第2章 秘密ノ謳
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新学期、組別けの日の昼。
電話の受話器を片手に麗は、自室の暖炉の前に座って楽しそうに話をしていた。
『えぇ、だからとても良いものが出来そうなのよ。パーティーとは言えないけど…軽く食事会をするから是非来てね』
「へぇ、それは楽しみだ」
『仕事や学校の合間に色々頑張ったのよ』
「人材は見付かったかい?」
『それが一番大変だったわ!クタクタよ、あの子達ったら…』
瞬間、リビングの煖炉に突然火が勢い良く点いた。
麗は電話の相手に口早に謝ると電話を切り、慌てて煖炉の前に座り込んだ。
『何かあったの、アルバス?』
少し口籠ったアルバスは信じられ無いと言った声で一声、掠れた声で叫んだ。
「麗、大変なんじゃ」
=赤のコンパートメント=
「どうした、麗?」
暖炉の前に座り込んだ麗に、キッチンから出て来た蒼はそう声を掛けた。
しかし麗には聞こえていなかった。
立ち上がり、部屋を出ようとした麗は直ぐに室内に引き返してくる。
『駄目…時間が…』
麗の顔は真っ青で、それに気が付いた蒼は麗の腕を掴むと自分に引き寄せた。
『ッ…』
「俺は何があったと聞いてるんだ、麗!」
麗はその時初めて蒼の存在に気付いたらしく、驚いて目を軽く見開いていた。
『蒼…』
「おい、何してんだ?」
蒼の怒鳴り声を聞き付けた翡翠が、紙園を肩に乗せて部屋から出て来た。
麗は自分に確認をする様にゆっくりと震える唇を開いた。
『生徒が…殺された……列車の中で…』
麗の唇と手からは血が溢れ出ていた。
唇を噛み締めた為に歯が刃となり。手を握り締め過ぎた為、爪が刃となり肉を裂き…血が出たのだろう。
人の皮膚とは脆いものだ。
蒼が溢れる血を拭い取り、翡翠が口を開く。
「麗…お前、自分の所為だと思ってるだろ」
『だって私は…私は死を阻止する為に…その為に存在してるって!そう、決めたのに…』
「お前が知らなかった事だろ。お前が責任を感じる事じゃ無ぇじゃねぇか」
蒼は話を聞きながら黙々と麗の怪我を魔法で治していった。
『でも私は…っ……子供を殺すなんて』
翡翠は麗の頭を抱き、優しく撫でて落ち着かせると口を開いた。
「ほら、駅行くぞ」
麗は小さく頷くと、紙園を肩に乗せ、翡翠と蒼の腕に自分の腕を絡めた。
詠唱が進むと同時に景色が不可思議に歪み、次の瞬間にはホグワーツ特急の列車の中に移動していた。
目の前にはドアの窓が真っ赤に染まったコンパートメントがあった。
震える手でゆっくりと扉を開けると、外の景色が見える筈の室内の窓もまるで血で染められたみたいに真っ赤だった。
「おい、この部屋って」
『誰も居ない…』
遺体……遺体は何処へいったのだろうか…
取り敢えず窓に付いたモノは血では無い。血の香りが全くしないから。
「…遺体は運び出したんだろ」
頭がまわらない麗に、蒼がそう呟いた。
蒼の助言を受け、コンパートメントを出ようとすると、窓の赤い血の様なモノが一部を残して流れ落ちていった。
──我ガ歌姫ニ近付ク者ハ
死ヲモッテ償ウガイイ…
血文字の様なそれを見終えた麗は、列車を飛び出してホームに降りると、遠くに見えるアルバスに駆け寄った。
その傍らには担架に横たわった生徒が一人いた。
走りながらでも分かる。
あれは…
あの子は…
『アレン!!』
後を追っていた翡翠が止め様と腕を伸ばしたが、麗はそれを振り払い、地に横たわっているアレンに向かって走った。
近付くにつれ走るのを止めた麗は、ゆっくりと歩いた。
アレンに辿り着くまでの距離は酷く長く感じる距離だった。
実際に距離があったのは確かだったが、それ以上に酷く長く感じられた。
何時間の様に一日の様に一週間の様に一年の様に何年も掛かったかの様に…アレンの元に辿り着いた麗は、そっとアレンの隣に座り込んだ。
『アレン…』
麗はそっとアレンの頬に触れたが、直ぐにその手を引いた。
アレンの顔は酷く蒼白く、とても冷たく…生気が無かった。魂が無かった。
「呪いによる即死じゃ…」
麗にはアルバスの声が届いていなかった。
人形の様に固まったまま瞬き一つせずに唯アレンの亡骸を見据える。
翡翠は麗に近寄ろうとはせず、蒼や紙園と共に列車の入り口から麗を見守った。
アルバスもそっとその場を離れ、翡翠達の様に遠くから麗を見守る。
『アレン…』
そう小さく呟いた麗は、ふらつく身体で立ち上がると、術で大きな円鏡を手元に出した。
「ッ、麗!止めろ!!」
鏡は麗を映す様に宙に浮かび上がる。
“麗を止めろ!!”と怒鳴る様に声を上げながら翡翠が麗に向かって走り出し、何かを感じ取った蒼と紙園も翡翠の声に煽られる様に駆け出した。
『“結”』
麗がそう呟いた瞬間、麗の元へと向かっていた翡翠達は見え無い何かに勢い良くぶつかり、弾かれる様にその場に倒れた。
麗により翡翠達と麗の間に結界が張られたのだ。
『待ってて、アレン…今助けるからね』
そう呟いた麗は、宙に浮いた鏡を抱き寄せると、優しく抱き締めた。
「止めろ、麗!!!」
本来の姿に戻った翡翠が結界を破ろうと鋭い爪を立てて必死に叫ぶが、麗には届かなかった──…
『“響夜 ”』
「麗!!!」
麗の黒髪が銀色に、黒眼が緋色に染まり、抱き締めた鏡…響夜が蒼白く光り出す。翡翠には見知った光景だった。
光が麗を中心に雪の結晶の様な形に広がると、麗は詩を紡ぎ出した。
力が麻痺してる今、どんな手を使っても力を増やすしか無い。
──主…平気か…?
