第2章 秘密ノ謳
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56
『楓は海も好きよね』
「あぁ」
彼は優しかった。
『こちらの世界の海にも今度一緒に行こうね。日本の海にも…南の海も綺麗だろうし』
彼は優し過ぎた。
「あぁ、麗」
そんな彼との約束は絶対に叶えたかったのに…
「麗も海が好きだな」
『えぇ、好きよ』
叶えると心に誓っていたのに…
『でも貴方達が一番好き』
「俺もだよ…麗」
私の力は無駄に大きく。それを受け止めるには身体は酷く脆く、肝心な時に無力だった。
だって、約束が護れなかったのは勿論…
「例えお前か俺を忘れても」
『まぁ、有難う…でも絶対に忘れないわ』
「あぁ、だと良いな」
私はあの優しい笑顔を護る事さえ出来無かったのだから。
=秋の海=
右手に紅葉を抱き締め、左手の指にヒールを引っ掛けた麗は、砂浜を一人歩いていた。足跡を波がさらって消して行く。
「麗様!お体に障りますよ!」
そう遠くの方で鈴久が口元に手を添えて叫んでいたが、振り返った麗を見ると困った様に息を吐いて続けた。
「程々にしてお戻り下さいね!」
微笑んだ麗を残して去って行った鈴久を見送った麗は、また歩き出した。
鈴久も心配してくれているんだろう。祇園からこんな所まで付いて来るだなんて…
『皆に心配掛けちゃってるわね』
小さく鳴いた紅葉が肩によじ登って頬を舐めた。
『そうね、貴方もね』
麗はヒールを砂浜に投げると、海に入って寝転がる様に漂った。
腹の上をウロウロと歩き回った紅葉は、行き場が無い事に気付くと、大人しく腹の上に寝転ぶ。
「何をしている」
そう声を掛けられて目を開けると、イアンが覗き込む様に見下ろしていた。
長い髪を抑える様に腕に巻き付け、腰に手を置く。
『楓と海を見に行く約束をしてたから』
「そうじゃない。何故来たかではなく、何をしてるかを聞いている」
『…何となく。入りたかったから』
冷たいんだろうなと思ったら入りたくなった。入ってびしゃびしゃになって、身体を、頭を冷やしたかった。
イアンは、紅葉の首根っこを摘み自分の肩に乗せると、左手で麗の右腕を掴んで海から引き上げた。
片腕だけを掴まれて吊された様になっている麗を見据えたイアンは、麗の腰に右手を回すと、優しく抱き締めた。
「風邪をひくぞ」
『大丈夫よ…自然に乾くし、乾きが遅ければ火を使う…それでも遅ければ魔法を使うわ』
「駄目だ」
イアンは魔法で麗を乾かすと、ローブを出して麗に着せた。
『ねぇ、イアン…』
「何だ」
『イアンも此の前の私は自分を…治せ無いと思った?』
「…思った」
『そう‥』
やっぱりそうなんだ。私は…
「お前は力が制御出来ず、溢れる力を最小限に抑えるのが精一杯だった。力に呑まれそうになっていたのは誰が見たって分かる」
『そう…』
麗は哀しそうに眉を寄せるとイアンの胸元に顔を埋めた。
「まぁ…俺としては良い状況だったがな」
麗は困った様にクスクス笑いながら口を開く。
『私が世界の境 へ行くから?』
「あぁ、お前が俺のモノになる」
イアンの言葉に、紅葉は小さく唸りながらイアンの長い蒼髪を加えて引っ張った。
『イアン、それはまだ先よ。私にはやる事がある…この子も幸せにしなくちゃ』
麗は紅葉をイアンから離すと頭を優しく撫でてやった。
「そもそもお前の家族はキリがない。ちょっとやそっとでは死ななそうだ」
“え…?”と洩らすと、イアンが耳元で囁いた。イアンが口にしたその名前は確かに私を救う事が出来るかもしれないモノだった。
『あの方が手を出したら私はもっと人では無くなるわ。きっと最後の瞬間まで何もしないよ』
もしかしたら何もしないかも知れない。
その方が私は良いけど…
『ちゃんと行くから。だから待ってて、イアン』
