第2章 秘密ノ謳
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『楓は本当に紅葉が好きね…俗称“楓”にして良かったわ』
ずっと黙っていたが、別に紅葉が好きな訳では無かった。
紅葉を見ている時の麗が何時も以上に好きなだけだった。
紅い景色の中、紅い紅葉の絨毯の上を歩く麗は可愛くて…小さいくせにどこか凜として美しかった。成長するに従ってそこに“あの日”の様な色香も増えた。
自然と綻ぶ俺の表情を見て麗が紅葉を好きだと勘違いしたのは、俺には好都合だった。
年に一度、麗は俺だけを連れて紅葉を見に出掛けた。
それはこちらの世界に来ても変わらず…相変わらず麗は秋のある日にこっそり俺を連れ出した。
その日が…一年で一番好きな日だった。
『今年も秋になったら紅葉見に行こうね、楓』
「喜んで、麗…」
悪い、麗…
“俺は”もう行けそうに無い。
だから一緒に連れてってな…
「麗、生きろ」
=紅葉=
麗が倒れて数日経ったある日…俺は麗の力になると決めた。
念の為グリフィンドール生の制服に身を包み、医務室で眠っている麗のベッドの脇に姿を現す。
「楓か…」
「御久しぶりです、御館様」
そこには、眠っている麗の他に御館様がいた。麗は苦しそうに消え掛りそうな呼吸を繰り返しながら眠っている。
御館様は麗の眠っているベッドの脇の椅子に座り、麗の手をしっかりと握り締めていた。
あぁ…何て人間は脆いのだろう。
我等は望まなくとも生き続けるのに…
何故…人の命はこうも容易く終わろうとする?
楓は、愛しそうに麗の頭を撫でながら口を開いた。
「俺…麗の糧になります」
「……そうか」
「それだけですか?」
楓はクスクス笑いながらそう問掛けた。
消え逝く舎弟に他に言う事は無いのだろうか?
「お前は止めても逝くだろ」
翡翠の真面目な答えに、楓は笑うのを止めて翡翠に向き合い、口角を上げて笑った。
「世話になったな、翡翠」
「…それがお前の本性か」
翡翠の表情が不機嫌そうに歪んだのが面白かった。
何時も翡翠の前では、麗の前でする様に猫を被って無かったが、ちゃんと“格下”でいた。だが…
「俺はお前よりも年上だし格も上だ。力を封印しているから姿は妖狐だけどな」
「…何故大人しく俺の下に即いてた」
「麗に頼まれたからな」
「麗に?」
「翡翠を支えて上げてくれってな」
麗は翡翠の精神が自分が関わる事で脆くなる事を知っていた。だから俺に支えて上げてくれと頼み込んできた。小さな頭を深々と下げて…
「何で今更本性現した」
「消える前まで装うのは何か嫌だっただけだ」
「消えると分かっていくか」
「何をしてでも麗は俺が護る。千五百年前から決めていた事だ」
「千五百年?」
翡翠の問い掛けを無視した楓は、ゆっくりと眠っている麗を抱き起すとそっと抱き締めた。
随分体温が下がったな…
「それに砕覇に先を越されるのも嫌だったからな」
「狼…?」
砕覇の名前を出すと、翡翠は不機嫌そうに眉を寄せた。餓鬼が…砕覇が嫌いで仕方無いらしい。
楓は、麗の頭に頬を寄せるとニヤリと笑った。
「砕覇は一早く麗の異変に気付いていた…そして自分が糧になろうとしていたよ。長の責務は弟に投げるんだろう」
苦虫を噛み潰した様な翡翠の顔を見てくつくつ笑う。意地悪いが最後くらい良いだろう。
「だが砕覇より俺が適任だ」
楓は目を閉じると光を帯びながら徐々に麗に溶け込む。
「俺の力なら麗の膨大な力を支えられる」
今の長達の力じゃ足りない。大妖たる俺の力なら、強過ぎる麗の力を支える事が出来る。
「何より…」
俺の力なら、力に反して脆過ぎる麗の身体を永遠とは行かずとも持続的に癒やす事が出来る。
「麗の中に他の奴が入るだなんて考えただけで虫唾 が走るしな」
麗の糧になるのは…
麗の核の一部になるのは…
麗と一つになるのは…
俺にしか出来無いし、俺で無くては嫌だ。
「翡翠、麗を頼んだぞ」
「任せろ…楓」
さあ、最後の仕事の始まりだ。
待ってろ麗…
今行くから…
だからもう少し頑張れ。
本当は俺が糧になろうと思っていた。
だけど麗を護ると契約した自分は糧となった後、どうやって麗を護ったら良いのか分からなかった。だからひたすら考え続けた。でも楓が現れて、自分が糧になると言いだした。麗を助けるには…
