第1章 始マリノ謳
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
4
一つ、二つ…狂っていく。
時間が、人が、世界が…
失ったモノを回収しているのか、留まっているのか、失い続けているのか。
最早誰にも分からないし、事の発端である俺もそれを知る由もない。知ろうともしない。
いっそ失えばいい。
失って、戻る事無く留まって。
悩む事も泣く事も無く唯笑っていればいい。
そうだ、唯…俺の──…
「……そろそろ気付く頃か」
=彼等の世界=
ミネルバに校長室に案内して貰った麗は、アルバスとミネルバに必要な事を必要な分だけ話した。
なるべく自由に動ける様に“自分に何が出来るか”は話したが、自分の生い立ちや本質に関しては話さなかった。知らなくて良いと思ったし“知ってはいけない”とも思った。
そもそも常識的な人間相手ならば話せば私はアズカバン送りだ。アルバス達はそんな事はしないとも思ったが、念の為だった。
「実は儂は麗が来るのを知っておったのだよ」
説明を終えると、アルバスがそう予想外な話をし始めた。
知っていた?当人でさえ全く予想出来無かった事を…?
『……何で…』
「ある信頼出来る予言者が昨日、儂に予言を寄越したんじゃ」
“時を越え世界を越えてやって来る。家族という名の獣を従え、蒼月の夜…闇の心を掴み、神秘の旋律を奏でる朱殷 の姫が”
『朱殷 …』
時を超える者等そうそう居ない筈だし、家族という名の獣が付くならば、もうこれは完璧に私の事だ。ならば私達の来訪を予言し、アルバスに知らせた者…只者じゃない。ほぼ的確に予言してる。
「そこでじゃ、麗…」
『な…何、アルバス』
アルバスはニッコリと微笑むと麗を見据えた。
「儂の孫にならんか?」
『「「………は?」」』
いきなりの申し出に麗だけでは無く、翡翠と蒼の声も重なった。
「ほっほっほ、翡翠達は話せるのか」
「ヤベ…」
『良いじゃないか、翡翠』
「けど、麗!!」
『アルバス達はきっと大丈夫よ』
「………分かった。お前が信じるなら許す。この人間達に俺と話す権利をやろう」
『そう』
「でもな…爺!麗とお前に繋がりは無い。この世界の人間と関わらせる気も無い」
『翡翠…』
「多少は許す。しかし必要以上に関わらせる気は無い。俺の願望でもあるが、お前を護る為でもあるからな、麗」
『……分かったわ』
「おい、爺。何故、孫とする?ボケたか?」
『翡翠!』
麗は“もう止めて”と、翡翠を抱き上げてその口を手で塞いだ。
『御免なさい…私の家族、皆過保護で』
「良いんじゃよ。孫にと言ったのは、麗にとってもその方が良いと思ったからじゃ」
『…どういう事?』
「麗には編入生としてホグワーツに入ってもらいたい」
『ぇ……編入生?』
「そうだとも。予言は確かな筋だ…手の届く所に居てもらえるとこちらも助かるし、麗も学生になれば寝床にも食事にも困らずこの世界についても学べる。幸い、麗には魔法の才能がある様だし双方問題無かろう」
衣食住は正直問題無いが、知識が無い。編入は凄く助かる。
精神異常者として病院送りになっても可笑しくないこの状況でこんな素敵な待遇が待っていようとは…
「そうなると麗には保護者が必要じゃろ?」
『御祖父ちゃん!!』
麗は抱いていた翡翠を投げ捨てると、アルバスとの間にあった机を乗り越え、椅子に腰掛けたアルバスに抱き付いた。
「ぉ、おい、麗!一体どうしたんだ、お」
『蒼の言う通り、真っ直ぐホグワーツに来てよかったー!』
「こら、聞け!麗!」
「ほっほっほっ」
「クソ…おい爺、麗から離れろ!!後、俺も編入するから保護者になれ!!」
「編入?と言う事は、翡翠は動物擬きなのかの、麗」
