第2章 秘密ノ謳
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
50
私には御祖父様が二人いる。
でも私の世界と此の世界の御祖父様でははっきり言ってタイプが違い過ぎる。
そして…私はアルバス本人を御祖父様と呼ぶのを辞めた。
二人は違い過ぎるから。
=どんな時も=
その日、麗はアルバスに呼ばれて校長室に来ていた。
お茶を出され、何やら楽しそうなアルバスの話を聞いていたが、頭に入ってくるのは二人の声…
麗…好きだよ──…
麗が好きだ──…
何度も何度も、二人の声だけが頭に響く。
何で…何で…
何でそんな事言うの?
そんな事を言って崩れる関係だとは思って無い。
だけど…だけど、もし崩れたら…
そう考えると怖い。
麗が好きだ──…
麗…好きだよ──…
友達だと思ってた。
初めての友達…友達とこういう事になるとは思ってなかった。
友達って…一緒に居ると楽しくて、気を許しあえて…それから……それから………友達って何だろう?
家族と友達と恋人と…何が違うの?
私は誰が好きなの?
私は、二人に何て答えたらいいの?
私は…何でこんなにも色恋沙汰に弱いんだろう。
気持ちが分からない…
「では、そういう事だからの。宜しく頼むぞ、麗」
『え?』
手にしたティーカップを見据えて惚けていた麗は、慌てて顔を上げた。アルバスの話を全然聞いていなかった。
「聞いていなかったのか?」
『御免なさい、アルバス…頼むって何を?』
アルバスは長い髭を撫でながらニッコリと微笑んだ。
「今日の夕刻まで麗には校内を逃げ回ってもらう」
『は…?』
冗談じゃ無い。
今日は日曜…折角の休みに何で逃げ回らなければならないのか。
「生徒に捕まったら負けじゃ。麗が捕まったら麗は自分を捕まえた生徒の願いを一つ叶えなければならん」
『何それ、決定?!』
「決定じゃ」
相変わらず勝手な人だ。
そういう事は…せめて前もって言っておいて欲しい。
「もう、生徒達は麗を捜し始めとるぞ」
しかも承諾する前にもう既に開始しているとは…
「因みに生徒は校長室と寮内は出入り禁止じゃ」
なら自室に隠れていれば…
「勿論、麗も出入り禁止じゃ。必要の部屋もな」
『え?あの、目的は?』
「今年は暗い初まりだったからの」
『…生徒はアレンの事は知らないわ』
「しかし列車が何者かに襲撃された事は知っておる」
『……』
「何か特別なイベント事があっても良いじゃろ」
『私に良い事は無いわ』
アルバスは楽しそうに笑うと“頼むぞ”と言って麗の頭を撫でた。
『もう…アルバスの意地悪!』
そんなの断れっこ無い。
そもそももう初まっちゃってるし。
私はもう逃げるしか無い。
逃げて逃げて…
逃げて逃げて逃げて…
『もう嫌だ』
図書室の禁書の棚の近くの席。
お気に入りのその席の机の下に麗は隠れていた。
ホグワーツ中を逃げた。城の中は勿論、庭も全部。知っている隠し通路も全部駆使して。
しかし手を出さずに全校生徒対私一人では流石に辛過ぎる。
アルバスに付けられたブレスレット…変に勘が鈍っている事を考えるとこれも色々ありそうだし。
『後、二時間…二時間』
逃げるのに疲れた、精神的に。でももうそろそろ移動しないと…
『ここに来るならセブと一緒が良かったな』
「勉強するか?」
『……ッ…ムグ!』
思わず声を上げそうになり、相手に口を塞がれた。
「気付かれるぞ」
そう言って麗の口を塞いでいた手を離した相手は、何事も無かった様に麗の隠れている机の椅子に腰掛けた。
『セブ…』
麗がそう相手の名前を口にした瞬間、静かな図書室に扉が開く音と、靴が床を叩く音がした。
「何だ、また客か。静かに探せよ」
「ポッターじゃあるまいし」
司書と…此の声はルシウス?
