第2章 秘密ノ謳
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65
夢を見た…
悪夢の中の懐かしい‥
あの暖かい夢を――…‥
==
深夜の医務室‥
ベッドで眠りについている麗の元に透明マントを着てやってきた仕掛人の三人、ジェームズ、リーマス、シリウスは、マントを脱ぐとベッドの下にマントを隠した。
「ジェームズ、リーマス、準備は良いか?」
「良いけど‥
一度一人で入ったんだってね、シリウス」
「麗から許しは出てたんだから‥い、良いだろ」
「ほら、喧嘩してないでとっとと行こうよ」
「ピーター寝てたか?」
「寝てたけど…
又ピーターを連れてかないのかい?」
「ピーターにはキツイからな」
そう答えたシリウスは、ジェームズとリーマスの腕を引き麗の横に立つ。
ピーターにアレは見せられ無い。
アレを見たら気弱なピーターはきっと麗に近付けなくなる。
「行くぞ…」
麗の夢の…
悪夢の中へ――…‥
「解放第三段階」
『はい…』
緋色の髪の年寄りの声に、小さな麗は少々辛そうな顔をしながらそう答えた。
〔麗と一緒にいるの誰かな?〕
ジェームズの一言に、シリウスは表情を歪めた。
〔麗の爺さんだ〕
〔あの人が?〕
〔あぁ‥〕
深く息を吸った麗の周りをバリバリと音を立て、白い電気が走る。
「北西へ撃て」
『ッ…はい』
麗が北西へ向かって腕を一振りすると、ゴロゴロと大きな音を立て、北西へ白い雷が落ちた。
「次、第四段階」
『‥…はい、御祖父様』
〔あの爺さん‥生きてたらぶん殴ってやるのに〕
ジェームズは歯を食い縛るシリウスの肩を軽く叩いた。
〔お年寄り相手に何を言ってるんだい、シリウス〕
〔関係ねぇ‥
麗に無理させてんだからな〕
〔確かにね…
僕もあの人は好かない‥〕
リーマスは殴れない相手を前に拳を固く握り締めた。
瞬間、身体を支えていられなくなった麗は、その場に倒れ込んだ。
〔〔麗!!〕〕
膝を付いて倒れた麗を見たジェームズとリーマスは思わず声を上げ、次の瞬間、自分の耳を疑った。
「何をしておるか!
これくらいでへこたれて最強の鬼子が務まると思っておるのか!!」
倒れた孫に対して掛ける言葉がそれ…?
『‥済みません』
麗が額に浮かんだ汗を拭いながら立ち上がった瞬間、麗の祖父の周りを大勢の男が囲んだ。
『…‥御祖父様‥』
「皐月家当主“火焔”覚悟して貰おうか」
皐月を狙った刺客だった。
それぞれが懐から武器を出し、麗の祖父にその切っ先を向ける。
「儂の命を狙うなら、そこの小娘の命を狙え」
〔〔な‥ッ?!!〕〕
『御祖父様…』
麗は唯、自分の祖父を見つめていた。
悲しそうに表情を歪めながら‥
そんな麗を見、刺客達は馬鹿にした様に笑った。
「小娘に用はない」
刺客がそう言い捨てると、今度は祖父が馬鹿にした様に笑い出した。
「何を言うか…
見目で判断するで無い。
そこの小娘は我が一族最強の術者であり、我が一族の次期当主だぞ」
「この小娘が次期当主!?」
刺客達は目を見開き、慌てて麗を見据え、品定めをする様に見た。
「そうだ。
儂を殺すよりそこの小娘を殺した方が良かろう」
爺を囲んでいた刺客が、今度は麗を取り囲む。
麗は両手を握り締めると祖父を見据えた。
『お、御祖父様‥』
「麗、生きたくば此の刺客共を消せ」
『っ…』
〔あの、爺…〕
押さえきれなったリーマスが麗の祖父に殴り掛ろうとし、ジェームズは慌ててリーマスを羽交い締めにして止めた。
〔駄目だ、リーマス!!
