第2章 秘密ノ謳
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58
校長室に呼び出されたので行ってみると、部屋に入るなりアルバスに“済まんの”と謝られた。
肩に乗った紙園が溜め息を吐く中、麗は開けっぱなしだった校長室の扉を閉めた。
『何が?』
いきなり謝られても、何の事だか分から無い。
「秋に予定していた京都旅行なんじゃが、行けそうになくての」
『行けないの?』
だから“済まんの”なのか。
確かに去年アルバスやミネル、ポピーと旅行に行く約束をした。
「色々忙しくての…」
『…大丈夫なの?』
「大丈夫じゃよ」
『…そっか』
アルバスはホグワーツの校長であり、良い意味でも悪い意味でも強大な魔法使いだ。
「その代わり年末に予約変更もバッチリじゃ」
『あ…年末に行くのね』
此の切替えの早さは流石アルバスとしか言い様が無かった。
『身体…気を付けてね、御祖父様』
「ありがとう、麗。儂は大丈夫じゃよ…それに旅行の代わりに麗には良い話があっての」
『良い話?』
あぁ…嫌だ。
何だろう。何か嫌な予感がする。凄く嫌な予感が…
「十二月の始めにディーヴァのライブがあるんじゃ」
『…………は?』
ソファーに座らせられながら、麗はそう素っ頓狂な声を洩らした。瞬間、部屋にノック音が響き、一人の見慣れた少女が校長室に入ってきた。
「失礼します!コンニチハ、アルバス・ダンブルドア校長先生」
『銘鈴 !』
「コンニチハ、麗サン!」
入って来たのは雑誌編集者、銘鈴だった。銘鈴は私の担当もしているので顔馴染だ。
「詳しくは銘鈴が話すからの」
「麗サン!ワタシ昇給なりました!」
『え?おめでとう!昇給したのね…って、違う!!』
めでたい事だが、正直今はそれどころでは無い。当人に内緒でライブを決定して話を進めるとは何事か。
「ハイ、仕事の話ですした」
銘鈴は麗の向かいに座るとニッコリ微笑んだ。
「今回のライブ、発案者はウチですが、いくつかの会社のサポートで行います」
『やる事は決定なのね』
「ウチの会社は発案者なので勿論代表サポーターです。が、正直ウチの資金では資金不足もいいところ無理デス。何考えてるですかあの社長」
『ゃ…どうかしらね…私は今聞いたばかりだし」
雇い主の事をこんな風に言えるのは銘鈴の面白い所ではあるけど…
「収益が見込めるだから狭い所は意味が有りません。クィディッチのスタジアムを抑えました。屋外なので…収容客数に決まりはないですが、どうせ音は漏れます。麗サンの声が届く所までが会場です」
『スタジアム?』
「あー…行った事ナイのですね、まぁ取り敢えず高さがあるのでまぁまぁ広いです。リハーサルで声が届いたところまでで結界を張るのでその中に入ったらお金が発生します。スタジアム内よりは安いですがガッポリね!」
『まぁ…貴女イベンターじゃなくて編集者よね?』
実際こういう仕事を組む人を知らないので基準は分からないが…編集者にしては良くやるものだ。
『ライブね…』
正直気にはなった。ディーヴァとして歌っている歌は詩魔法だ。どこまで届き、どの程度の効力を保てるか確認したい気持ちもある。
『私の歌は魔力が乗るわ。収拾が付かなくないかしら?第一スタジアムって…そんなに人は集まらないわよ』
「何言ってるですか!問題無いです!警備もサポーターに警備会社を呼んだのでそこから雇うします!」
『そ、そう…』
「当日はワタシがお迎えに来ます。後は、ライブの他にクリスマスにホグワーツで関係者や偶然冬休みにホグワーツに残った生徒…それに麗サンが招待した人による“シークレットライブ”を開きます」