麗は机の下から顔を出そうとしたが、それはセブルスに妨げられた。
「逃げろ、麗…」
小さくそう言ったセブルスに麗も小声で問い返す。
『何で?』
「……先輩の願いを叶えられるのか?きっと変な事を願うぞ」
『逃げます』
確かにセブルスの言う通りだ。ルシウスの事だから私が困る様な事を望むだろう。
捕まえるどころか助けてくれるとは…優しい司書がセブルスが来た時だけは声を掛けなかった理由も分かる。
「誰かいるのか?」
そっと机の下から抜け出た麗は、禁書の棚の影に隠れた。
「何だ、スネイプか」
本棚の影からルシウスの姿が露になり、セブルスは立ち上がるとルシウスの方へ身体を向けた。
「どうかしましたか、先輩」
セブルスが後ろ手で逃げるように指示し、麗は禁書の棚の裏を少しずつ進む。
「麗を捜していてな…麗は本が好きで、図書室にいる事が多いから試しに来てみたんだが」
図書室は静か過ぎて困る。音を立て無い様に出口を目指す。他に誰もいない図書室にはまだ遠くにルシウス達の声が聞こえた。
「皆、散々来た後ですよ。今はここには俺しかいません」
「……その様だな」
出口に辿り着いた麗はニコリと笑って司書に手を振ると、そっと扉を開けて身体を部屋の外へと出しゆっくりと扉を閉めた。
ルシウスに気付かれない様に、セブルスに感謝しながら。
「いたぞ!!ディーヴァだ!!」
『…ッ!』
声のした方を振り向くと、アレンが数人の生徒と走って来るのが遠くにはっきりと見えた。
「ディーヴァだと、どこだ!!」
廊下の他の方角からも生徒が走ってくる。
大変だ…
瞬間、背にした扉がいきなり開き、ルシウスが顔を出した。
「やぁ…久しぶりだな、麗。最近、私に構ってくれないじゃないか」
怖いくらいに優しく微笑んだルシウスは、そう言うと麗を逃がさない様に後ろから抱き締めた。
「もう逃がさんぞ」
『ひ…久しぶり、ルシウス』
麗はニッコリと微笑み返すと、ルシウスの腕からすり抜けて走り出した。
「麗!!」
『御免ね、ルシウス!』
後ろからルシウスや他の生徒が追い掛けてくる。
アレンは勿論、グリフィンドールの見知った面々にラバスタンも居た。
「麗~!僕の願いを叶えておくれ!」
「退いてなさい、ジェームズ!!麗、御姉様と一緒に旅行に行きましょ!」
「違うぜ、シーラ!!シーラじゃなくて俺と行くよな、麗!」
「ぼ…ぼ、僕も…」
「黙ってて、ピーター!!麗、私も日本行ってみたいのよ〜一緒に行きましょ!!」
「違うわよ~行くなら断然ラスベガスよ、ラ・ス・ベ・ガ・ス!!カジノ行きましょ~♪」
『味方だと思ったら…今日は敵か、此の野郎!!後、リザ!カジノはまだ入れないわよ!!』
「こらこら、僕等のエンジェル!珍しく言葉遣いが汚いぞ☆」
「語尾に星付けるな鬱陶しい!!」
「恥ずかしがり屋な君が好きだよ、ハニー!」
リリーに蹴り飛ばされたジェームズは無視して良いだろうか?
