第2章 秘密ノ謳
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51
『宜しくね、蒼』
「任せろ」
蒼は飛び立つ。
何度も何度も…
貴方との手紙を持って──…
=喧嘩=
「そないな事言ぅてもなぁ」
「煩ぇ、黙ってろ糞狼!!」
静かなホグワーツの森に翡翠と砕覇の怒鳴り声だけが異様に大きく響き渡っていた。動物達は脅え、木々は煩いと文句を言う。
同じ喧嘩ばかりして…
麗は結界を張って二人の声を一角に閉じ込めると、草むらに寝転がって息をついた。
『騎龍は混じらないの?』
「アイツに関わるのも面倒臭い…アイツに構ってる暇があるなら、俺様は麗と昼寝でもする」
アイツとは砕覇の事だろう。
騎龍は翡翠と喧嘩をしている砕覇を一睨みすると、麗の隣に並んで寝転んだ。
『そうね…その方が何倍も良い』
「お前…」
麗に抱き付かれて、すんっと鼻を動かした騎龍は、構わず眠りにつこうとする麗の髪に触れた。
「あ゙───ッ!!!」
悲鳴に近い砕覇の叫び声で麗の眠気が吹き飛ぶ。
「蛇、何やってんねん!!俺の麗に手ぇ出さんといてや!」
「テメェのじゃねぇ!!」
砕覇が慌てて駆け寄ってくると、騎龍から麗を離そうと麗の腕を引いたりし、翡翠もそれに加わった。
周りをうろちょろする二人に、騎龍が小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
「煩ぇ…麗は俺様のだ」
「勝手な事言ってんじゃねぇぞ、蛇!」
二人の奮闘も虚しく、騎龍は麗を離そうとせず、却 って麗をきつく抱き締めた。
『煩い…』
二人はピタリと動くのを止め、騎龍は腕の中の麗に目を向けた。
『喧嘩をするなと…どれだけ言わせれば気が済むんだ。翡翠、砕覇の何が気に入らない?』
「……麗に馴れ馴れしいトコ」
「何やそれ!?俺は麗の家族なんやから馴れ馴れしくて良ぇやろ!」
『砕覇の言う通りだな』
「麗!!」
麗は騎龍から離れて立ち上がると、翡翠と砕覇の周りに一つずつ結界を張った。
『御互い声が通る様にした。試しに話し合いでもしてみろ』
右耳に付いたピアスを通して“何故騎龍だけ外なのか”と翡翠の抗議の声が麗に伝わる。ピアスを持たない砕覇は喋ってもこちらには聞こえ無い為、頷いて同意を示した。
『こっちの接続も一旦切らねばならんな…』
納得いかない様子の翡翠を見て、麗は本日何度目かの溜め息を吐くと、翡翠と砕覇を魔法で少し離れた場所へ移した。
『騎龍は大声を上げて周りの動物達を怖がらせたり、木々に文句を言われていない。それに何より』
他人に迷惑を掛ける喧嘩何てしても仕方が無い。
『騎龍は、御前達が喧嘩をしている時に私を気遣ってくれる。御前達は喧嘩ばかりで周りを見な過ぎだ』
騎龍は何時も隣に居てくれる。
喧嘩をしている時でも、安全な所に捨て置くんじゃなくて、護る様に抱えててくれる。
『暫くそこで話し合いでもしながら反省していろ』
麗はピアスを指で弾いて接続を切ると騎龍の腕の中に戻った。
『言っておくけど…本来なら貴方もあちら側よ』
「分かってる」
そう返した騎龍は、翡翠達の方をチラリと見ると口角を上げて意地悪く笑い、それを見た翡翠と砕覇は結界を破ろうと暴れ出した。
『それが貴方のいけない所よ』
「ククッ…アイツ等にお前の結界が破れるかねぇ」
麗は溜め息を吐くと翡翠達を見据えた。瞬間、麗の黒い瞳が緋色に染まる。
『封縛』
麗がそう呟いた瞬間、翡翠と砕覇の身体が各々の結界の中心に引き寄せられしっかりと固定される。
『話し合いでもしながら反省していろと言っただろ?』
麗は二人を見るのを止めて騎龍の胸元に顔を埋める様に腕の中で眠りにつき、騎龍は笑いを堪えて麗を優しく抱き締めた。
重たい眠りに落ち、逃れられない夢を見よう。