『シークレットライブ?』
「クリスマスパーティーです」
そんなモノまで…正直、嫌だ。
『せめてどちらか一つにならない?』
「無理です。出資金集めのパーティーですよ」
銘鈴は楽しそうにニッコリ微笑むと一枚のカードを麗に差し出した。銀髪緋眼…歌手である麗が写ったカードだ。
「ライブの宣伝は当日まで一切行いません。当日の朝にこのカードに開催時刻と開催場所を書き入れ、ダイアゴン横丁、ホグズミード、その他数カ所の空からばら撒くだけです」
『ドッキリだと思って誰もこないんじゃないかしら?』
そもそも普通にやってもどれだけ集まるか…
「心配無用です!お客さんもお金も、金にがめつい大人に任せれば良いです!麗サンは気にせず歌えば良いですよ」
『そう…』
〔やるのか?〕
ピアスを通して肩に乗っている紙園の声が頭に響いた。
〔まぁ、やってみたいならやればいい…コラ、
紅葉。じっとしていろ〕
大人しく肩に乗っていた紅葉だが、麗に構ってもらえないのに飽きたのか、ふざけて紙園に乗っかりだした。麗は可笑しそうに笑いながら紅葉を抱き上げた。
『駄目よ、紅葉…紙園が潰れちゃうわ』
〔…で、どうするんだ?〕
麗は少し間を開けた後、口を開いた。
『私は…』
==
あの日…
楓が完璧に麗の中に消えたと思われるあの日。
麗が目覚めたあの日…
あの時の麗が頭から離れ無い。
楓がいないと悟り、翡翠に掴み掛ったあの時の麗が。楓がいない事を嘆き、翡翠に抱き付いて泣き続けたあの時の麗が。子供の様に泣く麗が…
頭から離れ無い。
数日後に麗はハグリッドから貰ったと言い黒い仔狐を俺達に見せた。
涙の跡が微かに残った顔で微笑んだ麗を見て、俺達は直感した。
あぁ、コイツは楓の代わりなんだ…と。
自分に吸収された楓の分も、麗は紅葉を大切にするだろう。
大切に…大切に…
必ず幸せにする為に──…
「シリウス!!」
グリフィンドールの談話室。
暖炉の近くのソファーに腰掛け惚けていたシリウスは、ジェームズの声で我に返り、伏せていた顔を上げた。
「何だ?」
ジェームズは口角を上げて笑うとシリウスに耳打ちした。
「麗がライブをするんだってさ!後、クリスマスにパーティーがあるから来ないかって」
「ライブに関する事は当日まで宣伝しないんだってさ!パーティーは招待された人しか来れない様になってるらしいよ」
「あぁ‥だから耳打ちか」
良く周りを見れば階段の近くで麗がリリーやシーラ、リザ、リーマス達と話をしている。
シリウスが麗達の方を見ていると、それに気付いたリザがニヤリと笑い、歩み寄って来た。
無駄な笑顔が少し怖い。
「ちょっと、シリウス~
もっと頑張ってよ~?」
「何を?」
いきなり何を言い出すんだコイツは…
「麗の事よ~
私、シリウスに賭けてるの」
「賭け?」
「“麗とライは恋人”って噂があるでしょ?
でも麗はライ以外の男との噂もあるのよ」
「他の男?」
「そうよ~
素性は知らないけど。
だからライは恋人じゃないって判断した訳」
「何を賭けた?」
リザは満足そうに微笑むと口を開いた。
「“麗を手に入れるのは誰か!!”ってヤツなんだけどね~
ライ、シリウス、リーマス、マクスウェル‥それにスネイプ、ブラック弟、レストレンジ弟、マルフォイが名前上がってるのよ~」
誰か…って一体何時からそんなモノが…‥というか賭けるなよ。
しかもスネイプ、レギュラス、ラバスタン、マルフォイが候補に入ってる‥?
割と仲が良いからか?
