第1章 始マリノ謳
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6
絶対に何にも縛られない存在。
そんなモノが存在するなら、私はある意味でそのモノと対等でいられる。
そんな存在を私はずっと捜していた。
心のどこかで捜していた。
だから、そんな貴方を縛るのが時間だというのなら…
私は──……
=君との約束=
グリフィンドール寮…
寝室へと続く螺旋の階段を上って男子の部屋を過ぎ、女子の部屋を過ぎ…更に上へ上へと上がった一番上の奥の開かずの間。そこが麗の…麗と麗の家族の部屋だ。
杖を手にした麗は、部屋全体に防音の魔法を掛けると寝室に入り、更に内側から魔法を二重に掛けた。念には念をだ。
そして一度深呼吸をし、息を思いっ切り吸う…
『出て来い、真っ青イアン!!』
「ふざけんな、もっと敬意を込めて呼べ」
そう聞き覚えのある男の声が麗以外誰もいない筈の部屋響き、麗の背後には長い青い髪に青い瞳の美しい男が姿を現した。
『ねぇ、何でジェームズ達の代なの?』
イアンは小さく息を吐くと、ベッドに腰掛けて脚を組んだ。
「ピーターは闇に落ちて友を裏切り…ジェームズとリリー死ぬ。シリウスは罪を着せられ、リーマスは悲しみ…そして友を疑う。そして数え切れない沢山の者が死へと誘われる…それだけ分かってりゃ良いだろ。寧ろそれも要らないくらいだ」
意地悪く笑っていたイアンは、そこまで話すと笑うのを止めて睨み付ける様に麗を見据えた。
「厄災を避ける為にここへ送った。未来を変えさせる為じゃない」
『私だってそう思った』
不機嫌そうに眉を寄せてそう言った麗は、そっとイアンの隣りへ腰掛けた。
『人が目の前で死ぬのは嫌、死なすのも嫌。勿論殺すのも…でも未来を変えてしまったらどうなるか分からない。変えてしまった未来が何を引き起こすか分からない。変えた未来の引き換えに誰が犠牲になるかも分からないし、もしかしたら更に大きな被害をもたらすかも知れない。だったら手を出さない方が良いのかもしれない』
「分かってるじゃないか」
『でもそんなの嫌』
「……」
『…物語を書き換える』
「駄目だ」
『でしょうね』
「当たり前だ」
『でも私はここに居る』
私は世界に存在する。
『勿論、翡翠もね…私達はイレギュラーの存在。私達は“物語の一部”じゃ無い。確かに選びはしたが、望んで来たわけでは無いのだから“筋書き”に従う気は無い』
「……」
『それが嫌なら直ぐに私達を家へ帰しなさい。私達の厄災は私達で退ける』
「…駄目だ」
駄目…これが交換条件では駄目か。一体どんな厄災なんだか…
『だったら黙って見てて。助けられる命があるなら、私は命張って助けるわ』
私の行動一つ一つが何を引き起こすか分からない。迂闊に動けば、未来を変えるよりも先に私がヴォルデモートに殺られてしまうかもしれない。この世界の力がどんなものかなんて分からないし、ヴォルデモートの力量も分からない。
第一、今の私では恐らく誰とも戦えないのだからいつ死んでも可笑しく無い。
私が死んだら未来は同じだ。
もしかしたら同じ所か本当に悪化するかもしれない。
それに他にも…
「…何かあったらサポートしてやる」
『え…』
「何かあったら手を貸してやらなくもない。仕方無いからな」
手を貸してでも私を帰さないか…もしかして私自身が厄災か…?
