第1章 始マリノ謳
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5
世界は一冊の本でできている。
イアンがそう言っていたから私はホグワーツという名が出た時点でハリーが主役のハリー・ポッターという本を思い浮かべ、此の世界にはハリーが居ると思い込んだ。
勝手に決め付けて時間軸を設定したのは私が悪いし、殆ど何も知らぬ世界だと文句を言うのも…何だか可笑しい。
文句を言うとすれば、家族を殺すと私を脅した事だ。どんな理由があるにしろアレだけは我慢ならない。
それはそうと困っている事があった。
死ぬ予定の人間を…殺される予定の人間をどうするかだ。知らない時代とはいえ、誰が死ぬか…数人なら覚えている。
彼等をどうするべきか…
誰かを助ければ、他の誰かが被害を被る可能性が酷く高い。
誰かを助ければ此の世界がどうなるか分からない。
本来弄るものでは無いが、それでも…それでもきっと、私は手を出してしまう。
私が何かすれば話が変わってしまうだろう。そもそも私と翡翠がここに存在する事さえも…
取り敢えず…
先ずすべき事はイアンとちゃんと話す事だ。
=花火=
ホグワーツ魔法魔術学校の制服に身を包んだ麗と翡翠は、夕食の時間になるとミネルバに校長室から大広間の職員専用の出入り口へと案内された。
“少し待ってなさい”と残したミネルバは、さっさと扉の中へと入ってしまい…扉の前で待たされてから随分経った。
『どうしよう、翡翠…』
「何が?」
『凄くドキドキする』
よく考えたら、学校という物に通うのは初めての事だった。家でしていた勉強も、普通の人が習う事と同じかと聞かれれば…正直困る。普通が分からない。
『一般教養とか友達への接し方ってどうなんだろ?私、大丈夫かな?』
「大丈夫だ、そんなに心配すんな」
頭をグリグリと撫でられて、麗はどこか嬉しそうに“もぅ”と洩らして手櫛で髪を整えた。
「なぁ、麗…俺の苗字ってどうするんだ?」
ふと翡翠がそう口にした。
人間ではない翡翠には苗字が無い。真名を使う訳にもいかないし…
『アルバスには一応、通り名を教えといたよ』
「…それ、思い付かないからだろ?」
『皐月と名乗らせる訳にもいかないでしょ?』
「皐月で良い…つか皐月が良いのに」
『駄目よ。貴方が背負う事はない』
「……と言うわけで宴の前に紹介したい者達がおる」
瞬間、目の前の扉がゆっくり開いた。入って来いという事だろう。アルバスと目が合い、ニッコリと微笑まれた。
『行こう、翡翠』
小さく返ってきた翡翠の返事を聞くと、二人でゆっくりとアルバスの側まで歩いて行く。アルバスの隣に並び正面を向いて立つと、直ぐにアルバスが説明を始めた。
「今日から三年に編入となった麗・皐月と翡翠・碧神 じゃ」
アルバスがそう二人を紹介すると、ざわついていた大広間が一瞬にして静かになった。
しかしそれも少しの間の事で、ひそひそと小さな話し声が耳につく中、何かに反応した翡翠がキッと生徒達を睨み付けた。獣である翡翠の耳に何が聞こえたかは、所詮人間である私には分からない。
『翡翠…』
小さく制すと、翡翠は麗の手を取りギュッと握り締めた。
『そんなに威嚇しなくても…』
「さて、組分けの儀式をしようかのう」
アルバスの声と共に、中央に椅子と帽子が現れた。本で読んだ通りのボロボロなとんがり帽子だった。
「翡翠・碧神!!」
ミネルバの声がそう大広間に響き渡り、翡翠は面倒臭そうに椅子に歩み寄り帽子を指に引っ掛けると、椅子に腰掛けて帽子を被った。
「ほう、君は日本の妖怪か」
楽しそうに弾んだ帽子の小さな声に、翡翠は不機嫌そうに眉を寄せた。
「一緒にすんな。俺は麗の守護神だ」
「ほう、主がいるのか。神を名乗るとはな」
「あ゛?」
「さて、どこにしようか…ふむふむ…おやおや、君の性格だとやはり狡猾さのスリザ…」
「燃やすぞ、コラ」
「………は?」
「麗と同じ寮にしろ…それとな、スリザリンってあと一度でも言ってみろ。引き裂いて糸屑にしてから燃やしてやる」
「グ、グリフィンドール!!!」
帽子がそう叫んだ瞬間、グリフィンドールの席から歓声が上がった。帽子が泣きそうな声だったのは私の気の所為だろうか?