「他にも上がってたんだけどね~…例の麗の噂のお相手達。
派手な美形達で、此の間ホグズミードに行った時に麗といるのを目撃されてるんだけど、騎龍と砕覇以外名前が分からなくてね~‥‥シーラは誰でも反対らしいけど~
賭けの一番人気はライよ」
派手な美形‥
椿達だろう。
アイツ等は髪や瞳の色が特殊な上に美形で目立つ。
「因みに私はシリウスに賭けてるんだからね~」
リザは“頑張りなさいよ”と微笑むが、そうは言われても強敵揃いだ。
しかも一番人気、ライかよ…
シリウスは軽く溜め息を吐くと口を開いた。
「主催者は…?」
「私~」
「相変わらず賭けが好きだな」
「大好きよ!
ドキドキワクワクして楽しくて止められ無いわ」
リザはうっとりとした表情で微笑むと、シリウスの座るソファーの肘掛けに腰掛けて足を組んだ。
「大事な妹代わりの御相手ともなれば更に気合い入っちゃうよ~未来の弟だもの!」
「でも、麗とリザは姉妹じゃ無いだろ?」
ジェームズがシリウスの隣に座り、そうリザに不思議そうに問い掛けた。
「フフ‥ジェームズらしい阿呆な質問よね」
「阿呆?!」
リザはショックを受けているジェームズを鼻で笑う。
「阿呆よ。
ジェームズの言う姉妹は‥そんなの血の上での話が何よ。
血が何だってぇの?
私達は心で繋がってるわ。
シーラとは繋がって無いけど~」
リザがシリウスの手を引いて立たせ、シリウスは怠そうに立ち上がると口を開いた。
「お前ら何時まで経っても仲良くならないよな」
「シーラとは合わないのよ絶対。
麗を妹の様に思ってる事以外は合いそうに無いし、合いたく無いのよ」
リザはシリウスの後ろに回ると麗の方へ向けてシリウスの背中を押した。
「私の勝ちの為よ~
麗にアタックして来てよ、シリウス」
相変わらず勝手な奴‥
まぁ…
俺の為でもあるから良いか‥
「何話てんだ、麗?」
シーラやリーマスと話していたらいきなり後ろからシリウスが抱き付いてきた。
顔が近くて何か恥ずかしい‥
きっと顔が少し赤くなっているだろう。
『クリスマスの話をしてたのよ‥
ホワイトクリスマスだったら中庭で夕食、食べよう‥って…』
シーラとリーマスの顔が何か怖い…
しかしシリウスは二人をものともせずにニッコリ笑った。
「楽しみだな」
瞬間、シリウスの唇がそっと麗の頬に触れた。
『………へ?』
麗がそう声を漏らした瞬間、グリフィンドール寮の談話室に“ドゴォッ”と鈍く嫌な音が響き渡った。
和気藹々な此の空間に破壊音は似つかわしく無い。
「テメェ、アタシの目の前でアタシの妹に手ェだしてんじゃねぇぞ」
鈍い音の正体は、シーラが壁を素手で殴った音だった。
石で出来ている筈の壁の一部が崩れた。
『シ、シーラ‥?』
「何してんのよ、シリウス!!」
『リリー‥』
壁を殴ってシリウスを睨み付けたまま動かないシーラの肩に手を添え、リリーはそう声を上げた。
キレたシーラが恐ろしいのか、リリーの顔色がかなり悪い。
「大丈夫だった、麗‥?」
麗の肩に乗っていた紅葉がシリウスの服の袖に噛み付き、リーマスが麗の手を引き、自分に引き寄せる。
「アレに近付いちゃ駄目だよ?」
『ぇ、あの‥』
麗の手を取るリーマスの笑顔は何時も以上に黒かった。
「“アレ”って…」
シリウスの顔が少しずつ青くなっていくのが分かった。
「シリウスってばやるわね!」
「でもその所為でちょっとピンチみたいだよ」
煖炉の近くのソファーでリザとジェームズがこっちを見ながら呑気に談話をしている。
助けてはくれないらしい‥
「何やってんだ?」
昼寝をしていた筈のライが部屋から降りて来た。
眠そうに欠伸をしたり目を擦ったりしている。
「あら、ライ!
