第2章 秘密ノ謳
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
38
会いたい。
そういう気持ちはある。
ある筈なのに…
どうしても思い出せない。
何で…
思い出せないの──…
=蛇の子守唄=
長く医務室で眠っていた麗は、その日が四年生初めての授業だった。
が、何時も通りゆったりと流れていくであろうと思っていた学校生活は、ある意味波乱に満ちていた。
「麗さん!あの、握手して下さい!!」
『あ…は、はい』
麗は荷物を片腕に纏めると、目の前の一年生の差し出された手を優しく取った。
さっきからコレばっかりだ。一年生が異様に近付いてくる。
受ける私も私だが…
「ありがとうございます!あ、あの、僕…」
「何やってんだチビ餓鬼共」
そうドスの効いた声が響き、一年生はビクリと肩を揺らして固まった。
“翡翠”と口に出しそうになった麗は、相手を確認すると慌てて口を閉じた。
「俺様の麗に手ぇ出してんじゃねぇよ、失せろ」
赤銅色の髪の男が後ろから麗を抱き締める。
昼の校内に騎龍が出て来ると思わなくて“翡翠”と口にしそうになったが…口にしてたら大変な事になる所だった。
『騎龍…』
騎龍に睨み付けられた一年生は、縮こまると慌てて逃げて行った。
『…又反省室に入れるわよ?』
「嫌だね。反省室に入ってる間に麗に何かあったら嫌だからな」
それを言われると何も言えない。
騎龍が私を何よりも大切にしてくれているのを知っているから…何も言えない。
『御免なさい…』
騎龍は黙って麗の首元に顔を埋めた。
首元に顔を寄せたり埋めたりするのは騎龍が拗ねた時にとる昔からの癖だった。
『…今日は騎龍に合わせるわ。だから拗ねないで』
「拗ねてねぇ…てかそれ本当か?!」
騎龍は勢い良く顔を上げると、笑顔を見せてくれた。
いつも皆の前で澄ましている騎龍の時々見せる無邪気な笑顔が私は好きだ。
『えぇ、本当よ』
表情が無意識に綻んだ。
麗は笑顔でそう返し、騎龍の手を取った。
「椿も凌も翡翠も西煌も糞狼も七叉も楓も…後、蒼とか紙園も抜きでか?!」
『えぇ、勿論。桜華や蘭寿達も抜きよ』
「じゃあ、二人きりか?!」
『あぁ、二人だ』
「ッ…」
二人だけだという事がはっきりすると頬を少し赤く染めた騎龍の口許が緩み、騎龍は勢い良く麗を抱き上げた。
『ッ…!!』
思わず舌を噛みそうになったが、騎龍に文句を言う隙は無かった。
「話したい事が沢山あるんだ」
騎龍がそう嬉しそうに言うものだから、文句を言う事等出来無かった。
麗はクスクス笑いながら騎龍の頭を優しく撫でた。
『そう…騎龍は相変わらず子供っぽいわね。歳が二桁以上違うなんて誰も信じんぞ、きっと』
騎龍は私とは比べものにならない程沢山の時を見てきた。
感じてきた…
なのに騎龍はとても純粋だ。
「誰も信じなくて良い、誰も知らなくて良い。俺は麗と同い年が良い」
とても…
とても純粋だ…
『そうはいかないけど…嬉しいわ』
麗は騎龍の頭を撫でながら…騎龍に抱かれたまま森の中へと消えて行った。
森を散歩して草原に寝転んで、騎龍に沢山の話を聞いた。
私と翡翠が母様と父様を残して消えた後の事や、イアンに出逢いこちらに来た事。
桜華とはぐれてしまい、日本で過ごした間の時の事を…随分と長く話した後、騎龍に強請 られて歌を歌った。
麗の詩声は森中に響き渡った。
鳥達は鳴くのを止め、動物達は耳を澄ます…
『騎龍…眠ったの?』
歌うのを止めた麗は、隣に寝転がる騎龍の頭を優しく撫でた。
しかし反応は無く、騎龍は気持よさそうに目を閉じている。
『貴方は昔から私の歌を聴くと直ぐに寝る…』
催眠効果でもあるのだろうか?
