第1章 始マリノ謳
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26
もぞもぞと身動ぐ麗はゆっくりと起き上がって欠伸をした。
口元を抑える手をそのままに溜め息を一つ。
『寒い…』
そう言いながらもちゃんと布団から這い出てベッドから降りた麗は、着替えると直ぐに鍛錬室に向かった。
一通り身体を動かしてお風呂に入り、すっかり温まった麗は、部屋の窓から外を見下ろして目を見開いた。
=納戸の奥に=
先ず一言言おう。
だって今を飾るにはこの言葉しか思いつかない。
“非常に不味い”
と言うのも、私は大事な事を忘れていたのだ。
非常に…非常に大事な事。
クリスマスプレゼントは勿論、クリスマスカードさえまだ買っていません。
人生で初めての冬休みという事もあるが、何より帰る場所の無い私の為に仕掛人達がホグワーツに残ってくれたので、嬉しくて浮かれ過ぎた。
頭の中ではすっかり日にちが飛び、四週間程前から談話室と大広間に置かれたクリスマスツリーは見慣れて、クリスマスを過ごした事の無い私の感覚は最早ゼロに等しかった。
まさかルビウスがプレゼントを抱えて小屋に入って行くのを部屋から見て漸く思い出すとは…
「で、麗は何買ったんだ?」
大広間で仕掛人と共に朝食をとりながら考え込んでいた麗は、シリウスの声で現実に戻り、思わず手にしていたフォークを落としそうになった。
翡翠は麗の異変に気付いた様で、小さく笑った。
『……シリウス、そういうものは楽しみに取っておくものよ』
取り敢えず買ってあるふりをしておくのが一番だ。
「だってさ、シリウス」
「ん…じゃあ、俺のも秘密な」
「明日が楽しみだね。麗も僕のプレゼント楽しみにしててね」
「ぼ、ボクのも楽しみにして」
『えぇ、楽しみにしとくわ』
さて、危機を回避したは良いがどうしようか…ここは日本じゃ無いのだからクリスマスは特別だ。カードさえ用意してないだなんて…きっとあってはならない。
そもそも家族と過ごす日なのに私達の為に残ってくれてのだからこれは最悪だ。プレゼント交換の提案を仕事中にされて忙しさの余り二つ返事で承諾してしまった自分が恨めしい。
新しい術式組んでる時に話し掛けるんだもの……まぁ、殆ど人が居ないからって談話室でやってた私も悪いんだけど。
『私、用事があるから先に行くわね』
麗は五人に向かって微笑むと、脇見も振り返りもせずに、肩に乗った紙園を落とさない様に走って大広間を出て行った。
廊下で声を掛けられても、挨拶を返すだけで決して立ち止まりはしなかった。
直ぐに作れるのケーキや夕食等の料理だが、それで誤魔化すのは気が引ける。
『蒼!!』
一直線に部屋へと帰った麗は、自室の扉を勢い良く開けると蒼を捜しながら棚にしまってあった財布を取り出してポケットに突っ込んだ。
「どうした…慌ただしい」
麗は寝室から出てきた蒼に抱き付くと、軽く前後に揺すった。
『蒼、付き合って!!』
「は…?」
蒼は何が何だか分からず眉を寄せた。
『買い物に行きたいんだ!一緒に来てくれ!!』
「あぁ…なるほどな」
蒼は麗の顔を除き込むと、意地悪くニヤリと笑った。
「例のプレゼントを買って無いんだろ?」
『……正解…』
蒼は麗の腕を掴み、窓際へ向かって歩きながら話を続けた。
「用意は出来ているのか?」
『出来てる!』
「どこまで行く。開いてる店は無いぞ」
『やっぱりそうだよねー』
窓へ着くと蒼は鷹の姿に戻ろうとするが、不意に麗はそれを止めた。
『人型で行こう。この時間、蒼は目立つし、そもそも遠出が必要だ』
「分かった。そいつは置いて行くんだろう?」
蒼は麗の肩に乗っている紙園を横目でチラリと見た。
『勿論』
「何を言ってる連れて行け!」
『駄目、紙園は御留守…そろそろ翡翠が帰ってくると思うけど』
「なら連れて行け!」
『駄目、ちょっと危ない所に行くのよ』