良いトコロに来たわね」
「本当に良いトコロに‥フフ」
「良い所?」
シーラとリーマスの黒い笑顔にライは首を傾げた。
「黒犬が麗にちょっかい出したんだよ」
「…今、何つった?」
リーマスの言葉を聞き、ライはシリウスを睨み付けた。
麗はリーマスから離れると、そっとライに手を伸ばす。
『ぁ‥の…‥ライ…?』
「麗、部屋帰んぞ」
『ッ…!!』
ライは麗を抱き上げると、近くの机の上で遊んでいた紅葉を肩に乗せ、足早に部屋に向かう。
麗は手を振る事で皆に挨拶をした。
『ライ‥』
「大人しく部屋で七叉と紅葉と遊んでろ」
『リリーに話があったのに…』
「明日にし…」
部屋の扉を開けたライの声と動きが止まる。
「お、帰って来おったぞ」
「麗、待ってたんやで!!」
「おっ帰り~」
「御帰りね、麗」
「御帰りなさい、麗様」
「よぉ、麗!」
部屋の状況を見た麗は皆が居る事に喜び、ライは唯静かに扉を閉めた。
「オイ、コラ!!」
「麗、待ってや!!」
「あ~ぁ」
「ライ!
テメェ、麗だけは置いてけ!!」
「ほら、御主らが喧嘩するからじゃぞ!」
「九尾、此処開けてや!!」
ライが扉を抑えながら口を開く。
「やっぱり談話室に戻るか」
『砕覇と騎龍がいたから?』
「…椿達は兎も角‥
何でアイツ等がいやがるんだ」
『‥家族だからね』
此の後部屋の扉が騎龍と砕覇によって蹴破られたのは言うまでも無い。
校長室に呼び出されたので行ってみると、部屋に入るなりアルバスに“済まんの”と謝られた。
肩に乗った紙園が溜め息を吐く中、麗は開けっぱなしだった校長室の扉を閉めた。
『何が?』
いきなり謝られても、何の事だか分から無い。
「秋に予定していた京都旅行なんじゃが、行けそうになくての」
『行けないの?』
だから“済まんの”なのか。
確かに去年アルバスやミネル、ポピーと旅行に行く約束をした。
「色々忙しくての…」
『…大丈夫なの?』
「大丈夫じゃよ」
『…そっか』
アルバスはホグワーツの校長であり、良い意味でも悪い意味でも強大な魔法使いだ。
「その代わり年末に予約変更もバッチリじゃ」
『あ…年末に行くのね』
此の切替えの早さは流石アルバスとしか言い様が無かった。
『身体…気を付けてね、御祖父様』
「ありがとう、麗。儂は大丈夫じゃよ…それに旅行の代わりに麗には良い話があっての」
『良い話?』
あぁ…嫌だ。
何だろう。何か嫌な予感がする。凄く嫌な予感が…
「十二月の始めにディーヴァのライブがあるんじゃ」
『…………は?』
ソファーに座らせられながら、麗はそう素っ頓狂な声を洩らした。瞬間、部屋にノック音が響き、一人の見慣れた少女が校長室に入ってきた。
「失礼します!コンニチハ、アルバス・ダンブルドア校長先生」
『
「コンニチハ、麗サン!」
入って来たのは雑誌編集者、銘鈴だった。銘鈴は私の担当もしているので顔馴染だ。
「詳しくは銘鈴が話すからの」
「麗サン!ワタシ昇給なりました!」
『え?おめでとう!昇給したのね…って、違う!!』
めでたい事だが、正直今はそれどころでは無い。当人に内緒でライブを決定して話を進めるとは何事か。
「ハイ、仕事の話ですした」
銘鈴は麗の向かいに座るとニッコリ微笑んだ。