「ありがとな」
意地悪く口角を上げてニヤリと笑った翡翠は、そう礼を言うとグリフィンドールの席の一番端に腰掛けた。
「麗・皐月!!」
ミネルバの声に反応した麗は、椅子に座ると帽子を深々と被った。この帽子…凄く大きい…
「ほう、不思議な子だ」
『何が?』
麗は翡翠がした様に、帽子にだけに聞こえる様に声を落とした。
「とても不思議な力を持っているな、異界の少女よ」
『不思議?』
「君からは魔力以外の力を感じる」
妖力、霊力…それから……
『ん…特典なの』
「特典」
『色々あってね…私はどこの寮かな?』
『もう決まっておる…グリフィンドール!!』
帽子の声に合わせ、グリフィンドールの席からまた歓声が上がった。実に賑やかな学校だ。
『有難う、帽子さん』
麗は帽子に礼を言うと“今度、校長室で話そうね”と囁き、翡翠の元へ駆け寄った。
「麗!」
直ぐに翡翠が席を立って抱き付いて来る。狐の姿だったら尾を凄い勢いで振っていそうだった。
『一緒の寮だね、翡翠』
「当り前だろ!別の寮なんかになるわけ無いしな!」
『そう…?』
「ねぇ君達、座ったら?」
ふとそう声を掛けられた。
『ぁ、やだ、御免なさい』
麗は翡翠から離れると、慌てて声を掛けた子の隣に腰を下ろした。
『私達、こっちに知り合い居ないからついはしゃいじゃって…』
「そうなの?じゃあ、僕達と友達になってよ!」
『友達…』
くるくると跳ねた黒髪の少年の悪戯っぽい目が眼鏡の奥で弧を描いた。
「僕はジェームズ・ポッター!よろしく、麗!翡翠!!」
ジェームズ・ポッター…ハリーの父親。これだけの人数の生徒の中で真っ先に出会うとは…
『宜しくね、ジェームズ』
「あ…うん」
「はいはい、あんま見んなよ餓鬼」
突然、まだ立っていた翡翠が麗とジェームズの間の席に入り込んで腰掛けた。
『翡翠、どうしたの?ジェームズの隣りが良いの?』
麗の問い掛けに、ジェームズが我慢出来ないとばかりにブフッっと噴き出した。
「…笑うな、餓鬼」
「だって麗、鈍感…」
『鈍感?』
首を傾げる麗にジェームズはカボチャジュースを進め、麗は大人しくそれを口にした。
「翡翠、大丈夫だよ。僕には恋人がいるからね」
「あー、はいはい」
「うわー、面白いくらい興味無さそうだね。あぁ、友達を紹介するよ」
「遅ぇよ、ジェームズ」
不意に不機嫌そうに眉を寄せた黒髪の少年が口を開いた。
「はいはい…麗、翡翠、こっちがリーマス」
向かいの席に座っている優しそうな鷲色の髪の少年が微笑んだ。
「リーマス・J・ルーピンだよ、よろしく」
「で、それでこっちがピーター」
リーマスの隣に座っている小柄な少年…この子がピーター…
思わずジッと見据えると、ピーターがびくりと震えた。
「よょょ…ょ、宜しく」
可愛い。何かこう小動物…ハムスターみたいで愛らしい。
「それでこっちが…」
ジェームズがそう最後の一人である…シリウスであろう男の子を紹介しようとした瞬間だった。
大きな爆発音が大広間に響き渡り、翡翠が麗を庇う様に抱き締め、麗は反射的に身構えたが、顔を上げた瞬間、驚いて目を見開いた。
天井には“グリフィンドールへようこそ!”という字の小さな花火があがっていた。
嬉しくて…
それと同時に色々な感情が込み上げて…
涙が溢れそうになった。
『ジェームズ…』
「ん、何だい?」
『リーマス、ピーター、シリウス』
ビックリして気が抜けて…翡翠の腕の中でグッと涙を堪えてもう一度顔を上げた。
『ありがと…』
“どういたしまして”と笑う皆は…会ったばかりだけど、きっと優しい人達なんだろうと思った。
「なぁ、麗…」
翡翠から離れると、シリウスが話し掛けてきた。
「何で俺の名前分かったんだ?」
『……』
「後、あの花火が俺達の仕業なのも良く気付いたな」
確かに花火の事も仕掛人についても一言も言われて無い。
『ここへ来た日に悪戯っ子達の名前を聞かされたからよ』
そう言ったのは嘘だったけど、こんな事をするのは貴方達くらいだって。
私はそう、分かっていた──…
世界は一冊の本でできている。