それにしても…徐々に追い掛けてくる人数が増えていっている。ここまできたらなるべく引き付けて隠し通路で逃げた方が良いだろう。
『あー…』
“もう飽きた”そう思った瞬間、良い案が浮かんだ。浮かんだというか、置かれた状況に気付いた。
私ってもう──…
麗が廊下の角を曲がった瞬間、腕を掴まれて強く引かれた。壁に引き込まれると後ろから抱き締められ、口を塞がれる。
『んぅ…』
「麗~!!」
「私の麗、待ちなさ~い!」
「ディーヴァ──!!!」
うわぁ…しつこい。
「行ったか…?」
「うん、行ったよ」
「しつこいな、アイツ等」
「皆必死なのさ」
皆が通り過ぎると、口を塞いでいた手が外れた。
『リーマス、シリウス』
「何だ?」
「何だい、麗」
二人がこっちを向いて微笑む。
『何で…』
「何でって…またダンブルドアが勝手に決めたんだろ?」
「大丈夫だった、麗?」
『大丈夫…有難う』
助けてくれた二人に、麗は嬉しそうに微笑んだ。
それを見た二人は悪戯っぽく笑い合うと、麗の耳元で小声で何かを告げた。麗は顔を真っ赤に染め、二人を睨み付ける。
『…何それ…計画犯じゃない』
「そう言っても…ね、シリウス」
「そうだな。叶えてくれるだろ?」
二人はクスクス笑いながらそう話す。
麗は溜め息を吐くと口を開いた。
『駄目よ』
麗の言葉に二人は間の抜けた声を漏らした。
隠し通路で待ち構えていれば私が来ると分かっていたし、皆から助ければ喜ぶ。同時に捕まえる事も出来る。最初から上手くいくと思っていたんだろう。
『私もう捕まってるもの』
そう、捕まっている。
本人がその気じゃ無いだけで。
「え、誰だい?」
「お前が捕まるって…どういう事だ?」
麗はクスクス笑うと唇に指を寄せた。
『秘密』
「で、誰に捕まったんだ?」
イアンにそう問われ、麗は笑いながらイアンにティーカップを差し出した。
窓際の背の高いテーブルにティーポットを置き、自分もカップを手にする。
『捕まったと言えば捕まったからそういう事にしちゃったんだけど…本人その気が無いのよ』
「誰なんだ」
『セブルスよ』
あそこに隠れていては捕まえようと思えば捕まえてられたのに、セブルスはそうしなかった。
でもあの子は口を塞ぐ為に私に触れた。
『それにセブルスを無かった事にしたらルシウスの願いを叶えなきゃいけなくなるわ』
思わず逃げてしまったが、バランスを崩した所をしっかりと抱き締められてしまっているわけだし。
「何を叶える」
『さぁ?誰にもセブルスだと言ってないわ。本人にも…仕掛人が何するか分からないもの。次に会ったら聞くつもりよ』
「あの餓鬼共に返事はしたのか?」
『まだ……見てたのね』
麗はイアンを睨み付けるが、イアンは動じずに口角を上げて笑う。
『覗き魔…』
「助けてやった奴に向かってそれは無いだろ」
『助け…?』
助けられた覚えが無い。
「今日アレンがお前を関知出来なかったのは、俺がお前に結界を張ってやってたからなんだぞ」
『……それは有難う』
確かに今日のアレンは私を関知出来ていなかった。
慌ててて気付かなかった。
「言っとくが覗きは偶然だぞ、偶然」
『偶然何て信じ無いわ…』
麗は羽織を脱ぎ、ベッドに寝転がるとイアンを見上げた。
月明りの当ったイアンの髪は相変わらず綺麗だった。
「信じるは必然のみか?」
『偶然なんか信じてたら切りが無いから』
イアンは麗の隣に腰掛けると麗の頭を優しく撫でた。
「全ては順調か?」
『……私が見る限りは』
イアンはククッと喉を鳴らして意地悪く笑う。
「今、一番の問題はあの餓鬼二人か」
イアンの言う通りだ。
あの二人が頭から離れ無い。
『私は…誰が好きなのかな』
「知るか。俺が言えるのは死後のお前は俺のモノって事くらいだな」
麗はクスクス笑うと上体を起こしてイアンに寄り掛かった。
『そうだな』
私に…
“人を愛する”事が出来るだろうか──…
私には御祖父様が二人いる。
でも私の世界と此の世界の御祖父様でははっきり言ってタイプが違い過ぎる。
そして…私はアルバス本人を御祖父様と呼ぶのを辞めた。
二人は違い過ぎるから。
=どんな時も=
その日、麗はアルバスに呼ばれて校長室に来ていた。
お茶を出され、何やら楽しそうなアルバスの話を聞いていたが、頭に入ってくるのは二人の声…
麗…好きだよ──…
麗が好きだ──…
何度も何度も、二人の声だけが頭に響く。
何で…何で…
何でそんな事言うの?
