第1章 始マリノ謳
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29
私の家族にならないか?
古 の桜…
=桜=
春休みに近付いたある日の昼の中庭…
麗は翡翠、ジェームズ、リーマス、シリウスと日本に行く話をしていた。
残念だが、リリーとピーターは用事があったり許可が出なかったりと行けなくなった。
行き先は世界は違えど麗の故郷の京都だ。
宿は麗曰く要らないらしい。
どんどん進む話の中、いきなり現われた桜華がとんでもない事言いだし、麗は顔色を変えた。
『今、何て言った…?』
麗は俯いたが、怒っているのが直ぐに分かった。綺麗な声はいつもよりも数段低く、軽い殺気を放っている。
「だ…だからな…実は妾と共に蛇や狛達もこちらの世界に来たんじゃが…その、途中で落としてしまってな…恐らく日本にいると思うんじゃが…」
桜華は顔を真っ青に染め、どぎまぎしながら事の粗筋を説明し、翡翠は不機嫌そうにそっぽを向いた。
麗は俯いていた顔を上げると微笑んだ。
しかしそれはいつもの落ち着ける笑顔では無かった。目が笑っていないのだ。
『…何で早く言わないの?』
麗は溜め息を吐くと、地に正座をした桜華を見据えた。
「忘れてた…す、済まん」
大蛇の騎龍 、狛犬の椿 、そして麒麟の凌 は大事な家族だ。大蛇は攻撃と呪を司り、狛と麒麟は門番を為している。
椿がいるという事は片割れの凌も居る筈だ。騎龍は兎も角、椿と凌は向こうの世界に力を制御出来る者がいなくなってしまったのだろう。まさか桜華に付いて来るだなんて…四人だから対価に神木である桜華が必要だったのか。
『多いと思ったんだ…』
麗はそう呟いて再度溜め息を吐くと、ジェームズ達に向かって頭を下げた。
『御免なさい…桜の前に少し寄り道をしても良いかしら』
「別に良」
「迎えに行くのか?」
ジェームズの返事を遮り、翡翠がそう問い掛けた。
『当り前だ』
「椿達は兎も角、蛇は」
『好い加減に騎龍と仲良くしなさい、翡翠』
「……‥無理」
麗は更に溜め息を吐くと翡翠の頭を優しく撫でてやりながら、皆を見た。
『皆…寄り道して良い?』
「別に良いけど…椿って?」
リーマスの質問はもっともだ。訳が分からないモノに時間を割く物好きは滅多にいない。
『私の家族なの。早く迎えに行かなくちゃ…』
麗は嬉しそうに優しく微笑むと、拗ねた様に少し遠くへ行った翡翠を追い掛けた。
シリウスはそれを見ながら桜華に問い掛けた。
「なぁ、麗の家族ってお前みたいなのばっかりなのか?」
桜華は、何かを思い出す様に遠くを見ると、ゆっくりと目を閉じた。
「麗の血縁者は家族とは言えぬ…最悪なモノじゃった。唯一、正面だった両親も事故…事件で記憶を失ってしまっての。事件以来、両親の記憶…過去は麗の術によって仮初めの記憶で補っていたから仲は凄く良かったんじゃが…両親の頭の中の過去は、仮初めの…しかも“平和”に造られた記憶。幼き麗や術者としての麗…何より決して平和では無い麗の置かれた立場を知らぬ両親だ。妾よりも遥かに麗について知らぬ事が多かった…故に血は繋がっているが、家族では無い様なモノだった。麗が両親を護る為に両親に嘘を吐く度、妾にはあの家族が“家族ごっこ”をしている様に見えたもんじゃ。だが妾達妖かしは姿は違えど麗の力も麗自身も信じとるし理解もしておる。血族よりも…麗に近い存在じゃ」
瞬間、桜華が嬉しそうに微笑んだ。
それは大人の麗が微笑んだ様にも見える不思議な光景だった。