麗は微笑むと騎龍の隣に寝転がり直した。
『“あの日あの時に戻れたならば”…か…』
麗は歌った曲の歌詞を思い出し目を瞑った。
戻れたとして…私は何が出来るのだろうか?
両親を助けられただろうか。
──貴方の下へ行けるならば…
私は…
私は誰に会いたいんだろうか?
思い出せ無い自分に…
酷く腹が立つ──…
時刻が夕刻に近付いた頃、騎龍はゆっくりと目を覚ました。
それに気付いた麗は、騎龍の赤銅色の髪に優しく触れた。
『起きた、騎龍?』
「ん…今、何時だ?」
騎龍は起き上がると目を擦りながら麗を見た。
『もう直ぐ夕食よ…今日は一緒に部屋で食べようね』
「おう」
騎龍は嬉しそうに笑ってそう返事をしたが、ふと不思議そうに眉を寄せた。
「なぁ…あの餓鬼共、捜しに来なかったのか?」
仕掛人はいつもは必ずと言って良い程、誰か一人は麗と一緒にいる…なのに何故か今日は誰一人いないし捜しにも来ない。
理由は酷く簡単だった。
麗は困った様に苦笑しながら口を開いた。
『仕掛人達はな……その…』
麗は首を傾げる騎龍を立たせホグワーツに向かって歩きながら話を続けた。
『私が寝てる間に仕掛人達が私の夢を盗み見てね…それを白状した現場にシーラが居合わせて……何故かシーラが物凄く怒って仕掛人達に暫く私に近付かないようにって……だから捜しに来ないと思うよ』
話し終わった麗が騎龍を見ると騎龍は酷く不機嫌そうに眉を寄せていた。
『騎龍?』
「あの餓鬼共…俺様の部下共の餌にしてやろうか…」
騎龍は本気じゃ無い。
そう思うけど…
気を付けてね、皆…
あの日あの時に戻れたならば…
貴方の下へ行けるならば…
行けたならば…
私は…
誰の元に行きたいんだろう──…
会いたい。
そういう気持ちはある。
ある筈なのに…
どうしても思い出せない。
何で…
思い出せないの──…
=蛇の子守唄=
長く医務室で眠っていた麗は、その日が四年生初めての授業だった。
が、何時も通りゆったりと流れていくであろうと思っていた学校生活は、ある意味波乱に満ちていた。
「麗さん!あの、握手して下さい!!」
『あ…は、はい』
麗は荷物を片腕に纏めると、目の前の一年生の差し出された手を優しく取った。
さっきからコレばっかりだ。一年生が異様に近付いてくる。
受ける私も私だが…
「ありがとうございます!あ、あの、僕…」
「何やってんだチビ餓鬼共」
そうドスの効いた声が響き、一年生はビクリと肩を揺らして固まった。
“翡翠”と口に出しそうになった麗は、相手を確認すると慌てて口を閉じた。
「俺様の麗に手ぇ出してんじゃねぇよ、失せろ」
赤銅色の髪の男が後ろから麗を抱き締める。
昼の校内に騎龍が出て来ると思わなくて“翡翠”と口にしそうになったが…口にしてたら大変な事になる所だった。
『騎龍…』
騎龍に睨み付けられた一年生は、縮こまると慌てて逃げて行った。
『…又反省室に入れるわよ?』
「嫌だね。反省室に入ってる間に麗に何かあったら嫌だからな」
それを言われると何も言えない。
騎龍が私を何よりも大切にしてくれているのを知っているから…何も言えない。
『御免なさい…』
騎龍は黙って麗の首元に顔を埋めた。
首元に顔を寄せたり埋めたりするのは騎龍が拗ねた時にとる昔からの癖だった。
『…今日は騎龍に合わせるわ。だから拗ねないで』
「拗ねてねぇ…てかそれ本当か?!」
騎龍は勢い良く顔を上げると、笑顔を見せてくれた。
いつも皆の前で澄ましている騎龍の時々見せる無邪気な笑顔が私は好きだ。