そんな事を言って崩れる関係だとは思って無い。
だけど…だけど、もし崩れたら…
そう考えると怖い。
麗が好きだ──…
麗…好きだよ──…
友達だと思ってた。
初めての友達…友達とこういう事になるとは思ってなかった。
友達って…一緒に居ると楽しくて、気を許しあえて…それから……それから………友達って何だろう?
家族と友達と恋人と…何が違うの?
私は誰が好きなの?
私は、二人に何て答えたらいいの?
私は…何でこんなにも色恋沙汰に弱いんだろう。
気持ちが分からない…
「では、そういう事だからの。宜しく頼むぞ、麗」
『え?』
手にしたティーカップを見据えて惚けていた麗は、慌てて顔を上げた。アルバスの話を全然聞いていなかった。
「聞いていなかったのか?」
『御免なさい、アルバス…頼むって何を?』
アルバスは長い髭を撫でながらニッコリと微笑んだ。
「今日の夕刻まで麗には校内を逃げ回ってもらう」
『は…?』
冗談じゃ無い。
今日は日曜…折角の休みに何で逃げ回らなければならないのか。
「生徒に捕まったら負けじゃ。麗が捕まったら麗は自分を捕まえた生徒の願いを一つ叶えなければならん」
『何それ、決定?!』
「決定じゃ」
相変わらず勝手な人だ。
そういう事は…せめて前もって言っておいて欲しい。
「もう、生徒達は麗を捜し始めとるぞ」
しかも承諾する前にもう既に開始しているとは…
「因みに生徒は校長室と寮内は出入り禁止じゃ」
なら自室に隠れていれば…
「勿論、麗も出入り禁止じゃ。必要の部屋もな」
『え?あの、目的は?』
「今年は暗い初まりだったからの」
『…生徒はアレンの事は知らないわ』
「しかし列車が何者かに襲撃された事は知っておる」
『……』
「何か特別なイベント事があっても良いじゃろ」
『私に良い事は無いわ』
アルバスは楽しそうに笑うと“頼むぞ”と言って麗の頭を撫でた。
『もう…アルバスの意地悪!』
そんなの断れっこ無い。
そもそももう初まっちゃってるし。
私はもう逃げるしか無い。
逃げて逃げて…
逃げて逃げて逃げて…
『もう嫌だ』
図書室の禁書の棚の近くの席。
お気に入りのその席の机の下に麗は隠れていた。
ホグワーツ中を逃げた。城の中は勿論、庭も全部。知っている隠し通路も全部駆使して。
しかし手を出さずに全校生徒対私一人では流石に辛過ぎる。
アルバスに付けられたブレスレット…変に勘が鈍っている事を考えるとこれも色々ありそうだし。
『後、二時間…二時間』
逃げるのに疲れた、精神的に。でももうそろそろ移動しないと…
『ここに来るならセブと一緒が良かったな』
「勉強するか?」
『……ッ…ムグ!』
思わず声を上げそうになり、相手に口を塞がれた。
「気付かれるぞ」
そう言って麗の口を塞いでいた手を離した相手は、何事も無かった様に麗の隠れている机の椅子に腰掛けた。
『セブ…』
麗がそう相手の名前を口にした瞬間、静かな図書室に扉が開く音と、靴が床を叩く音がした。
「何だ、また客か。静かに探せよ」
「ポッターじゃあるまいし」
司書と…此の声はルシウス?
