第2章 秘密ノ謳
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61
俺は…
俺に抱き付いたまま寝てしまった麗を抱き締め‥呪文を唱えた。
俺はゆっくりと溶け込み、麗の夢へと入り込む…
麗を知る為に───…‥
==
肩を軽く揺すられ目を覚ますと、麗を抱き締めたまま眠っていたソファーの横には人型の##NAME3##が立っていた。
「返して貰おうか」
そう口にした##NAME3##は手を伸ばし、麗を受け取ろうとする。
少し頭にきた。
「物みたいに言うなよ」
「俺の一番大切な者だ…」
##NAME3##の一言にシリウスは目を見開いた。
やはり##NAME3##も麗を…
「‥お前、又夢を覗いていただろ?」
##NAME3##はシリウスから麗を奪い取ると、丁寧に抱き上げる。
小さく“ん‥”と唸った麗が##NAME3##の首に腕を回して抱き付いた。
「麗に許しは貰った」
「そうか‥
俺は兎も角、ライ達には効かんぞ。
バレ無い様にするんだな」
「‥分かってる。
##NAME3##は麗の過去を知っているのか?」
血に染まった麗を‥
「麗の過去に何があろうと関係無い‥俺は麗の家族だ…
そして俺がすべき事は麗の過去の詮索じゃなく麗と共に麗の道を行く事だけだ…‥」
「麗の道‥?」
麗の道とは何だろうか?
「お前は知らなくて良い事だ…
‥麗の過去を見て恐ろしくなかったか?」
「…まさか」
シリウスは軽く苦笑すると##NAME3##を見据えた。
「驚きはしたが恐怖心は無いさ」
約束した…
いつも通りでいるって‥
それに本当に怖くは無かった。
唯、驚いただけだった…
過去の麗は…
祖父に縛られ‥
家柄に縛られ…
力に縛られ‥
大人の中で…
闇の中で生き続けた‥
哀しい表情をした少女だった…
刺客に襲われる日々…
それ故に幼い麗は繰り返した。
同じ事を──…‥
麗を横抱きにした##NAME3##は、足音を立てずにそっと部屋に繋がる階段を上っていった。
『ん…‥##NAME3##‥?』
階段を中盤辺りまで上った所で、麗は目を覚ました。
霞む目を擦りながら##NAME3##を見ると、目元が優しく笑っていた。
「今日はコンサートがある。
‥眠ければ寝てると良い」
『……‥うん‥御休み、##NAME3##』
“今宵、二十一時スタジアムにてディーヴァのライブを執り行う”
“銘鈴が迎えに来た”と##NAME3##に起こされた麗は、銘鈴に連れられて会場のスタジアムへと向かった。
麗の肩には紙園が…
隣りに控えたライと西煌の肩にはそれぞれ紅葉と鷹の##NAME3##が乗っていた。
銘鈴によって会場奥の広い部屋に通される。
「此処が控室です!
衣装なども揃ってますから着替えて下さいね。
えっと…西煌サン達はどうしますか、麗サン」
銘鈴は西煌とライをチラッと見て困った様に眉を寄せた。
『一緒で大丈夫よ、銘鈴』
麗は肩に乗った紙園を撫でながらニッコリと微笑む。
「ハイ、分かりました」
銘鈴は微笑み返すと一礼し、部屋を出て行った。
「まだ三匹も男がいるじゃねぇか」
そう言うライの声に答える様に、肩に乗っていた##NAME3##と紙園が肩から飛び降り、人型になった。
それを見届ける様に見た麗は、ソファーに歩み寄ると腰を降ろした。
「それに紅葉は一応唯の狐だ」
紙園は話ながら麗の隣りに座り、##NAME3##は部屋に備え付いたキッチンに立ち、紅茶を淹れ出した。
『唯の狐なんて言ったら紅葉が拗ねるわよ、紙園』
「ところで‥
銘鈴は何を気にしてたね?」
「鈍ッ‥着替えとかだろ」
『まぁ、女の子が着替えるのに男が居ればねぇ…』
ライと麗の答えに、西煌は困った様に眉を寄せて頭を掻いた。
「あ―…我、今デリカシーの無い男みたいになてるね」
『あら‥貴方は家族の中で二番目に紳士よ、西煌』
「一番は誰だ?」
『舞白。
西煌は少し天然だから二番目』
更に言うと、舞白よりも上がいた。
誰とも比べられない程の紳士‥
そう思える彼は、私の中で絶えず生きている。
「‥俺じゃないのかよ」
「ライ、貴方は優しいけど“紳士”では無いわ」
麗は不機嫌そうに眉を寄せたライを見てクスクス笑った。
瞬間、部屋にノック音が響き、##NAME3##と紙園は一瞬にして元の姿に戻った。
一・二回羽ばたいた##NAME3##がキッチンから移動し、ソファーの背凭れに脚を掛けて止まる。
『…銘鈴、何か用?』
麗がそう口にすれば、扉が薄く開き、銘鈴が顔を出した。
「あ、あの‥麗サンのお友達だという方が来ているんですが‥」
『誰‥?』
「あの…“パッドフット”っていう明らかに偽名の変な名前の方です」
パッドフット…詰まりはシリウス。
確かに偽名だが、手厳しい‥
ここまでズタボロに言われると…
『通して大丈夫よ…私の友達だから』
「ハイ、麗サン!
