第1章 始マリノ謳
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32
「そうどすか…気ぃ付けときますけども私等は“そちら”には鈍いですからねぇ」
『良いのよ、気にするだけでも違うから』
受話器から聞こえるまだ幼さの中は声は、音こそ幼いが、芯はしっかりとしていてハキハキしている。
「そうですねぇ。あぁ、今の所こちらには特に気になる異常はありゃしませんよ“」
『“いつも通り”?』
「へぇ、私が気付く範囲では」
気付けていないものが重要じゃ無ければ良いんだけど…
『分かった。次の仕事の時に対処しておくわ』
「済みませんねぇ、麗様」
『気にする事ないわ。これは仕事だもの…ぁ、御免なさい』
「へぇ」
『呼ばれたから切るわ。そちらで調べられる事は纏めておいて』
「畏 まりました」
切れた電話を置くと、襖の影から久鈴 が顔を出した。
「おかあさん…」
「嵐山は荒れとるみたいやねぇ」
「麗様は…」
「大丈夫、あの人は強い。それにお祓いなんか出来へんやないの」
「…そうやけど」
「貴女はあの人の手足。必要な所へ赴き、必要な物を集めなさい」
「はい…」
「こちらが守らなくてもあの人は強い。でもあの人は手足である私等を守ってくれる」
ここを作ったのは彼女なんだから──…
=夜桜=
「こっちじゃ、こっち!こっちから桜の香りがするぞ」
麗達は桜華の案内のもと、森の中を歩いていた。
桜の木である桜華なら咲いている場所が関知出来るからだ。
『ねぇ、今日は野宿で良い?ちゃんと森で夜桜見たいし』
麗は肩に乗った蒼と紙園を撫でながら歩く。
「良いけど熊とか出ねぇのか」
『大丈夫よ、建てるから』
「たてる?」
瞬間、翡翠が愉快そうに笑い出した。
「楽しみにしとけ餓鬼共…腰抜かすぜ」
翡翠がシリウスをからかう中、リーマスは麗に並んで歩いた。
「麗、蒼達重く無いのかい?」
『平気よ、二人共とっても軽いからぁつあ?!』
突然身体が浮き上がり、思わず声が裏返った。
肩に乗っていた蒼が人型になり麗を横抱きにしたのだ。
「麗も軽いぞ」
リーマスは蒼を睨み付け、蒼はそんな事は気にせず麗を見据えた。
「お前…馬鹿鳥!!」
翡翠が麗を奪い取ろうとすると、蒼は麗を抱き上げたまま走り出した。
「おい、馬鹿鳥!!!」
「こら、主ら!どこに行くんじゃ!!」
翡翠は桜華を無視して蒼を追い掛け、桜華も直ぐに二人を追い掛けた。
「おい、リーマス…何なんだアイツ等?」
後ろを歩いていたシリウスとジェームズがリーマスに追い付いた。
「さぁ…僕に聞かれても分からないよ、シリウス」
『二人は何時 もあぁなのよ』
いきなり上から聞こえた声に驚き、三人は慌てて顔を上げた。
『二人共…桜華も。私より遥かに歳上なのに大人げ無いわよね』
麗が紙園を膝に乗せ、その頭を撫でながら木の枝に座っていた。
「麗、いつからそこにいたんだい?」
『蒼が走り出した時からよ。因みに蒼が連れて行ったのは分身…全く、大人げ無いんだから』
麗は可笑しそうにクスクス笑いながら話した。
「俺も歳上だぞ」
紙園が麗を見上げ、そう告げる。確かに紙園は自分より年上だった。
『紙園は大人よね』
紙園を肩に乗せて木から飛び降りた麗は、軽く手を振ると術で黒い扇を手元に出す。
『歩くの疲れたでしょ?』
麗の手元でクルクルと回る扇は徐々に大きくなり、身丈よりも大きくなった扇はドッと音を立てて地に突き立てられた。
ぐっと力を入れて開いた扇を振ると風が舞う。
扇を風に乗せ、宙に浮かせると、麗はその上に飛び乗った。
『ほら、三人共乗って!』
