返しだった。
『僕達は別に仲が悪い訳じゃ無かった』
ゆっくりと手を離してやれば、酸素を失った姉さんの体は慌てて息を吸い込んだ。
青い顔をした姉さんの額に浮かんだ汗が、流れて地面へ吸い込まれていく。
『けど姉さんはさ、何年経っても変わらない』
何年も経って‥
周りが変わり行く中、姉さんはいつだって…‥
『姉さんはいつだって僕の後ろを見てる』
父さんと母さんは僕自身では無く、ばっちゃんのお気に入りの僕を見ている。
姉さんは僕という存在の後ろの父さんと母さんを見ている。
父さんと母さんの瞳には僕の体しか映ってない。
それでも僕の一部は映ってる。
でも姉さんの瞳には、僕なんか永遠に存在しない。
小さい僕は姉さんに見てもらいたくて必死だったけど…
『姉さんは…いつだって…』
姉さんはいつだって、駆け上がる先しか見えていない。
足元の僕はいつだって‥
唯、一瞥されるだけなんだ。
『お待たせしました、社長』
寝っ転がって噴水を見ていたハヤト社長にそう声を掛ければ、社長は飛び起き…そして僕を見た瞬間、小さな目を見開いた。
「ニゥゥ?!」
慌てるハヤトをよそに、ハヤトの隣に腰掛けたケイトは、優しく微笑んだ。
『お腹空きましたよね』
“済みません”と謝れば、ハヤトは慌ててケイトの肩によじ登ると、腫れた頬を舐めた。
『あぁ、これですか?』
「ニゥ…」
『叩かれちゃいました』
“女の子が痣つくっちゃ駄目ですよね”と笑って見せれば、社長は困った様に表情を歪めた。
『大丈夫ですよ‥ちょっと怒らせちゃっただけですから』
“私は惨めじゃないし、落ちぶれてなんかいないわ”と怒った姉さんに平手で思いっ切り叩かれてしまった。
『社長、ご飯食べに行きましょう』
「ニ…?」
『お腹いっぱいになったら、直ぐにクロアさんの用事を済ませに行きましょう』
早くご飯を食べて、早く用事を済ませて。
そして早く‥
『早くクロアさんの所に帰りましょうね』
早く…早く早く…‥
この怒りと悲しみの混じった吐き気を抑えたい。
大切な颯 で――…‥
.
《
左手に小さな手荷物。
それと肩にハヤト社長を携えて、僕は故郷である
『うるさいな…』
ここはいつだってそう‥
地球は機械だらけで嫌いだ。
何でもかんでも機械機械機械…全ては制御された音。
ここはそんな…
無駄な音に溢れている。
=家族という名=
見慣れた街を暫く歩いたケイトは、噴水の前で足を止めると、ハヤトを肩から地に降ろした。
『ハヤト社長、三時間後にここで待ち合わせしましょう』
「…‥ニゥ‥」
心配そうに足に擦り寄って来たハヤト社長を優しく撫でながら“大丈夫ですよ”と口にすれば、ハヤト社長は大人しく離れてくれた。
『何があっても知らない人についてったら絶対に駄目ですよ』
「二」
『お腹が減っても三時間我慢して下さい』
「二」
『拾い食いしちゃ駄目ですよ』
「ニゥゥ!」
からかうケイトに、ハヤト怒った様に少し声を上げた。
小さくクスクス笑ったケイトは、ハヤトの頭を撫でると優しく微笑んだ。
『では社長、また後で』
ハヤトを置いて歩き出したケイトは、何にも見向きもせずにただ歩き続けた。
目的の場所を目指して‥
着いた先は町外れの丘の上の墓地だった。
一定の感覚をあけて並べられた墓石‥その中の一つに歩み寄ったケイトは、髪を一つに結うと墓石の前にしゃがみ込み、微かに微笑んだ。
『久しぶり…ばっちゃん』
祖母の墓にきたのは久しぶりだった。
『ごめんね、ばっちゃん。花は…持ってこれなかった』
どうしても持って来れなかった。
花なんか置いてったら…
「やっと来たわね」
こいつらに来た事がバレちゃうから。
『何で分かった?』
そう口にしながら立ち上がり振り向くと、ビジネススーツを着た薄茶色の髪の女が立っていた。
「張ってたのよ」
『張ってた…ね』
「父さんが、ばあちゃんっ子のあんたは命日に墓参りに来るだろうから捕まえてこいって」
“命日の二日後に来ると思わなかったけど”といって舌打ちをする女を見てケイトは苦笑した。
命日から張り込まれてた…読まれてたわけか。
『随分お暇なことで』
「暇なわけ無いでしょ。全く、良い迷惑よ」
そう吐き捨てた女は、ケイトを睨み付けると、再度口を開いた。
「帰ってきなさい」
あぁ…
嫌だなもう‥
「父さんが呼んでるわ」
もう…面倒臭い。
「母さんもね」
面倒臭いし…くだらない。
『で?』
「ッ、何が気に食わないの?!あんたくらい恵まれた奴はいないの」
『それが何?』
「全てを手に出来るのよ!」
全てを…
“全て”を…‥ね‥
『そんなの望んで無い』
全てって何?
