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第2章 秘密ノ謳

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45





黒い外観、脇にアーチ状の看板の付いた外階段がある建物を前に、ツインテールの少女、シーラは腕を組んで小さく唸った。


遊ぶ約束をしたに“カフェを始めたから集合場所はそこに”と言われ、キングス・クロス駅から住所を頼りに来たは良いがこれは…聞いていたのと違う。

ふぅ、と息を吐いたシーラは、今度は腰に手を当てて店を睨み付けた。

親の居ないが一人で生きていける様にと、ダンブルドアが休みの日や長期休暇に仕事をする事を許していたのは知っていたが、カフェまで始めるとは思っていなかった。しかし収入は十分にあるだろうし、資金は問題無いので納得はした…そう、明らかにお金はあるのだ。
それなのにこれは何だ。看板も無いだなんて!
しかも看板以前にこれは…



「どう見ても骨董品店じゃない!!!」





=夏休み=






シーラが思わず声を上げると、近くに居た通行人は肩を震わせ、チラリとシーラを見ると通り過ぎて行った。
「住所は…間違ってない」
そう、住所は間違ってないのだ。確かにちょっと覗いた感じ、外階段から繋がっている二階部分はカフェの様なのだが、は一階だと言っていた。


「な〜にやってんのよ」


そう聞き覚えのある声を振り返ると、珍しく金髪をポニーテールに縛ったリザが立っていた。
ジリジリ照り付ける日差しの所為かだるそうだ。
「リザ…」
「あら、骨董店ね」
そう言って入って行こうとするリザの腕をシーラは慌てて掴んだ。
「ちょっと!」

が“声を掛ければ案内してくれる”って言ってたじゃない」

確かにその通りだ。その通りだけど…骨董品店で?
「あー、あっつ…」
そう呟いで店の中にズカズカと入って行くリザに付いてシーラは店内に入った。
ドアベルの音、古い物の匂い…迷路の様に柱時計やチェスト、小物の入った棚等を並べた薄暗く涼しい店内をぐるっと見渡すと、出入口近くのカウンターの奥から一人の青年が顔を出した。
「いらっしゃいませ」
「あ、あの…」
に呼ばれてきたんだけど…居るかしら?」
「ちょっと、リザ!」
青年は二人を上から下まで見ると、ニコリと笑った。

「伺ってますよ。奥へどうぞ」

そう言って示された方を見ると、迷路の先だった。家具が両脇に所狭しと並べられている。
「奥…があるの?」
そんなに広いお店には見えなかったけど…魔法でも掛かってるのかしら?

「ねぇ、何でジロジロ見たの?」

奥に向かって歩き出したシーラは、リザの言葉で足を止めた。
「私の脚やらこのちびっ子の無駄にデカい胸でもご覧に?」
「はぁ?無いより良いわ」
シーラの言葉に、青年は笑いながら歩き出した。
「まさか」
“ご冗談を”と言って歩く青年の背を追う。表情が見えない。
「初めてのお客様を“確認”する義務があるので」
「確認?」
「何か持ち込まれては困りますから」
「何かね〜」
「世の中物騒ですよ」
否定はしないが、この人少し…



「コレです」



そう言って立ち止まった先には何の変哲も無い古時計が置かれていた。
「長針を左に二回、短針を右に一回で十二時に。それだけで大丈夫です」
青年はそれだけ言うと、さっさとカウンターへ戻って行ってしまった。
「あいつ…あんま好きじゃないわ」
「あっちもこっちが好きじゃないわよ、きっと」
シーラはそう言いながら時計に手を伸ばしたが、リザがその手をパシッと握り締めた。
「やってあげるわよ、届かないでしょ」
「届くわ!!本当に失礼な奴!!」
怒るシーラを無視して、リザは針を左に二回と右に一回回して十二時に合わせた。
すると振り子が勝手に揺れ、時計がカチッと音を立てて少しだけ手前にズレた。そっと手を触れると、時計は右開きに扉の様に開く。
そっと中を覗くと、そこには別の空間が広がっていた。


『あら、姉様達二人出来たの?』


椅子に腰掛けて紅茶を飲んでいたは、二人に気付くと空いた手でヒラヒラと手を振った。仕掛人とリリー、アレンも居る。
時計の扉の先にはカフェがあった。
一歩踏み出してカフェに入ると、後ろからパタンッと音がし、振り返ると普通の扉が閉まっていた。
「遅かったじゃないか、二人共!待ちくたびれたよ!」
「何言ってるの、ジェームズ。貴方一人じゃ今頃迷子よ」
「な、何を言ってるんだいハニー!僕だって辿り着けるさ!」