…パッドフットサン‥御入り下さい、御許しがでました」
銘鈴が“失礼します”と一礼をして出ていき、代わりにシリウスが部屋へ入って来た。
麗が合図を出せば、ライ達は黙って隣の部屋に移動した。
それを見届けた麗は口を開く。
『いらっしゃい、パッドフット』
「シャントゥール…」
『プロングス達は‥?』
「会場にいる」
『そう』
「俺‥見たよ」
俺はそう、口にした。
『…‥そぅ…』
麗の表情が曇り、麗は困った様に眉を寄せた。
それを見ながら、シリウスは続ける。
「でも‥怖くないし、気味悪くもない‥普通に話せるし笑える…それに…‥」
麗は俺の大事な友達だ。
離れるわけが無い。
それに…
何より大切な事がある。
「何があっても麗の事が好きな気持ちに変わりは無い」
『そう…』
顔を伏せた麗が泣きそうになっているのが分かった。
俺が声を掛ける前に麗が顔を上げ、嬉しそうに‥けどどこか悲しそうに微笑んだ。
『有難う‥シリウス』
俺は此の時の麗の顔を忘れる事は無いだろう。
俺は麗が笑った顔が何より好きだから‥
麗のこんな笑顔は、滅多に見れるもんじゃない…‥
だから俺は‥
記憶に焼き付けるんだ。
『シリウス、私‥』
そう口にした瞬間、再びノック音が部屋に響き薄く開いた扉から銘鈴が顔を出した。
「失礼します、麗サン…」
『どうしたの、銘鈴?』
「あの‥又、麗サンにお客サンなんです…」
『名前は?』
「一人が“プロングス”サンと名乗ってました」
“又偽名ですよ”と言う銘鈴を見、麗はシリウスと顔を合わせるとクスクス笑い出した。
『御通しして、銘鈴』
「あ、はい!