麗は机の下から顔を出そうとしたが、それはセブルスに妨げられた。
「逃げろ、麗…」
小さくそう言ったセブルスに麗も小声で問い返す。
『何で?』
「……先輩の願いを叶えられるのか?きっと変な事を願うぞ」
『逃げます』
確かにセブルスの言う通りだ。ルシウスの事だから私が困る様な事を望むだろう。
捕まえるどころか助けてくれるとは…優しい司書がセブルスが来た時だけは声を掛けなかった理由も分かる。
「誰かいるのか?」
そっと机の下から抜け出た麗は、禁書の棚の影に隠れた。
「何だ、スネイプか」
本棚の影からルシウスの姿が露になり、セブルスは立ち上がるとルシウスの方へ身体を向けた。
「どうかしましたか、先輩」
セブルスが後ろ手で逃げるように指示し、麗は禁書の棚の裏を少しずつ進む。
「麗を捜していてな…麗は本が好きで、図書室にいる事が多いから試しに来てみたんだが」
図書室は静か過ぎて困る。音を立て無い様に出口を目指す。他に誰もいない図書室にはまだ遠くにルシウス達の声が聞こえた。
「皆、散々来た後ですよ。今はここには俺しかいません」
「……その様だな」
出口に辿り着いた麗はニコリと笑って司書に手を振ると、そっと扉を開けて身体を部屋の外へと出しゆっくりと扉を閉めた。
ルシウスに気付かれない様に、セブルスに感謝しながら。
「いたぞ!!ディーヴァだ!!」
『…ッ!』
声のした方を振り向くと、アレンが数人の生徒と走って来るのが遠くにはっきりと見えた。
「ディーヴァだと、どこだ!!」
廊下の他の方角からも生徒が走ってくる。
大変だ…
瞬間、背にした扉がいきなり開き、ルシウスが顔を出した。
「やぁ…久しぶりだな、麗。最近、私に構ってくれないじゃないか」
怖いくらいに優しく微笑んだルシウスは、そう言うと麗を逃がさない様に後ろから抱き締めた。
「もう逃がさんぞ」
『ひ…久しぶり、ルシウス』
麗はニッコリと微笑み返すと、ルシウスの腕からすり抜けて走り出した。
「麗!!」
『御免ね、ルシウス!』
後ろからルシウスや他の生徒が追い掛けてくる。
アレンは勿論、グリフィンドールの見知った面々にラバスタンも居た。
「麗~!僕の願いを叶えておくれ!」
「退いてなさい、ジェームズ!!麗、御姉様と一緒に旅行に行きましょ!」
「違うぜ、シーラ!!シーラじゃなくて俺と行くよな、麗!」
「ぼ…ぼ、僕も…」
「黙ってて、ピーター!!麗、私も日本行ってみたいのよ〜一緒に行きましょ!!」
「違うわよ~行くなら断然ラスベガスよ、ラ・ス・ベ・ガ・ス!!カジノ行きましょ~♪」
『味方だと思ったら…今日は敵か、此の野郎!!後、リザ!カジノはまだ入れないわよ!!』
「こらこら、僕等のエンジェル!珍しく言葉遣いが汚いぞ☆」
「語尾に星付けるな鬱陶しい!!」
「恥ずかしがり屋な君が好きだよ、ハニー!」
リリーに蹴り飛ばされたジェームズは無視して良いだろうか?