「「は?」」
「乗るのかい、それに?」
『箒を人数分は持ち歩いてないのよ!』
麗は三人を引っ張り扇に乗せた。
『“風烏 ”』
麗が呟くと四人を乗せた扇は空中に舞い上がった。風がとても心地良い。
麗はキョロキョロと辺りを見回していたがある一点を見付けると目を輝かせた。
『あった、桜!!風烏、艮 45゜降下!』
扇は命令通り、艮目掛けて勢い良く降下した。
それがいけなかったらしい。
ここ数分リーマス、シリウス、紙園は地に座り込んで黙ったままだ。一言も口を聞いてくれない。
「あ~楽しかった!ねぇ、麗!!」
ジェームズはまだ騒いでいる。
三人が不機嫌なのはきっといきなり降下したのが理由だ。
「麗」
『な、何?』
リーマスの微笑みがいつもと違うのは気の所為じゃ無いだろう。
「駄目じゃ無いか、せめて何か一言言ってからじゃなきゃ」
『ご、御免なさい…』
もうしません。優しいリーマスが優しく怖くなるから…
「麗…」
今度はシリウスが口を開いた。
怒られると思った麗は反射的に身構える。
『な、何?』
しかしシリウスの口から出た言葉は予想とは全然違った。
「これが桜か…?」
『え?』
シリウスの視線の先を見ると、空を覆う様な桜が敷き詰まっていた。
「綺麗だな…」
リーマスとジェームズも顔を上げて桃や白に身を染めた桜を見上げた。
「本当だ…凄い…」
「リリーに見せたかったなぁ」
『そうだね』
麗は桜を見上げ、服の上から左腕に付いたブレスレットに触れた。
ひらり…
ひらり…
桜の舞う此の中で、私は貴方達の未来を願った…
死が訪れ無い様に…
幸せに暮らせる様に…
皆の未来を──…
そして…
私の“計画”がちゃんと上手くいくように──…
翡翠と蒼、桜華が合流した後、ホグワーツから持ってきた夕食を広げて皆で夜桜を楽しんだ。
「なぁ麗、野宿するなら薪とか必要なんじゃないか‥?」
シリウスはふと顔を上げ麗にそう問い掛けた。
「だから、そういうのは必要ねぇんだよ餓鬼」
翡翠が楽しそうにケラケラ笑い、麗の頭を撫でた。
「麗、そろそろ出せよ」
「そうじゃぞ、麗!妾はとっとと床に就きたいのじゃ…今日は此奴等の所為で疲れたのでな」
翡翠の言葉に、桜華は翡翠と蒼を睨み付けながら賛成した。
「…お前が勝手に付いて来たんだろ」
「呪い殺すぞ、鳥…妾は疲れとる、手加減は無しじゃ」
『ほらほら、喧嘩しない!本当に大人げないんだから…』
「阿呆共」
「「「……クソ鼬…」」」
翡翠達と紙園が睨みあっていると、立ち上がった麗は下がっているように言った。麗より前にいては危ないからだ。
『“我が館…そなたの主がそなたを望む。来たれ、我が元に”』
地が光りゴゴゴゴ…と地響きの様な音と共に麗の目の前には巨大な館が現れた。
軋んだ音を立てながら館の扉がゆっくりと開く。
『好きな部屋を使ってね』
最早野宿では無い。
シリウス達は内心そう思ったが、誰も口にはしなかった。
麗が楽しそうに…
そして嬉しそうに微笑んでいたから。
「騒々しい奴等だな…」
麗が術で出した館の屋根の上に腰掛け、上から桜を見る。
ここから夜桜を楽しむのも中々良い。
『ここに居たのね、イアン…呼んだのに姿を現さないから気になってたのよ』
美しい桜色の着物に身を包んだ麗がイアンの背後に現れた。黒髪が良く映える。
「人間に姿を見せるつもりは無い。それに彼奴等は煩いからな」
『そうか』
麗はクスクス笑いながらイアンの隣りに腰掛けると、イアンに湯飲みを差し出した。
湯飲みを受け取り、中を見ると麗が点てたであろう抹茶が入っていた。
イアンはそれを一口口に含むと照れ隠しに桜を見据え、呟いた。