「桜華はどうして麗の家族になったんだい?」
リーマスの問いに、桜華は離れた所で翡翠と楽しそうに話す麗を見ながらゆっくりと話し出した。
「…救ってもろうた」
「救う?」
「…妾は…妖桜でな」
「妖桜って、ムグッ」
ジェームズが口を挟み、リーマスが素早くその口を手で塞いだ。
「人に危害を加える力を宿し妖かしとなった桜じゃ。昔は人に尽し、人の為に戦った」
「じゃあ、何で…」
「遠い昔…災厄や戦から人々を護り。妾を好き、妾を家族だと言った人々と下らぬ話をしながら過ぎ行く日々をこの身に感じる……そんな…
そんな穏やかな日々が妾は好きじゃった。満足しとった…幸せだったんじゃ」
桜華の目元が仄かに光り、どこからか現われた小さな桃色の花片が、地に舞い落ちた。
「しかし、ある日…一人の旅の男が人々に問うた。“何故あの様な化物に守られている”“この侭では魂を吸い取られるぞ、それでも良いのか”と…」
桜華は自分の近くに芽をだしている、小さな花の蕾に優しく触れた。
「人々は妾に火を放ち…燃やした。妾は哀しゅうて、苦しゅうて、悔しゅうて…人々を呪い続けた」
呪って…呪って呪って…呪い続けた。
ずっと…ずっと…
何百年も何千年も…
大好きだった人を…
深く呪い続けた──…
そんなある日…
長い銀髪を靡かせ、小さな少女が現れた。血の様な緋色の瞳が宝石の様で綺麗だった。
『なぁ…そなたは桜だろう?』
「御主…何者じゃ」
歳にそぐわぬ落ち着き様…そして同じく歳にそぐわぬ言葉使いの少女だった。
『私は麗』
「…御主、もしや皐月の者か?」
『そうだ』
記憶の中…何百年も前に見た、銀髪緋眼の者の顔が横切った。
「そうじゃ、覚えておるぞ。娘、御主は“セツ”にそっくりじゃ…して皐月の娘が何用で来た?」
『そなたの家族になりに来た』
「…か…ぞく?」
久しく聞いていなかった言葉だった。
『そう、家族だ。私の“家族”になってくれないか…美しい桜』
家族…かつて妾をそう呼んだ者は妾を燃やした…‥
御主も妾を燃やすのだろう?
「根元付近しか残っていない妾を馬鹿にしに来たか、小娘!!それとも今度こそ妾を跡形も無く燃やそうと企む愚かな人間共の差し金か!」
嫌だ…この身を焼く火など疾うに消えた筈なのに…熱い…
何年も、何十年も、何百年も、何千年も…
ずっと熱い。
ずっと痛い。
痛い…痛くて堪らない。
人間の所為だ…
全部人間の所為だ。
厄災から、戦から…
何もかもから散々護ってやったのに…!
妾を家族だと言ったのに…
たった一人の男の…
たった二つの言葉で揺らいだ。
いとも簡単に。
一人残らず皆が揺らいだ…
裏切られた。
忌々しい。
憎い、憎い、憎い、憎い…
呪ってやる。
妾の此の熱さ…
妾の此の痛み…
何千倍にもして返してやる!!
妾は…
人間なんて大嫌いだ──…
「御主に殺れるものならばやってみろ、小さな皐月の子!力を傲った哀れな子!御主が手を下す前に、妾が御主を始末してくれるわ!!」
燃やすならあの時に全てを燃やしてほしかった…
そうしたらこんなに…
哀しゅうて、苦しゅうて、悔しい想いをしなくても良かったのに…
護ってやる程好きだった人間を呪わなくても…
殺さなくても良かったのに…
何でこんな中途半端に焼いた…
御主達が中途半端に焼くから妾には力が残ってしまった。自我が残ってしまった。
小さな皐月の子。
どうせ御主も妾を殺りに来たんだ、早くしておくれ…早く…
早く妾を燃やして──…
『燃やさない。唯、私の家族になってほしいんだ』
何を…言ってるんだ…?