あっちには僕等は見えていない〕
シリウスはリーマスの腕を押さえると、麗を見据えた。
〔…しっかり見てろ、リーマス‥
麗が俺達に壁を造った理由が直ぐに分かる〕
「術の使用は禁ずる。
生かしておいてもいけない」
『しかし、この者達は‥』
「始末しろ」
『ッ…はい、御祖父様…‥』
目に涙を浮かべた麗は、短くそう返事をした。
固く拳を握り締めて涙を引く。
「麗、我が一族は‥」
『未来永劫絶えてはならぬ』
麗の祖父は“分かっているならば良い”と言うと、屋敷内に戻って行った。
『……済まな無い。
私は‥御祖父様の言い付けには逆らえぬ…』
悲しそうな顔をしていた麗は、表情を引き締めると刺客を真っ直ぐに見据えた。
『我が名は皐月 麗、字は“刹”
皐月家五十七代目当主。
‥怨みは無いが…そなた達の命、私が貰い受ける』
刺客達が地を蹴った瞬間、麗が小さく口にした言葉を‥
俺達は決して忘れ無い…‥
無駄死ににはさせない…
だから私が全てを‥
貴方達の分も全てを背負う。
魂連れ逝き‥
怨みを背負おう――…‥
〔リーマス‥大丈夫か?〕
顔を伏せたままのリーマスに、シリウスはそう問い掛けた。
〔何でアイツは自分の孫に殺しなんかさせるんだ!!〕
〔リーマス‥〕
シリウスがそっとリーマスの肩を掴むが、リーマスはそれを振り払った。
〔どう見たって麗は四歳くらいの子供じゃないか!!〕
麗が刺客を殺し続ける夢は連続して続いた。
麗は刺客を何人も…
何十人も‥
何百人も殺し続けた…‥
〔何で子供にあんな事をさせるんだ…
麗の家はどうなってるんだ!!!〕
リーマスの悲痛な叫びが耳に‥頭に響く。
〔桜華に聞いた話なら教えてやる‥〕
〔桜華に聞いたのかい‥?〕
シリウスの言葉に、黙っていたジェームズが口を開いた。
〔あぁ‥
ライ達にも聞いたんだが、誰も教えてくれなかった〕
ライには怒鳴りつけられ、##NAME3##には溜め息を吐かれた。
騎龍と砕覇には殺気をあてて脅され、紙園には無視をされ、西煌は困った様に苦笑した。
渋々だが教えてくれたのは桜華だけだった。
「麗と麗の一族について?」
「そうだ、教えてくれ」
「何故じゃ」
「………麗の夢を見た」
「……麗から夢を見る事を承諾さたから見たのか?」
「あぁ、された」
桜華は少し考えた後、口を開いた。
「夢の中‥
幼き麗を受け入れたという事じゃな?」
「ああ、麗は麗だ」
桜華は“ならば”と言うとシリウスを真っ直ぐに見据えた。
「これから話す事を受け入れる覚悟は出来とろうな?」
「あぁ、出来てる」
「ならば教えてやろう‥」
桜華は微かに嬉しそうに微笑むと、口を開いた。
「麗は鬼じゃ」
「鬼‥?」
鬼…
日本の妖怪の一種‥だよな?
「そうじゃ‥
麗の一族は鬼が人となった一族なんじゃ。
麗の名字である皐月の字は、本来“刹鬼”と書く。
皐月家を立ち上げた初代当主…優れた鬼“刹鬼”の名じゃ‥
刹鬼は月の力を得て“皐月”と名乗った」
麗が鬼で初代が刹鬼?