「それにお前は駄目だと言っても…殊これに関しては聞かないだろう」
『……何故そう思うか気になるところだが…そうだな』
「それにお前をここに送ったのは俺だ」
瞬間、そっとイアンの手が目元に触れた。反射的に一瞬目を瞑る。
「腫れは…ひいたな」
見てたんだ…そう思った。
確かに私の目は腫れていたのだ。
大広間で組み分けをして、ミネルバに部屋に案内された後、私は翡翠に抱き付いて子供みたいに泣いた。花火に驚いて気が抜けて…溢れそうになった涙が、ミネルバが出て行った後に一気に溢れ出た。
蒼に気を使わせた挙句、泣き疲れて翡翠にあやされる様に眠り、朝起きたら目が見事に腫れていた。
あまりにも酷くて蒼に“心配されるから外に出るな”と言われ、編入した次の日…初日から休む事になるとは思わなかった。
『心配してくれたの?有難う』
小さく笑った麗を見たイアンは、返事をする代わりに軽く咳払いをした。
「…狐と鷹はどうした?」
『居ないよ?』
「てっきり一緒にいると思ったがな」
『ここには居ないわ、だってここは私の部屋だもの』
「あの狐は、そういう事はお構い無しだろ」
『だって、イアンは翡翠と喧嘩するでしょ?』
「…………多分」
『“絶対”よ』
絶対に二人は相性が合わない。喧嘩をするに決まってる。
『ねぇ、イアン』
「何だ」
『世界の境ってなんなの?』
「…ただの書庫だ」
ただの書庫ね…確かに書庫だろうけど、管理しているモノが重要だ。
『じゃあ、管理者ってなんなの』
暫く睨み合いが続いた。イアンは溜め息を吐くと口を開いた。
「管理者は…軸になる世界で架空とされている世界を管理しなければならない」
イアンの話は正直信じられないものだった。
だが私自信も世間一般から見れば“信じられないモノ”だ…受け入れる事は出来る。
「架空の世界は…架空と認識されることで存在する」
『………』
「話は台本通りに進まなくては…進めなくてはならない。その管理の為の管理者だ」
『…私を毎日見張っていると?』
「いや…もう此の世界はお前に任せる」
任せる?管理者が…一応は一介の人間である私に…世界を?
「毎日、毎日…一人、歪みが無いか調べるのには飽きた…だが俺の代わりはいない」
来たら駄目…
──来て…
近付いちゃ駄目…
──独りは嫌…
傷つけてしまう…
──哀しい…寂しい…
お願いだから逃げて…
──側に居て…
傷つけたく無い…
──私を愛して…
「どうした…」
『…何でもない』
麗はイアンに声を掛けられて我に返った。
『私に…任せて良いの?』
「あぁ、一つくらいお前に貸しても気付かれないだろ」
誰に?
そう聞くのは止めた。何となく話したくなさそうだと思ったから。
イアンは“それに”と続けた。
「あの程度の事故ではお前は死ね無い」
『そう…ね…』
あの程度では死なない。死ねない。
「ある意味死ね無い身体のお前を…俺はある意味殺した」
『ある意味では…凄く感謝してるよ、イアン』
私は長く生きたかった。
そして同時に…
早く死にたかった。
『ねぇ…人は死んだらどうなるの?』
イアンは驚いたらしく、チラリと麗を盗み見た。
「色々…人それぞれだな。お前も知ってるだろ……肉体と共に魂も滅びる者、大事な者の守護霊になる者、留まり続ける者、悪霊となる者、転生を望み生まれ変わる者、動物に取り憑きその体を使って生きる者…兎に角沢山だ。持っている力の大きさにもよるしな」
『……なら私は…』
人それぞれ…
なら私は…
『私はイアンの所に行く』
「…は?」
『死んだらイアンの所に行ってイアンを手伝うよ。私が居たらきっと暇って事は無いし……それに素敵な事に、仕事は今迄の半分になるわ』
ポカンと惚けていたイアンは、身体を小刻みに震わせて可笑しそうに笑い出した。
「ククッ…確に暇になら無いな」
初めてちゃんと笑ったのを見た。
『私の力があれば可能かと思ったんだけど…可能かしら?』
「あぁ、そうだな」
『良かった。自意識過剰かと思ったけど』
「足りるさ、十分だ。十分過ぎる」