御入り下さい、プロングスサン!」
銘鈴が持ち場に下がり、代わりにジェームズ達が部屋に入って来る。
「やあ、シャントゥール…って、シリウス来てたのか!」
元気よく入って来たジェームズがシリウスを見て止まり、リーマスがニッコリと微笑んだ。
「…突然消えたと思ったら麗の所にいたんだね、シリウス」
「よ、用があったからな」
冷汗をかきながらそう答えるシリウスを無視してリーマスは麗に優しく微笑みかけた。
「今日も綺麗だね、シャントゥール」
『いらっしゃい、ムーニー‥
プロングスにワームテールも』
麗が微笑むと、ジェームズが花束を取り出し、麗に差し出した。
「僕等からだよ」
『有難う、皆』
麗は花束を受け取ると、嬉しそうにそれを抱き締めた。
「ぇ、え、えっと‥が、頑張ってね、シャントゥール」
ピーターが小さなネズミの縫いぐるみを差し出し、麗はそれをそっと受け取った。
『ワームテール、これは‥?』
「お、御守り」
掌サイズの小さなネズミは、動物擬きのピーターに似ていて可愛かった。
『それは心強いわ』
青いライトを浴びて…
私は私のステージに立つ。
会場から溢れる程の観客を前にして謳って‥
初めて気付いた事があった。
人前で謳うのが嫌いだったのに…
今はとても心地好い‥
あぁ‥
今なら謳えるだろう…
ラストの曲は貴方達に贈るよ…
私の最高の鎮魂曲を…‥
貴方達(父様達)へ――…‥
スタジアムに作られた特設ステージで歌う麗はとても綺麗で…
とても楽しそうだった。
いつも黒いドレスを着て歌っていた麗は、今日は何故か白いドレスを着て歌っていて‥
真っ白で…
蒼いライトが良く似合った。
俺達に視線を向けるよりも早く、麗は大勢の客の中から一人の金髪の男を探しだし、そいつに向かって嬉しそうに微笑んだ。
俺達の方を見たのはライ達と…そして何故か空を見て微笑んだ後だった。
夢に浸る様な‥
そんなライブにも終わりは来る。
歌いきって一礼をした麗は、花束の贈呈をしに来た人型の紙園に抱き付くと“又何処かで謳わせて”と客に向かって幸せそうに言い、紙園を連れて術で何処かへ消え去ってしまった。
麗がステージに残したのはたった一輪の花だけで…
花は全ての客が帰るまで、蒼いライトにずっと照らされていた。
「お疲れ~」
「御疲れ様です、麗様」
控え室に帰ると、椿と凌がお茶をしながら待っていた。
麗は嬉しそうに微笑むと凌の隣りに腰掛けた。
「ライ達は~?」
『今頃スカウトにでもあってる筈よ。
紙園もそこの廊下で捕まっちゃったし』
「大蛇達もですか?」
『謳ってる最中にステージ脇にいるのを見掛けたから、多分皆スカウト集団に捕まってるよ』
麗は“性格上受け無いだろうけど”と言いながら髪飾りを外した。
ライ達の事だからやる気が無いだろうに…大変な事だ。
砕覇は調子に乗って話し込んでいそうだな‥
「受けちゃえば良いのに~」
『椿、ライ達と遊ぶの好きじゃない…寂しく無いの?』
「そりゃ~
遊ぶのは好きだけどさ~」
椿は麗の隣りに移動すると、麗の膝に自分の頭を乗せる様にしてソファーに寝転んだ。
「皆が忙しけりゃ麗を凌と二人で‥二人占め出来るじゃん!」
ニカッと笑った椿が凌に同意を求め、凌は微笑んで答えた。
『じゃあ今度、三人でクリスマスプレゼント買いに行こうか』
こういう時、私は‥
とても良い家族をもったと…
そう感じる――…‥
スカウトから逃れたライ達と合流した麗は、そのまま会場を後にしてホグワーツへと帰った。
皆に“御休み”と挨拶をすると自分の寝室に入り‥
そして開け放った窓から飛び降りた。
月に照らされながらホグワーツの森に来た麗は、##NAME4##を呼び出すと草原に寝転がった。
『##NAME4##、空からコンサート見てたでしょ?』
そう口にすれば、##NAME4##が隣に寝転がる。
「…‥さぁな」
『あの時、目が合ったじゃない』
麗はクスクス笑うと##NAME4##の手を握った。
『あのね‥
とっても楽しかった…
とっても気持ち良かったの』
月の綺麗な冬の星空を見上げる。
『とっても、とっても‥
幸せだった…とっても…‥』
一時、過ちを忘れるくらい‥
謳う事は…
愚かな私を一時だけでも浄化する…
『謳って…
歌って‥とても偉大で…あったかくて‥最高に素敵』
今更気付いた…
私‥
ウタってる時、幸せだ…
『私…
逝く時は謳いながら逝きたいわ』
「‥任せろ」
麗は夜空を見ていた顔を##NAME4##に向け、嬉しそうに微笑んだ。
ディーヴァのクリスマスプレゼント
ディーヴァこと、麗・皐月がクリスマスに観客無制限のライブを行った。
宣伝等は一切されておらず、クリスマス当日の夕方にサポーターの芸能雑誌出版会社が場所と時間を記したカードを空から撒いた。