「いやー…ジェームズとシリウスとピーターは無理っしょ」

「俺もかよ!!」
「アレンの言う通りだよ。ジェームズは鈍感、ピーターは人見知り、シリウスは一対一じゃマスターに弾かれるよ」
「な…」
「そうそう、絶対性格合わねぇもん!」
“喧嘩になるか機嫌を損ねる”と言って笑うアレンとリーマスにシリウスは不機嫌そうに眉を寄せた。
『あら、ジョアンそんな事しないわよね』
そう言って微笑むの視線を追うと、カウンターでは先程の青年がコップを磨いていた。
「いや、んー…弾くかな」
『あらまぁ…』
は飲み終わったティーカップを手にカウンターへ行くと、背の高い椅子へ飛び乗る様に腰掛けた。
「今日はどこ行くんだ?」
『ふふ、これからお買い物に行って…それから海に行くのよ』
「海…泳ぐのか?」
『勿論!私、水着持ってないからこれから買いに行くの。パラソルとかは今、別で買いに行って貰ってるんだけどね』



、貴女の水着は私に任せなさい!お姉様が選んであげるわ!」



「駄目よ〜、シーラに選ばせたら子供っぽくなるに決まってるわ。私が選んで上げるわね、
「はぁ?!黙ってなさいよ、オッサン!」
そう言われ、リザは頬を引きつらせシーラと睨み合った。
「この…」
『姉様方、喧嘩は』



「子供っぽい所か本当に子供なシーラが悪いのよ」

「煩いわね、親父趣向!あんたに言われたく無いわよ」

「はん!その台詞、そっくりそのまま返すわ!」



『まぁ、あの…お仕事頑張ってね、ジョアン』
「お前も色々頑張れよ」
困った様に笑ったは、胸元に掛けていたサングラスをかけると、席を立った。
『ジェスに宜しくね』
「あぁ、言っとく」
『貸切にしてくれて有難う』
「ここのオーナーはお前だろ。いつでもどうぞ」
手を振ったは、言い争いを繰り返すシーラとリザをリリーとアレンの三人掛かりで宥めながら、喫茶店を後にした。
暑いロンドンの街を人の波を縫いながら進む。
途中、洋品店に立ち寄って水着を買った達は、セント・パンクラス駅の傍から狭い路地に入り、奥へ奥へと進み、古ぼけた扉の前に立った。
「ここは何だい?」
「ちょ、ちょっと怖い所だね」
『ここも買い取ったのよ』
取っ手を握るとバチっと静電気の様な衝撃が手に走る。
が扉を開くと、扉の先には砂浜が広がっていた。
「え、何…」


「海ぃ──!!!」


鞄を投げ捨てる様に置いて、砂浜に向かって駆けて行ったシーラを追う様に、リーマスがシーラの鞄を拾って扉を潜る。皆もそれに従い、最後に扉を潜ったは、砂浜へ二、三歩踏み出すと、後ろを振り返った。
そこには小さなテントが張ってあった。上手くいった様だ。





「遅い」





翡翠に不機嫌そうに言われ、は困った様に笑った。
『御免なさい翡翠、二人も御免ね』
準備を頼んだあった翡翠、蒼、紙園は大きなパラソルとテーブルセット、シートを敷いて待っていてくれた。
「男共の買い物が遅かったのよ、は悪く無いわ」
シーラの言葉に蒼が不機嫌そうに眉を寄せた。

「…男の方が遅かったのか?」

「そうよ。全く失礼な話よね」
『男の子が買い物長くたって良いじゃない、姉様……楓と七叉は?』
「帰った」
『あら、残念…』
「見てられないだと。かってぇよな、アイツ等は」
それは仕方無いかも知れない。年齢にそぐわない見た目をしているから違和感があるが…皆、私より遥かに長い時を過ごしている。
皆より若い私の亡き祖父だって、水着を良しとしないだろう。
『少し残念だけど、あの子達は』