でも麗は‥
「でも麗は鬼に見え無い」
昔、鬼の絵を見た事があるが、麗とは全然違う。
第一、鬼には角があった‥
「鬼は本来、人の姿を為す妖かしじゃ。
しかし角は残る。
それが麗に無いのは刹鬼が真の人となる事を選び、真の人となったからじゃ。
刹鬼は人を愛したからの…」
人を愛した、最も強く気高き鬼…‥刹鬼…
「人を愛したからこそ妖かしから人を護ろうと人となり、一族を立ち上げて妖かしという妖かしを静めようとした」
それが為すべき事だと信じたから…
「それが今の世迄続き、五十七代目当主が麗なのじゃ」
「五十七代目…」
祓いきれない妖かしや霊達‥
襲い掛る刺客達…
幼き麗の定めは‥
あまりにも残酷だった。
「それに麗が鬼だという証拠もあるぞ」
「証拠…?」
「そうじゃ。
麗の一族は赤髪緋眼じゃっただろ?」
「あぁ‥
麗の祖父は赤髪緋眼だった」
「其が証拠じゃ。
赤髪は強い鬼が赤を好いているからじゃ。
それに緋眼…
あれは“鬼の目”の証じゃ」
「だけど麗の髪は銀髪だ」
シリウスの質問に、桜華はそんな事‥と答える。
「アレは力が強すぎる者だけの特徴じゃ。
初代の鬼“刹鬼”も銀髪じゃった…だから麗の字は刹鬼から名を取り“刹”と言うんじゃ」
困った様に眉を寄せた桜華は、そっと目を閉じた。
「皮肉じゃな…‥」
〔麗が‥鬼…?〕
シリウスの話を聞いたジェームズは呆然としながらそう呟いた。
〔受け入れられねぇか?〕
〔そんな訳無いだろ、シリウス〕
シリウスの問掛けに即答したリーマスは伏せていた顔を上げた。
〔過去に何があろうと麗は麗だ。
僕は麗の全部が好きなんだ。
シリウスもそうだろ?〕
〔あぁ、そうだな〕
二人は笑いあうとジェームズの方を向き、声を揃えた。
〔〔ジェームズは?〕〕
そんな二人を見たジェームズは、可笑しそうに笑うと口を開いた。
〔勿論、僕も好きだよ!
まあ、リリーの次にだけど~〕
三人が笑いあっていると、景色が一変し、辺りは森の中になった。
見渡してみれば、少し先で小さな麗が涙を流しながら佇んでいる。
〔麗‥?〕
不思議そうに眉を寄せるシリウスを見たジェームズは不思議そうに問い掛けた。
〔前に見なかったのかい‥?〕
〔あぁ、前にはこんな夢は無かった‥〕
三人はゆっくりと麗に歩み寄った。
『もぅ、嫌だ…』
それは麗の心からの願いだった。
『もう誰も殺したく無い…
誰も…誰も…‥誰一人‥』
シリウスは泣き続ける麗にそっと手を伸ばした。
〔駄目だ、シリウス!!〕
ジェームズの手が止めるより、シリウスの手が麗に触れる方が早かった。
『未来の私はどうなってしまうんだ‥?
今の私は唯の人殺しではないか…』
「大丈夫だ」
『ッ…!!』
幼い麗はシリウスを見ると目を見開き、シリウスはしゃがみ込んで麗と視線を合わせると、再度口を開いた。
「お前は優しい人になるよ。
俺は知ってる‥お前は強く、気高く、優しい…
他人を元気に出来る人になるよ‥だから泣くな。
お前が泣くと俺が悲しい」
シリウスは麗の目から溢れる涙をそっと指の腹で拭う。
「一人でも良い‥大切な人がいるだろ?
その人を悲しませちゃ駄目だ」
そう真剣な表情で言うシリウスを見、幼い麗は自分で涙を拭うと嬉しそうに微笑み、シリウスの頬に触れた。
『そうだな‥
私にはあの人と家族がいる』
麗はシリウスの頬に口付けると再度微笑んだ。
『有難う‥
優しく清らかな者』
次の瞬間‥
辺りが眩しく光り、気が付くと医務室にいた。
「帰ってきた‥?」
辺りを見回すシリウスの頬をリーマスは微笑みながら力の限り抓った。
「そうだよ、全く‥
夢の中の麗に話しかけたり何かして…しかもキスまでして貰っちゃってね」
リーマスは“ハハハ‥”と笑いながらどんどんシリウスの頬を横へ引っ張っていき、ジェームズは楽しそうに声を上げて笑うと、問い掛けた。
「そういえば“あの人”って誰なのかな?」
麗が言っていた“あの人”は麗の大切な人に違い無い。
「あ――‥苛々する」