――日刊予言者新聞―
俺は…
俺に抱き付いたまま寝てしまった麗を抱き締め‥呪文を唱えた。
俺はゆっくりと溶け込み、麗の夢へと入り込む…
麗を知る為に───…‥
==
肩を軽く揺すられ目を覚ますと、麗を抱き締めたまま眠っていたソファーの横には人型の##NAME3##が立っていた。
「返して貰おうか」
そう口にした##NAME3##は手を伸ばし、麗を受け取ろうとする。
少し頭にきた。
「物みたいに言うなよ」
「俺の一番大切な者だ…」
##NAME3##の一言にシリウスは目を見開いた。
やはり##NAME3##も麗を…
「‥お前、又夢を覗いていただろ?」
##NAME3##はシリウスから麗を奪い取ると、丁寧に抱き上げる。
小さく“ん‥”と唸った麗が##NAME3##の首に腕を回して抱き付いた。
「麗に許しは貰った」
「そうか‥
俺は兎も角、ライ達には効かんぞ。
バレ無い様にするんだな」
「‥分かってる。
##NAME3##は麗の過去を知っているのか?」
血に染まった麗を‥
「麗の過去に何があろうと関係無い‥俺は麗の家族だ…
そして俺がすべき事は麗の過去の詮索じゃなく麗と共に麗の道を行く事だけだ…‥」
「麗の道‥?」
麗の道とは何だろうか?
「お前は知らなくて良い事だ…
‥麗の過去を見て恐ろしくなかったか?」
「…まさか」
シリウスは軽く苦笑すると##NAME3##を見据えた。
「驚きはしたが恐怖心は無いさ」
約束した…
いつも通りでいるって‥
それに本当に怖くは無かった。
唯、驚いただけだった…
過去の麗は…
祖父に縛られ‥
家柄に縛られ…
力に縛られ‥
大人の中で…
闇の中で生き続けた‥
哀しい表情をした少女だった…
刺客に襲われる日々…
それ故に幼い麗は繰り返した。
同じ事を──…‥
麗を横抱きにした##NAME3##は、足音を立てずにそっと部屋に繋がる階段を上っていった。
『ん…‥##NAME3##‥?』
階段を中盤辺りまで上った所で、麗は目を覚ました。
霞む目を擦りながら##NAME3##を見ると、目元が優しく笑っていた。
「今日はコンサートがある。
‥眠ければ寝てると良い」
『……‥うん‥御休み、##NAME3##』
“今宵、二十一時スタジアムにてディーヴァのライブを執り行う”
“銘鈴が迎えに来た”と##NAME3##に起こされた麗は、銘鈴に連れられて会場のスタジアムへと向かった。
麗の肩には紙園が…
隣りに控えたライと西煌の肩にはそれぞれ紅葉と鷹の##NAME3##が乗っていた。
銘鈴によって会場奥の広い部屋に通される。
「此処が控室です!
衣装なども揃ってますから着替えて下さいね。
えっと…西煌サン達はどうしますか、麗サン」
銘鈴は西煌とライをチラッと見て困った様に眉を寄せた。
『一緒で大丈夫よ、銘鈴』
麗は肩に乗った紙園を撫でながらニッコリと微笑む。
「ハイ、分かりました」
銘鈴は微笑み返すと一礼し、部屋を出て行った。
「まだ三匹も男がいるじゃねぇか」
そう言うライの声に答える様に、肩に乗っていた##NAME3##と紙園が肩から飛び降り、人型になった。
それを見届ける様に見た麗は、ソファーに歩み寄ると腰を降ろした。
「それに紅葉は一応唯の狐だ」
紙園は話ながら麗の隣りに座り、##NAME3##は部屋に備え付いたキッチンに立ち、紅茶を淹れ出した。
『唯の狐なんて言ったら紅葉が拗ねるわよ、紙園』
「ところで‥
銘鈴は何を気にしてたね?」
「鈍ッ‥着替えとかだろ」
『まぁ、女の子が着替えるのに男が居ればねぇ…』
ライと麗の答えに、西煌は困った様に眉を寄せて頭を掻いた。
「あ―…我、今デリカシーの無い男みたいになてるね」
『あら‥貴方は家族の中で二番目に紳士よ、西煌』
「一番は誰だ?」
『舞白。
西煌は少し天然だから二番目』
更に言うと、舞白よりも上がいた。
誰とも比べられない程の紳士‥
そう思える彼は、私の中で絶えず生きている。
「‥俺じゃないのかよ」
「ライ、貴方は優しいけど“紳士”では無いわ」
麗は不機嫌そうに眉を寄せたライを見てクスクス笑った。
瞬間、部屋にノック音が響き、##NAME3##と紙園は一瞬にして元の姿に戻った。
一・二回羽ばたいた##NAME3##がキッチンから移動し、ソファーの背凭れに脚を掛けて止まる。
『…銘鈴、何か用?』
麗がそう口にすれば、扉が薄く開き、銘鈴が顔を出した。
「あ、あの‥麗サンのお友達だという方が来ているんですが‥」
『誰‥?』
「あの…“パッドフット”っていう明らかに偽名の変な名前の方です」
パッドフット…詰まりはシリウス。
確かに偽名だが、手厳しい‥
ここまでズタボロに言われると…
『通して大丈夫よ…私の友達だから』
「ハイ、麗サン!