「今回のライブ、発案者はウチですが、いくつかの会社のサポートで行います」
『やる事は決定なのね』
「ウチの会社は発案者なので勿論代表サポーターです。が、正直ウチの資金では資金不足もいいところ無理デス。何考えてるですかあの社長」
『ゃ…どうかしらね…私は今聞いたばかりだし」
雇い主の事をこんな風に言えるのは銘鈴の面白い所ではあるけど…
「収益が見込めるだから狭い所は意味が有りません。クィディッチのスタジアムを抑えました。屋外なので…収容客数に決まりはないですが、どうせ音は漏れます。麗サンの声が届く所までが会場です」
『スタジアム?』
「あー…行った事ナイのですね、まぁ取り敢えず高さがあるのでまぁまぁ広いです。リハーサルで声が届いたところまでで結界を張るのでその中に入ったらお金が発生します。スタジアム内よりは安いですがガッポリね!」
『まぁ…貴女イベンターじゃなくて編集者よね?』
実際こういう仕事を組む人を知らないので基準は分からないが…編集者にしては良くやるものだ。
『ライブね…』
正直気にはなった。ディーヴァとして歌っている歌は詩魔法だ。どこまで届き、どの程度の効力を保てるか確認したい気持ちもある。
『私の歌は魔力が乗るわ。収拾が付かなくないかしら?第一スタジアムって…そんなに人は集まらないわよ』
「何言ってるですか!問題無いです!警備もサポーターに警備会社を呼んだのでそこから雇うします!」
『そ、そう…』
「当日はワタシがお迎えに来ます。後は、ライブの他にクリスマスにホグワーツで関係者や偶然冬休みにホグワーツに残った生徒…それに麗サンが招待した人による“シークレットライブ”を開きます」
『シークレットライブ?』
「クリスマスパーティーです」
そんなモノまで…正直、嫌だ。
『せめてどちらか一つにならない?』
「無理です。出資金集めのパーティーですよ」
銘鈴は楽しそうにニッコリ微笑むと一枚のカードを麗に差し出した。銀髪緋眼…歌手である麗が写ったカードだ。
「ライブの宣伝は当日まで一切行いません。当日の朝にこのカードに開催時刻と開催場所を書き入れ、ダイアゴン横丁、ホグズミード、その他数カ所の空からばら撒くだけです」
『ドッキリだと思って誰もこないんじゃないかしら?』
そもそも普通にやってもどれだけ集まるか…
「心配無用です!お客さんもお金も、金にがめつい大人に任せれば良いです!麗サンは気にせず歌えば良いですよ」
『そう…』
〔やるのか?〕
ピアスを通して肩に乗っている紙園の声が頭に響いた。
〔まぁ、やってみたいならやればいい…コラ、
紅葉。じっとしていろ〕
大人しく肩に乗っていた紅葉だが、麗に構ってもらえないのに飽きたのか、ふざけて紙園に乗っかりだした。麗は可笑しそうに笑いながら紅葉を抱き上げた。
『駄目よ、紅葉…紙園が潰れちゃうわ』
〔…で、どうするんだ?〕
麗は少し間を開けた後、口を開いた。
『私は…』
==
あの日…
楓が完璧に麗の中に消えたと思われるあの日。
麗が目覚めたあの日…
あの時の麗が頭から離れ無い。
楓がいないと悟り、翡翠に掴み掛ったあの時の麗が。楓がいない事を嘆き、翡翠に抱き付いて泣き続けたあの時の麗が。子供の様に泣く麗が…
