第1章 始マリノ謳
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20
「一度堕ちようとも気高き身に変わりはない」
時を超える事も。
時空を超える事も。
一度死した妾には関係の無い事だ。
「あの子が救ったこの身は美しいし、妾の力は膨大だ」
捨て置く者には申し訳無いとは思うが、妾は眷属がいない。
この未来 何があろうと悲しくは無い。
「さあ、充分過ぎる条件であろう。有り難く受け取れ」
この身が削られても、この力が薄れようとも。
そんな事は関係無い。
全てを捧げよう。
「対価は妾だ」
=舞い込みし者=
「全く、こんな時間まで悪戯だなんて…子供なんだから」
「リリー、僕は…」
「黙りなさい、ジェームズ。私は麗が心配するのを見たく無いのよ」
「あぁ、それは困るね」
「あら、分かってるじゃない、リーマス。だったらやら無い事ね。第一、心配する麗をシーラが見たら…」
シーラは必ず怒り狂う。
談話室の暖炉の前で正座をし、後ろからの熱気に堪えながらシーラに怒鳴られ続ける……前にやられたそれを思い出した仕掛人の三人は冷や汗をかいた。
「今度から気を付けるよ」
「それが懸命ね。ジェームズとシリウスもよ?」
「あぁ、分かった」
「勿論だよリリー!!シーラの拷問に近い説教なんて二度とごめんさ!」
調子に乗ってリリーに抱き付こうとするジェームズの顔を不意にシリウスが押さえた。
「何するんだシリウス!」
「静かにしろ!何か来る…」
ジェームズが静かになりすっかり静まりかえった長い長い廊下の先の方を一瞬、素早く影が二つ動いた。
「何だい、あれ?」
「近付いて来るな…しかもかなり速い」
「リリー…」
リーマスとシリウスは杖を出し身構え、ジェームズはリリーを庇う様に抱き締めた。
近付いてきた影は…
『居た!!』
「「「「麗!?」」」」
麗だった。頭上を蒼が飛んでいる。
『全く…探したのよ?』
「ほらみなさい!麗に迷惑かけて!!大体、悪戯だなんて」
怒ったリリーが一気にそうまくし立て始め、麗は慌ててそれを止めた。
『リリー、ストップ!!今はそれ所じゃ無いのよ!』
黙って天井付近を飛んでいた蒼が、麗の肩に止まると口を開いた。
「麗、他の寮生の確認を…」
『分かってるわ、蒼』
「何があったんだい?」
「寮生の確認って何だ」
話さなそうな麗の手首を掴むと、リーマスも逆の手を握り締めた。
「本当に何があったんだい?まぁ、僕はリリーが無事なら良いけど」
「ちょっと黙ってなさい、ジェームズ」
リリーはニッコリと微笑むと口の減らないジェームズの頬を抓った。
「いははははは 」
『話すから手を離して…リーマス、シリウス』
シリウスはリーマスと顔を見合わせると、素直に麗の手を離した。
『校内に侵入者が居る』
「「「「侵入者?!」」」」
だから出歩いている生徒の確認をしているのか…
『さっき人間のものじゃない声がきこえたから、死喰人 じゃないとは思うけど…』
「人間じゃないもの…」
『私は生徒の保護を続けるから、皆は早く寮に帰って』
「俺も行く」
麗を一人で行かせるつもりなど無かった。
『駄目よ』
「何でだよ!!」
俺が知らない所で麗が危険な目に遭うなんて絶対に嫌だ。
『シリウスは一人で…複数相手に戦えるの?』
「それは…」
目の前にいた麗が一瞬にして消え、シリウスは首に違和感を覚えた。首に指が絡み付いていたのだ。
背後で小さな溜め息が聞こえた。
『私が敵だったら……シリウス、貴方もう死んでるわ』
「ッ…」
麗はシリウスの首から手を離すと、肩に止まっている蒼に触れた。
『蒼、皆を寮に送り届けて』
「駄目だ」
『何でよ』
「翡翠と約束した」
そう言われて、麗は表情を歪めた。
『……分かったわ』
翡翠が心配になってきた。
私が連れて行かなかったのを周りに当たり散らして暴れていないだろうか……相手は子供だし大丈夫だとは思うけど…
『“楓”』
麗がそう呟くと、和服の青年が影から浮かび上がる様に現れた。長い黒髪を高い位置に結った狐目の青年だ。
「麗、どうしたんだ?」