…パッドフットサン‥御入り下さい、御許しがでました」
銘鈴が“失礼します”と一礼をして出ていき、代わりにシリウスが部屋へ入って来た。
麗が合図を出せば、ライ達は黙って隣の部屋に移動した。
それを見届けた麗は口を開く。
『いらっしゃい、パッドフット』
「シャントゥール…」
『プロングス達は‥?』
「会場にいる」
『そう』
「俺‥見たよ」
俺はそう、口にした。
『…‥そぅ…』
麗の表情が曇り、麗は困った様に眉を寄せた。
それを見ながら、シリウスは続ける。
「でも‥怖くないし、気味悪くもない‥普通に話せるし笑える…それに…‥」
麗は俺の大事な友達だ。
離れるわけが無い。
それに…
何より大切な事がある。
「何があっても麗の事が好きな気持ちに変わりは無い」
『そう…』
顔を伏せた麗が泣きそうになっているのが分かった。
俺が声を掛ける前に麗が顔を上げ、嬉しそうに‥けどどこか悲しそうに微笑んだ。
『有難う‥シリウス』
俺は此の時の麗の顔を忘れる事は無いだろう。
俺は麗が笑った顔が何より好きだから‥
麗のこんな笑顔は、滅多に見れるもんじゃない…‥
だから俺は‥
記憶に焼き付けるんだ。
『シリウス、私‥』
そう口にした瞬間、再びノック音が部屋に響き薄く開いた扉から銘鈴が顔を出した。
「失礼します、麗サン…」
『どうしたの、銘鈴?』
「あの‥又、麗サンにお客サンなんです…」
『名前は?』
「一人が“プロングス”サンと名乗ってました」
“又偽名ですよ”と言う銘鈴を見、麗はシリウスと顔を合わせるとクスクス笑い出した。
『御通しして、銘鈴』
「あ、はい!