頭から離れ無い。
数日後に麗はハグリッドから貰ったと言い黒い仔狐を俺達に見せた。
涙の跡が微かに残った顔で微笑んだ麗を見て、俺達は直感した。
あぁ、コイツは楓の代わりなんだ…と。
自分に吸収された楓の分も、麗は紅葉を大切にするだろう。
大切に…大切に…
必ず幸せにする為に──…
「シリウス!!」
グリフィンドールの談話室。
暖炉の近くのソファーに腰掛け惚けていたシリウスは、ジェームズの声で我に返り、伏せていた顔を上げた。
「何だ?」
ジェームズは口角を上げて笑うとシリウスに耳打ちした。
「麗がライブをするんだってさ!後、クリスマスにパーティーがあるから来ないかって」
「ライブに関する事は当日まで宣伝しないんだってさ!パーティーは招待された人しか来れない様になってるらしいよ」
「あぁ‥だから耳打ちか」
良く周りを見れば階段の近くで麗がリリーやシーラ、リザ、リーマス達と話をしている。
シリウスが麗達の方を見ていると、それに気付いたリザがニヤリと笑い、歩み寄って来た。
無駄な笑顔が少し怖い。
「ちょっと、シリウス~
もっと頑張ってよ~?」
「何を?」
いきなり何を言い出すんだコイツは…
「麗の事よ~
私、シリウスに賭けてるの」
「賭け?」
「“麗とライは恋人”って噂があるでしょ?
でも麗はライ以外の男との噂もあるのよ」
「他の男?」
「そうよ~
素性は知らないけど。
だからライは恋人じゃないって判断した訳」
「何を賭けた?」
リザは満足そうに微笑むと口を開いた。
「“麗を手に入れるのは誰か!!”ってヤツなんだけどね~
ライ、シリウス、リーマス、マクスウェル‥それにスネイプ、ブラック弟、レストレンジ弟、マルフォイが名前上がってるのよ~」
誰か…って一体何時からそんなモノが…‥というか賭けるなよ。
しかもスネイプ、レギュラス、ラバスタン、マルフォイが候補に入ってる‥?
割と仲が良いからか?
「他にも上がってたんだけどね~…例の麗の噂のお相手達。
派手な美形達で、此の間ホグズミードに行った時に麗といるのを目撃されてるんだけど、騎龍と砕覇以外名前が分からなくてね~‥‥シーラは誰でも反対らしいけど~
賭けの一番人気はライよ」
派手な美形‥
椿達だろう。
アイツ等は髪や瞳の色が特殊な上に美形で目立つ。
「因みに私はシリウスに賭けてるんだからね~」
リザは“頑張りなさいよ”と微笑むが、そうは言われても強敵揃いだ。
しかも一番人気、ライかよ…
シリウスは軽く溜め息を吐くと口を開いた。
「主催者は…?」
「私~」
「相変わらず賭けが好きだな」
「大好きよ!
ドキドキワクワクして楽しくて止められ無いわ」
リザはうっとりとした表情で微笑むと、シリウスの座るソファーの肘掛けに腰掛けて足を組んだ。
「大事な妹代わりの御相手ともなれば更に気合い入っちゃうよ~未来の弟だもの!」
「でも、麗とリザは姉妹じゃ無いだろ?」
ジェームズがシリウスの隣に座り、そうリザに不思議そうに問い掛けた。
「フフ‥ジェームズらしい阿呆な質問よね」
「阿呆?!」
リザはショックを受けているジェームズを鼻で笑う。
「阿呆よ。
ジェームズの言う姉妹は‥そんなの血の上での話が何よ。
血が何だってぇの?
