第1章 始マリノ謳
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2
私は異常だ。
しかし世界とは不思議なもので溢れている。
私は初めての光景に目を輝かせるしかなかった。
=白の図書館=
──…おい……き…ろ…
ハッキリしない私の頭にそう聞き覚えの無い声が響いた。正直、不快だった。ウルサイ……
──…きろ……て……
そっとしておいてほしい…何故か異様に眠い。眠るのが嫌いな私には、こんな感覚は初めてで…心地好くて…
お願いだからこのまま静かに…
「おい、好い加減にしないと二度と起きれない様にするぞ」
麗は閉じていた目を押し開くと、勢い良く起き上がり…そして言葉を失った。
快晴の空の様な長い髪に、それよりも少し濃い色の瞳の綺麗な男が、地に座る自分を見下ろしていたからだ。白い服を見に纏った男は、空を落とした様だった。
「始めからそうしろ」
『……きれ…』
「あ゙?」
『ぁ…済まない。何でもない』
思い切り睨まれた。男は怒りっぽいらしく、綺麗な顔の眉間に不機嫌そうに皺を寄せている。
男から目を逸らそうと辺りを見回した麗は首を傾げた。
『ここ…どこ』
辺りは一面真っ白だった。白以外の色は男の肌、髪、瞳しか見当たらない。縦にも横にも先の見えない真白の本棚が、自分と男の居る場所を中心に、四方八方に伸びている。
先が見えない程に天に向かって続き…先が見えない程に長々と横にも続いている本棚と、そこに仕舞われた大量の本。
これだけ大きな本棚なのに入りきらなかったのか、溢れた本が床に山済みになったり雪崩たりと散乱している。そのどれもが、表紙も背表紙も真っ白だった。
異常だ。
ただの白で統一された部屋では決して無い。広すぎる…
壁や天井が見当たらないとかそういう問題では無い。そもそも白過ぎて認識が出来無いし、認識出来る範囲も…ここは部屋では無い“空間”だ。
「ここは“世界の境”俺はここの管理者だ。今からお前をお前の好きな世界に飛ばしてやる…その後は好きにしろ」
『…はい?』
そう声を上げた麗を見て、男は溜め息を吐くと再度口を開いた。
「兎に角…好きな世界に行かせてやるから好きな所を選べ」
『好きな世界って言われても…』
好きな世界に行けるって…あぁ、夢か。
「一つの世界は一冊の本でできている。ここの本棚に詰まっている本は、それ一冊一冊が一つの世界だ」
『本一冊が一つの世界…』
「…好きな本くらいあるだろ」
私の知っている本が一つの世界と認識されている…そして私は好きな世界を選べると。
何て贅沢な夢なんだろう。
それとも何だ?ここは死ぬと来る場所なのか。
『……馬鹿な事を…』
そんな事は無いか。私という存在はそう簡単に死ねるものでは無いのだから。
「早くしろ」
『んー…他を見れるチャンスなど他には無いのだから、洋術が気になるな。感覚的なものは学ぶには楽だから魔法や魔術で呪式や呪文があると嬉しい。あぁ、此の間見せて貰った作品の詩魔法にも興味があるな。他にも色々な魔法や魔術を…あぁ、でもミステリーも捨てがたい!ポワロ、ミス・マープル、ブラウン神父、ホームズ…それともスウィフト、フーコー、ウェルズ!!あぁ、考え出したら切りが無い!』
どうせ夢ならば好きな所へ行きたい。
術を学びに行くか、世界観を楽しみに行くか、憧れの人に会いに行くか!
「色々読んでるな」
『あぁ、元々書物は好きで…でも私の家には古い文献しかなくて、娯楽品は見た事がなかったんだが、ここ数年色々なジャンルの本をプレゼントしてもらって…』
……あれ…?