御入り下さい、プロングスサン!」
銘鈴が持ち場に下がり、代わりにジェームズ達が部屋に入って来る。
「やあ、シャントゥール…って、シリウス来てたのか!」
元気よく入って来たジェームズがシリウスを見て止まり、リーマスがニッコリと微笑んだ。
「…突然消えたと思ったら麗の所にいたんだね、シリウス」
「よ、用があったからな」
冷汗をかきながらそう答えるシリウスを無視してリーマスは麗に優しく微笑みかけた。
「今日も綺麗だね、シャントゥール」
『いらっしゃい、ムーニー‥
プロングスにワームテールも』
麗が微笑むと、ジェームズが花束を取り出し、麗に差し出した。
「僕等からだよ」
『有難う、皆』
麗は花束を受け取ると、嬉しそうにそれを抱き締めた。
「ぇ、え、えっと‥が、頑張ってね、シャントゥール」
ピーターが小さなネズミの縫いぐるみを差し出し、麗はそれをそっと受け取った。
『ワームテール、これは‥?』
「お、御守り」
掌サイズの小さなネズミは、動物擬きのピーターに似ていて可愛かった。
『それは心強いわ』
青いライトを浴びて…
私は私のステージに立つ。
会場から溢れる程の観客を前にして謳って‥
初めて気付いた事があった。
人前で謳うのが嫌いだったのに…
今はとても心地好い‥
あぁ‥
今なら謳えるだろう…
ラストの曲は貴方達に贈るよ…
私の最高の鎮魂曲を…‥
貴方達(父様達)へ――…‥
スタジアムに作られた特設ステージで歌う麗はとても綺麗で…
とても楽しそうだった。
いつも黒いドレスを着て歌っていた麗は、今日は何故か白いドレスを着て歌っていて‥
真っ白で…
蒼いライトが良く似合った。
俺達に視線を向けるよりも早く、麗は大勢の客の中から一人の金髪の男を探しだし、そいつに向かって嬉しそうに微笑んだ。
俺達の方を見たのはライ達と…そして何故か空を見て微笑んだ後だった。
夢に浸る様な‥
そんなライブにも終わりは来る。
歌いきって一礼をした麗は、花束の贈呈をしに来た人型の紙園に抱き付くと“又何処かで謳わせて”と客に向かって幸せそうに言い、紙園を連れて術で何処かへ消え去ってしまった。
麗がステージに残したのはたった一輪の花だけで…
花は全ての客が帰るまで、蒼いライトにずっと照らされていた。
「お疲れ~」
「御疲れ様です、麗様」
控え室に帰ると、椿と凌がお茶をしながら待っていた。
麗は嬉しそうに微笑むと凌の隣りに腰掛けた。
「ライ達は~?」
『今頃スカウトにでもあってる筈よ。
紙園もそこの廊下で捕まっちゃったし』
「大蛇達もですか?」
『謳ってる最中にステージ脇にいるのを見掛けたから、多分皆スカウト集団に捕まってるよ』
麗は“性格上受け無いだろうけど”と言いながら髪飾りを外した。
ライ達の事だからやる気が無いだろうに…大変な事だ。
砕覇は調子に乗って話し込んでいそうだな‥
「受けちゃえば良いのに~」
『椿、ライ達と遊ぶの好きじゃない…寂しく無いの?』
「そりゃ~
遊ぶのは好きだけどさ~」
椿は麗の隣りに移動すると、麗の膝に自分の頭を乗せる様にしてソファーに寝転んだ。
「皆が忙しけりゃ麗を凌と二人で‥二人占め出来るじゃん!」
ニカッと笑った椿が凌に同意を求め、凌は微笑んで答えた。
『じゃあ今度、三人でクリスマスプレゼント買いに行こうか』
こういう時、私は‥
とても良い家族をもったと…
そう感じる――…‥
スカウトから逃れたライ達と合流した麗は、そのまま会場を後にしてホグワーツへと帰った。
皆に“御休み”と挨拶をすると自分の寝室に入り‥
そして開け放った窓から飛び降りた。
月に照らされながらホグワーツの森に来た麗は、##NAME4##を呼び出すと草原に寝転がった。
『##NAME4##、空からコンサート見てたでしょ?』
そう口にすれば、##NAME4##が隣に寝転がる。
「…‥さぁな」
『あの時、目が合ったじゃない』
麗はクスクス笑うと##NAME4##の手を握った。
『あのね‥
とっても楽しかった…
とっても気持ち良かったの』
月の綺麗な冬の星空を見上げる。
『とっても、とっても‥
幸せだった…とっても…‥』
一時、過ちを忘れるくらい‥
謳う事は…
愚かな私を一時だけでも浄化する…
『謳って…
歌って‥とても偉大で…あったかくて‥最高に素敵』
今更気付いた…
私‥
ウタってる時、幸せだ…
『私…
逝く時は謳いながら逝きたいわ』
「‥任せろ」
麗は夜空を見ていた顔を##NAME4##に向け、嬉しそうに微笑んだ。
ディーヴァのクリスマスプレゼント
ディーヴァこと、麗・皐月がクリスマスに観客無制限のライブを行った。
宣伝等は一切されておらず、クリスマス当日の夕方にサポーターの芸能雑誌出版会社が場所と時間を記したカードを空から撒いた。
――日刊予言者新聞―