「よっしゃ、!!飛び込むわよ!!!」



グッと掴まれた手を引かれ、は駆け出した。
「ちょ、シー…!」
そう声を上げたリリーは、直ぐに二人を追い掛けて、シーラを制止させた。
服を着たままのの腕を掴み、服を脱がせ様とする。
「何よー、後で魔法で乾かせばいいじゃない!」
「ダメよ!水の中で重くなるもの」
『リリー、早く泳ご!』
「分かったから脱ぎなさい!」
『はーい』
様子を見ていたリーマスは、楽しそうにクスクス笑いながら荷物をシートに置いた。
「今日のは…少し子供っぽいね、シリウス」
「あぁ、そうだな」
「海で浮かれてるんじゃないのか…なぁ、ジェームズ」
「アレン、リリー綺麗だよね~」

がはしゃぐのは仕方無ぇよ」

アレンが呆れた様にジェームズを見ると、翡翠がそう言いながら上着を脱いで投げ置いた。そしてアレンの紙園を自分の肩に乗せる。



は海で遊ぶの初めてだからな」



「「「「「初めて?!!」」」」」
驚いて伏せていた顔を上げたシリウスの目に、翡翠が写る。

「翡翠、お前そんな所にタトゥーなんかあったんだな」

シリウスの言葉にジェームズ達は翡翠に目を向けた。左胸の鎖骨の下辺りに三日月のタトゥーが一つあった。



「翡翠、と同じ所に同じタトゥーがあるんだな」



アレンの言葉に、ジェームズ達は今度はを見た。
は海でリリーやシーラ、リザと楽しそうに遊んでいる。
その胸元…翡翠と同じ場所には、翡翠と同じ三日月のタトゥーが見えた。

「ククッ…良いだろ、お揃い」

翡翠が意地悪く…馬鹿にした様に笑い、その笑いにシリウスとリーマスは不機嫌そうに眉を寄せた。
何故アレンがのタトゥーの事を知っていたのか気になるが、今は翡翠の笑みが頭から離れずムカムカする。
「キャ…ッ!!?」
「あら…」
「ちょっと、誰よ貴方!!」
女性陣三人…特にリリーとシーラの声に反応して海の方を見ると、赤銅色の髪の青年がを抱き締めていた。


「騎龍…?」


「あの…蛇野郎が」
そう口にし、一瞬で騎龍の横に移動した翡翠は、騎龍の側頭部を蹴った。が、騎龍にあっさりと避けられてしまう。
「ったく、危ねぇな」

「何でテメェがここにいる?聞いてやるから言ってみろ」

シーラとリリーが呆然としてる中、リザは騎龍を観察し、騎龍は口角を上げて笑った。
「俺様のがこんな可愛い格好してんだぜ、出て来無い訳無いだろ」
そう言った瞬間、騎龍はの二の腕についた…嵌った金の輪を見て眉をひそめた。
、お前それ」





「せやでぇ!九尾はずっと一緒に居たんやろ?なら良ぇやないか!!」





仕掛人達が聞き慣れ無い声に驚く中、騎龍はを庇いながら勢い良く声のした後方を振り向いた。
視線の先には長い銀髪を一つに結った、金眼に褐色の肌の青年が立っていた。
「何やねん、その反応は」
「出て来てんじゃねぇよ、狼」
「何やんそれ、〜酷いやろ、二人が虐める〜」
「煩ぇ、黙」



『喧嘩をするなと何度言ったら分かるんだ』



言葉と共に張られたの結界に押し出される様に翡翠と騎龍が吹き飛び、は術を使ってシーラ、リザ、リリーの順番に意識を奪った。そして砂浜で慌てふためいているピーターの意識を奪った所でアレンが慌てて大きく手を振った。状況に気付いたシリウス、ジェームズ、リーマスも続けて手を振り術を拒否する。
は、倒れた女性三人を魔法で砂浜に運び、シートの上に倒れるピーターの隣に寝かせた。
瞬間、の腕を引いた褐色の青年は…

に口付けた。

翡翠と騎龍以外が驚いて言葉を失う中、はニッコリ微笑むと砕覇の頬にそっと手を添えた。

『久しぶり、砕覇さいは

「皐悸と楼季の話聞いとったら会いとぅなって…は俺を呼んでくれへんし」
『御免なさい、砕覇…てっきりまだ仕事の最中だと思って』
「別に良ぇよ、会えたし。抗争は此の間、決着がついたんや」
“俺の勝ちや”と続けながら、砕覇はに抱き付くと擦り寄った。
『後処理は大丈夫なの?』
風都かざとに任せたわー」
『風都も大変ね』
「はぁ〜、会いたかったで、!我慢すんの大変やったんやから…食べてしもうたらアカンやろか」