『プレゼント…してもらって…』
部屋に溢れかえる沢山の本と少しのゲーム。
それらをくれたのは…
与えてくれたのは…誰──……
「面倒臭い」
『ぇ…』
「こっちで選ぶ」
『は……選ばせてくれるんじゃなかったの?!』
人に考えさせといて…無い、あんまりだ。淡い期待を持たせて…
「煩ぇ、地獄に送るぞ」
『どこでも構わない』
麗はさっさと返事をすると形だけ大人しくした。
さっきから何度やっても自分の力が使え無い…だから今は喧嘩などしない方が身の為だった。
この男はきっと私が持っている“それ”とは違う力を持っている。魔法や術の類を使われたら敵わない。となれば動かない、抵抗しないが鉄則だ。夢であろうと現実に害を及ぼす可能性は捨てきれないのだから危険は犯せない。
全く、厄介な事だ…
『ぁ…』
肝心な事を忘れていた。
『名前は?』
「は…?」
“訳が分からない”と言いたげに眉間に皺を寄せた男を、麗はしっかりと見据えた。
『貴方の名前…何ていうの?』
少し驚いた様だった男は、ニヤリと口角を上げて笑った。
「イアンだ、ガキ」
『レディー捕まえて餓鬼とはなんだ!アタシの名は麗だ、皐月麗!!』
瞬間、そう言った麗を見てイアンは表情を歪めた。
「……お前…」
『何?』
急に不機嫌そうになったイアンに麗はそう問い掛けたが、イアンは“そのうち戻るだろう”と呟いただけでそっぽを向いてしまった。
『戻る…?』
「もう行くぞ」
イアンが軽く手を振ると、身丈程もある大きな杖がイアンの右手に納まった。魔具の様な装飾品が付いていてとても綺麗な杖だ。
イアンは杖をきちんと握り締めると、空いている左腕を麗の腰に回した。
「“我、管理者イアン…理・秩序・修正を以て小さき世界を統べる者”」
全てが見えない程巨大な魔法陣が蒼白く床に浮かび上がり、光り出す…
その光景はとても綺麗だったが、光に照らされたイアンの髪もキラキラと光っていて綺麗だった。
『イアンは来ないの?』
「……お前が呼んだら行ってやるよ」
『直ぐ呼ぶ』
「止めろ」
『ぇ、何?もしかして長いの?』
「……」
『感覚的に何日間の旅なの?』
「さぁな」
『じゃあ、日に三回呼ぶ』
イアンは不機嫌そうに眉を寄せた。
「…止めろ、鬱陶しい」
『はいはい』
詰まらん奴だ。翡翠達なら呼ばなくても……翡翠…達なら…
『…翡翠や父さんと母さんは出て来ないんだな』
「……」
『私に影響されても可笑しく無いと思ったけど…まぁ、そんなもんか』
「……何言ってるんだ」
『ぇ?ん…まぁ、夢なのに気が利かないなって』
好きな世界に行けるだなんて夢、父さん達や皆が居たらもっと楽しいのに。
「…死んだ」
『………死んだ?』
「……」
事故の映像…最後の記憶が頭を過ぎった。
生身の人間である父さんと母さんがあの事故で生きている筈がない。
『あれ…本当にあった事なの?』
「……」
『まさかね。これ、夢なんでしょ?』
「……」
イアンは何も答えない。しかしこれは夢だ。
私達が“あれ”に対処出来無い筈が無い。あの状況で両親が死ぬだなんて無い。絶対にだ。
『あれは有り得ない事だ』
そういう風には出来ていない。
ならばこれは夢だ。夢じゃないと…夢でなければいけない。
分かってはいても…夢であっても両親が死ぬとは嫌な気分だ。
「…あの狐なら後からお前の所に送ってやる」
『翡翠…?』
イアンは本棚から二冊の本を取り出すと、口を開いた。
「アレは本来、死にはしないだろ」
『…何の事だ?』
「腹の探り合いをしてる時間は無い。俺は“それ”を知っているが、お前に危害を加えるつもりは無い…それで十分だろ」
確かにあの子は“消滅”はしても死にはしない。あの程度の事故では消滅すら出来無いし、消滅させられるのは同等なモノか術者だ。
それを知っているのは夢だからか、それとも…
「信じてないな」
瞬間、頭を鷲掴みにされた。
直ぐに頭を掴むイアンの手首を両手で掴み、足を蹴り上げる。顎に入れたつもりの足は、スパンッという音を立ててイアンの手に止められてしまった。手放した杖が宙にピタリと止まっている。
身体を捻って拘束を解こうとした瞬間、全身に電撃が走った。
『ッ…!!!』
衝撃が走ったのは一瞬で、ピリピリとした感覚が少しだけ残る。
どう考えても殺すには弱いものだった。でもこれ…
『……痛い…?』
痛みがある。
夢じゃ…ない…?