「俺を無視すんな!麗を離せ!」
『ううん、翡翠は狐の怪異 なの。人間じゃないんだ』
「お、おい、麗!!何さらっとバラしてんだ!!お前今日、可笑しいぞ…何だか知らねぇけど、動物擬きって事にしときゃいいだろ!」
『あら、私に何かあったら困るもの。一人くらい私の家族を知ってる人間が存在しないと…』
「カイイというものは良く分からんが、人間に変身する事が出来るのかの?」
瞬間、不機嫌そうに唸った翡翠の姿が消え、アルバスの背後には長い銀髪の青年が現れた。
長い銀髪を右側に一つに纏め、前髪が美しい翡翠色の瞳の右側だけを隠している。
「見事じゃのう」
アルバスは楽しそうに笑いながら麗を膝に乗せたまま、椅子を回転させて翡翠の方へ身体を向けた。
「こんなもの、子供じゃなきゃ誰でも出来る」
翡翠はアルバスに抱き付いている麗を抱き上げると、そっと自分の腕の中におさめた。
「お前、俺で遊んでたろう」
『フフッ、からかって御免なさいね』
優しく頭を撫でると、翡翠は気持ち良さそうに目を細めた。こういう所は狐っぽい。
「蒼は編入しなくて良いのかの?」
呆れたように様子を見ていた蒼は、アルバスの言葉に少し驚いた顔をした。どうやら誘われるだなんて予想して無かった様だ。
「俺は…翡翠の様に妖怪では無いので」
「それだけの魔力があるんじゃ、人間の姿に変身出来ても不思議では無い。そもそも君は動物擬きではないのかの?」
「……俺は」
『ねぇねぇ、そうだわ。私達と一緒に暮らしましょ』
「は?」
『だって蒼はもう私達の家族だし…ねぇ、翡翠』
「俺が嫌がっても…麗が認めた奴は皆、家族だ」
「家族…」
『一緒に来る?蒼』
「とっとと決めろ、馬鹿鳥」
少し考える様に黙り込んだ蒼は、暫くすると口を開いた。
「許されるなら…俺はただ側に」
取り敢えずは一緒に居る事は了承してくれたけども、やはり生徒は嫌か…もし嫌な授業があっても翡翠と蒼がい居れば楽しそうなのにな。
「蒼、麗の手助けをしてやっておくれ」
「はい…」
「では、ミネルバ」
「何ですか、アルバス」
ずっと黙っていたミネルバが一歩前へ踏み出す。
「三人の部屋を…出来れば大きな部屋を用意してもらえるかのう?鷹の許可を出すのはちょいと誤魔化せばどうにかなるが、鷹をおくには皆と同室にしては狭いし梟小屋に置くのもの…それに他の者と同室では翡翠が許さんじゃろう」
「ですが」
「極力干渉を避けたいのならば目の届かぬ女子寮等以ての外じゃ」
「しかしそれでは!」
反論しようとしたミネルバをアルバスは軽く手を上げて制した。
「此奴 をあまり刺激せぬ事だ」
そう制されて翡翠の目を見たミネルバは、顔を青くして口を噤んだ。麗はフフッと目を細めて笑う。
『…御祖父様、強いのね』
「癇癪 を起こして寮で暴れられても困るしの」
「餓鬼じゃねぇんだからしねぇよ」
『やりかねないじゃないか』
「麗!」
「ほっほっほ、ミネルバ宜しく頼むよ」
「…分かりました」
「それからの…翡翠をミネルバの遠い親戚という事にしてくれんかの」
「…はい、書類上保護者になれと言うならば」
「後、明日の夕食は宴にしてほしいんじゃが」
「手配します」
ミネルバはそう返事をすると、静かに校長室を後にした。
そしてその夜、麗は翡翠と蒼は校長室のソファーで眠りについた。大きめのフカフカのソファーは、ソファーとは思え無い程、とても寝心地が良かった。
次の日の朝は不死鳥のフォークスに起こされた。
人懐っこくて可愛いフォークスと遊んでいると、暫くしてアルバスが食事を持って来てくれた。麗は翡翠がパンを食べるのを見ながら、カボチャジュースに口を付けた。朝に飲むには凄く甘い。
『アルバス、組分けって今日やるの?』