『そうだ!そなたが望むのならその体、修復しよう』
「ッ…!?」
何を言ってるんだ?妾は妖桜なのに…
「妾は…!!」
『森の老木達に聞いたんだ』
「え…?」
少女は手際良く妾の本体に符を貼りながら話を続けた。
『そなたは花をずっと咲かせ続けてとても綺麗だったって。弱い人間達を護り続けた立派な桜だって……唯、今は…哀しくて哀しくて仕方が無いだけだって』
馬鹿みたいだ。
妾を愛してくれていたのは人だけでは無かったのに…
裏切られた悲しみや苦しみに耐えられなくてすっかり忘れていた。
彼等も妾を綺麗だと言ってくれたのに。彼等も妾を好きだと言ってくれたのに。
人はこういう時涙を流すのだろう…
嬉しくて…
嬉しくて…
だけど木である妾は泣く事が出来無くて…
精神だけを本体から出すと、麗が成長した姿を思い浮かべて女の姿になった。
そしてまだ幼い麗の首に腕を回すとそっと抱き付き、赤子の様に泣きつくした。
目から溢れる大粒の水は、止まる事を知ら無い様だった。
麗の着物の肩の布地が涙を含んで色を変える程、妾は涙を零した。
麗は左手で優しく妾の背を撫でながら、右手で妾の本体に符を貼り続けた。
涙が止まる頃には空は赤に沈んでいて、夕刻を告げていた。
妾の本体には符が敷き詰める様に貼られている。
「此の符は何じゃ…?」
『そなたの身を修復する符だ』
「妾を癒すのか…」
『もう一度、人と日々を共にしてみないか?私が死んだら…自分の好きにすれば良い』
そうだな…
人は何れ死ぬ。我等を置いて…
だったらそれまでの短い時を出来るだけ共に…
「分かった。妾は御主の家族となろう」
「妾は最後の瞬間まで麗を見届ける。それが妾の恩返しであり、妾自身の支えじゃ」
そう言って顔を上げた桜華は、ジェームズを視界に入れると変なモノを見た様な顔で眉を寄せた。
「何故御主が泣く」
「良い゙話だなぁ゙と思゙って」
そう言ってジェームズは服の袖で涙を拭きながら鼻をすすった。
「意味が分からん」
桜華は仄かに頬を赤く染めると、照れくさそうに着物の袖でジェームズの涙を脱ぐってやった。
「違う世界に追い掛けてくる程、麗が好きなんだね」
リーマスの言葉に応える様に、桜華は触っていた花の蕾を綺麗に咲かせた。
リーマスはそんな桜華を見て優しく微笑んだ。
「麗の家族をわざと日本に落としてきたんだね?」
「…何故そう思う」
「何となく、だよ」
答えようとせず、微笑むだけのリーマスを一瞥した桜華は、座った状態のまま宙に浮き上がり、空中で制止した。
「彼奴 等は少し頭を冷やした方が良い」
「奴ら?」
「妾と着た三人だ。会えば分かるだろうが、彼奴等はかなり怒っておる」
「マズイの?」
「あぁ、拙いな。妾達は其々色々な意味で麗に執着している…人の命は短い。少しでも時間を奪われれば怒りに触れる」
あぁ、我が主。家族よ…
御主は何時まで生き続けてくれるのだろうな。
「怒りを抑えるは冷静になる時間も必要じゃて」
妾は、永久に…御主の側に居たい。
何故御主は死ぬモノなのだろうな。
そなたが妖かしだったらと思う時が良くある。
そうであれば長く長く一緒に居られると…
「何時 になるかは分からぬが」
そう思う妾は…
「麗をここに送ったモノは何 れ誰かに殺されるじゃろう」
妾は咎人だな──…
私の家族にならないか?
=桜=
春休みに近付いたある日の昼の中庭…
麗は翡翠、ジェームズ、リーマス、シリウスと日本に行く話をしていた。
残念だが、リリーとピーターは用事があったり許可が出なかったりと行けなくなった。
行き先は世界は違えど麗の故郷の京都だ。
宿は麗曰く要らないらしい。
どんどん進む話の中、いきなり現われた桜華がとんでもない事言いだし、麗は顔色を変えた。
『今、何て言った…?』
麗は俯いたが、怒っているのが直ぐに分かった。綺麗な声はいつもよりも数段低く、軽い殺気を放っている。
「だ…だからな…実は妾と共に蛇や狛達もこちらの世界に来たんじゃが…その、途中で落としてしまってな…恐らく日本にいると思うんじゃが…」
桜華は顔を真っ青に染め、どぎまぎしながら事の粗筋を説明し、翡翠は不機嫌そうにそっぽを向いた。
麗は俯いていた顔を上げると微笑んだ。
しかしそれはいつもの落ち着ける笑顔では無かった。目が笑っていないのだ。
『…何で早く言わないの?』
麗は溜め息を吐くと、地に正座をした桜華を見据えた。
「忘れてた…す、済まん」
大蛇の