リーマスは微笑みながら、更にシリウスの頬を引っ張った。
「ひへぇほ、ひーまふ!!(痛ぇよ、リーマス!!)」
迎え入れる準備は出来た‥
後はお前が‥
目覚めるだけだぞ。
‥麗…‥
突然現れた黒髪の青年は、礼を言った瞬間に消えてしまった。
『“強く、気高く、優しい”』
なれるだろうか‥
この私がそんな女性に…‥
「麗!」
声を掛けられて振り返ると、緩いウェーブの掛った黒髪の少年がこちらに向かって駈けて来た。
『澪‥』
「こんな所にいたんだな、いろんな所探しちまったよ」
『御免、澪』
「良いよ、別に…
あのさ、麗‥俺…‥」
俺、爺さんに会ってきたよ…
夢を見た…
悪夢の中の懐かしい‥
あの暖かい夢を――…‥
==
深夜の医務室‥
ベッドで眠りについている麗の元に透明マントを着てやってきた仕掛人の三人、ジェームズ、リーマス、シリウスは、マントを脱ぐとベッドの下にマントを隠した。
「ジェームズ、リーマス、準備は良いか?」
「良いけど‥
一度一人で入ったんだってね、シリウス」
「麗から許しは出てたんだから‥い、良いだろ」
「ほら、喧嘩してないでとっとと行こうよ」
「ピーター寝てたか?」
「寝てたけど…
又ピーターを連れてかないのかい?」
「ピーターにはキツイからな」
そう答えたシリウスは、ジェームズとリーマスの腕を引き麗の横に立つ。
ピーターにアレは見せられ無い。
アレを見たら気弱なピーターはきっと麗に近付けなくなる。
「行くぞ…」
麗の夢の…
悪夢の中へ――…‥
「解放第三段階」
『はい…』
緋色の髪の年寄りの声に、小さな麗は少々辛そうな顔をしながらそう答えた。
〔麗と一緒にいるの誰かな?〕
ジェームズの一言に、シリウスは表情を歪めた。
〔麗の爺さんだ〕
〔あの人が?〕
〔あぁ‥〕
深く息を吸った麗の周りをバリバリと音を立て、白い電気が走る。
「北西へ撃て」
『ッ…はい』
麗が北西へ向かって腕を一振りすると、ゴロゴロと大きな音を立て、北西へ白い雷が落ちた。
「次、第四段階」
『‥…はい、御祖父様』
〔あの爺さん‥生きてたらぶん殴ってやるのに〕
ジェームズは歯を食い縛るシリウスの肩を軽く叩いた。
〔お年寄り相手に何を言ってるんだい、シリウス〕
〔関係ねぇ‥
麗に無理させてんだからな〕
〔確かにね…
僕もあの人は好かない‥〕
リーマスは殴れない相手を前に拳を固く握り締めた。
瞬間、身体を支えていられなくなった麗は、その場に倒れ込んだ。
〔〔麗!!〕〕
膝を付いて倒れた麗を見たジェームズとリーマスは思わず声を上げ、次の瞬間、自分の耳を疑った。
「何をしておるか!
これくらいでへこたれて最強の鬼子が務まると思っておるのか!!」
倒れた孫に対して掛ける言葉がそれ…?
『‥済みません』
麗が額に浮かんだ汗を拭いながら立ち上がった瞬間、麗の祖父の周りを大勢の男が囲んだ。
『…‥御祖父様‥』
「皐月家当主“火焔”覚悟して貰おうか」
皐月を狙った刺客だった。
それぞれが懐から武器を出し、麗の祖父にその切っ先を向ける。
「儂の命を狙うなら、そこの小娘の命を狙え」
〔〔な‥ッ?!!〕〕
『御祖父様…』
麗は唯、自分の祖父を見つめていた。
悲しそうに表情を歪めながら‥
そんな麗を見、刺客達は馬鹿にした様に笑った。
「小娘に用はない」
刺客がそう言い捨てると、今度は祖父が馬鹿にした様に笑い出した。
「何を言うか…
見目で判断するで無い。
そこの小娘は我が一族最強の術者であり、我が一族の次期当主だぞ」
「この小娘が次期当主!?」
刺客達は目を見開き、慌てて麗を見据え、品定めをする様に見た。
「そうだ。
儂を殺すよりそこの小娘を殺した方が良かろう」
爺を囲んでいた刺客が、今度は麗を取り囲む。
麗は両手を握り締めると祖父を見据えた。
『お、御祖父様‥』
「麗、生きたくば此の刺客共を消せ」
『っ…』
〔あの、爺…〕
押さえきれなったリーマスが麗の祖父に殴り掛ろうとし、ジェームズは慌ててリーマスを羽交い締めにして止めた。
〔駄目だ、リーマス!!