青年は麗の手を取ると、ニッコリと笑ってそう問い掛けた。
『貴方に任せたい事があるの』
麗はシリウスの肩を掴むと自分の前に突き出した。
『生徒に化けて。服はこれと同じ物が良いわ』
「御意」
楓はニコリと笑うと煙に巻かれた。
青味がかった綺麗な煙だった。
「これで?」
『完璧よ、楓』
薄れる煙の中から姿を現したのはグリフィンドール生の制服を着た楓だった。
「麗…これが麗の秘密かい?」
麗の秘密…医務室でリーマスだけが教えてもらったものだ。
『まぁ、凄く大きく括るとそうよ……寮までは楓が警護するから。楓、この子達を宜しくね』
「御意に、麗」
麗は嬉しそうに微笑むと、楓と四人を残し、蒼と共に廊下の先へと消えて行った。
「行くぞ、童共」
急に楓の声が低くなり、ニコニコと閉じられていた目が開かれた。髪と揃いの漆黒の瞳だった。
さっさと歩き出す楓を、シリウス達は慌てて追い掛ける。
「お前、麗の前で猫被ってんのか」
「貴様等、人間の童如きに気を遣う必要ねぇだろ。麗は…特別だ」
どこか遠くを見ている様な楓の瞳を、ジェームズはそっと覗き込んだ。
「特別?」
「貴様等には関係無ぇだろ」
ジェームズから視線を逸らした楓は歩く速度を少しだけ上げた。
「何で麗といるんだい?君に有益な事でもあるの?」
「当り前だ、そうじゃなきゃ側にいない…そもそも……今となっては麗に使える事が高貴な事になっているのだからな」
高貴?そんなに偉い奴なのか、麗は…
困惑する俺達を見て、楓は馬鹿にした様に鼻で笑った。
「その様子だと何一つ聞いていないんだな」
麗の事が…知りたい。
「教えてくれ、楓」
「シリウス!!」
今まで黙っていたリリーがそう声を上げた。ジェームズは思い詰めた様に黙ったままだ。
「麗の事を勝手に詮索するのは止めなさいと言ったでしょ!!」
確かに言われたし、いけない事なのも分かっている。でも…
気になる。麗は不思議すぎる。
「リリー…麗は何かを隠してる。きっと俺等が知ったら嫌われると思っている何かを……でも俺は麗の力になりたいんだ。その為なら手段は選ばない」
「僕もだよ、シリウス」
「リーマス…」
「リリー、僕等は麗といたいんだ。足手纏いにならない様にちゃんとして…」
リーマスの言う通りだ。足手纏いはごめんだ…知ってさえいれば助かる事も…安心して待つ事も出来る。
瞬間、黙って聞いていた楓が声を上げて笑い出した。
「良いだろう。教えてやる」
「楓さん?!」
リリーは驚愕した。翡翠が否定した者を楓は受け入れようと言うのだ。
「でも翡翠は…!!翡翠の事は知ってますよね?」
「童女。リリーといったか」
「え…えぇ、そうよ」
楓はリリーに向き合うと、その切れ長の目を閉じて見せた。
きつい目付きな楓だが、閉じて口角を少し上げれば、ニコリと笑った様な優しい顔に見える。
だから麗の前で目を閉じているのか…?
「ではリリー、麗を気遣ってくれるのは嬉しい。だがな、麗には“知る者”が必要だ」
「貴方達がいるでしょう?第一、翡翠は私に同意したわ」
麗の言う事しか聞かない翡翠が何と言うだろうか。
「俺達は麗の“家族”だ…しかし“友”では無い。麗には家族は在っても友は無い。そろそろ友があっても良い筈だ…“全てを知り受け入れる”友が」
「知り受け入れる…」
「そうだ。そしてあの方が…翡翠がお前に同意したのは家族があれば十分だと思っているからだ。彼奴は心のどこかで麗の心が動くのではと思っている…そんな筈無ぇのにな」
「楓は何で人間である翡翠を麗に近付けたんだい?」
リーマスの言う通りだ。
翡翠は何で…麗の近くにいる事を許されたのか?
「少し違うが…教えてやろう」
「違う?」
「俺は誰よりも麗を知っている。誰も…麗さえ知らないがそれが事実だ。
その俺が翡翠が麗の側に居続ける事を許した理由は唯一つ…」
口では“許した”と言っている楓の表情は酷く歪んでいた。
「彼奴が麗だけを見ていて、尚且つ力も在るからだ」
「楓さん…」
「何だ、リリー」
「今の段階での麗の…本当の友達は翡翠だけでは駄目なの?」
「リリー、お前何言ってんだ!」
折角教えて貰える話になったのに!!