麗は紙園を肩から降ろして棚の上に置くと、蒼の腕に己の腕手を絡める。
「…どの位で帰ってくる?」
紙園は着いて行くのを諦めたらしく、棚から飛び降りながら人型になり、不機嫌そうな顔で麗を見据えた。
『夕方までには帰るよ、きっと』
少しの間呪文を唱えていた麗は“ではな”と言うと蒼と共に消え去った。
「…下手したら夕食に間に合わなそうだな」
紙園の呟きだけが室内に静かに響き渡った。
麗と蒼が目を開くと、そこは麗の部屋だった。
首を傾げる蒼の腕を引いてそっと本棚へと近付いた麗は、グッと本棚を引いた。
カチャッと音を立てて軽く動いた本棚の先には一つの扉があった。蒼を押し込むと、一緒に中に入る。
『“ハーモニハ・ネクテレ・パサス”』
そう呪文を唱えて扉を開くと、そこは納戸だった。
綺麗に整理された小さな部屋の引き戸を開けれて出れば和式の部屋が広がる。
「本当に術で行くかと」
『紙園が後から付いてきちゃうもの。あの扉は内緒よ。だから術を使った様に見せたのよ』
麗は蒼の腕を引いて部屋を出ると、階段を降り廊下を進んだ。すると丁度一室から女性が出て来た。
「あら、いらっしゃってたんどすか」
『えぇ、用事があってね』
「まぁまぁ、急で」
「え、なになに?麗様来てるの?おかあさん!」
「小梅!はしたない!」
奥で注意されながらバタバタと音を立て慌ただしく部屋から顔を出した女は、麗を見付けるとギュッと抱き着いた。
『小梅、久しぶ』
「はぁあぁぁ、可愛い!麗様いつ見ても可愛い!!」
『ぇ、あの』
「こら!小梅!!!」
奥から出てきた別の女に首根っこを掴まれた小梅はぐえっと洩らしながら麗から引き離された。
「堪忍、麗様。この子いつになったら落ち着くんだか…御座敷上げられやしませんよ」
「まぁ、それを決めるのは私よ」
「おかあさんが許してもダメどす」
『ふふ、二人に任せるわ』
「ねぇねぇ麗様、今日はどうしたんです?やっぱり蒼様とデート?翡翠様置いてきぼり??」
「こら、小梅…麗様、今日お会いできて良かったわ。お夕食は召し上がります?蒼様と外で召し上がってまいりますか?」
『今日は買い物に来ただけなのよ。直ぐ退散するわ』
「あら、残念」
「えー、麗様と夕ご飯食べたかったぁ」
「小梅、あんたいい加減におしよ」
『いいのよ、久鈴 。小梅、また今度ね』
「はーい」
玄関で靴を履いた麗は、蒼の腕を組むと小さく手を振って茶屋を後にした。
「相変わらず騒がしいな」
『小梅は元気だから』
「久鈴も大変だ」
『そうね』
プレゼントを買いに日本まで出向いたわけだが…こちらも“あちら”と一緒で賑やかだ。
『こちらの日本もクリスマスはお店がやってて良かったわ』
やってなかったらどうしようかと…
「凄いな…こんな日まで働くのか」
『日本ではクリスマスは子供や恋人達の行事に近いから、お店は稼ぎ時なのよ』
「家族があるのだから静かに過ごせば良いものを」
『そうね…でもきっとそれが当たり前なら特別な事をしたくなるんじゃないかしら』
「……」
『どちらにしろお店が開いてて助かったわ』
書店に足を踏み入れた麗は“それにしても”と続けた。
『仕掛人達にプレゼントを渡すとなると、他にも渡さなきゃいけない人達がいると思うの』
約束したしてないの問題じゃない。
『リリー、リザ、シーラ…女の子達はアクセサリーで良いのよ。でも他は?』
「ジェームズは面白けりゃなんでも大丈夫だろ」
『あぁ、確かに…ピーターも何でも喜んでくれそうよね。セブは本で大丈夫だろうし、リーマスも…』
「何を悩んでる」
「シリウス、レギュラス、ルシウス、ラバスタン…あの金持ち共に一体何を買えと言うの?』
私が買う物何て絶対持ってる。御坊ちゃまなのだから。
麗は棚に並べられた沢山の商品を睨み付けた。
「…日本の物なら持っていないんじゃないか?」
蒼の一言に、麗は目を輝かせた。
嬉しそうに笑った麗は、セブルスの為に選んだ本をギュッと抱き締めた。