大丈夫…呑み込まれそうになったらきっと騎龍が起こしてくれるから。
大丈夫…
大丈…夫……
悪夢には慣れた──…
「何をしている」
『ん…』
聞き慣れたそうの低いの声で目が覚める。
麗は騎龍の腕から抜け出て起き上がると、ぐっと伸びて幸せそうに微笑んだ。
『御帰り、蒼』
「昼寝でもしていたのか?」
『うん、久しぶりに良く寝た』
まだ隣で寝ている騎龍の頭を撫でると、騎龍の口角が少しだけ上がった。蒼は人型になって麗の隣に座ると、一通の封筒を差し出した。
「アースからの返事だ」
『有難う』
麗は封筒を開けると手紙を読み出した。
「ところで…」
『ん~?』
「アレは何だ?」
顔を上げると、蒼の視線の先には結界内に捕縛翡翠と砕覇がいた。
「何か騒いでる様だが…声が聞こえないな」
『暫く話し合いでもしながら反省していろと言ったんだが…話し合いと言うより喧嘩の続行だな』
「馬鹿だな」
『うん、馬鹿だ』
麗は読み終った手紙を封筒に綺麗に仕舞うと、立ち上がった。
『翡翠、砕覇、帰るよ』
麗は二人を拘束したまま結界を解いた。
「麗…術解いてや」
『あら、駄目よ』
麗はニッコリ微笑むと二人の間に立ち、翡翠の前に左腕を、砕覇の前に右腕を掌を見せる様に伸ばした。すると二人はそれぞれ小さな狐と狼へと姿を変えた。変えられた。
「お…おい、麗…」
「麗~堪忍してやぁ」
『駄目』
麗の楽しそうな笑い声と、蒼の押し殺した笑い声が小さく響いた。
「…最初からこうすれば良かったんじゃないか?」
『それもそうね』
「煩ぇ、笑うな馬鹿鳥!!!」
麗が砕覇の封縛を解くと、宙に浮いていた小さな砕覇は地に落ち、綺麗に着地を決めた。
麗は砕覇を抱き上げると、人形の様に抱き締める。
『砕覇、可愛い』
「俺、このままで良ぇわ!」
機嫌の良くなった砕覇が嬉しそうに麗に擦り寄り、翡翠は宙に浮いたまま不機嫌そうに表情を歪めた。
「此の、阿呆狼…」
『一々つっかかるな、翡翠』
「餓鬼…」
「煩ぇ、馬鹿鳥」
『ほら、帰るわよ』
麗は翡翠の術を解いて抱き上げると砕覇と一緒に抱き締めた。
『騎龍!』
二人を手にそう口にしながら寝ている騎龍に歩み寄ると、地に膝を付き、騎龍の顔を覗き込んだ。
『騎龍、帰りましょ』
「ん…」
一瞬ピクリと眉が動き、眉間に皺が寄ったかと思うと、ゆっくりとその瞼が動いた。金色の綺麗な瞳が姿を現す。
薄らと開いた騎龍の目と翡翠、砕覇の目が合った。
「…………………………」
「「……何だ(何やねん)、蛇」」
二人の声が綺麗に揃い、翡翠が砕覇を睨み付ける中、騎龍は腕で自分の顔を覆い、そして何故か小刻みに震えた。
。
「クッ…ククククク」
『騎龍?』
翡翠と砕覇を片腕に纏めて抱いた麗は、空いた手で騎龍の顔を覆った腕を退かして…思わず固まった。
「ククク…コイツ等、麗がやったのか?」
『う…うん』
騎龍が目に涙を溜めて、笑いを堪えている。貴重な…
「クククク…か、格好悪い」
「「な、何だと(何やて)!?」」
「ククッ…声、揃ってるし」
「「煩ぇ、蛇!!」」
『封』
「「ッ…!!!」」
麗の腕に抱かれてギャーギャー騒いでいた二匹となった二人は、慌てて小さな前足で麗をポンポン叩いた。あぁ…可愛い。
「何をしたんだ?」
『声を封じた』
何時までも喧嘩を続けるから声を封じてみたが…可愛さに磨きが掛かっただけな様な気がする。
「こいつら顔だけで続行してるぞ」
『まぁ、表情豊か』
「麗!」
そう声を掛けられて振り向くと、クルクルの長い黒髪に紫眼の女性が立っていた。
『ベラトリックス!』
随分とまぁ珍しい人が…
「こんな所に…チッ、もっと分かり易い所に居なさいよ、チンチクリン」
そう言いながら歩み寄って来るベラトリックスを騎龍は睨み付けた。
「俺様の麗がチンチクリンだと?」
『騎龍…』
麗がそう制すると、騎龍は大人しく口を閉じる。