──分からない…耐えられると信じるしか無い。アレンを捜して来て、響夜…
──…承った、主…
麗は夜通し謳い続け、気付けば空は淡く光を含んでいた。
翡翠やアルバス達は結界の外でその様子を見守り続けた。
本来ならば意地でも麗を止めるが、本気になった麗の結界に侵入する事は、強大な力を持った翡翠でさえも叶わなかった。
少しの可能性として、騎龍や椿、凌達長クラスと協力すれば破れたかもしれないが、騎龍達は麗のピアスに封印されたままで、どうしようも無かった。
──主…
「ん…」
私の中に響夜の声が響いた瞬間アレンがゆっくりと目を開け、弱々しく微笑んだ麗は、嬉しそうにアレンに微笑みかけた。
『アレン、お帰り…』
「麗…?」
麗は鏡夜を地に置き、力の入らない腕で精一杯アレンを抱き締めた。
『御免なさい…アレン』
「何が…?」
『私…貴方を巻き込んでしまったわ…ッ』
アレンの肩に埋めていた顔を上げながらそう口にした麗は次の瞬間、口に手を当てながら咳き込み出した。
あぁ。何でかな…
どうしてこうなるんだろう。
掌に付いた口許から溢れる大量の血を目にした麗は、困った様に微かに微笑むと…
眠りについた。
新学期、組別けの日の昼。
電話の受話器を片手に麗は、自室の暖炉の前に座って楽しそうに話をしていた。
『えぇ、だからとても良いものが出来そうなのよ。パーティーとは言えないけど…軽く食事会をするから是非来てね』
「へぇ、それは楽しみだ」
『仕事や学校の合間に色々頑張ったのよ』
「人材は見付かったかい?」
『それが一番大変だったわ!クタクタよ、あの子達ったら…』
瞬間、リビングの煖炉に突然火が勢い良く点いた。
麗は電話の相手に口早に謝ると電話を切り、慌てて煖炉の前に座り込んだ。
『何かあったの、アルバス?』
少し口籠ったアルバスは信じられ無いと言った声で一声、掠れた声で叫んだ。
「麗、大変なんじゃ」
=赤のコンパートメント=
「どうした、麗?」
暖炉の前に座り込んだ麗に、キッチンから出て来た蒼はそう声を掛けた。
しかし麗には聞こえていなかった。
立ち上がり、部屋を出ようとした麗は直ぐに室内に引き返してくる。
『駄目…時間が…』
麗の顔は真っ青で、それに気が付いた蒼は麗の腕を掴むと自分に引き寄せた。
『ッ…』
「俺は何があったと聞いてるんだ、麗!」
麗はその時初めて蒼の存在に気付いたらしく、驚いて目を軽く見開いていた。
『蒼…』
「おい、何してんだ?」
蒼の怒鳴り声を聞き付けた翡翠が、紙園を肩に乗せて部屋から出て来た。
麗は自分に確認をする様にゆっくりと震える唇を開いた。
『生徒が…殺された……列車の中で…』
麗の唇と手からは血が溢れ出ていた。
唇を噛み締めた為に歯が刃となり。手を握り締め過ぎた為、爪が刃となり肉を裂き…血が出たのだろう。
人の皮膚とは脆いものだ。
蒼が溢れる血を拭い取り、翡翠が口を開く。
「麗…お前、自分の所為だと思ってるだろ」
『だって私は…私は死を阻止する為に…その為に存在してるって!そう、決めたのに…』
「お前が知らなかった事だろ。お前が責任を感じる事じゃ無ぇじゃねぇか」
蒼は話を聞きながら黙々と麗の怪我を魔法で治していった。
『でも私は…っ……子供を殺すなんて』
翡翠は麗の頭を抱き、優しく撫でて落ち着かせると口を開いた。
「ほら、駅行くぞ」
麗は小さく頷くと、紙園を肩に乗せ、翡翠と蒼の腕に自分の腕を絡めた。
詠唱が進むと同時に景色が不可思議に歪み、次の瞬間にはホグワーツ特急の列車の中に移動していた。
目の前にはドアの窓が真っ赤に染まったコンパートメントがあった。
震える手でゆっくりと扉を開けると、外の景色が見える筈の室内の窓もまるで血で染められたみたいに真っ赤だった。
「おい、この部屋って」
『誰も居ない…』
遺体……遺体は何処へいったのだろうか…