あっちには僕等は見えていない〕
シリウスはリーマスの腕を押さえると、麗を見据えた。
〔…しっかり見てろ、リーマス‥
麗が俺達に壁を造った理由が直ぐに分かる〕
「術の使用は禁ずる。
生かしておいてもいけない」
『しかし、この者達は‥』
「始末しろ」
『ッ…はい、御祖父様…‥』
目に涙を浮かべた麗は、短くそう返事をした。
固く拳を握り締めて涙を引く。
「麗、我が一族は‥」
『未来永劫絶えてはならぬ』
麗の祖父は“分かっているならば良い”と言うと、屋敷内に戻って行った。
『……済まな無い。
私は‥御祖父様の言い付けには逆らえぬ…』
悲しそうな顔をしていた麗は、表情を引き締めると刺客を真っ直ぐに見据えた。
『我が名は皐月 麗、字は“刹”
皐月家五十七代目当主。
‥怨みは無いが…そなた達の命、私が貰い受ける』
刺客達が地を蹴った瞬間、麗が小さく口にした言葉を‥
俺達は決して忘れ無い…‥
無駄死ににはさせない…
だから私が全てを‥
貴方達の分も全てを背負う。
魂連れ逝き‥
怨みを背負おう――…‥
〔リーマス‥大丈夫か?〕
顔を伏せたままのリーマスに、シリウスはそう問い掛けた。
〔何でアイツは自分の孫に殺しなんかさせるんだ!!〕
〔リーマス‥〕
シリウスがそっとリーマスの肩を掴むが、リーマスはそれを振り払った。
〔どう見たって麗は四歳くらいの子供じゃないか!!〕
麗が刺客を殺し続ける夢は連続して続いた。
麗は刺客を何人も…
何十人も‥
何百人も殺し続けた…‥
〔何で子供にあんな事をさせるんだ…
麗の家はどうなってるんだ!!!〕
リーマスの悲痛な叫びが耳に‥頭に響く。
〔桜華に聞いた話なら教えてやる‥〕
〔桜華に聞いたのかい‥?〕
シリウスの言葉に、黙っていたジェームズが口を開いた。
〔あぁ‥
ライ達にも聞いたんだが、誰も教えてくれなかった〕
ライには怒鳴りつけられ、##NAME3##には溜め息を吐かれた。
騎龍と砕覇には殺気をあてて脅され、紙園には無視をされ、西煌は困った様に苦笑した。
渋々だが教えてくれたのは桜華だけだった。
「麗と麗の一族について?」
「そうだ、教えてくれ」
「何故じゃ」
「………麗の夢を見た」
「……麗から夢を見る事を承諾さたから見たのか?」
「あぁ、された」
桜華は少し考えた後、口を開いた。
「夢の中‥
幼き麗を受け入れたという事じゃな?」
「ああ、麗は麗だ」
桜華は“ならば”と言うとシリウスを真っ直ぐに見据えた。
「これから話す事を受け入れる覚悟は出来とろうな?」
「あぁ、出来てる」
「ならば教えてやろう‥」
桜華は微かに嬉しそうに微笑むと、口を開いた。
「麗は鬼じゃ」
「鬼‥?」
鬼…
日本の妖怪の一種‥だよな?
「そうじゃ‥
麗の一族は鬼が人となった一族なんじゃ。
麗の名字である皐月の字は、本来“刹鬼”と書く。
皐月家を立ち上げた初代当主…優れた鬼“刹鬼”の名じゃ‥
刹鬼は月の力を得て“皐月”と名乗った」
麗が鬼で初代が刹鬼?
でも麗は‥
「でも麗は鬼に見え無い」
昔、鬼の絵を見た事があるが、麗とは全然違う。
第一、鬼には角があった‥
「鬼は本来、人の姿を為す妖かしじゃ。
しかし角は残る。
それが麗に無いのは刹鬼が真の人となる事を選び、真の人となったからじゃ。
刹鬼は人を愛したからの…」
人を愛した、最も強く気高き鬼…‥刹鬼…
「人を愛したからこそ妖かしから人を護ろうと人となり、一族を立ち上げて妖かしという妖かしを静めようとした」
それが為すべき事だと信じたから…
「それが今の世迄続き、五十七代目当主が麗なのじゃ」
「五十七代目…」
祓いきれない妖かしや霊達‥
襲い掛る刺客達…
幼き麗の定めは‥
あまりにも残酷だった。
「それに麗が鬼だという証拠もあるぞ」
「証拠…?」
「そうじゃ。
麗の一族は赤髪緋眼じゃっただろ?」
「あぁ‥
麗の祖父は赤髪緋眼だった」
「其が証拠じゃ。
赤髪は強い鬼が赤を好いているからじゃ。
それに緋眼…
あれは“鬼の目”の証じゃ」
「だけど麗の髪は銀髪だ」
シリウスの質問に、桜華はそんな事‥と答える。
「アレは力が強すぎる者だけの特徴じゃ。
初代の鬼“刹鬼”も銀髪じゃった…だから麗の字は刹鬼から名を取り“刹”と言うんじゃ」
困った様に眉を寄せた桜華は、そっと目を閉じた。
「皮肉じゃな…‥」
〔麗が‥鬼…?〕
シリウスの話を聞いたジェームズは呆然としながらそう呟いた。
〔受け入れられねぇか?〕
〔そんな訳無いだろ、シリウス〕
シリウスの問掛けに即答したリーマスは伏せていた顔を上げた。
〔過去に何があろうと麗は麗だ。
僕は麗の全部が好きなんだ。
シリウスもそうだろ?〕
〔あぁ、そうだな〕
二人は笑いあうとジェームズの方を向き、声を揃えた。
〔〔ジェームズは?〕〕
そんな二人を見たジェームズは、可笑しそうに笑うと口を開いた。
〔勿論、僕も好きだよ!