「あ─…はいはい。アンタも小娘の“家族”なのね。嫌ね、また変なのが増えた……あら、その犬どうしたの?」
『犬じゃなくて狐と狼よ。二人とも凄く可愛いでしょ』
「そうね、可愛いわ…狼の方貰っていこうかしら」
そう言ってベラトリックスは砕覇の首根っこを掴み、掴まれた砕覇は慌てて麗にしがみつこうとしたが、プニプニの小さな手ではそれは不可能だった。
首根っこを掴まれた状態で持ち上げられた砕覇は、宙を掻く様にして暴れ続ける。
「…コイツもアンタが好きみたいよ。全く嫌になるわ、どいつもこいつも」
『そう言えばベラ、何で私を捜してたの?』
砕覇を麗に投げて寄越したベラトリックスは、思い出した様に“あぁ”と声を漏らした。
「ラバスタンとレギュラスが喧嘩してんのよ」
『ラバスタンとレギュラスが?』
二人が喧嘩って…それ忘れちゃいけない事よ、ベラトリックス…
「私とロドルファスがいくら怒鳴っても止めない…動じないレベルだから、ナルシッサが手分けしてアンタを捜そうって言い出したのよ」
あの二人が怒ったベラトリックスに動じないなんて…余程酷い様だ。
『私に止められるかしら』
「アンタなら大丈夫よ、チンチクリン」
理由は良く分からないが、ベラトリックスがそう言うのだから大丈夫だろう。
麗は腕に抱いていた二人を蒼に手渡すと、皆と別れてベラトリックスと二人、スリザリン寮の談話室へと向かった。
談話室は酷い有り様だった。ソファーはひっくり返り、本やクッションが床に散乱していた。
階段や部屋の隅に避難した生徒達の中に、あたふたしているスラグホーンが見えた。
「悪いな、麗」
『いいのよ、ロドルファス』
麗は部屋の中央で組み合っているラバスタンとレギュラスに歩み寄ると、振り上げられた腕をそれぞれ掴み、そっとその手を握り締めた。
弾かれた様にこちらを見た二人の目が見開く。
『ねぇ、何してるの?』
二人は直ぐに戻れる筈だ。
だって…
『ラース、レギュー』
二人は本当の兄弟の様に仲が良いんだから──…
『宜しくね、蒼』
「任せろ」
蒼は飛び立つ。
何度も何度も…
貴方との手紙を持って──…
=喧嘩=
「そないな事言ぅてもなぁ」
「煩ぇ、黙ってろ糞狼!!」
静かなホグワーツの森に翡翠と砕覇の怒鳴り声だけが異様に大きく響き渡っていた。動物達は脅え、木々は煩いと文句を言う。
同じ喧嘩ばかりして…
麗は結界を張って二人の声を一角に閉じ込めると、草むらに寝転がって息をついた。
『騎龍は混じらないの?』
「アイツに関わるのも面倒臭い…アイツに構ってる暇があるなら、俺様は麗と昼寝でもする」
アイツとは砕覇の事だろう。
騎龍は翡翠と喧嘩をしている砕覇を一睨みすると、麗の隣に並んで寝転んだ。
『そうね…その方が何倍も良い』
「お前…」
麗に抱き付かれて、すんっと鼻を動かした騎龍は、構わず眠りにつこうとする麗の髪に触れた。
「あ゙───ッ!!!」
悲鳴に近い砕覇の叫び声で麗の眠気が吹き飛ぶ。
「蛇、何やってんねん!!俺の麗に手ぇ出さんといてや!」
「テメェのじゃねぇ!!」
砕覇が慌てて駆け寄ってくると、騎龍から麗を離そうと麗の腕を引いたりし、翡翠もそれに加わった。
周りをうろちょろする二人に、騎龍が小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
「煩ぇ…麗は俺様のだ」
「勝手な事言ってんじゃねぇぞ、蛇!」
二人の奮闘も虚しく、騎龍は麗を離そうとせず、
『煩い…』
二人はピタリと動くのを止め、騎龍は腕の中の麗に目を向けた。
『喧嘩をするなと…どれだけ言わせれば気が済むんだ。翡翠、砕覇の何が気に入らない?』
「……麗に馴れ馴れしいトコ」
「何やそれ!?俺は麗の家族なんやから馴れ馴れしくて良ぇやろ!」
『砕覇の言う通りだな』
「麗!!」