「早い方が良いだろう」
「必要なもん…特に杖はどうするんだ?」
『え?』
「俺も麗も杖が無くても別に平気だけどよ…餓鬼共に変に思われるぜ、きっと」
『いや、それきっとじゃなくて“絶対”だよ』
いきなり来た編入生二人組が、杖も使わず力を使っていたら明らかに可笑しい。学生には術と魔法の差なんて分からないだろうし。それに良く考えたら制服や教科書も無い。
「学校にある予備の杖を使えば良いじゃろ、制服も隣の部屋に備えがあるぞい」
『備品ね!それで十分だわ』
「次の休日にダイアゴン横丁に買い物に行こう」
『私達、お金が無いわ。備品を貸してもらえるならそれで大丈夫だよ』
「孫にプレゼントするのは普通じゃろ」
『駄目よ』
「固いのう……では買い物の費用は貸しで、二人に仕事を探そう」
『それなら大歓迎よ』
嬉しそうにアルバスに抱き付いた麗の腕を引いて翡翠は隣りの部屋に向かった。
「麗、着替えるぞ」
『はいはい』
麗は翡翠の服の裾を引き振返ると“ねぇ、アルバス”と問い掛けた。
『ハリーは今、何年生なの?』
ふと気になった事…あの子は今何年生なのだろうか?出来れば同じ学年が良い。そう思ったが…
問題はもっと別の所にあった。
「ハリー…誰の事じゃ?」
『ハリーだよ、ハリー・ポッター』
麗の言葉に、アルバスは更に首を傾げた。
「ハリー・ポッター?ハリーだとハリー・デイヴィスかハリー・ガードナー、ポッターだと…トーマス・ポッター、レオナルド・ポッターかジェームズ・ポッターの事かのう?」
『……ジェームズは…今何処にいるの?』
麗は思わず繋いでいた翡翠の手を握り締めた。
「グリフィンドール寮…この時間だと大広間じゃが?」
翡翠が優しく手を握り返してくれた。
『そう…』
「どうしたんじゃ?ジェームズを知っとるのかの?」
状況は悪くなる一方だ。
『ううん…気の所為だったわ』
両親が死んだ。
家に帰れない。
家の者や家族達に会えない。
「そうじゃな、異界から来たのだから知り合いなぞおらんか…居たら少しは気をはらんでも良いと思ったが」
『大丈夫、翡翠と蒼が居てくれるから』
唯一の血縁者を失った。
家を治める者がいない。
家族を抑える者がいない。
『大丈夫。何とかするから』
知らない人達。
知らない物語。
異物でしかない新しい登場人物。
元の世界もこちらの世界も…どちらも状況は悪くなる一方だ。
予言が出ているのもあるが、ホグワーツに自ら来た時点で関わる事は避けられなくなった。しかし物語に影響しない程度に動きながら帰る方法を探すという楽な手はもう取れない。
私は最早、何も知らない登場人物の一人なのだから──…
一つ、二つ…狂っていく。
時間が、人が、世界が…
失ったモノを回収しているのか、留まっているのか、失い続けているのか。
最早誰にも分からないし、事の発端である俺もそれを知る由もない。知ろうともしない。
いっそ失えばいい。
失って、戻る事無く留まって。
悩む事も泣く事も無く唯笑っていればいい。
そうだ、唯…俺の──…
「……そろそろ気付く頃か」
=彼等の世界=
ミネルバに校長室に案内して貰った麗は、アルバスとミネルバに必要な事を必要な分だけ話した。
なるべく自由に動ける様に“自分に何が出来るか”は話したが、自分の生い立ちや本質に関しては話さなかった。知らなくて良いと思ったし“知ってはいけない”とも思った。
そもそも常識的な人間相手ならば話せば私はアズカバン送りだ。アルバス達はそんな事はしないとも思ったが、念の為だった。
「実は儂は麗が来るのを知っておったのだよ」
説明を終えると、アルバスがそう予想外な話をし始めた。
知っていた?当人でさえ全く予想出来無かった事を…?