『これで安心ね』
今年のクリスマスは…
取り敢えず何とか乗り切れそうだ。
もぞもぞと身動ぐ麗はゆっくりと起き上がって欠伸をした。
口元を抑える手をそのままに溜め息を一つ。
『寒い…』
そう言いながらもちゃんと布団から這い出てベッドから降りた麗は、着替えると直ぐに鍛錬室に向かった。
一通り身体を動かしてお風呂に入り、すっかり温まった麗は、部屋の窓から外を見下ろして目を見開いた。
=納戸の奥に=
先ず一言言おう。
だって今を飾るにはこの言葉しか思いつかない。
“非常に不味い”
と言うのも、私は大事な事を忘れていたのだ。
非常に…非常に大事な事。
クリスマスプレゼントは勿論、クリスマスカードさえまだ買っていません。
人生で初めての冬休みという事もあるが、何より帰る場所の無い私の為に仕掛人達がホグワーツに残ってくれたので、嬉しくて浮かれ過ぎた。
頭の中ではすっかり日にちが飛び、四週間程前から談話室と大広間に置かれたクリスマスツリーは見慣れて、クリスマスを過ごした事の無い私の感覚は最早ゼロに等しかった。
まさかルビウスがプレゼントを抱えて小屋に入って行くのを部屋から見て漸く思い出すとは…
「で、麗は何買ったんだ?」
大広間で仕掛人と共に朝食をとりながら考え込んでいた麗は、シリウスの声で現実に戻り、思わず手にしていたフォークを落としそうになった。
翡翠は麗の異変に気付いた様で、小さく笑った。
『……シリウス、そういうものは楽しみに取っておくものよ』
取り敢えず買ってあるふりをしておくのが一番だ。
「だってさ、シリウス」
「ん…じゃあ、俺のも秘密な」
「明日が楽しみだね。麗も僕のプレゼント楽しみにしててね」
「ぼ、ボクのも楽しみにして」
『えぇ、楽しみにしとくわ』
さて、危機を回避したは良いがどうしようか…ここは日本じゃ無いのだからクリスマスは特別だ。カードさえ用意してないだなんて…きっとあってはならない。
そもそも家族と過ごす日なのに私達の為に残ってくれてのだからこれは最悪だ。プレゼント交換の提案を仕事中にされて忙しさの余り二つ返事で承諾してしまった自分が恨めしい。
新しい術式組んでる時に話し掛けるんだもの……まぁ、殆ど人が居ないからって談話室でやってた私も悪いんだけど。
『私、用事があるから先に行くわね』
麗は五人に向かって微笑むと、脇見も振り返りもせずに、肩に乗った紙園を落とさない様に走って大広間を出て行った。
廊下で声を掛けられても、挨拶を返すだけで決して立ち止まりはしなかった。
直ぐに作れるのケーキや夕食等の料理だが、それで誤魔化すのは気が引ける。
『蒼!!』
一直線に部屋へと帰った麗は、自室の扉を勢い良く開けると蒼を捜しながら棚にしまってあった財布を取り出してポケットに突っ込んだ。
「どうした…慌ただしい」
麗は寝室から出てきた蒼に抱き付くと、軽く前後に揺すった。
『蒼、付き合って!!』
「は…?」
蒼は何が何だか分からず眉を寄せた。
『買い物に行きたいんだ!一緒に来てくれ!!』
「あぁ…なるほどな」
蒼は麗の顔を除き込むと、意地悪くニヤリと笑った。
「例のプレゼントを買って無いんだろ?」
『……正解…』
蒼は麗の腕を掴み、窓際へ向かって歩きながら話を続けた。
「用意は出来ているのか?」
『出来てる!』
「どこまで行く。開いてる店は無いぞ」
『やっぱりそうだよねー』
窓へ着くと蒼は鷹の姿に戻ろうとするが、不意に麗はそれを止めた。
『人型で行こう。この時間、蒼は目立つし、そもそも遠出が必要だ』
「分かった。そいつは置いて行くんだろう?」
蒼は麗の肩に乗っている紙園を横目でチラリと見た。
『勿論』
「何を言ってる連れて行け!」
『駄目、紙園は御留守…そろそろ翡翠が帰ってくると思うけど』
「なら連れて行け!」
『駄目、ちょっと危ない所に行くのよ』
麗は紙園を肩から降ろして棚の上に置くと、蒼の腕に己の腕手を絡める。