「テメェ、好い加減に」


「あはは、冗談冗談!そんな勿体無い事せぇへんわ〜」
『砕覇、セクハラ禁止』
「セクハラ?!してへんよ~何時もの愛情表現やん!」
『冗談よ』
は可笑しそうにクスクス笑うと、砕覇の手を引いて皆のいる砂浜へと向かった。

「なぁ、俺睨まれてへん?」

『出てきていきなりキスするんだもん…変質者だと思われたんじゃない?』
「それきついわぁ」
『自業自得』
は俺の味方やろ?」
大人しく引かれていた砕覇は、の首に腕を回すとじゃれる様に後ろから抱き付いた。



『そうじゃなきゃ今貴方と一緒にいないわよ』



「そうやね」
は首に抱き付いたままの砕覇を引き摺り、翡翠と騎龍の横を通り過ぎると皆の前で立ち止まった。

『私の家族の砕覇よ』

最初はニコニコ笑っていた砕覇だが、皆を見渡すと黙り込んでしまった。
『どうしたの?挨拶なさい、砕覇』
「…宜しゅうな」
一応は挨拶をした砕覇は、に抱き付いたまま首を傾げた。

「なぁ、は何でコイツ等と一緒におるん?」

がどういう意味か尋ねると、砕覇は不機嫌そうに眉を寄せて皆を見据えた。
が選んだ人間やから魔力でも強いんかと思たら」
砕覇はそこまで言うと、呆れた様に溜め息を吐いた。



「何の取り柄もあらへん様なこないに弱っちい餓鬼やなんて」



何か言い返そうとする皆にそんな暇を与えず、砕覇は話し続ける。
「コイツ等は唯の人間や、足手纏いの餓鬼やん」
「てめぇ…」
シリウス達が拳を堅く握り締めたその時だった。
“パンッ”と短い音が響き、砕覇は頬を抑えた。が砕覇の頬を叩いたのだ。



…?」


砕覇は叩かれた理由が解らず、首を傾げてそう洩らした。
『言い方が悪い…それに足手纏い何かじゃ無い』
「コイツ等に何が出来るん?コイツ等はを護れへんやん」



『側に居てくれるわ』



「側に居るんは俺等で充分や」
は困った様に眉を寄せると、叩いた砕覇の頬を優しく撫でた。

『貴方達は家族、この子達は友達よ?存在価値が違うのよ…分かる?』

「分からんけど…兎に角、に必要なんやな?なら口挟まんとくわ」
『有難う、砕覇』
はそう言って嬉しそうに微笑むと、ジェームズ達に向き合い深々と頭を下げた。


『御免なさい…悪気は無いんだ。私の家族は皆、良い子なんだけど少々口が悪い子が多くて…』


翡翠が溜め息を吐き、騎龍がに頭を上げさせると口を開く。
が謝る事ねぇよ」
「蛇の言う通りだ。テメェはとっとと失せろ、狼」
再びに抱き付こうとする砕覇の首根っこを掴み、翡翠はそう吐き捨てる様に言った。

「何や、俺の勝手やろ?九尾は相変わらず煩いんやな」

「んだと、テメ…」
「九尾は俺に対して堅過ぎなんや、このむっつり」
「誤解を招く様な事を言うな!俺は普通だ……テメェと蛇がだらけ過ぎなんだよ!」
「あぁ?俺様とコイツを一緒にするな」

『好い加減にしないと纏めて“閉じ込める”わよ?』

ピタリと大人しく喧嘩を止めた三人に満足したは、直ぐに眠っている四人を魔法で浮かせると、砕覇と騎龍を連れて先程砕覇が現れた時に自分達が居た所へと戻った。
そして眠ったままの四人を元の位置に立たせると、パンッと手を叩いた。
瞬間、四人の魔法が解け、眠ったまま立ち尽くしていた四人はパッと目を開いた。
「貴方達何なの?どうやってここに」
「そんなのどうでも良いわ!!私の可愛いに手を出して、唯じゃおかないわ!!!」



「あら、の知り合いでしょ?」



一人落ち着いているリザの言葉に、リリーとシーラはリザを振り返った。パラソルの近くであたふたしていたピーターもピタリと動きを止める。
『皆、驚かせて御免なさい…あんな風に“姿現し”なんてするもんじゃないわよ、二人共』

「…あぁ、悪かった」
「俺、得意なんやで~の側に現れんの。が何処にいても分かるしなぁ」
二人共“姿現し”という魔法があるとは知らずとも、ちゃんと話を合わせてくれた。誤魔化せそうね…
「誰なの、このセクハラ野郎達は…ちゃんと説明して、