椿がいるという事は片割れの凌も居る筈だ。騎龍は兎も角、椿と凌は向こうの世界に力を制御出来る者がいなくなってしまったのだろう。まさか桜華に付いて来るだなんて…四人だから対価に神木である桜華が必要だったのか。
『多いと思ったんだ…』
麗はそう呟いて再度溜め息を吐くと、ジェームズ達に向かって頭を下げた。
『御免なさい…桜の前に少し寄り道をしても良いかしら』
「別に良」
「迎えに行くのか?」
ジェームズの返事を遮り、翡翠がそう問い掛けた。
『当り前だ』
「椿達は兎も角、蛇は」
『好い加減に騎龍と仲良くしなさい、翡翠』
「……‥無理」
麗は更に溜め息を吐くと翡翠の頭を優しく撫でてやりながら、皆を見た。
『皆…寄り道して良い?』
「別に良いけど…椿って?」
リーマスの質問はもっともだ。訳が分からないモノに時間を割く物好きは滅多にいない。
『私の家族なの。早く迎えに行かなくちゃ…』
麗は嬉しそうに優しく微笑むと、拗ねた様に少し遠くへ行った翡翠を追い掛けた。
シリウスはそれを見ながら桜華に問い掛けた。
「なぁ、麗の家族ってお前みたいなのばっかりなのか?」
桜華は、何かを思い出す様に遠くを見ると、ゆっくりと目を閉じた。
「麗の血縁者は家族とは言えぬ…最悪なモノじゃった。唯一、正面だった両親も事故…事件で記憶を失ってしまっての。事件以来、両親の記憶…過去は麗の術によって仮初めの記憶で補っていたから仲は凄く良かったんじゃが…両親の頭の中の過去は、仮初めの…しかも“平和”に造られた記憶。幼き麗や術者としての麗…何より決して平和では無い麗の置かれた立場を知らぬ両親だ。妾よりも遥かに麗について知らぬ事が多かった…故に血は繋がっているが、家族では無い様なモノだった。麗が両親を護る為に両親に嘘を吐く度、妾にはあの家族が“家族ごっこ”をしている様に見えたもんじゃ。だが妾達妖かしは姿は違えど麗の力も麗自身も信じとるし理解もしておる。血族よりも…麗に近い存在じゃ」
瞬間、桜華が嬉しそうに微笑んだ。
それは大人の麗が微笑んだ様にも見える不思議な光景だった。
「桜華はどうして麗の家族になったんだい?」
リーマスの問いに、桜華は離れた所で翡翠と楽しそうに話す麗を見ながらゆっくりと話し出した。
「…救ってもろうた」
「救う?」
「…妾は…妖桜でな」
「妖桜って、ムグッ」
ジェームズが口を挟み、リーマスが素早くその口を手で塞いだ。
「人に危害を加える力を宿し妖かしとなった桜じゃ。昔は人に尽し、人の為に戦った」
「じゃあ、何で…」
「遠い昔…災厄や戦から人々を護り。妾を好き、妾を家族だと言った人々と下らぬ話をしながら過ぎ行く日々をこの身に感じる……そんな…
そんな穏やかな日々が妾は好きじゃった。満足しとった…幸せだったんじゃ」
桜華の目元が仄かに光り、どこからか現われた小さな桃色の花片が、地に舞い落ちた。
「しかし、ある日…一人の旅の男が人々に問うた。“何故あの様な化物に守られている”“この侭では魂を吸い取られるぞ、それでも良いのか”と…」
桜華は自分の近くに芽をだしている、小さな花の蕾に優しく触れた。
「人々は妾に火を放ち…燃やした。妾は哀しゅうて、苦しゅうて、悔しゅうて…人々を呪い続けた」
呪って…呪って呪って…呪い続けた。
ずっと…ずっと…
何百年も何千年も…
大好きだった人を…
深く呪い続けた──…
そんなある日…
長い銀髪を靡かせ、小さな少女が現れた。血の様な緋色の瞳が宝石の様で綺麗だった。
『なぁ…そなたは桜だろう?』
「御主…何者じゃ」
歳にそぐわぬ落ち着き様…そして同じく歳にそぐわぬ言葉使いの少女だった。
『私は麗』
「…御主、もしや皐月の者か?」
『そうだ』
記憶の中…何百年も前に見た、銀髪緋眼の者の顔が横切った。
「そうじゃ、覚えておるぞ。娘、御主は“セツ”にそっくりじゃ…して皐月の娘が何用で来た?」
『そなたの家族になりに来た』
「…か…ぞく?」
久しく聞いていなかった言葉だった。
『そう、家族だ。私の“家族”になってくれないか…美しい桜』
家族…かつて妾をそう呼んだ者は妾を燃やした…‥
御主も妾を燃やすのだろう?
「根元付近しか残っていない妾を馬鹿にしに来たか、小娘!!それとも今度こそ妾を跡形も無く燃やそうと企む愚かな人間共の差し金か!」
嫌だ…この身を焼く火など疾うに消えた筈なのに…熱い…
何年も、何十年も、何百年も、何千年も…
ずっと熱い。
ずっと痛い。
痛い…痛くて堪らない。
人間の所為だ…
全部人間の所為だ。
厄災から、戦から…
何もかもから散々護ってやったのに…!