「美味いな」
『有難う』
夜桜…
ひらり…
ひらり…
舞い散る桜を見るのも…
お前が一緒なら尚良いな──…
「そうどすか…気ぃ付けときますけども私等は“そちら”には鈍いですからねぇ」
『良いのよ、気にするだけでも違うから』
受話器から聞こえるまだ幼さの中は声は、音こそ幼いが、芯はしっかりとしていてハキハキしている。
「そうですねぇ。あぁ、今の所こちらには特に気になる異常はありゃしませんよ“」
『“いつも通り”?』
「へぇ、私が気付く範囲では」
気付けていないものが重要じゃ無ければ良いんだけど…
『分かった。次の仕事の時に対処しておくわ』
「済みませんねぇ、麗様」
『気にする事ないわ。これは仕事だもの…ぁ、御免なさい』
「へぇ」
『呼ばれたから切るわ。そちらで調べられる事は纏めておいて』
「
切れた電話を置くと、襖の影から
「おかあさん…」
「嵐山は荒れとるみたいやねぇ」
「麗様は…」
「大丈夫、あの人は強い。それにお祓いなんか出来へんやないの」
「…そうやけど」
「貴女はあの人の手足。必要な所へ赴き、必要な物を集めなさい」
「はい…」
「こちらが守らなくてもあの人は強い。でもあの人は手足である私等を守ってくれる」
ここを作ったのは彼女なんだから──…
=夜桜=
「こっちじゃ、こっち!こっちから桜の香りがするぞ」
麗達は桜華の案内のもと、森の中を歩いていた。
桜の木である桜華なら咲いている場所が関知出来るからだ。
『ねぇ、今日は野宿で良い?ちゃんと森で夜桜見たいし』
麗は肩に乗った蒼と紙園を撫でながら歩く。
「良いけど熊とか出ねぇのか」
『大丈夫よ、建てるから』
「たてる?」
瞬間、翡翠が愉快そうに笑い出した。
「楽しみにしとけ餓鬼共…腰抜かすぜ」
翡翠がシリウスをからかう中、リーマスは麗に並んで歩いた。
「麗、蒼達重く無いのかい?」
『平気よ、二人共とっても軽いからぁつあ?!』
突然身体が浮き上がり、思わず声が裏返った。
肩に乗っていた蒼が人型になり麗を横抱きにしたのだ。
「麗も軽いぞ」
リーマスは蒼を睨み付け、蒼はそんな事は気にせず麗を見据えた。
「お前…馬鹿鳥!!」
翡翠が麗を奪い取ろうとすると、蒼は麗を抱き上げたまま走り出した。
「おい、馬鹿鳥!!!」
「こら、主ら!どこに行くんじゃ!!」
翡翠は桜華を無視して蒼を追い掛け、桜華も直ぐに二人を追い掛けた。
「おい、リーマス…何なんだアイツ等?」
後ろを歩いていたシリウスとジェームズがリーマスに追い付いた。
「さぁ…僕に聞かれても分からないよ、シリウス」
『二人は
いきなり上から聞こえた声に驚き、三人は慌てて顔を上げた。
『二人共…桜華も。私より遥かに歳上なのに大人げ無いわよね』
麗が紙園を膝に乗せ、その頭を撫でながら木の枝に座っていた。
「麗、いつからそこにいたんだい?」
『蒼が走り出した時からよ。因みに蒼が連れて行ったのは分身…全く、大人げ無いんだから』
麗は可笑しそうにクスクス笑いながら話した。
「俺も歳上だぞ」
紙園が麗を見上げ、そう告げる。確かに紙園は自分より年上だった。
『紙園は大人よね』
紙園を肩に乗せて木から飛び降りた麗は、軽く手を振ると術で黒い扇を手元に出す。
『歩くの疲れたでしょ?』
麗の手元でクルクルと回る扇は徐々に大きくなり、身丈よりも大きくなった扇はドッと音を立てて地に突き立てられた。
ぐっと力を入れて開いた扇を振ると風が舞う。
扇を風に乗せ、宙に浮かせると、麗はその上に飛び乗った。
『ほら、三人共乗って!』
「「は?」」
「乗るのかい、それに?」
『箒を人数分は持ち歩いてないのよ!』