まあ、リリーの次にだけど~〕
三人が笑いあっていると、景色が一変し、辺りは森の中になった。
見渡してみれば、少し先で小さな麗が涙を流しながら佇んでいる。
〔麗‥?〕
不思議そうに眉を寄せるシリウスを見たジェームズは不思議そうに問い掛けた。
〔前に見なかったのかい‥?〕
〔あぁ、前にはこんな夢は無かった‥〕
三人はゆっくりと麗に歩み寄った。
『もぅ、嫌だ…』
それは麗の心からの願いだった。
『もう誰も殺したく無い…
誰も…誰も…‥誰一人‥』
シリウスは泣き続ける麗にそっと手を伸ばした。
〔駄目だ、シリウス!!〕
ジェームズの手が止めるより、シリウスの手が麗に触れる方が早かった。
『未来の私はどうなってしまうんだ‥?
今の私は唯の人殺しではないか…』
「大丈夫だ」
『ッ…!!』
幼い麗はシリウスを見ると目を見開き、シリウスはしゃがみ込んで麗と視線を合わせると、再度口を開いた。
「お前は優しい人になるよ。
俺は知ってる‥お前は強く、気高く、優しい…
他人を元気に出来る人になるよ‥だから泣くな。
お前が泣くと俺が悲しい」
シリウスは麗の目から溢れる涙をそっと指の腹で拭う。
「一人でも良い‥大切な人がいるだろ?
その人を悲しませちゃ駄目だ」
そう真剣な表情で言うシリウスを見、幼い麗は自分で涙を拭うと嬉しそうに微笑み、シリウスの頬に触れた。
『そうだな‥
私にはあの人と家族がいる』
麗はシリウスの頬に口付けると再度微笑んだ。
『有難う‥
優しく清らかな者』
次の瞬間‥
辺りが眩しく光り、気が付くと医務室にいた。
「帰ってきた‥?」
辺りを見回すシリウスの頬をリーマスは微笑みながら力の限り抓った。
「そうだよ、全く‥
夢の中の麗に話しかけたり何かして…しかもキスまでして貰っちゃってね」
リーマスは“ハハハ‥”と笑いながらどんどんシリウスの頬を横へ引っ張っていき、ジェームズは楽しそうに声を上げて笑うと、問い掛けた。
「そういえば“あの人”って誰なのかな?」
麗が言っていた“あの人”は麗の大切な人に違い無い。
「あ――‥苛々する」
リーマスは微笑みながら、更にシリウスの頬を引っ張った。
「ひへぇほ、ひーまふ!!(痛ぇよ、リーマス!!)」
迎え入れる準備は出来た‥
後はお前が‥
目覚めるだけだぞ。
‥麗…‥
突然現れた黒髪の青年は、礼を言った瞬間に消えてしまった。
『“強く、気高く、優しい”』
なれるだろうか‥
この私がそんな女性に…‥
「麗!」
声を掛けられて振り返ると、緩いウェーブの掛った黒髪の少年がこちらに向かって駈けて来た。
『澪‥』
「こんな所にいたんだな、いろんな所探しちまったよ」
『御免、澪』
「良いよ、別に…
あのさ、麗‥俺…‥」
俺、爺さんに会ってきたよ…
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