「私だって聞きたい…だけど私は麗から聞きたいのよ!」
「麗はきっと自分からは話さないだろう。だから俺が話すんだ」
楓はリリーの頭に手を添えると目を閉じて“有難う”と礼を言った。
楓は目を開くと仕掛人達を真っ直ぐ見据える。
「但し“御館様”に辿り着くヒントだけだがな」
「ヒント…」
「少しずつ秘密を知れば話さざるを得なくなるだろう。奥底までじゃなくても麗が異常だという事を知っていて離れないものが俺は欲しい」
ヒントだけ…でも無いよりはましだ。
「御館様って?」
黙っていたジェームズがふとそう口を開いた。
珍しくその表情は真剣そのものだった。
「怪異にも種族と階級がある。御館様は狐の妖かしの頭領だ」
「じゃあ楓さんも狐なのね」
「そうだ俺は狐の怪異“妖狐”だ。狐の中でも…まあ、下級なモノだと思え。そして現在、狐の妖かしを統べているのが“九尾”…御館様だ」
「きゅう…び…?」
聞いた事の無い言葉に首を傾げる。
“キュウビ”と言われても分からない。
「九本の尾を持つ巨大な狐の妖かしだ。天狐も空狐も上に立つ気は無いから九尾が取り仕切っている。まぁ、その所為で酷いもんだったがな…」
楓が硬く手を握り締めたのに、誰一人気付かなかった。
「ヒントって…?」
「御館様は常に麗の側にいる。詰りは御館様は貴様等の近くに入るって事だ」
「俺達の側に…?」
「これ以上は言えねぇ…文句言うなよ。ベラベラ喋っちまったら消される。いくらなんでも一族全員を相手に逃れる事は出来無い……お前等にとっても蛇の長がいないだけ良い話だ」
「蛇の長?」
「蛇系統の妖かしの長だ。攻撃と呪を得意とする…麗を溺愛しているからお前等の様な童が麗に手を出せば嬲り殺される」
シリウスとリーマスは思わず冷や汗をかいた。
なぶり殺されるって…
「蛇の長は出て来無い…来られ無いと思うから取り敢えずは狼の長に気を付けろ。
蛇の長と同じ様に麗を溺愛してるから手を出せば殺される。狼の長は姿を現す可能性がある上、拷問が好きだからな…危険だ」
拷問好きって…
麗も何でそんな変な奴等に好かれてるんだ。
「麗は様々な怪異、聖霊、精霊、獣、神々をも味方につけている。普通に考えて貴様等の力は必要ねぇな」
皆の表情が歪んだ瞬間だった。
全く、一々頭にくる奴だ。
「だが…友が必要なのも事実だ」
楓が再び歩き出し、仕掛人とリリーは素直にそれに付いて行った。
麗までの距離が又遠くなった…強くなりたい。
俺達は麗を護りたいんだ…
暫く黙って歩いていたが、ふと楓が立ち止まり、俺達も足を止めた。
「どうした…?」
「何か来る…やたらと大きな妖気の奴がな」
「ヨウキ…?」
また聞いた事の無い言葉だ。
「お前等で言う所の魔力だな」
楓はリリーの腕を引き自分の後ろに隠すと、一歩前に出た。
「お前等、俺の後ろにいろ」
そう言う楓の言葉を無視する様にジェームズとリリーが杖を取り出し、シリウスとリーマスもそれに続いた。
「言っとくがお前等は邪魔だ。俺は人間が何千何万集まるよか強ぇんだ…手ぇ出されたら邪魔だ」
楓は開眼すると、先の廊下の角を見据えた。
「俺が引き付ける。その間に…お前等は逃げろ」
廊下の曲がり角から出てきたのは派手な女だった。
所々三つ編みの入ったサラサラの白く長い髪…東洋の姫君の様な金の髪飾り。
淡い色の派手な作りの着物…
「あれは…」
俯いて歩いている女は、こちらに気付くとふと顔を上げた。その顔は…
「「「「え…!?」」」」
麗にそっくり。寧ろ麗そのものだった。
「麗…?」
シリウスが思わずそう呟いた瞬間、女は嬉しそうに表情を和らげた。
「御主等、麗を知っておるのか?!今直ぐ、妾を麗の所に……何だ楓じゃないか!」
「何者だ…その姿、いる筈の無い者だ」
楓の目付きがいつも以上に鋭くなるが相手はそんなものは気にしていない。
「その様子じゃ麗は元気そうじゃのう」
「何者だと聞いているんだ」
「妾を疑うか、仔狐。愚か者めが」
女は見下した様な冷めた目で楓を見据えた。
その目は冷た過ぎて、自分に向けられているのでは無いと分かっていても、身体が震えた。
瞬間、何かに気付いた楓が頭を下げた。
「本物か…“外”に居た貴女がここに居るとは…麗の元へ案内しましょう」
「良い良い。御主は妾の古い知人じゃ、妖狐に成り下がろうと妾は言葉使い等気にせぬよ」
楽しそうに笑う女を前に、楓は困った様に眉を寄せた。
妖狐に成り下がった?