『じゃあ、私が死んだら迎えに来てちょうだい。全力で暇にはさせないわ!』
イアンが“あぁ、そうだな”と言って一際優しく笑って…何だか凄く嬉しかった。
「寧ろ忙しくて疲れそうだ」
『任せてちょうだい』
「…俺の所に来るんだとしたらあの狐達はどうするんだ?アイツ等の事だから死んでも付いてくるぞ」
『付いて来させないよ。その日まで…この事は家族には秘密』
「俺はその方が良いが…アイツ等が納得するわけ無いだろう」
『それでも…秘密』
教えるわけにはいかない。優しいあの子達は付いて来ると言い出すから。付いて来させるわけにはいかない。今よりもっと縛る事になるから。
だから絶対に教えない。
私が死んだら契約は解除される。
解除されたらもう皆は自由なのだ。
私なんか忘れて、どうか…
どうか幸せに──…
絶対に何にも縛られない存在。
そんなモノが存在するなら、私はある意味でそのモノと対等でいられる。
そんな存在を私はずっと捜していた。
心のどこかで捜していた。
だから、そんな貴方を縛るのが時間だというのなら…
私は──……
=君との約束=
グリフィンドール寮…
寝室へと続く螺旋の階段を上って男子の部屋を過ぎ、女子の部屋を過ぎ…更に上へ上へと上がった一番上の奥の開かずの間。そこが麗の…麗と麗の家族の部屋だ。
杖を手にした麗は、部屋全体に防音の魔法を掛けると寝室に入り、更に内側から魔法を二重に掛けた。念には念をだ。
そして一度深呼吸をし、息を思いっ切り吸う…
『出て来い、真っ青イアン!!』
「ふざけんな、もっと敬意を込めて呼べ」
そう聞き覚えのある男の声が麗以外誰もいない筈の部屋響き、麗の背後には長い青い髪に青い瞳の美しい男が姿を現した。
『ねぇ、何でジェームズ達の代なの?』
イアンは小さく息を吐くと、ベッドに腰掛けて脚を組んだ。
「ピーターは闇に落ちて友を裏切り…ジェームズとリリー死ぬ。シリウスは罪を着せられ、リーマスは悲しみ…そして友を疑う。そして数え切れない沢山の者が死へと誘われる…それだけ分かってりゃ良いだろ。寧ろそれも要らないくらいだ」
意地悪く笑っていたイアンは、そこまで話すと笑うのを止めて睨み付ける様に麗を見据えた。
「厄災を避ける為にここへ送った。未来を変えさせる為じゃない」
『私だってそう思った』
不機嫌そうに眉を寄せてそう言った麗は、そっとイアンの隣りへ腰掛けた。
『人が目の前で死ぬのは嫌、死なすのも嫌。勿論殺すのも…でも未来を変えてしまったらどうなるか分からない。変えてしまった未来が何を引き起こすか分からない。変えた未来の引き換えに誰が犠牲になるかも分からないし、もしかしたら更に大きな被害をもたらすかも知れない。だったら手を出さない方が良いのかもしれない』
「分かってるじゃないか」
『でもそんなの嫌』
「……」
『…物語を書き換える』
「駄目だ」
『でしょうね』
「当たり前だ」
『でも私はここに居る』
私は世界に存在する。
『勿論、翡翠もね…私達はイレギュラーの存在。私達は“物語の一部”じゃ無い。確かに選びはしたが、望んで来たわけでは無いのだから“筋書き”に従う気は無い』
「……」
『それが嫌なら直ぐに私達を家へ帰しなさい。私達の厄災は私達で退ける』
「…駄目だ」
駄目…これが交換条件では駄目か。一体どんな厄災なんだか…
『だったら黙って見てて。助けられる命があるなら、私は命張って助けるわ』
私の行動一つ一つが何を引き起こすか分からない。迂闊に動けば、未来を変えるよりも先に私がヴォルデモートに殺られてしまうかもしれない。この世界の力がどんなものかなんて分からないし、ヴォルデモートの力量も分からない。
第一、今の私では恐らく誰とも戦えないのだからいつ死んでも可笑しく無い。
私が死んだら未来は同じだ。
もしかしたら同じ所か本当に悪化するかもしれない。
それに他にも…
「…何かあったらサポートしてやる」
『え…』
「何かあったら手を貸してやらなくもない。仕方無いからな」
手を貸してでも私を帰さないか…もしかして私自身が厄災か…?