麗は騎龍から離れて立ち上がると、翡翠と砕覇の周りに一つずつ結界を張った。
『御互い声が通る様にした。試しに話し合いでもしてみろ』
右耳に付いたピアスを通して“何故騎龍だけ外なのか”と翡翠の抗議の声が麗に伝わる。ピアスを持たない砕覇は喋ってもこちらには聞こえ無い為、頷いて同意を示した。
『こっちの接続も一旦切らねばならんな…』
納得いかない様子の翡翠を見て、麗は本日何度目かの溜め息を吐くと、翡翠と砕覇を魔法で少し離れた場所へ移した。
『騎龍は大声を上げて周りの動物達を怖がらせたり、木々に文句を言われていない。それに何より』
他人に迷惑を掛ける喧嘩何てしても仕方が無い。
『騎龍は、御前達が喧嘩をしている時に私を気遣ってくれる。御前達は喧嘩ばかりで周りを見な過ぎだ』
騎龍は何時も隣に居てくれる。
喧嘩をしている時でも、安全な所に捨て置くんじゃなくて、護る様に抱えててくれる。
『暫くそこで話し合いでもしながら反省していろ』
麗はピアスを指で弾いて接続を切ると騎龍の腕の中に戻った。
『言っておくけど…本来なら貴方もあちら側よ』
「分かってる」
そう返した騎龍は、翡翠達の方をチラリと見ると口角を上げて意地悪く笑い、それを見た翡翠と砕覇は結界を破ろうと暴れ出した。
『それが貴方のいけない所よ』
「ククッ…アイツ等にお前の結界が破れるかねぇ」
麗は溜め息を吐くと翡翠達を見据えた。瞬間、麗の黒い瞳が緋色に染まる。
『封縛』
麗がそう呟いた瞬間、翡翠と砕覇の身体が各々の結界の中心に引き寄せられしっかりと固定される。
『話し合いでもしながら反省していろと言っただろ?』
麗は二人を見るのを止めて騎龍の胸元に顔を埋める様に腕の中で眠りにつき、騎龍は笑いを堪えて麗を優しく抱き締めた。
重たい眠りに落ち、逃れられない夢を見よう。
大丈夫…呑み込まれそうになったらきっと騎龍が起こしてくれるから。
大丈夫…
大丈…夫……
悪夢には慣れた──…
「何をしている」
『ん…』
聞き慣れたそうの低いの声で目が覚める。
麗は騎龍の腕から抜け出て起き上がると、ぐっと伸びて幸せそうに微笑んだ。
『御帰り、蒼』
「昼寝でもしていたのか?」
『うん、久しぶりに良く寝た』
まだ隣で寝ている騎龍の頭を撫でると、騎龍の口角が少しだけ上がった。蒼は人型になって麗の隣に座ると、一通の封筒を差し出した。
「アースからの返事だ」
『有難う』
麗は封筒を開けると手紙を読み出した。
「ところで…」
『ん~?』
「アレは何だ?」
顔を上げると、蒼の視線の先には結界内に捕縛翡翠と砕覇がいた。
「何か騒いでる様だが…声が聞こえないな」
『暫く話し合いでもしながら反省していろと言ったんだが…話し合いと言うより喧嘩の続行だな』
「馬鹿だな」
『うん、馬鹿だ』
麗は読み終った手紙を封筒に綺麗に仕舞うと、立ち上がった。
『翡翠、砕覇、帰るよ』
麗は二人を拘束したまま結界を解いた。
「麗…術解いてや」
『あら、駄目よ』
麗はニッコリ微笑むと二人の間に立ち、翡翠の前に左腕を、砕覇の前に右腕を掌を見せる様に伸ばした。すると二人はそれぞれ小さな狐と狼へと姿を変えた。変えられた。
「お…おい、麗…」
「麗~堪忍してやぁ」
『駄目』
麗の楽しそうな笑い声と、蒼の押し殺した笑い声が小さく響いた。
「…最初からこうすれば良かったんじゃないか?」
『それもそうね』
「煩ぇ、笑うな馬鹿鳥!!!」
麗が砕覇の封縛を解くと、宙に浮いていた小さな砕覇は地に落ち、綺麗に着地を決めた。
麗は砕覇を抱き上げると、人形の様に抱き締める。
『砕覇、可愛い』
「俺、このままで良ぇわ!」
機嫌の良くなった砕覇が嬉しそうに麗に擦り寄り、翡翠は宙に浮いたまま不機嫌そうに表情を歪めた。
「此の、阿呆狼…」
『一々つっかかるな、翡翠』
「餓鬼…」
「煩ぇ、馬鹿鳥」
『ほら、帰るわよ』