イアンがそう言っていたから私はホグワーツという名が出た時点でハリーが主役のハリー・ポッターという本を思い浮かべ、此の世界にはハリーが居ると思い込んだ。
勝手に決め付けて時間軸を設定したのは私が悪いし、殆ど何も知らぬ世界だと文句を言うのも…何だか可笑しい。
文句を言うとすれば、家族を殺すと私を脅した事だ。どんな理由があるにしろアレだけは我慢ならない。
それはそうと困っている事があった。
死ぬ予定の人間を…殺される予定の人間をどうするかだ。知らない時代とはいえ、誰が死ぬか…数人なら覚えている。
彼等をどうするべきか…
誰かを助ければ、他の誰かが被害を被る可能性が酷く高い。
誰かを助ければ此の世界がどうなるか分からない。
本来弄るものでは無いが、それでも…それでもきっと、私は手を出してしまう。
私が何かすれば話が変わってしまうだろう。そもそも私と翡翠がここに存在する事さえも…
取り敢えず…
先ずすべき事はイアンとちゃんと話す事だ。
=花火=
ホグワーツ魔法魔術学校の制服に身を包んだ麗と翡翠は、夕食の時間になるとミネルバに校長室から大広間の職員専用の出入り口へと案内された。
“少し待ってなさい”と残したミネルバは、さっさと扉の中へと入ってしまい…扉の前で待たされてから随分経った。
『どうしよう、翡翠…』
「何が?」
『凄くドキドキする』
よく考えたら、学校という物に通うのは初めての事だった。家でしていた勉強も、普通の人が習う事と同じかと聞かれれば…正直困る。普通が分からない。
『一般教養とか友達への接し方ってどうなんだろ?私、大丈夫かな?』
「大丈夫だ、そんなに心配すんな」
頭をグリグリと撫でられて、麗はどこか嬉しそうに“もぅ”と洩らして手櫛で髪を整えた。
「なぁ、麗…俺の苗字ってどうするんだ?」
ふと翡翠がそう口にした。
人間ではない翡翠には苗字が無い。真名を使う訳にもいかないし…
『アルバスには一応、通り名を教えといたよ』
「…それ、思い付かないからだろ?」
『皐月と名乗らせる訳にもいかないでしょ?』
「皐月で良い…つか皐月が良いのに」
『駄目よ。貴方が背負う事はない』
「……と言うわけで宴の前に紹介したい者達がおる」
瞬間、目の前の扉がゆっくり開いた。入って来いという事だろう。アルバスと目が合い、ニッコリと微笑まれた。
『行こう、翡翠』
小さく返ってきた翡翠の返事を聞くと、二人でゆっくりとアルバスの側まで歩いて行く。アルバスの隣に並び正面を向いて立つと、直ぐにアルバスが説明を始めた。
「今日から三年に編入となった麗・皐月と翡翠・
アルバスがそう二人を紹介すると、ざわついていた大広間が一瞬にして静かになった。
しかしそれも少しの間の事で、ひそひそと小さな話し声が耳につく中、何かに反応した翡翠がキッと生徒達を睨み付けた。獣である翡翠の耳に何が聞こえたかは、所詮人間である私には分からない。
『翡翠…』
小さく制すと、翡翠は麗の手を取りギュッと握り締めた。
『そんなに威嚇しなくても…』
「さて、組分けの儀式をしようかのう」
アルバスの声と共に、中央に椅子と帽子が現れた。本で読んだ通りのボロボロなとんがり帽子だった。
「翡翠・碧神!!」
ミネルバの声がそう大広間に響き渡り、翡翠は面倒臭そうに椅子に歩み寄り帽子を指に引っ掛けると、椅子に腰掛けて帽子を被った。
「ほう、君は日本の妖怪か」
楽しそうに弾んだ帽子の小さな声に、翡翠は不機嫌そうに眉を寄せた。
「一緒にすんな。俺は麗の守護神だ」
「ほう、主がいるのか。神を名乗るとはな」
「あ゛?」
「さて、どこにしようか…ふむふむ…おやおや、君の性格だとやはり狡猾さのスリザ…」
「燃やすぞ、コラ」
「………は?」
「麗と同じ寮にしろ…それとな、スリザリンってあと一度でも言ってみろ。引き裂いて糸屑にしてから燃やしてやる」
「グ、グリフィンドール!!!」
帽子がそう叫んだ瞬間、グリフィンドールの席から歓声が上がった。帽子が泣きそうな声だったのは私の気の所為だろうか?