「理由があってお前を送る」
『止めろ!!!』
「黙ってろ」
『直ぐに帰せ!!私が居なくては家が色々と困った事になる』
「無理だ。お前を返せば余計酷い目にあう……今は従え。従わないなら、お前の大事な者達を厄災よりも先に殺す』
『災い?』
「……」
『……その災いは…私を以 ってしても防げぬと?』
「あぁ、無理だ」
『従えば家の者達を助けられるのか…?』
「あぁ、恐らくな」
『………従おう』
頭と足。両方から手を離されて、身体が床へと落ちた。鈍った身体で着地し、ゆっくり立ち上がる。
「詩を謳う事で魔法が使えるようにしといた…と言ってもお前には必要無いだろうがな」
『でも仕組みが違う……詩魔法か…凄いな、レーヴァテイルみたいだ』
「一つしか行けないからな」
『そう…オマケね』
イアンの右手が杖に、左手が私の腰に添えられた。
「もう行くぞ」
『えぇ…世界の境の管理者』
蒼白い光が二人を包む。
この時、微かにイアンが呪文の様なものを唱えていたのが聞こえたが、それは麗には理解出来ない言葉だった……
キャハハハハハハ!!
もう直ぐ…
もう直ぐだぜぇ……ククク…
大丈夫…
きっと大丈夫だ──……
私は異常だ。
しかし世界とは不思議なもので溢れている。
私は初めての光景に目を輝かせるしかなかった。
=白の図書館=
──…おい……き…ろ…
ハッキリしない私の頭にそう聞き覚えの無い声が響いた。正直、不快だった。ウルサイ……
──…きろ……て……
そっとしておいてほしい…何故か異様に眠い。眠るのが嫌いな私には、こんな感覚は初めてで…心地好くて…
お願いだからこのまま静かに…
「おい、好い加減にしないと二度と起きれない様にするぞ」
麗は閉じていた目を押し開くと、勢い良く起き上がり…そして言葉を失った。
快晴の空の様な長い髪に、それよりも少し濃い色の瞳の綺麗な男が、地に座る自分を見下ろしていたからだ。白い服を見に纏った男は、空を落とした様だった。
「始めからそうしろ」
『……きれ…』
「あ゙?」
『ぁ…済まない。何でもない』
思い切り睨まれた。男は怒りっぽいらしく、綺麗な顔の眉間に不機嫌そうに皺を寄せている。
男から目を逸らそうと辺りを見回した麗は首を傾げた。
『ここ…どこ』
辺りは一面真っ白だった。白以外の色は男の肌、髪、瞳しか見当たらない。縦にも横にも先の見えない真白の本棚が、自分と男の居る場所を中心に、四方八方に伸びている。
先が見えない程に天に向かって続き…先が見えない程に長々と横にも続いている本棚と、そこに仕舞われた大量の本。
これだけ大きな本棚なのに入りきらなかったのか、溢れた本が床に山済みになったり雪崩たりと散乱している。そのどれもが、表紙も背表紙も真っ白だった。
異常だ。
ただの白で統一された部屋では決して無い。広すぎる…
壁や天井が見当たらないとかそういう問題では無い。そもそも白過ぎて認識が出来無いし、認識出来る範囲も…ここは部屋では無い“空間”だ。
「ここは“世界の境”俺はここの管理者だ。今からお前をお前の好きな世界に飛ばしてやる…その後は好きにしろ」
『…はい?』
そう声を上げた麗を見て、男は溜め息を吐くと再度口を開いた。
「兎に角…好きな世界に行かせてやるから好きな所を選べ」
『好きな世界って言われても…』
好きな世界に行けるって…あぁ、夢か。