『……何で…』
「ある信頼出来る予言者が昨日、儂に予言を寄越したんじゃ」
“時を越え世界を越えてやって来る。家族という名の獣を従え、蒼月の夜…闇の心を掴み、神秘の旋律を奏でる
『
時を超える者等そうそう居ない筈だし、家族という名の獣が付くならば、もうこれは完璧に私の事だ。ならば私達の来訪を予言し、アルバスに知らせた者…只者じゃない。ほぼ的確に予言してる。
「そこでじゃ、麗…」
『な…何、アルバス』
アルバスはニッコリと微笑むと麗を見据えた。
「儂の孫にならんか?」
『「「………は?」」』
いきなりの申し出に麗だけでは無く、翡翠と蒼の声も重なった。
「ほっほっほ、翡翠達は話せるのか」
「ヤベ…」
『良いじゃないか、翡翠』
「けど、麗!!」
『アルバス達はきっと大丈夫よ』
「………分かった。お前が信じるなら許す。この人間達に俺と話す権利をやろう」
『そう』
「でもな…爺!麗とお前に繋がりは無い。この世界の人間と関わらせる気も無い」
『翡翠…』
「多少は許す。しかし必要以上に関わらせる気は無い。俺の願望でもあるが、お前を護る為でもあるからな、麗」
『……分かったわ』
「おい、爺。何故、孫とする?ボケたか?」
『翡翠!』
麗は“もう止めて”と、翡翠を抱き上げてその口を手で塞いだ。
『御免なさい…私の家族、皆過保護で』
「良いんじゃよ。孫にと言ったのは、麗にとってもその方が良いと思ったからじゃ」
『…どういう事?』
「麗には編入生としてホグワーツに入ってもらいたい」
『ぇ……編入生?』
「そうだとも。予言は確かな筋だ…手の届く所に居てもらえるとこちらも助かるし、麗も学生になれば寝床にも食事にも困らずこの世界についても学べる。幸い、麗には魔法の才能がある様だし双方問題無かろう」
衣食住は正直問題無いが、知識が無い。編入は凄く助かる。
精神異常者として病院送りになっても可笑しくないこの状況でこんな素敵な待遇が待っていようとは…
「そうなると麗には保護者が必要じゃろ?」
『御祖父ちゃん!!』
麗は抱いていた翡翠を投げ捨てると、アルバスとの間にあった机を乗り越え、椅子に腰掛けたアルバスに抱き付いた。
「ぉ、おい、麗!一体どうしたんだ、お」
『蒼の言う通り、真っ直ぐホグワーツに来てよかったー!』
「こら、聞け!麗!」
「ほっほっほっ」
「クソ…おい爺、麗から離れろ!!後、俺も編入するから保護者になれ!!」
「編入?と言う事は、翡翠は動物擬きなのかの、麗」
「俺を無視すんな!麗を離せ!」
『ううん、翡翠は狐の
「お、おい、麗!!何さらっとバラしてんだ!!お前今日、可笑しいぞ…何だか知らねぇけど、動物擬きって事にしときゃいいだろ!」
『あら、私に何かあったら困るもの。一人くらい私の家族を知ってる人間が存在しないと…』
「カイイというものは良く分からんが、人間に変身する事が出来るのかの?」
瞬間、不機嫌そうに唸った翡翠の姿が消え、アルバスの背後には長い銀髪の青年が現れた。
長い銀髪を右側に一つに纏め、前髪が美しい翡翠色の瞳の右側だけを隠している。
「見事じゃのう」
アルバスは楽しそうに笑いながら麗を膝に乗せたまま、椅子を回転させて翡翠の方へ身体を向けた。
「こんなもの、子供じゃなきゃ誰でも出来る」
翡翠はアルバスに抱き付いている麗を抱き上げると、そっと自分の腕の中におさめた。
「お前、俺で遊んでたろう」
『フフッ、からかって御免なさいね』
優しく頭を撫でると、翡翠は気持ち良さそうに目を細めた。こういう所は狐っぽい。
「蒼は編入しなくて良いのかの?」
呆れたように様子を見ていた蒼は、アルバスの言葉に少し驚いた顔をした。どうやら誘われるだなんて予想して無かった様だ。
「俺は…翡翠の様に妖怪では無いので」
「それだけの魔力があるんじゃ、人間の姿に変身出来ても不思議では無い。そもそも君は動物擬きではないのかの?」
「……俺は」
『ねぇねぇ、そうだわ。私達と一緒に暮らしましょ』
「は?」
『だって蒼はもう私達の家族だし…ねぇ、翡翠』
「俺が嫌がっても…麗が認めた奴は皆、家族だ」
「家族…」
『一緒に来る?蒼』
「とっとと決めろ、馬鹿鳥」
少し考える様に黙り込んだ蒼は、暫くすると口を開いた。
「許されるなら…俺はただ側に」
取り敢えずは一緒に居る事は了承してくれたけども、やはり生徒は嫌か…もし嫌な授業があっても翡翠と蒼がい居れば楽しそうなのにな。
