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第2章 秘密ノ謳

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36





月明かりに照らされながら…



長い蒼髪の青年は医務室のベッドの一つに向かうとそのベッドの端に腰掛けた。
長い髪が青いカーテンの様だった。

「無茶しやがって…」

青年は長い前髪を掻き上げると、寝ている黒髪の少女の頭をそっと撫でた。



「………」





=命の配分=






が大量の血を吐いて倒れてから二週間以上が経った。



眠り続けるに生徒や教員は見舞いの品やカードを贈り、新入生は見たさに毎時間毎時間、休み時間になると医務室に入ろうと集まり、マダム・ポンフリーに追い払われていた。

「で、どうなんだ」

蒼は魔法で椅子を用意するとジェームズ、リーマス、シリウス、アレンを座らせながら、ベッドに腰掛けての頭を撫でている翡翠にそう問い掛けた。
「気の流れが良くなってる…もう直ぐ目を覚ますだろ。唯…」
翡翠は言葉に詰まった。説明し難い。
「ただ…何だ?」
翡翠はアレンをチラリと見ると蒼に視線を向け、ゆっくり口を開いた。

はアレンを蘇生させた。命の代償はでかい」

翡翠はを撫でるのを止めると立ち上がり、蒼は更に問い掛けた。
「鏡に魔力を使い過ぎただけじゃ無いのか…代価は何だ」
蒼はの眠りに納得しているつもりでいた。いくら力が強いといえど、魔力を大量に消費すれば休まざるを得無い。
蒼の肩に乗っていた紙園は、蒼の肩から飛び降りると同時に人の形へと姿を変えた。
人型になると知らなかったアレンが驚く中、紙園はアレンを無視してに近付くと、の冷たい手を握った。
「おい、そ…」


「で、代価は何なんだい?」


中々話し出さない翡翠に痺を切らして声を上げようとしたシリウスを押さえ、リーマスがそう問い掛けた。
翡翠は少し考えた後、再びチラリとアレンを見、ゆっくりと口を開いた。

「響夜は確かに扱うのに膨大な力が必要だ。それには結界を張りながら、響夜が冥界でアレンを捜せるように力を送り続け、更にはアレンの身体を治療していた…魔力を殆んど消費しているのは普通だ。だがそれは代価じゃ無い」

流石の翡翠も言うのを一瞬躊躇ためらった。魔法使いである事以外は至って普通のたった十三の餓鬼共には酷では無いだろうかと…
しかし翡翠は直ぐに決断した。自分は狐族の冷酷な長“御館様”ではないかと。
に優しくしても、餓鬼共に気を使う必要は無い。
これ以上、人間に染まっては駄目だ…





「代価は命だ」





蒼やリーマス達は目を見開き、アレンは驚くと同時に青かった顔を更に青くして椅子から立ち上がった。

「無くなってはないが減った。元々人より寿命が少ないのに更に減って死期が迫っちまった」

アレンが俯くのが見え、アレンは軽く溜め息を吐いた。
蒼から事件の内容を聞いていたアレンは俯くしか無いだろう…きっとアイツは“自分がもっと注意していれば”という後悔で押し潰されそうな筈だ。
青ざめたまま立ち尽くすアレンを座らせたシリウスは、重たい口を開いた。


「…何での寿命は元々少ないんだ」


優秀な魔女である事以外、は普通の人間の女の子にしか見え無いだろう。
俺も無邪気に笑うこの綺麗で可愛い少女は、普段は唯の人の子にしか見えない。

「……の一族には代々、初代から先代までの総ての術を継承し当主になる記憶の儀がある。
本家の血を色濃く継ぐ者は代々普通の人間よりも寿命が短く…当主として定められた者はその儀を受け、当主になって初めて本来の寿命が決まる事になっている」

決まっていた。決まっていたんだ。
あの日までは…
「そうする筈だったのに」
翡翠は哀しそうにに目を向けた。



は儀式を受ける事が出来無かった」



「……桜華の言ってた“事件”だな?」
直ぐ様そう答えたシリウスを翡翠は鼻で笑った。
「先代とその奥方が仕事中に襲撃されてな…
仕組まれた依頼だった。の一族を潰す目的の奴等のな」
それは醜い嫉妬心。それは恐怖の表れ、それは愛の歪み…それは…

身勝手な人間の何時いつもの罪。

「不意をつかれた先代達は重傷を負った。屋敷についた時にはもう死にかけだったしな」
誰も身動き一つ取れなかった。
ただ翡翠の話に耳を傾ける。
が直ぐに先代達の治療に掛かり、先代達は回復した。だがな…命の代価の様に先代達は記憶を失っていた。
術者としての記憶は元々当主を降りる時に消す掟だから遅かろうが早かろうがどっちでも良かったが、問題はについての記憶と…の寿命だった」
頭を過ぎる幼い頃のの姿に…翡翠は表情を歪ませた。



「術者としての記憶を先代が失い、儀を執り行う事が出来無かった。術の継承は別に良かった…は歴代の中でも一番優れた術者だ。継承する意味は無い。
問題は寿命だ…いくらでも自分の寿命の延ばし方何か知る筈がねぇ」



翡翠の声が聞こえる。
少し怒ってる様な声だった。

薬品の匂いが漂う中、は重たい瞼を押し開いた。
ぼやける視界の先に紙園がいた…

「…!」

紙園は握っていたの手を離すと、覆い被さる様にしてを抱き締めた。
『紙園…』
翡翠が睨んでるのは…仕方無いか。私は静止を無視した。
、お前…」



『私の命はどれだけ減った?いくら貴方でもそこまでは分からない?』



は翡翠の声を遮り問い掛けた。
その顔だ。もう知っているんだろう…

蘇生は禁忌に触れている。
只で済む訳が無い。

翡翠は溜め息を吐くと、紙園をから引き剥がしてを起き上がらせた。


「細かくは分から無ぇが、かなり減っちまったよ…馬鹿」


『そっか…御免、皆に怒られちゃうな…』
はベッドの周りに山積みにされた沢山の見舞い品を見てある人を思い出した。
『あ、アレンは?』
翡翠の視線の先を見ると、ジェームズ、シリウス、リーマスと一緒に青い顔をしたアレンが大人しく椅子に座っていた。
はベッドから降りるとフラフラとアレンに近寄り優しく抱き締めた。

『良かった……巻き込んで御免なさい…』

アレンは泣きそうになるのを我慢しながらを抱き締め返すと重い口を開いた。
「あれは俺の不注意だ。俺もゴメン…の命が…」
は哀しそうに眉を寄せると再度アレンを抱き締めてから離れると、深々と頭を下げた。
『御免なさい』
…」
アレンが頭を上げさせ様と肩に手を掛けたが、は上げ様とはしなかった。



『アレンは普通に年をとって死ぬ事が出来ないかもしれない』



アレンは一向に頭を上げ様としないの頭を優しく撫でると、頬に手を添えてそっと頭を上げさせる。
「…何でだ?」
『……私の術の掛かった命がアレンの中に入っている…正常に年をとれるとは思え無い』
親しい者が死んでいくのを見ていかなければならなくなる。
そんな辛い思いをさせるなんて…私が未熟だから…
「大丈夫だ」
アレンはの頭を撫でながら話し続けた。


「その時はその時で楽しむさ。ダンブルドアだってすげぇ長生きしてるじゃん!な、だから大丈夫だ…


何で皆…
そんなに優しいの…?
私がしている事は…

間違ってるのに。

死者を生き返らせるなんて…本当はあってはならないんだから。
絶対に…
絶対に…絶対に…



でも私は───…‥



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