『私の家族の騎龍と砕覇よ』



「家族?」
「この二人がね……貴女には若くて関係性が可笑しい家族が多過ぎやしないかしら、…‥何時だか翡翠や蒼も“家族”と言ったわよね?」
『言ったわ。翡翠も騎龍も砕覇も…蒼も紙園も皆、私の家族よ』
シーラの意志の強い真っ直ぐな瞳が私を見据える。





「煩いわよ、ちんちくりん」





「な…ッ!」
「ちょっと、リザ止め」
が家族って言ってるんだから家族なのよ。関係性なんてどうでも良いわ」
そう言ったリザはに歩み寄ると、抱き付く様にの首に腕を回した。
「あんたもに害が無きゃ別に文句無いでしょ、シーラ」
「………それもそうね」
「まぁ、害っちゃ害なんだけど」
“ベタベタし過ぎよね〜”と言ってた笑ったリザはチラリとシーラを見た。
「…が幸せなら良いわ」
『姉様…』

「さ、面倒事は片付いたわ。遊びましょ、

そう言って楽しそうに笑うリザは綺麗で…そんなリザのブロントは太陽の光でキラキラと光っていて、余計にリザを輝かせた。





「シーラ!ボールそっちいったわよ!」





暫くするとアレン、リーマス、ジェームズと女性陣はビーチボールで遊び始めた。珍しく翡翠と…鼬の姿の紙園も参加している。あんな小さな身体でよく混ざったものだ。
「グリフィンドールのチェイサーをなめんじゃないわよ!」
シーラはリリーからパスをもらい、ビーチボールを思いっ切り…ジェームズに当てた。
「痛ぁ!!!」
跳ね返ったボールを今度はアレンがトスし、翡翠がそれをジェームズに当てる。
「痛っ!!翡翠、僕仲間!!!今の見たろ、リーマス!!」
「ははは、見てた見てた」
リーマスは微笑むと、跳ね返ったボールを更にジェームズに当てた。
「ぶへっ!!リーマス、君そんな虫も殺さぬ顔でなんて事を…君達さっきから“僕”で遊んでるよね?!」
「あら、クィディッチの練習よ、ジェームズ」
「ビーチバレーはクィディッチと関係無いからね、シーラ!!」
不敵に笑うシーラに次にボールが回ったら、生きていけ無いと思ったジェームズは、砂浜に寝転んでピーターと日光浴をしているリザに目を向けた。もしかしたら助けてくれるかも知れない。



「あ、ねぇねぇ〜私“の所に泣き付いて来る”に100ガリオンね~!」

「淡い期待をした僕が馬鹿だった!!」



皆が楽しくビーチバレーらしきモノをしている中、とシリウスはパラソルの下に座り込み、涼んでいた。
の膝の上では小さい狼になった砕覇が、シリウスとは反対側のの隣では人型の騎龍が寝ている。

『シリウスは混じら無いの?あの……えっと…ジェームズ当てゲーム?』

ジェームズを的にするのを止めた方が良いと思うが、皆があまりにも楽しそうに遊んでいる為、止めて良いのか分からなくなってきた。
「いい、と居る」
『そう?』
は隣で気持ち良さそうに寝ている騎龍の頭を優しく撫でた。
「蒼はどうしたんだ?」
『急用でね…アルバスの所に行ってくれてるわ』
緊急の仕事の手紙が届き、申し訳ないが蒼には出掛けてもらっていた。
「そうか……はその…」
いつもと様子の違うシリウスに、は不思議そうに首を傾げた。


「砕覇が好きなのか?」


何故シリウスがそんな質問をしたのか、には直ぐには分からなかった。
『好きよ、大切な家族だしね』
「いや、そうじゃなくて…」
はシリウスの表情でやっと質問の意味に気付いたらしく、可笑しそうにクスクス笑い出した。

『砕覇がキスしたから?』

シリウスは口に出さず唯頷いた。
『あれは砕覇の愛情表現であって私が…そうね、異性として砕覇を好きな訳では無いと思うわ…きっと。慣れちゃってて良く分からないけど…きっとね』
は“それに”と言うと話を続けた。

『私は色恋沙汰に滅法…鈍いし弱い』



──もっと早く気付いて欲しかったとも思う。お前は…本当に弱いな…




そう私に言ったのは誰だっただろうか。

胸がモヤモヤするのは…
刺された様に痛いのは…



一体何でだろうか──…



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