取り敢えず窓に付いたモノは血では無い。血の香りが全くしないから。
「…遺体は運び出したんだろ」
頭がまわらない麗に、蒼がそう呟いた。
蒼の助言を受け、コンパートメントを出ようとすると、窓の赤い血の様なモノが一部を残して流れ落ちていった。
──我ガ歌姫ニ近付ク者ハ
死ヲモッテ償ウガイイ…
血文字の様なそれを見終えた麗は、列車を飛び出してホームに降りると、遠くに見えるアルバスに駆け寄った。
その傍らには担架に横たわった生徒が一人いた。
走りながらでも分かる。
あれは…
あの子は…
『アレン!!』
後を追っていた翡翠が止め様と腕を伸ばしたが、麗はそれを振り払い、地に横たわっているアレンに向かって走った。
近付くにつれ走るのを止めた麗は、ゆっくりと歩いた。
アレンに辿り着くまでの距離は酷く長く感じる距離だった。
実際に距離があったのは確かだったが、それ以上に酷く長く感じられた。
何時間の様に一日の様に一週間の様に一年の様に何年も掛かったかの様に…アレンの元に辿り着いた麗は、そっとアレンの隣に座り込んだ。
『アレン…』
麗はそっとアレンの頬に触れたが、直ぐにその手を引いた。
アレンの顔は酷く蒼白く、とても冷たく…生気が無かった。魂が無かった。
「呪いによる即死じゃ…」
麗にはアルバスの声が届いていなかった。
人形の様に固まったまま瞬き一つせずに唯アレンの亡骸を見据える。
翡翠は麗に近寄ろうとはせず、蒼や紙園と共に列車の入り口から麗を見守った。
アルバスもそっとその場を離れ、翡翠達の様に遠くから麗を見守る。
『アレン…』
そう小さく呟いた麗は、ふらつく身体で立ち上がると、術で大きな円鏡を手元に出した。
「ッ、麗!止めろ!!」
鏡は麗を映す様に宙に浮かび上がる。
“麗を止めろ!!”と怒鳴る様に声を上げながら翡翠が麗に向かって走り出し、何かを感じ取った蒼と紙園も翡翠の声に煽られる様に駆け出した。
『“結”』
麗がそう呟いた瞬間、麗の元へと向かっていた翡翠達は見え無い何かに勢い良くぶつかり、弾かれる様にその場に倒れた。
麗により翡翠達と麗の間に結界が張られたのだ。
『待ってて、アレン…今助けるからね』
そう呟いた麗は、宙に浮いた鏡を抱き寄せると、優しく抱き締めた。
「止めろ、麗!!!」
本来の姿に戻った翡翠が結界を破ろうと鋭い爪を立てて必死に叫ぶが、麗には届かなかった──…
『“
「麗!!!」
麗の黒髪が銀色に、黒眼が緋色に染まり、抱き締めた鏡…響夜が蒼白く光り出す。翡翠には見知った光景だった。
光が麗を中心に雪の結晶の様な形に広がると、麗は詩を紡ぎ出した。
力が麻痺してる今、どんな手を使っても力を増やすしか無い。
──主…平気か…?
──分からない…耐えられると信じるしか無い。アレンを捜して来て、響夜…
──…承った、主…
麗は夜通し謳い続け、気付けば空は淡く光を含んでいた。
翡翠やアルバス達は結界の外でその様子を見守り続けた。
本来ならば意地でも麗を止めるが、本気になった麗の結界に侵入する事は、強大な力を持った翡翠でさえも叶わなかった。
少しの可能性として、騎龍や椿、凌達長クラスと協力すれば破れたかもしれないが、騎龍達は麗のピアスに封印されたままで、どうしようも無かった。
──主…
「ん…」
私の中に響夜の声が響いた瞬間アレンがゆっくりと目を開け、弱々しく微笑んだ麗は、嬉しそうにアレンに微笑みかけた。
『アレン、お帰り…』
「麗…?」
麗は鏡夜を地に置き、力の入らない腕で精一杯アレンを抱き締めた。
『御免なさい…アレン』
「何が…?」
『私…貴方を巻き込んでしまったわ…ッ』
アレンの肩に埋めていた顔を上げながらそう口にした麗は次の瞬間、口に手を当てながら咳き込み出した。
あぁ。何でかな…
どうしてこうなるんだろう。
掌に付いた口許から溢れる大量の血を目にした麗は、困った様に微かに微笑むと…
眠りについた。