「ありがとな」
意地悪く口角を上げてニヤリと笑った翡翠は、そう礼を言うとグリフィンドールの席の一番端に腰掛けた。
「麗・皐月!!」
ミネルバの声に反応した麗は、椅子に座ると帽子を深々と被った。この帽子…凄く大きい…
「ほう、不思議な子だ」
『何が?』
麗は翡翠がした様に、帽子にだけに聞こえる様に声を落とした。
「とても不思議な力を持っているな、異界の少女よ」
『不思議?』
「君からは魔力以外の力を感じる」
妖力、霊力…それから……
『ん…特典なの』
「特典」
『色々あってね…私はどこの寮かな?』
『もう決まっておる…グリフィンドール!!』
帽子の声に合わせ、グリフィンドールの席からまた歓声が上がった。実に賑やかな学校だ。
『有難う、帽子さん』
麗は帽子に礼を言うと“今度、校長室で話そうね”と囁き、翡翠の元へ駆け寄った。
「麗!」
直ぐに翡翠が席を立って抱き付いて来る。狐の姿だったら尾を凄い勢いで振っていそうだった。
『一緒の寮だね、翡翠』
「当り前だろ!別の寮なんかになるわけ無いしな!」
『そう…?』
「ねぇ君達、座ったら?」
ふとそう声を掛けられた。
『ぁ、やだ、御免なさい』
麗は翡翠から離れると、慌てて声を掛けた子の隣に腰を下ろした。
『私達、こっちに知り合い居ないからついはしゃいじゃって…』
「そうなの?じゃあ、僕達と友達になってよ!」
『友達…』
くるくると跳ねた黒髪の少年の悪戯っぽい目が眼鏡の奥で弧を描いた。
「僕はジェームズ・ポッター!よろしく、麗!翡翠!!」
ジェームズ・ポッター…ハリーの父親。これだけの人数の生徒の中で真っ先に出会うとは…
『宜しくね、ジェームズ』
「あ…うん」
「はいはい、あんま見んなよ餓鬼」
突然、まだ立っていた翡翠が麗とジェームズの間の席に入り込んで腰掛けた。
『翡翠、どうしたの?ジェームズの隣りが良いの?』
麗の問い掛けに、ジェームズが我慢出来ないとばかりにブフッっと噴き出した。
「…笑うな、餓鬼」
「だって麗、鈍感…」
『鈍感?』
首を傾げる麗にジェームズはカボチャジュースを進め、麗は大人しくそれを口にした。
「翡翠、大丈夫だよ。僕には恋人がいるからね」
「あー、はいはい」
「うわー、面白いくらい興味無さそうだね。あぁ、友達を紹介するよ」
「遅ぇよ、ジェームズ」
不意に不機嫌そうに眉を寄せた黒髪の少年が口を開いた。
「はいはい…麗、翡翠、こっちがリーマス」
向かいの席に座っている優しそうな鷲色の髪の少年が微笑んだ。
「リーマス・J・ルーピンだよ、よろしく」
「で、それでこっちがピーター」
リーマスの隣に座っている小柄な少年…この子がピーター…
思わずジッと見据えると、ピーターがびくりと震えた。
「よょょ…ょ、宜しく」
可愛い。何かこう小動物…ハムスターみたいで愛らしい。
「それでこっちが…」
ジェームズがそう最後の一人である…シリウスであろう男の子を紹介しようとした瞬間だった。
大きな爆発音が大広間に響き渡り、翡翠が麗を庇う様に抱き締め、麗は反射的に身構えたが、顔を上げた瞬間、驚いて目を見開いた。
天井には“グリフィンドールへようこそ!”という字の小さな花火があがっていた。
嬉しくて…
それと同時に色々な感情が込み上げて…
涙が溢れそうになった。
『ジェームズ…』
「ん、何だい?」
『リーマス、ピーター、シリウス』
ビックリして気が抜けて…翡翠の腕の中でグッと涙を堪えてもう一度顔を上げた。
『ありがと…』
“どういたしまして”と笑う皆は…会ったばかりだけど、きっと優しい人達なんだろうと思った。
「なぁ、麗…」
翡翠から離れると、シリウスが話し掛けてきた。
「何で俺の名前分かったんだ?」
『……』
「後、あの花火が俺達の仕業なのも良く気付いたな」
確かに花火の事も仕掛人についても一言も言われて無い。
『ここへ来た日に悪戯っ子達の名前を聞かされたからよ』
そう言ったのは嘘だったけど、こんな事をするのは貴方達くらいだって。
私はそう、分かっていた──…