どうせ地位とか金とか…そんなものでしょ?
別に必要無いとは言わないよ。
でも…
『僕の望んでる物は“そこには”無いんだよ』
“じゃあね”と言って女の横を通り過ぎた瞬間、ギリッと歯を噛み合わせた音が耳についた。
「そんなにあそこが良いわけ」
酷く馬鹿にした様な言い方だった。
『良いよ』
でも我慢すれば済む事だ。
『あんたには分からないさ』
「くだらない‥」
我慢して立ち去れば良い…
上手くいけば ‥
「あんな落ちぶれた奴の所なんかに居て何を得られるっていうのよ!あんな片目の気取った…惨めな落ちぶれた女な‥グッ」
女が言い終わる前に女の胸ぐらを掴んだケイトは、その場に女を押し倒すと、胸ぐらを掴んだ手に力を入れて女の首を絞めた。女の苦しそうなくぐもった声が耳についた。
『ねぇ‥今何て言ったの姉さん?』
あぁ、どうしよう…
どうしよう…
『ねぇ、姉さんったらぁ~』
このまま怒りにまかせて殺しちゃいそうで恐い。
口角を上げて小さくクスクスと笑ったケイトは、ふと笑うのを止めると、女に顔を近付けた。
『あんたが馬鹿にして良い所なんて、クロアさんには何一つ無いんだよ』
何一つ…
あんたにも‥僕にも…
誰にも…‥
あの人を汚す事は出来ない。
『惨めな落ちぶれた女はさぁ…どう考えたってあんただよ』
姉さんの耳に唇を近付けてわざとそう低く‥最悪な言葉を囁いてやった。
僕のちょっとした仕返しだった。
『僕達は別に仲が悪い訳じゃ無かった』
ゆっくりと手を離してやれば、酸素を失った姉さんの体は慌てて息を吸い込んだ。
青い顔をした姉さんの額に浮かんだ汗が、流れて地面へ吸い込まれていく。
『けど姉さんはさ、何年経っても変わらない』
何年も経って‥
周りが変わり行く中、姉さんはいつだって…‥
『姉さんはいつだって僕の後ろを見てる』
父さんと母さんは僕自身では無く、ばっちゃんのお気に入りの僕を見ている。
姉さんは僕という存在の後ろの父さんと母さんを見ている。
父さんと母さんの瞳には僕の体しか映ってない。
それでも僕の一部は映ってる。
でも姉さんの瞳には、僕なんか永遠に存在しない。
小さい僕は姉さんに見てもらいたくて必死だったけど…
『姉さんは…いつだって…』
姉さんはいつだって、駆け上がる先しか見えていない。
足元の僕はいつだって‥
唯、一瞥されるだけなんだ。
『お待たせしました、社長』
寝っ転がって噴水を見ていたハヤト社長にそう声を掛ければ、社長は飛び起き…そして僕を見た瞬間、小さな目を見開いた。
「ニゥゥ?!」
慌てるハヤトをよそに、ハヤトの隣に腰掛けたケイトは、優しく微笑んだ。
『お腹空きましたよね』
“済みません”と謝れば、ハヤトは慌ててケイトの肩によじ登ると、腫れた頬を舐めた。
『あぁ、これですか?』
「ニゥ…」
『叩かれちゃいました』
“女の子が痣つくっちゃ駄目ですよね”と笑って見せれば、社長は困った様に表情を歪めた。
『大丈夫ですよ‥ちょっと怒らせちゃっただけですから』
“私は惨めじゃないし、落ちぶれてなんかいないわ”と怒った姉さんに平手で思いっ切り叩かれてしまった。
『社長、ご飯食べに行きましょう』
「ニ…?」
『お腹いっぱいになったら、直ぐにクロアさんの用事を済ませに行きましょう』
早くご飯を食べて、早く用事を済ませて。
そして早く‥
『早くクロアさんの所に帰りましょうね』
早く…早く早く…‥
この怒りと悲しみの混じった吐き気を抑えたい。
大切な
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