麗は三人を引っ張り扇に乗せた。
『“
麗が呟くと四人を乗せた扇は空中に舞い上がった。風がとても心地良い。
麗はキョロキョロと辺りを見回していたがある一点を見付けると目を輝かせた。
『あった、桜!!風烏、
扇は命令通り、艮目掛けて勢い良く降下した。
それがいけなかったらしい。
ここ数分リーマス、シリウス、紙園は地に座り込んで黙ったままだ。一言も口を聞いてくれない。
「あ~楽しかった!ねぇ、麗!!」
ジェームズはまだ騒いでいる。
三人が不機嫌なのはきっといきなり降下したのが理由だ。
「麗」
『な、何?』
リーマスの微笑みがいつもと違うのは気の所為じゃ無いだろう。
「駄目じゃ無いか、せめて何か一言言ってからじゃなきゃ」
『ご、御免なさい…』
もうしません。優しいリーマスが優しく怖くなるから…
「麗…」
今度はシリウスが口を開いた。
怒られると思った麗は反射的に身構える。
『な、何?』
しかしシリウスの口から出た言葉は予想とは全然違った。
「これが桜か…?」
『え?』
シリウスの視線の先を見ると、空を覆う様な桜が敷き詰まっていた。
「綺麗だな…」
リーマスとジェームズも顔を上げて桃や白に身を染めた桜を見上げた。
「本当だ…凄い…」
「リリーに見せたかったなぁ」
『そうだね』
麗は桜を見上げ、服の上から左腕に付いたブレスレットに触れた。
ひらり…
ひらり…
桜の舞う此の中で、私は貴方達の未来を願った…
死が訪れ無い様に…
幸せに暮らせる様に…
皆の未来を──…
そして…
私の“計画”がちゃんと上手くいくように──…
翡翠と蒼、桜華が合流した後、ホグワーツから持ってきた夕食を広げて皆で夜桜を楽しんだ。
「なぁ麗、野宿するなら薪とか必要なんじゃないか‥?」
シリウスはふと顔を上げ麗にそう問い掛けた。
「だから、そういうのは必要ねぇんだよ餓鬼」
翡翠が楽しそうにケラケラ笑い、麗の頭を撫でた。
「麗、そろそろ出せよ」
「そうじゃぞ、麗!妾はとっとと床に就きたいのじゃ…今日は此奴等の所為で疲れたのでな」
翡翠の言葉に、桜華は翡翠と蒼を睨み付けながら賛成した。
「…お前が勝手に付いて来たんだろ」
「呪い殺すぞ、鳥…妾は疲れとる、手加減は無しじゃ」
『ほらほら、喧嘩しない!本当に大人げないんだから…』
「阿呆共」
「「「……クソ鼬…」」」
翡翠達と紙園が睨みあっていると、立ち上がった麗は下がっているように言った。麗より前にいては危ないからだ。
『“我が館…そなたの主がそなたを望む。来たれ、我が元に”』
地が光りゴゴゴゴ…と地響きの様な音と共に麗の目の前には巨大な館が現れた。
軋んだ音を立てながら館の扉がゆっくりと開く。
『好きな部屋を使ってね』
最早野宿では無い。
シリウス達は内心そう思ったが、誰も口にはしなかった。
麗が楽しそうに…
そして嬉しそうに微笑んでいたから。
「騒々しい奴等だな…」
麗が術で出した館の屋根の上に腰掛け、上から桜を見る。
ここから夜桜を楽しむのも中々良い。
『ここに居たのね、イアン…呼んだのに姿を現さないから気になってたのよ』
美しい桜色の着物に身を包んだ麗がイアンの背後に現れた。黒髪が良く映える。
「人間に姿を見せるつもりは無い。それに彼奴等は煩いからな」
『そうか』
麗はクスクス笑いながらイアンの隣りに腰掛けると、イアンに湯飲みを差し出した。
湯飲みを受け取り、中を見ると麗が点てたであろう抹茶が入っていた。
イアンはそれを一口口に含むと照れ隠しに桜を見据え、呟いた。
「美味いな」
『有難う』
夜桜…
ひらり…
ひらり…
舞い散る桜を見るのも…
お前が一緒なら尚良いな──…