「一つの世界は一冊の本でできている。ここの本棚に詰まっている本は、それ一冊一冊が一つの世界だ」
『本一冊が一つの世界…』
「…好きな本くらいあるだろ」
私の知っている本が一つの世界と認識されている…そして私は好きな世界を選べると。
何て贅沢な夢なんだろう。
それとも何だ?ここは死ぬと来る場所なのか。
『……馬鹿な事を…』
そんな事は無いか。私という存在はそう簡単に死ねるものでは無いのだから。
「早くしろ」
『んー…他を見れるチャンスなど他には無いのだから、洋術が気になるな。感覚的なものは学ぶには楽だから魔法や魔術で呪式や呪文があると嬉しい。あぁ、此の間見せて貰った作品の詩魔法にも興味があるな。他にも色々な魔法や魔術を…あぁ、でもミステリーも捨てがたい!ポワロ、ミス・マープル、ブラウン神父、ホームズ…それともスウィフト、フーコー、ウェルズ!!あぁ、考え出したら切りが無い!』
どうせ夢ならば好きな所へ行きたい。
術を学びに行くか、世界観を楽しみに行くか、憧れの人に会いに行くか!
「色々読んでるな」
『あぁ、元々書物は好きで…でも私の家には古い文献しかなくて、娯楽品は見た事がなかったんだが、ここ数年色々なジャンルの本をプレゼントしてもらって…』
……あれ…?
『プレゼント…してもらって…』
部屋に溢れかえる沢山の本と少しのゲーム。
それらをくれたのは…
与えてくれたのは…誰──……
「面倒臭い」
『ぇ…』
「こっちで選ぶ」
『は……選ばせてくれるんじゃなかったの?!』
人に考えさせといて…無い、あんまりだ。淡い期待を持たせて…
「煩ぇ、地獄に送るぞ」
『どこでも構わない』
麗はさっさと返事をすると形だけ大人しくした。
さっきから何度やっても自分の力が使え無い…だから今は喧嘩などしない方が身の為だった。
この男はきっと私が持っている“それ”とは違う力を持っている。魔法や術の類を使われたら敵わない。となれば動かない、抵抗しないが鉄則だ。夢であろうと現実に害を及ぼす可能性は捨てきれないのだから危険は犯せない。
全く、厄介な事だ…
『ぁ…』
肝心な事を忘れていた。
『名前は?』
「は…?」
“訳が分からない”と言いたげに眉間に皺を寄せた男を、麗はしっかりと見据えた。
『貴方の名前…何ていうの?』
少し驚いた様だった男は、ニヤリと口角を上げて笑った。
「イアンだ、ガキ」
『レディー捕まえて餓鬼とはなんだ!アタシの名は麗だ、皐月麗!!』
瞬間、そう言った麗を見てイアンは表情を歪めた。
「……お前…」
『何?』
急に不機嫌そうになったイアンに麗はそう問い掛けたが、イアンは“そのうち戻るだろう”と呟いただけでそっぽを向いてしまった。
『戻る…?』
「もう行くぞ」
イアンが軽く手を振ると、身丈程もある大きな杖がイアンの右手に納まった。魔具の様な装飾品が付いていてとても綺麗な杖だ。
イアンは杖をきちんと握り締めると、空いている左腕を麗の腰に回した。
「“我、管理者イアン…理・秩序・修正を以て小さき世界を統べる者”」
全てが見えない程巨大な魔法陣が蒼白く床に浮かび上がり、光り出す…
その光景はとても綺麗だったが、光に照らされたイアンの髪もキラキラと光っていて綺麗だった。
『イアンは来ないの?』
「……お前が呼んだら行ってやるよ」
『直ぐ呼ぶ』
「止めろ」
『ぇ、何?もしかして長いの?』
「……」
『感覚的に何日間の旅なの?』