麗は翡翠の術を解いて抱き上げると砕覇と一緒に抱き締めた。
『騎龍!』
二人を手にそう口にしながら寝ている騎龍に歩み寄ると、地に膝を付き、騎龍の顔を覗き込んだ。
『騎龍、帰りましょ』
「ん…」
一瞬ピクリと眉が動き、眉間に皺が寄ったかと思うと、ゆっくりとその瞼が動いた。金色の綺麗な瞳が姿を現す。
薄らと開いた騎龍の目と翡翠、砕覇の目が合った。
「…………………………」
「「……何だ(何やねん)、蛇」」
二人の声が綺麗に揃い、翡翠が砕覇を睨み付ける中、騎龍は腕で自分の顔を覆い、そして何故か小刻みに震えた。
。
「クッ…ククククク」
『騎龍?』
翡翠と砕覇を片腕に纏めて抱いた麗は、空いた手で騎龍の顔を覆った腕を退かして…思わず固まった。
「ククク…コイツ等、麗がやったのか?」
『う…うん』
騎龍が目に涙を溜めて、笑いを堪えている。貴重な…
「クククク…か、格好悪い」
「「な、何だと(何やて)!?」」
「ククッ…声、揃ってるし」
「「煩ぇ、蛇!!」」
『封』
「「ッ…!!!」」
麗の腕に抱かれてギャーギャー騒いでいた二匹となった二人は、慌てて小さな前足で麗をポンポン叩いた。あぁ…可愛い。
「何をしたんだ?」
『声を封じた』
何時までも喧嘩を続けるから声を封じてみたが…可愛さに磨きが掛かっただけな様な気がする。
「こいつら顔だけで続行してるぞ」
『まぁ、表情豊か』
「麗!」
そう声を掛けられて振り向くと、クルクルの長い黒髪に紫眼の女性が立っていた。
『ベラトリックス!』
随分とまぁ珍しい人が…
「こんな所に…チッ、もっと分かり易い所に居なさいよ、チンチクリン」
そう言いながら歩み寄って来るベラトリックスを騎龍は睨み付けた。
「俺様の麗がチンチクリンだと?」
『騎龍…』
麗がそう制すると、騎龍は大人しく口を閉じる。
「あ─…はいはい。アンタも小娘の“家族”なのね。嫌ね、また変なのが増えた……あら、その犬どうしたの?」
『犬じゃなくて狐と狼よ。二人とも凄く可愛いでしょ』
「そうね、可愛いわ…狼の方貰っていこうかしら」
そう言ってベラトリックスは砕覇の首根っこを掴み、掴まれた砕覇は慌てて麗にしがみつこうとしたが、プニプニの小さな手ではそれは不可能だった。
首根っこを掴まれた状態で持ち上げられた砕覇は、宙を掻く様にして暴れ続ける。
「…コイツもアンタが好きみたいよ。全く嫌になるわ、どいつもこいつも」
『そう言えばベラ、何で私を捜してたの?』
砕覇を麗に投げて寄越したベラトリックスは、思い出した様に“あぁ”と声を漏らした。
「ラバスタンとレギュラスが喧嘩してんのよ」
『ラバスタンとレギュラスが?』
二人が喧嘩って…それ忘れちゃいけない事よ、ベラトリックス…
「私とロドルファスがいくら怒鳴っても止めない…動じないレベルだから、ナルシッサが手分けしてアンタを捜そうって言い出したのよ」
あの二人が怒ったベラトリックスに動じないなんて…余程酷い様だ。
『私に止められるかしら』
「アンタなら大丈夫よ、チンチクリン」
理由は良く分からないが、ベラトリックスがそう言うのだから大丈夫だろう。
麗は腕に抱いていた二人を蒼に手渡すと、皆と別れてベラトリックスと二人、スリザリン寮の談話室へと向かった。
談話室は酷い有り様だった。ソファーはひっくり返り、本やクッションが床に散乱していた。
階段や部屋の隅に避難した生徒達の中に、あたふたしているスラグホーンが見えた。
「悪いな、麗」
『いいのよ、ロドルファス』
麗は部屋の中央で組み合っているラバスタンとレギュラスに歩み寄ると、振り上げられた腕をそれぞれ掴み、そっとその手を握り締めた。
弾かれた様にこちらを見た二人の目が見開く。
『ねぇ、何してるの?』
二人は直ぐに戻れる筈だ。
だって…
『ラース、レギュー』
二人は本当の兄弟の様に仲が良いんだから──…