「…どの位で帰ってくる?」
紙園は着いて行くのを諦めたらしく、棚から飛び降りながら人型になり、不機嫌そうな顔で麗を見据えた。
『夕方までには帰るよ、きっと』
少しの間呪文を唱えていた麗は“ではな”と言うと蒼と共に消え去った。
「…下手したら夕食に間に合わなそうだな」
紙園の呟きだけが室内に静かに響き渡った。
麗と蒼が目を開くと、そこは麗の部屋だった。
首を傾げる蒼の腕を引いてそっと本棚へと近付いた麗は、グッと本棚を引いた。
カチャッと音を立てて軽く動いた本棚の先には一つの扉があった。蒼を押し込むと、一緒に中に入る。
『“ハーモニハ・ネクテレ・パサス”』
そう呪文を唱えて扉を開くと、そこは納戸だった。
綺麗に整理された小さな部屋の引き戸を開けれて出れば和式の部屋が広がる。
「本当に術で行くかと」
『紙園が後から付いてきちゃうもの。あの扉は内緒よ。だから術を使った様に見せたのよ』
麗は蒼の腕を引いて部屋を出ると、階段を降り廊下を進んだ。すると丁度一室から女性が出て来た。
「あら、いらっしゃってたんどすか」
『えぇ、用事があってね』
「まぁまぁ、急で」
「え、なになに?麗様来てるの?おかあさん!」
「小梅!はしたない!」
奥で注意されながらバタバタと音を立て慌ただしく部屋から顔を出した女は、麗を見付けるとギュッと抱き着いた。
『小梅、久しぶ』
「はぁあぁぁ、可愛い!麗様いつ見ても可愛い!!」
『ぇ、あの』
「こら!小梅!!!」
奥から出てきた別の女に首根っこを掴まれた小梅はぐえっと洩らしながら麗から引き離された。
「堪忍、麗様。この子いつになったら落ち着くんだか…御座敷上げられやしませんよ」
「まぁ、それを決めるのは私よ」
「おかあさんが許してもダメどす」
『ふふ、二人に任せるわ』
「ねぇねぇ麗様、今日はどうしたんです?やっぱり蒼様とデート?翡翠様置いてきぼり??」
「こら、小梅…麗様、今日お会いできて良かったわ。お夕食は召し上がります?蒼様と外で召し上がってまいりますか?」
『今日は買い物に来ただけなのよ。直ぐ退散するわ』
「あら、残念」
「えー、麗様と夕ご飯食べたかったぁ」
「小梅、あんたいい加減におしよ」
『いいのよ、
「はーい」
玄関で靴を履いた麗は、蒼の腕を組むと小さく手を振って茶屋を後にした。
「相変わらず騒がしいな」
『小梅は元気だから』
「久鈴も大変だ」
『そうね』
プレゼントを買いに日本まで出向いたわけだが…こちらも“あちら”と一緒で賑やかだ。
『こちらの日本もクリスマスはお店がやってて良かったわ』
やってなかったらどうしようかと…
「凄いな…こんな日まで働くのか」
『日本ではクリスマスは子供や恋人達の行事に近いから、お店は稼ぎ時なのよ』
「家族があるのだから静かに過ごせば良いものを」
『そうね…でもきっとそれが当たり前なら特別な事をしたくなるんじゃないかしら』
「……」
『どちらにしろお店が開いてて助かったわ』
書店に足を踏み入れた麗は“それにしても”と続けた。
『仕掛人達にプレゼントを渡すとなると、他にも渡さなきゃいけない人達がいると思うの』
約束したしてないの問題じゃない。
『リリー、リザ、シーラ…女の子達はアクセサリーで良いのよ。でも他は?』
「ジェームズは面白けりゃなんでも大丈夫だろ」
『あぁ、確かに…ピーターも何でも喜んでくれそうよね。セブは本で大丈夫だろうし、リーマスも…』
「何を悩んでる」
「シリウス、レギュラス、ルシウス、ラバスタン…あの金持ち共に一体何を買えと言うの?』
私が買う物何て絶対持ってる。御坊ちゃまなのだから。
麗は棚に並べられた沢山の商品を睨み付けた。
「…日本の物なら持っていないんじゃないか?」
蒼の一言に、麗は目を輝かせた。
嬉しそうに笑った麗は、セブルスの為に選んだ本をギュッと抱き締めた。
『これで安心ね』
今年のクリスマスは…
取り敢えず何とか乗り切れそうだ。