「さぁな」
『じゃあ、日に三回呼ぶ』
イアンは不機嫌そうに眉を寄せた。
「…止めろ、鬱陶しい」
『はいはい』
詰まらん奴だ。翡翠達なら呼ばなくても……翡翠…達なら…
『…翡翠や父さんと母さんは出て来ないんだな』
「……」
『私に影響されても可笑しく無いと思ったけど…まぁ、そんなもんか』
「……何言ってるんだ」
『ぇ?ん…まぁ、夢なのに気が利かないなって』
好きな世界に行けるだなんて夢、父さん達や皆が居たらもっと楽しいのに。
「…死んだ」
『………死んだ?』
「……」
事故の映像…最後の記憶が頭を過ぎった。
生身の人間である父さんと母さんがあの事故で生きている筈がない。
『あれ…本当にあった事なの?』
「……」
『まさかね。これ、夢なんでしょ?』
「……」
イアンは何も答えない。しかしこれは夢だ。
私達が“あれ”に対処出来無い筈が無い。あの状況で両親が死ぬだなんて無い。絶対にだ。
『あれは有り得ない事だ』
そういう風には出来ていない。
ならばこれは夢だ。夢じゃないと…夢でなければいけない。
分かってはいても…夢であっても両親が死ぬとは嫌な気分だ。
「…あの狐なら後からお前の所に送ってやる」
『翡翠…?』
イアンは本棚から二冊の本を取り出すと、口を開いた。
「アレは本来、死にはしないだろ」
『…何の事だ?』
「腹の探り合いをしてる時間は無い。俺は“それ”を知っているが、お前に危害を加えるつもりは無い…それで十分だろ」
確かにあの子は“消滅”はしても死にはしない。あの程度の事故では消滅すら出来無いし、消滅させられるのは同等なモノか術者だ。
それを知っているのは夢だからか、それとも…
「信じてないな」
瞬間、頭を鷲掴みにされた。
直ぐに頭を掴むイアンの手首を両手で掴み、足を蹴り上げる。顎に入れたつもりの足は、スパンッという音を立ててイアンの手に止められてしまった。手放した杖が宙にピタリと止まっている。
身体を捻って拘束を解こうとした瞬間、全身に電撃が走った。
『ッ…!!!』
衝撃が走ったのは一瞬で、ピリピリとした感覚が少しだけ残る。
どう考えても殺すには弱いものだった。でもこれ…
『……痛い…?』
痛みがある。
夢じゃ…ない…?
「理由があってお前を送る」
『止めろ!!!』
「黙ってろ」
『直ぐに帰せ!!私が居なくては家が色々と困った事になる』
「無理だ。お前を返せば余計酷い目にあう……今は従え。従わないなら、お前の大事な者達を厄災よりも先に殺す』
『災い?』
「……」
『……その災いは…私を
「あぁ、無理だ」
『従えば家の者達を助けられるのか…?』
「あぁ、恐らくな」
『………従おう』
頭と足。両方から手を離されて、身体が床へと落ちた。鈍った身体で着地し、ゆっくり立ち上がる。
「詩を謳う事で魔法が使えるようにしといた…と言ってもお前には必要無いだろうがな」
『でも仕組みが違う……詩魔法か…凄いな、レーヴァテイルみたいだ』
「一つしか行けないからな」
『そう…オマケね』
イアンの右手が杖に、左手が私の腰に添えられた。
「もう行くぞ」
『えぇ…世界の境の管理者』
蒼白い光が二人を包む。
この時、微かにイアンが呪文の様なものを唱えていたのが聞こえたが、それは麗には理解出来ない言葉だった……
キャハハハハハハ!!
もう直ぐ…
もう直ぐだぜぇ……ククク…
大丈夫…
きっと大丈夫だ──……