それにしても…徐々に追い掛けてくる人数が増えていっている。ここまできたらなるべく引き付けて隠し通路で逃げた方が良いだろう。
『あー…』
“もう飽きた”そう思った瞬間、良い案が浮かんだ。浮かんだというか、置かれた状況に気付いた。
私ってもう──…
麗が廊下の角を曲がった瞬間、腕を掴まれて強く引かれた。壁に引き込まれると後ろから抱き締められ、口を塞がれる。
『んぅ…』
「麗~!!」
「私の麗、待ちなさ~い!」
「ディーヴァ──!!!」
うわぁ…しつこい。
「行ったか…?」
「うん、行ったよ」
「しつこいな、アイツ等」
「皆必死なのさ」
皆が通り過ぎると、口を塞いでいた手が外れた。
『リーマス、シリウス』
「何だ?」
「何だい、麗」
二人がこっちを向いて微笑む。
『何で…』
「何でって…またダンブルドアが勝手に決めたんだろ?」
「大丈夫だった、麗?」
『大丈夫…有難う』
助けてくれた二人に、麗は嬉しそうに微笑んだ。
それを見た二人は悪戯っぽく笑い合うと、麗の耳元で小声で何かを告げた。麗は顔を真っ赤に染め、二人を睨み付ける。
『…何それ…計画犯じゃない』
「そう言っても…ね、シリウス」
「そうだな。叶えてくれるだろ?」
二人はクスクス笑いながらそう話す。
麗は溜め息を吐くと口を開いた。
『駄目よ』
麗の言葉に二人は間の抜けた声を漏らした。
隠し通路で待ち構えていれば私が来ると分かっていたし、皆から助ければ喜ぶ。同時に捕まえる事も出来る。最初から上手くいくと思っていたんだろう。
『私もう捕まってるもの』
そう、捕まっている。
本人がその気じゃ無いだけで。
「え、誰だい?」
「お前が捕まるって…どういう事だ?」
麗はクスクス笑うと唇に指を寄せた。
『秘密』
「で、誰に捕まったんだ?」
イアンにそう問われ、麗は笑いながらイアンにティーカップを差し出した。
窓際の背の高いテーブルにティーポットを置き、自分もカップを手にする。
『捕まったと言えば捕まったからそういう事にしちゃったんだけど…本人その気が無いのよ』
「誰なんだ」
『セブルスよ』
あそこに隠れていては捕まえようと思えば捕まえてられたのに、セブルスはそうしなかった。
でもあの子は口を塞ぐ為に私に触れた。
『それにセブルスを無かった事にしたらルシウスの願いを叶えなきゃいけなくなるわ』
思わず逃げてしまったが、バランスを崩した所をしっかりと抱き締められてしまっているわけだし。
「何を叶える」
『さぁ?誰にもセブルスだと言ってないわ。本人にも…仕掛人が何するか分からないもの。次に会ったら聞くつもりよ』
「あの餓鬼共に返事はしたのか?」
『まだ……見てたのね』
麗はイアンを睨み付けるが、イアンは動じずに口角を上げて笑う。
『覗き魔…』
「助けてやった奴に向かってそれは無いだろ」
『助け…?』
助けられた覚えが無い。
「今日アレンがお前を関知出来なかったのは、俺がお前に結界を張ってやってたからなんだぞ」
『……それは有難う』
確かに今日のアレンは私を関知出来ていなかった。
慌ててて気付かなかった。
「言っとくが覗きは偶然だぞ、偶然」
『偶然何て信じ無いわ…』
麗は羽織を脱ぎ、ベッドに寝転がるとイアンを見上げた。
月明りの当ったイアンの髪は相変わらず綺麗だった。
「信じるは必然のみか?」
『偶然なんか信じてたら切りが無いから』
イアンは麗の隣に腰掛けると麗の頭を優しく撫でた。
「全ては順調か?」
『……私が見る限りは』
イアンはククッと喉を鳴らして意地悪く笑う。
「今、一番の問題はあの餓鬼二人か」
イアンの言う通りだ。
あの二人が頭から離れ無い。
『私は…誰が好きなのかな』
「知るか。俺が言えるのは死後のお前は俺のモノって事くらいだな」
麗はクスクス笑うと上体を起こしてイアンに寄り掛かった。
『そうだな』
私に…
“人を愛する”事が出来るだろうか──…