私達は心で繋がってるわ。
シーラとは繋がって無いけど~」
リザがシリウスの手を引いて立たせ、シリウスは怠そうに立ち上がると口を開いた。
「お前ら何時まで経っても仲良くならないよな」
「シーラとは合わないのよ絶対。
麗を妹の様に思ってる事以外は合いそうに無いし、合いたく無いのよ」
リザはシリウスの後ろに回ると麗の方へ向けてシリウスの背中を押した。
「私の勝ちの為よ~
麗にアタックして来てよ、シリウス」
相変わらず勝手な奴‥
まぁ…
俺の為でもあるから良いか‥
「何話てんだ、麗?」
シーラやリーマスと話していたらいきなり後ろからシリウスが抱き付いてきた。
顔が近くて何か恥ずかしい‥
きっと顔が少し赤くなっているだろう。
『クリスマスの話をしてたのよ‥
ホワイトクリスマスだったら中庭で夕食、食べよう‥って…』
シーラとリーマスの顔が何か怖い…
しかしシリウスは二人をものともせずにニッコリ笑った。
「楽しみだな」
瞬間、シリウスの唇がそっと麗の頬に触れた。
『………へ?』
麗がそう声を漏らした瞬間、グリフィンドール寮の談話室に“ドゴォッ”と鈍く嫌な音が響き渡った。
和気藹々な此の空間に破壊音は似つかわしく無い。
「テメェ、アタシの目の前でアタシの妹に手ェだしてんじゃねぇぞ」
鈍い音の正体は、シーラが壁を素手で殴った音だった。
石で出来ている筈の壁の一部が崩れた。
『シ、シーラ‥?』
「何してんのよ、シリウス!!」
『リリー‥』
壁を殴ってシリウスを睨み付けたまま動かないシーラの肩に手を添え、リリーはそう声を上げた。
キレたシーラが恐ろしいのか、リリーの顔色がかなり悪い。
「大丈夫だった、麗‥?」
麗の肩に乗っていた紅葉がシリウスの服の袖に噛み付き、リーマスが麗の手を引き、自分に引き寄せる。
「アレに近付いちゃ駄目だよ?」
『ぇ、あの‥』
麗の手を取るリーマスの笑顔は何時も以上に黒かった。
「“アレ”って…」
シリウスの顔が少しずつ青くなっていくのが分かった。
「シリウスってばやるわね!」
「でもその所為でちょっとピンチみたいだよ」
煖炉の近くのソファーでリザとジェームズがこっちを見ながら呑気に談話をしている。
助けてはくれないらしい‥
「何やってんだ?」
昼寝をしていた筈のライが部屋から降りて来た。
眠そうに欠伸をしたり目を擦ったりしている。
「あら、ライ!
良いトコロに来たわね」
「本当に良いトコロに‥フフ」
「良い所?」
シーラとリーマスの黒い笑顔にライは首を傾げた。
「黒犬が麗にちょっかい出したんだよ」
「…今、何つった?」
リーマスの言葉を聞き、ライはシリウスを睨み付けた。
麗はリーマスから離れると、そっとライに手を伸ばす。
『ぁ‥の…‥ライ…?』
「麗、部屋帰んぞ」
『ッ…!!』
ライは麗を抱き上げると、近くの机の上で遊んでいた紅葉を肩に乗せ、足早に部屋に向かう。
麗は手を振る事で皆に挨拶をした。
『ライ‥』
「大人しく部屋で七叉と紅葉と遊んでろ」
『リリーに話があったのに…』
「明日にし…」
部屋の扉を開けたライの声と動きが止まる。
「お、帰って来おったぞ」
「麗、待ってたんやで!!」
「おっ帰り~」
「御帰りね、麗」
「御帰りなさい、麗様」
「よぉ、麗!」
部屋の状況を見た麗は皆が居る事に喜び、ライは唯静かに扉を閉めた。
「オイ、コラ!!」
「麗、待ってや!!」
「あ~ぁ」
「ライ!
テメェ、麗だけは置いてけ!!」
「ほら、御主らが喧嘩するからじゃぞ!」
「九尾、此処開けてや!!」
ライが扉を抑えながら口を開く。
「やっぱり談話室に戻るか」
『砕覇と騎龍がいたから?』
「…椿達は兎も角‥
何でアイツ等がいやがるんだ」
『‥家族だからね』
此の後部屋の扉が騎龍と砕覇によって蹴破られたのは言うまでも無い。