『えぇ、本当よ』
表情が無意識に綻んだ。
麗は笑顔でそう返し、騎龍の手を取った。
「椿も凌も翡翠も西煌も糞狼も七叉も楓も…後、蒼とか紙園も抜きでか?!」
『えぇ、勿論。桜華や蘭寿達も抜きよ』
「じゃあ、二人きりか?!」
『あぁ、二人だ』
「ッ…」
二人だけだという事がはっきりすると頬を少し赤く染めた騎龍の口許が緩み、騎龍は勢い良く麗を抱き上げた。
『ッ…!!』
思わず舌を噛みそうになったが、騎龍に文句を言う隙は無かった。
「話したい事が沢山あるんだ」
騎龍がそう嬉しそうに言うものだから、文句を言う事等出来無かった。
麗はクスクス笑いながら騎龍の頭を優しく撫でた。
『そう…騎龍は相変わらず子供っぽいわね。歳が二桁以上違うなんて誰も信じんぞ、きっと』
騎龍は私とは比べものにならない程沢山の時を見てきた。
感じてきた…
なのに騎龍はとても純粋だ。
「誰も信じなくて良い、誰も知らなくて良い。俺は麗と同い年が良い」
とても…
とても純粋だ…
『そうはいかないけど…嬉しいわ』
麗は騎龍の頭を撫でながら…騎龍に抱かれたまま森の中へと消えて行った。
森を散歩して草原に寝転んで、騎龍に沢山の話を聞いた。
私と翡翠が母様と父様を残して消えた後の事や、イアンに出逢いこちらに来た事。
桜華とはぐれてしまい、日本で過ごした間の時の事を…随分と長く話した後、騎龍に
麗の詩声は森中に響き渡った。
鳥達は鳴くのを止め、動物達は耳を澄ます…
『騎龍…眠ったの?』
歌うのを止めた麗は、隣に寝転がる騎龍の頭を優しく撫でた。
しかし反応は無く、騎龍は気持よさそうに目を閉じている。
『貴方は昔から私の歌を聴くと直ぐに寝る…』
催眠効果でもあるのだろうか?
麗は微笑むと騎龍の隣に寝転がり直した。
『“あの日あの時に戻れたならば”…か…』
麗は歌った曲の歌詞を思い出し目を瞑った。
戻れたとして…私は何が出来るのだろうか?
両親を助けられただろうか。
──貴方の下へ行けるならば…
私は…
私は誰に会いたいんだろうか?
思い出せ無い自分に…
酷く腹が立つ──…
時刻が夕刻に近付いた頃、騎龍はゆっくりと目を覚ました。
それに気付いた麗は、騎龍の赤銅色の髪に優しく触れた。
『起きた、騎龍?』
「ん…今、何時だ?」
騎龍は起き上がると目を擦りながら麗を見た。
『もう直ぐ夕食よ…今日は一緒に部屋で食べようね』
「おう」
騎龍は嬉しそうに笑ってそう返事をしたが、ふと不思議そうに眉を寄せた。
「なぁ…あの餓鬼共、捜しに来なかったのか?」
仕掛人はいつもは必ずと言って良い程、誰か一人は麗と一緒にいる…なのに何故か今日は誰一人いないし捜しにも来ない。
理由は酷く簡単だった。
麗は困った様に苦笑しながら口を開いた。
『仕掛人達はな……その…』
麗は首を傾げる騎龍を立たせホグワーツに向かって歩きながら話を続けた。
『私が寝てる間に仕掛人達が私の夢を盗み見てね…それを白状した現場にシーラが居合わせて……何故かシーラが物凄く怒って仕掛人達に暫く私に近付かないようにって……だから捜しに来ないと思うよ』
話し終わった麗が騎龍を見ると騎龍は酷く不機嫌そうに眉を寄せていた。
『騎龍?』
「あの餓鬼共…俺様の部下共の餌にしてやろうか…」
騎龍は本気じゃ無い。
そう思うけど…
気を付けてね、皆…
あの日あの時に戻れたならば…
貴方の下へ行けるならば…
行けたならば…
私は…
誰の元に行きたいんだろう──…