麗を永らえさせ、護るには好都合だった。
だから“止めても逝くだろう”と理由を付けて送りだした。
俺は最低だ。子分も護れない上、利用した。
最悪の長だ──…
だってこれが…麗を永らえさせ、麗を俺が護りつつ、俺が麗の側にある為の最善の方法だった。
麗の事しか考えていない……麗と居る為に…
自分の事しか考えていない最低な考えだと分かっている。
でもそれでも…話す事も抱き締める事も出来無いなんて耐えられなかった。
誰かに譲るなんて出来無かった──…
楓が消えて一週間程経っても、麗は元には戻らなかった。
微笑んでも、それは何処か造りモノの様な表情で、どう見ても本心で笑っていない麗は人形の様だった。
ある日ハグリッドが麗にプレゼントがあると言うので、俺は外に出たがらない麗を連れてハグリッドの小屋に向かった。
「おぉ麗、来よったか!」
小屋の外で薪割りをしていたハグリッドは、一旦小屋の中に戻ると何かを手に乗せて戻ってきた。
黒いモノがうごうごとハグリッドの掌で動く。
「森で怪我をしちょるのを見付けてな、麗はこういうのが好きだろ?」
ハグリッドが麗に大きな手を差し出し、差し出されたモノを見た俺は驚いた。
麗に目を向ければ、麗は目を見開いて涙を流していた。
「これじゃあもう群には戻れんじゃろ。麗はダンブルドアに許されとるからコイツも」
『楓…』
ハグリッドの手に乗っていたのは包帯を巻いた小さな黒い仔狐だった。
楓にそっくりの黒い…黒い…仔狐……
『楓…』
麗はハグリッドから仔狐を受け取るとボロボロと涙を零しながら小さな小さな狐を抱き締めた。
「何だ?もう名前決めたんか?」
ハグリッドは笑いながら麗の頭を撫で、俺は唯それを見守った。
『楓…御帰り…』
仔狐は麗の頬に顔を擦り寄せると溢れてくる涙を舐め取った。
楓なのか…?
いや、いっそ違っても良い。
麗の支えになれるなら。
失った者も手に入れたモノも重過ぎるが、麗なら大丈夫な筈だ。
麗なら…
絶対に楓の想いを無駄にはしないから。
「落ち着いたか?」
現れるなりそう口にしたイアンは、仔狐を抱き締めてベッドに横になった麗の隣に腰掛けた。
イアンに頭を撫でられ、麗は哀しそうに…そして嬉しそうに微笑んだ。
『…この仔の御陰よ』
「……名前は?」
麗はクスクス笑いながら顔をイアンに向けた。
『イアンが興味を示すなんて珍しいね“紅葉”だよ。楓は紅葉が好きだったから』
「そうか…」
絶対にこの子を幸せにしなきゃ。
そうしなければ気がすまない。
綺麗な漆黒の狐に…
私は護られているのだから──…
『楓は本当に紅葉が好きね…俗称“楓”にして良かったわ』
ずっと黙っていたが、別に紅葉が好きな訳では無かった。
紅葉を見ている時の麗が何時も以上に好きなだけだった。
紅い景色の中、紅い紅葉の絨毯の上を歩く麗は可愛くて…小さいくせにどこか凜として美しかった。成長するに従ってそこに“あの日”の様な色香も増えた。
自然と綻ぶ俺の表情を見て麗が紅葉を好きだと勘違いしたのは、俺には好都合だった。
年に一度、麗は俺だけを連れて紅葉を見に出掛けた。
それはこちらの世界に来ても変わらず…相変わらず麗は秋のある日にこっそり俺を連れ出した。
その日が…一年で一番好きな日だった。
『今年も秋になったら紅葉見に行こうね、楓』
「喜んで、麗…」
悪い、麗…
“俺は”もう行けそうに無い。
だから一緒に連れてってな…
「麗、生きろ」
=紅葉=
麗が倒れて数日経ったある日…俺は麗の力になると決めた。
念の為グリフィンドール生の制服に身を包み、医務室で眠っている麗のベッドの脇に姿を現す。
「楓か…」
「御久しぶりです、御館様」
そこには、眠っている麗の他に御館様がいた。麗は苦しそうに消え掛りそうな呼吸を繰り返しながら眠っている。
御館様は麗の眠っているベッドの脇の椅子に座り、麗の手をしっかりと握り締めていた。
あぁ…何て人間は脆いのだろう。
我等は望まなくとも生き続けるのに…
何故…人の命はこうも容易く終わろうとする?
楓は、愛しそうに麗の頭を撫でながら口を開いた。
「俺…麗の糧になります」
「……そうか」
「それだけですか?」
楓はクスクス笑いながらそう問掛けた。
消え逝く舎弟に他に言う事は無いのだろうか?