「それにお前は駄目だと言っても…殊これに関しては聞かないだろう」
『……何故そう思うか気になるところだが…そうだな』
「それにお前をここに送ったのは俺だ」
瞬間、そっとイアンの手が目元に触れた。反射的に一瞬目を瞑る。
「腫れは…ひいたな」
見てたんだ…そう思った。
確かに私の目は腫れていたのだ。
大広間で組み分けをして、ミネルバに部屋に案内された後、私は翡翠に抱き付いて子供みたいに泣いた。花火に驚いて気が抜けて…溢れそうになった涙が、ミネルバが出て行った後に一気に溢れ出た。
蒼に気を使わせた挙句、泣き疲れて翡翠にあやされる様に眠り、朝起きたら目が見事に腫れていた。
あまりにも酷くて蒼に“心配されるから外に出るな”と言われ、編入した次の日…初日から休む事になるとは思わなかった。
『心配してくれたの?有難う』
小さく笑った麗を見たイアンは、返事をする代わりに軽く咳払いをした。
「…狐と鷹はどうした?」
『居ないよ?』
「てっきり一緒にいると思ったがな」
『ここには居ないわ、だってここは私の部屋だもの』
「あの狐は、そういう事はお構い無しだろ」
『だって、イアンは翡翠と喧嘩するでしょ?』
「…………多分」
『“絶対”よ』
絶対に二人は相性が合わない。喧嘩をするに決まってる。
『ねぇ、イアン』
「何だ」
『世界の境ってなんなの?』
「…ただの書庫だ」
ただの書庫ね…確かに書庫だろうけど、管理しているモノが重要だ。
『じゃあ、管理者ってなんなの』
暫く睨み合いが続いた。イアンは溜め息を吐くと口を開いた。
「管理者は…軸になる世界で架空とされている世界を管理しなければならない」
イアンの話は正直信じられないものだった。
だが私自信も世間一般から見れば“信じられないモノ”だ…受け入れる事は出来る。
「架空の世界は…架空と認識されることで存在する」
『………』
「話は台本通りに進まなくては…進めなくてはならない。その管理の為の管理者だ」
『…私を毎日見張っていると?』
「いや…もう此の世界はお前に任せる」
任せる?管理者が…一応は一介の人間である私に…世界を?
「毎日、毎日…一人、歪みが無いか調べるのには飽きた…だが俺の代わりはいない」
来たら駄目…
──来て…
近付いちゃ駄目…
──独りは嫌…
傷つけてしまう…
──哀しい…寂しい…
お願いだから逃げて…
──側に居て…
傷つけたく無い…
──私を愛して…
「どうした…」
『…何でもない』
麗はイアンに声を掛けられて我に返った。
『私に…任せて良いの?』
「あぁ、一つくらいお前に貸しても気付かれないだろ」
誰に?
そう聞くのは止めた。何となく話したくなさそうだと思ったから。
イアンは“それに”と続けた。
「あの程度の事故ではお前は死ね無い」
『そう…ね…』
あの程度では死なない。死ねない。
「ある意味死ね無い身体のお前を…俺はある意味殺した」
『ある意味では…凄く感謝してるよ、イアン』
私は長く生きたかった。
そして同時に…
早く死にたかった。
『ねぇ…人は死んだらどうなるの?』
イアンは驚いたらしく、チラリと麗を盗み見た。
「色々…人それぞれだな。お前も知ってるだろ……肉体と共に魂も滅びる者、大事な者の守護霊になる者、留まり続ける者、悪霊となる者、転生を望み生まれ変わる者、動物に取り憑きその体を使って生きる者…兎に角沢山だ。持っている力の大きさにもよるしな」
『……なら私は…』
人それぞれ…
なら私は…
『私はイアンの所に行く』
「…は?」
『死んだらイアンの所に行ってイアンを手伝うよ。私が居たらきっと暇って事は無いし……それに素敵な事に、仕事は今迄の半分になるわ』
ポカンと惚けていたイアンは、身体を小刻みに震わせて可笑しそうに笑い出した。
「ククッ…確に暇になら無いな」
初めてちゃんと笑ったのを見た。
『私の力があれば可能かと思ったんだけど…可能かしら?』
「あぁ、そうだな」
『良かった。自意識過剰かと思ったけど』
「足りるさ、十分だ。十分過ぎる」
『じゃあ、私が死んだら迎えに来てちょうだい。全力で暇にはさせないわ!』
イアンが“あぁ、そうだな”と言って一際優しく笑って…何だか凄く嬉しかった。
「寧ろ忙しくて疲れそうだ」
『任せてちょうだい』
「…俺の所に来るんだとしたらあの狐達はどうするんだ?アイツ等の事だから死んでも付いてくるぞ」
『付いて来させないよ。その日まで…この事は家族には秘密』
「俺はその方が良いが…アイツ等が納得するわけ無いだろう」
『それでも…秘密』
教えるわけにはいかない。優しいあの子達は付いて来ると言い出すから。付いて来させるわけにはいかない。今よりもっと縛る事になるから。
だから絶対に教えない。
私が死んだら契約は解除される。
解除されたらもう皆は自由なのだ。
私なんか忘れて、どうか…
どうか幸せに──…