妾を家族だと言ったのに…
たった一人の男の…
たった二つの言葉で揺らいだ。
いとも簡単に。
一人残らず皆が揺らいだ…
裏切られた。
忌々しい。
憎い、憎い、憎い、憎い…
呪ってやる。
妾の此の熱さ…
妾の此の痛み…
何千倍にもして返してやる!!
妾は…
人間なんて大嫌いだ──…
「御主に殺れるものならばやってみろ、小さな皐月の子!力を傲った哀れな子!御主が手を下す前に、妾が御主を始末してくれるわ!!」
燃やすならあの時に全てを燃やしてほしかった…
そうしたらこんなに…
哀しゅうて、苦しゅうて、悔しい想いをしなくても良かったのに…
護ってやる程好きだった人間を呪わなくても…
殺さなくても良かったのに…
何でこんな中途半端に焼いた…
御主達が中途半端に焼くから妾には力が残ってしまった。自我が残ってしまった。
小さな皐月の子。
どうせ御主も妾を殺りに来たんだ、早くしておくれ…早く…
早く妾を燃やして──…
『燃やさない。唯、私の家族になってほしいんだ』
何を…言ってるんだ…?
『そうだ!そなたが望むのならその体、修復しよう』
「ッ…!?」
何を言ってるんだ?妾は妖桜なのに…
「妾は…!!」
『森の老木達に聞いたんだ』
「え…?」
少女は手際良く妾の本体に符を貼りながら話を続けた。
『そなたは花をずっと咲かせ続けてとても綺麗だったって。弱い人間達を護り続けた立派な桜だって……唯、今は…哀しくて哀しくて仕方が無いだけだって』
馬鹿みたいだ。
妾を愛してくれていたのは人だけでは無かったのに…
裏切られた悲しみや苦しみに耐えられなくてすっかり忘れていた。
彼等も妾を綺麗だと言ってくれたのに。彼等も妾を好きだと言ってくれたのに。
人はこういう時涙を流すのだろう…
嬉しくて…
嬉しくて…
だけど木である妾は泣く事が出来無くて…
精神だけを本体から出すと、麗が成長した姿を思い浮かべて女の姿になった。
そしてまだ幼い麗の首に腕を回すとそっと抱き付き、赤子の様に泣きつくした。
目から溢れる大粒の水は、止まる事を知ら無い様だった。
麗の着物の肩の布地が涙を含んで色を変える程、妾は涙を零した。
麗は左手で優しく妾の背を撫でながら、右手で妾の本体に符を貼り続けた。
涙が止まる頃には空は赤に沈んでいて、夕刻を告げていた。
妾の本体には符が敷き詰める様に貼られている。
「此の符は何じゃ…?」
『そなたの身を修復する符だ』
「妾を癒すのか…」
『もう一度、人と日々を共にしてみないか?私が死んだら…自分の好きにすれば良い』
そうだな…
人は何れ死ぬ。我等を置いて…
だったらそれまでの短い時を出来るだけ共に…
「分かった。妾は御主の家族となろう」
「妾は最後の瞬間まで麗を見届ける。それが妾の恩返しであり、妾自身の支えじゃ」
そう言って顔を上げた桜華は、ジェームズを視界に入れると変なモノを見た様な顔で眉を寄せた。
「何故御主が泣く」
「良い゙話だなぁ゙と思゙って」
そう言ってジェームズは服の袖で涙を拭きながら鼻をすすった。
「意味が分からん」
桜華は仄かに頬を赤く染めると、照れくさそうに着物の袖でジェームズの涙を脱ぐってやった。
「違う世界に追い掛けてくる程、麗が好きなんだね」
リーマスの言葉に応える様に、桜華は触っていた花の蕾を綺麗に咲かせた。
リーマスはそんな桜華を見て優しく微笑んだ。
「麗の家族をわざと日本に落としてきたんだね?」
「…何故そう思う」
「何となく、だよ」
答えようとせず、微笑むだけのリーマスを一瞥した桜華は、座った状態のまま宙に浮き上がり、空中で制止した。
「
「奴ら?」
「妾と着た三人だ。会えば分かるだろうが、彼奴等はかなり怒っておる」
「マズイの?」
「あぁ、拙いな。妾達は其々色々な意味で麗に執着している…人の命は短い。少しでも時間を奪われれば怒りに触れる」
あぁ、我が主。家族よ…
御主は何時まで生き続けてくれるのだろうな。
「怒りを抑えるは冷静になる時間も必要じゃて」
妾は、永久に…御主の側に居たい。
何故御主は死ぬモノなのだろうな。
そなたが妖かしだったらと思う時が良くある。
そうであれば長く長く一緒に居られると…
「
そう思う妾は…
「麗をここに送ったモノは
妾は咎人だな──…