「お前は止めても逝くだろ」
翡翠の真面目な答えに、楓は笑うのを止めて翡翠に向き合い、口角を上げて笑った。
「世話になったな、翡翠」
「…それがお前の本性か」
翡翠の表情が不機嫌そうに歪んだのが面白かった。
何時も翡翠の前では、麗の前でする様に猫を被って無かったが、ちゃんと“格下”でいた。だが…
「俺はお前よりも年上だし格も上だ。力を封印しているから姿は妖狐だけどな」
「…何故大人しく俺の下に即いてた」
「麗に頼まれたからな」
「麗に?」
「翡翠を支えて上げてくれってな」
麗は翡翠の精神が自分が関わる事で脆くなる事を知っていた。だから俺に支えて上げてくれと頼み込んできた。小さな頭を深々と下げて…
「何で今更本性現した」
「消える前まで装うのは何か嫌だっただけだ」
「消えると分かっていくか」
「何をしてでも麗は俺が護る。千五百年前から決めていた事だ」
「千五百年?」
翡翠の問い掛けを無視した楓は、ゆっくりと眠っている麗を抱き起すとそっと抱き締めた。
随分体温が下がったな…
「それに砕覇に先を越されるのも嫌だったからな」
「狼…?」
砕覇の名前を出すと、翡翠は不機嫌そうに眉を寄せた。餓鬼が…砕覇が嫌いで仕方無いらしい。
楓は、麗の頭に頬を寄せるとニヤリと笑った。
「砕覇は一早く麗の異変に気付いていた…そして自分が糧になろうとしていたよ。長の責務は弟に投げるんだろう」
苦虫を噛み潰した様な翡翠の顔を見てくつくつ笑う。意地悪いが最後くらい良いだろう。
「だが砕覇より俺が適任だ」
楓は目を閉じると光を帯びながら徐々に麗に溶け込む。
「俺の力なら麗の膨大な力を支えられる」
今の長達の力じゃ足りない。大妖たる俺の力なら、強過ぎる麗の力を支える事が出来る。
「何より…」
俺の力なら、力に反して脆過ぎる麗の身体を永遠とは行かずとも持続的に癒やす事が出来る。
「麗の中に他の奴が入るだなんて考えただけで
麗の糧になるのは…
麗の核の一部になるのは…
麗と一つになるのは…
俺にしか出来無いし、俺で無くては嫌だ。
「翡翠、麗を頼んだぞ」
「任せろ…楓」
さあ、最後の仕事の始まりだ。
待ってろ麗…
今行くから…
だからもう少し頑張れ。
本当は俺が糧になろうと思っていた。
だけど麗を護ると契約した自分は糧となった後、どうやって麗を護ったら良いのか分からなかった。だからひたすら考え続けた。でも楓が現れて、自分が糧になると言いだした。麗を助けるには…
麗を永らえさせ、護るには好都合だった。
だから“止めても逝くだろう”と理由を付けて送りだした。
俺は最低だ。子分も護れない上、利用した。
最悪の長だ──…
だってこれが…麗を永らえさせ、麗を俺が護りつつ、俺が麗の側にある為の最善の方法だった。
麗の事しか考えていない……麗と居る為に…
自分の事しか考えていない最低な考えだと分かっている。
でもそれでも…話す事も抱き締める事も出来無いなんて耐えられなかった。
誰かに譲るなんて出来無かった──…
楓が消えて一週間程経っても、麗は元には戻らなかった。
微笑んでも、それは何処か造りモノの様な表情で、どう見ても本心で笑っていない麗は人形の様だった。
ある日ハグリッドが麗にプレゼントがあると言うので、俺は外に出たがらない麗を連れてハグリッドの小屋に向かった。
「おぉ麗、来よったか!」
小屋の外で薪割りをしていたハグリッドは、一旦小屋の中に戻ると何かを手に乗せて戻ってきた。
黒いモノがうごうごとハグリッドの掌で動く。
「森で怪我をしちょるのを見付けてな、麗はこういうのが好きだろ?」
ハグリッドが麗に大きな手を差し出し、差し出されたモノを見た俺は驚いた。
麗に目を向ければ、麗は目を見開いて涙を流していた。
「これじゃあもう群には戻れんじゃろ。麗はダンブルドアに許されとるからコイツも」
『楓…』
ハグリッドの手に乗っていたのは包帯を巻いた小さな黒い仔狐だった。
楓にそっくりの黒い…黒い…仔狐……
『楓…』
麗はハグリッドから仔狐を受け取るとボロボロと涙を零しながら小さな小さな狐を抱き締めた。
「何だ?もう名前決めたんか?」
ハグリッドは笑いながら麗の頭を撫で、俺は唯それを見守った。
『楓…御帰り…』
仔狐は麗の頬に顔を擦り寄せると溢れてくる涙を舐め取った。
楓なのか…?
いや、いっそ違っても良い。
麗の支えになれるなら。
失った者も手に入れたモノも重過ぎるが、麗なら大丈夫な筈だ。
麗なら…
絶対に楓の想いを無駄にはしないから。
「落ち着いたか?」
現れるなりそう口にしたイアンは、仔狐を抱き締めてベッドに横になった麗の隣に腰掛けた。
イアンに頭を撫でられ、麗は哀しそうに…そして嬉しそうに微笑んだ。
『…この仔の御陰よ』
「……名前は?」
麗はクスクス笑いながら顔をイアンに向けた。
『イアンが興味を示すなんて珍しいね“紅葉”だよ。楓は紅葉が好きだったから』
「そうか…」
絶対にこの子を幸せにしなきゃ。
そうしなければ気がすまない。
綺麗な漆黒の狐に…
私は護られているのだから──…