「蒼、麗の手助けをしてやっておくれ」
「はい…」
「では、ミネルバ」
「何ですか、アルバス」
ずっと黙っていたミネルバが一歩前へ踏み出す。
「三人の部屋を…出来れば大きな部屋を用意してもらえるかのう?鷹の許可を出すのはちょいと誤魔化せばどうにかなるが、鷹をおくには皆と同室にしては狭いし梟小屋に置くのもの…それに他の者と同室では翡翠が許さんじゃろう」
「ですが」
「極力干渉を避けたいのならば目の届かぬ女子寮等以ての外じゃ」
「しかしそれでは!」
反論しようとしたミネルバをアルバスは軽く手を上げて制した。
「
そう制されて翡翠の目を見たミネルバは、顔を青くして口を噤んだ。麗はフフッと目を細めて笑う。
『…御祖父様、強いのね』
「
「餓鬼じゃねぇんだからしねぇよ」
『やりかねないじゃないか』
「麗!」
「ほっほっほ、ミネルバ宜しく頼むよ」
「…分かりました」
「それからの…翡翠をミネルバの遠い親戚という事にしてくれんかの」
「…はい、書類上保護者になれと言うならば」
「後、明日の夕食は宴にしてほしいんじゃが」
「手配します」
ミネルバはそう返事をすると、静かに校長室を後にした。
そしてその夜、麗は翡翠と蒼は校長室のソファーで眠りについた。大きめのフカフカのソファーは、ソファーとは思え無い程、とても寝心地が良かった。
次の日の朝は不死鳥のフォークスに起こされた。
人懐っこくて可愛いフォークスと遊んでいると、暫くしてアルバスが食事を持って来てくれた。麗は翡翠がパンを食べるのを見ながら、カボチャジュースに口を付けた。朝に飲むには凄く甘い。
『アルバス、組分けって今日やるの?』
「早い方が良いだろう」
「必要なもん…特に杖はどうするんだ?」
『え?』
「俺も麗も杖が無くても別に平気だけどよ…餓鬼共に変に思われるぜ、きっと」
『いや、それきっとじゃなくて“絶対”だよ』
いきなり来た編入生二人組が、杖も使わず力を使っていたら明らかに可笑しい。学生には術と魔法の差なんて分からないだろうし。それに良く考えたら制服や教科書も無い。
「学校にある予備の杖を使えば良いじゃろ、制服も隣の部屋に備えがあるぞい」
『備品ね!それで十分だわ』
「次の休日にダイアゴン横丁に買い物に行こう」
『私達、お金が無いわ。備品を貸してもらえるならそれで大丈夫だよ』
「孫にプレゼントするのは普通じゃろ」
『駄目よ』
「固いのう……では買い物の費用は貸しで、二人に仕事を探そう」
『それなら大歓迎よ』
嬉しそうにアルバスに抱き付いた麗の腕を引いて翡翠は隣りの部屋に向かった。
「麗、着替えるぞ」
『はいはい』
麗は翡翠の服の裾を引き振返ると“ねぇ、アルバス”と問い掛けた。
『ハリーは今、何年生なの?』
ふと気になった事…あの子は今何年生なのだろうか?出来れば同じ学年が良い。そう思ったが…
問題はもっと別の所にあった。
「ハリー…誰の事じゃ?」
『ハリーだよ、ハリー・ポッター』
麗の言葉に、アルバスは更に首を傾げた。
「ハリー・ポッター?ハリーだとハリー・デイヴィスかハリー・ガードナー、ポッターだと…トーマス・ポッター、レオナルド・ポッターかジェームズ・ポッターの事かのう?」
『……ジェームズは…今何処にいるの?』
麗は思わず繋いでいた翡翠の手を握り締めた。
「グリフィンドール寮…この時間だと大広間じゃが?」
翡翠が優しく手を握り返してくれた。
『そう…』
「どうしたんじゃ?ジェームズを知っとるのかの?」
状況は悪くなる一方だ。
『ううん…気の所為だったわ』
両親が死んだ。
家に帰れない。
家の者や家族達に会えない。
「そうじゃな、異界から来たのだから知り合いなぞおらんか…居たら少しは気をはらんでも良いと思ったが」
『大丈夫、翡翠と蒼が居てくれるから』
唯一の血縁者を失った。
家を治める者がいない。
家族を抑える者がいない。
『大丈夫。何とかするから』
知らない人達。
知らない物語。
異物でしかない新しい登場人物。
元の世界もこちらの世界も…どちらも状況は悪くなる一方だ。
予言が出ているのもあるが、ホグワーツに自ら来た時点で関わる事は避けられなくなった。しかし物語に影響しない程度に動きながら帰る方法を探すという楽な手はもう取れない。
私は最早、何も知らない登場人物の一人なのだから──…