やる事は沢山ある。
だから今は未だ…
まだ死ぬ訳にはいかない──…
『楓は海も好きよね』
「あぁ」
彼は優しかった。
『こちらの世界の海にも今度一緒に行こうね。日本の海にも…南の海も綺麗だろうし』
彼は優し過ぎた。
「あぁ、麗」
そんな彼との約束は絶対に叶えたかったのに…
「麗も海が好きだな」
『えぇ、好きよ』
叶えると心に誓っていたのに…
『でも貴方達が一番好き』
「俺もだよ…麗」
私の力は無駄に大きく。それを受け止めるには身体は酷く脆く、肝心な時に無力だった。
だって、約束が護れなかったのは勿論…
「例えお前か俺を忘れても」
『まぁ、有難う…でも絶対に忘れないわ』
「あぁ、だと良いな」
私はあの優しい笑顔を護る事さえ出来無かったのだから。
=秋の海=
右手に紅葉を抱き締め、左手の指にヒールを引っ掛けた麗は、砂浜を一人歩いていた。足跡を波がさらって消して行く。
「麗様!お体に障りますよ!」
そう遠くの方で鈴久が口元に手を添えて叫んでいたが、振り返った麗を見ると困った様に息を吐いて続けた。
「程々にしてお戻り下さいね!」
微笑んだ麗を残して去って行った鈴久を見送った麗は、また歩き出した。
鈴久も心配してくれているんだろう。祇園からこんな所まで付いて来るだなんて…
『皆に心配掛けちゃってるわね』
小さく鳴いた紅葉が肩によじ登って頬を舐めた。
『そうね、貴方もね』
麗はヒールを砂浜に投げると、海に入って寝転がる様に漂った。
腹の上をウロウロと歩き回った紅葉は、行き場が無い事に気付くと、大人しく腹の上に寝転ぶ。
「何をしている」
そう声を掛けられて目を開けると、イアンが覗き込む様に見下ろしていた。
長い髪を抑える様に腕に巻き付け、腰に手を置く。
『楓と海を見に行く約束をしてたから』
「そうじゃない。何故来たかではなく、何をしてるかを聞いている」
『…何となく。入りたかったから』
冷たいんだろうなと思ったら入りたくなった。入ってびしゃびしゃになって、身体を、頭を冷やしたかった。
イアンは、紅葉の首根っこを摘み自分の肩に乗せると、左手で麗の右腕を掴んで海から引き上げた。
片腕だけを掴まれて吊された様になっている麗を見据えたイアンは、麗の腰に右手を回すと、優しく抱き締めた。
「風邪をひくぞ」
『大丈夫よ…自然に乾くし、乾きが遅ければ火を使う…それでも遅ければ魔法を使うわ』
「駄目だ」
イアンは魔法で麗を乾かすと、ローブを出して麗に着せた。
『ねぇ、イアン…』
「何だ」
『イアンも此の前の私は自分を…治せ無いと思った?』
「…思った」
『そう‥』
やっぱりそうなんだ。私は…
「お前は力が制御出来ず、溢れる力を最小限に抑えるのが精一杯だった。力に呑まれそうになっていたのは誰が見たって分かる」
『そう…』
麗は哀しそうに眉を寄せるとイアンの胸元に顔を埋めた。
「まぁ…俺としては良い状況だったがな」
麗は困った様にクスクス笑いながら口を開く。
『私が
「あぁ、お前が俺のモノになる」
イアンの言葉に、紅葉は小さく唸りながらイアンの長い蒼髪を加えて引っ張った。
『イアン、それはまだ先よ。私にはやる事がある…この子も幸せにしなくちゃ』
麗は紅葉をイアンから離すと頭を優しく撫でてやった。
「そもそもお前の家族はキリがない。ちょっとやそっとでは死ななそうだ」
“え…?”と洩らすと、イアンが耳元で囁いた。イアンが口にしたその名前は確かに私を救う事が出来るかもしれないモノだった。
『あの方が手を出したら私はもっと人では無くなるわ。きっと最後の瞬間まで何もしないよ』
もしかしたら何もしないかも知れない。
その方が私は良いけど…
『ちゃんと行くから。だから待ってて、イアン』
やる事は沢山ある。
だから今は未だ…
まだ死ぬ訳にはいかない──…