疑問を抱きながら女を加え、六人でグリフィンドール寮に向かう。
シリウスは冷たい廊下を歩きながら考えた。麗とこの女の関係を──…
「…そう言えば、何で麗といる事が“高貴”なんだ?」
シリウスはふと思った事を楓に問い掛けた。
「それは…」
「妾が話しても良いかの?」
楓の声を女が遮り、楓は“どうぞ”とだけ返事を返した。
「麗に何がついとるかは知っとるかの?」
「さっき楓から九尾と聞きました」
リーマスが答えると、女は“ふむ”と声を漏らした。
「第一にその九尾とは他者に…況してや人に従う等本来有り得無い者なんじゃ。彼奴は悪さが好きで人間が嫌いだ。
他にも他者を寄せ付けない大蛇や残虐非道な大狼や妾など…兎に角、本来他者に従う筈の無い者達が麗についたというだけで大事なのに、麗には元から放浪癖はあるが力がある烏や神々がついていたからの…
それに麗の家は古くからその道では有名な家でな。
名家の優秀な跡取り麗に従う事は身の安全を保障するものでもあり、強者の一員とも成れる。故に良い事だと思われとるのじゃ」
なるほどな…しかし引っ掛かる。
今の話では完璧にこの女も人では無い事になる…
「じゃあ…」
「貴女は何者なんですか?」
「妾か?妾は何千年も咲き誇った妖力を秘めた桜じゃ」
桜…あぁ、ややこしくなってきた。
マグルから見れば俺達は不思議なモノだろう。
だが俺達からすれば麗が一番不思議なモノだ…
結局、出歩いていたのはグリフィンドールの四人だけだった。
侵入していたのはトロールで、私が捕縛したのも含め、ミネルバと帰って来たアルバスが無事敷地外に出したらしい。
疲れたので直ぐに部屋に帰って寝ようとした所、リビングから懐かしい気を感じた。
部屋に入るとリビングのソファーでは、ジェームズ、リリー、シリウス、リーマス、翡翠、楓…そして自分そっくりな女性が一人、談笑しながら寛いでいた。
『嘘でしょ…』
蒼に紅茶を入れる様に頼んでいると、帰って来た事に気付いた翡翠が席を立って抱き付いてきた。
「御帰り…」
『ただいま、翡翠』
麗は翡翠を抱き締め返すと、その頭を優しく撫でた。
「もう置いてくなよ…」
『…分かった』
麗は翡翠を自分から離して代わりに手を繋ぐと、楓に向き合う。
『楓、御苦労様…有難ね』
「いえ、また何なりと」
『有難う…で、皆は何してるの?とっとと帰って寝なさい。明日もまた予定通り授業が…』
「麗、何じゃ覇気の無い。人間の様じゃ」
麗の話を遮り、女性はそう声を上げた。
『桜華、私は…』
「ちぃと力を出してみよ。早くしないとここにいる全員、妾の餌 にするぞ」
女、桜華が本気だという事は直ぐに分かった。
彼女は分かりやす過ぎる…麗は一旦目を閉じ、そして直ぐにゆっくりと開いた。
『貴女はもう、あの地から動けぬと思っていたが…』
視界の端に顔色を悪くした仕掛人達が見えた。当然だ。
一気に空気が重くなり、吐き気や頭痛を催しただろう…
『もう良いかしら』
「あぁ、構わんよ。大分弱ってる様じゃな」
隠す様に戻すと、リリーが胸を撫で下ろした。
『どうやってこちらへ?そんな力を持った子は居なかったと思ったけど』
「イアンという奴に対価を払っての…妾の体を渡してきた」
『そんな…!』
「御主に会う為ならば安い代価じゃ」
シリウス達は“イアン”という名に首を傾げた。イアンとは誰なのだろうかと…
桜華は術でどこからともなく黒い扇を出すと麗に差し出した。
「妾の配下の者なんだが妾がこうなった以上、御主に従うと言うのでな…使ってやれ。後な、これは今の妾の本体じゃ」
桜華はそう言うと懐から木製の扇を出し、麗に手渡した。
「力はかなり落ちてしまったが…いつでも呼べ」
『待て…』
私には聞きたい事があった。
重なり過ぎた偶然は場合によっては不自然だ。
『トロールを中に入れたのはそなただろう?』
トロールが解らないらしいので特徴を説明してやると、桜華は思い出した様にポンッと手を叩いた。
「彼奴等の事か!!なに、門で中には入れないと言っておったからな、入れてやった!」
余計な事をして…
桜華は“ではな”と言うと消え去り、後には桜の花片が一枚だけ残った。
それを見届けた麗が、仕掛人とリリーを帰して、風呂に入って…床につく頃には既に夜中の二時を回っていた。
「麗…」
狐の姿で布団に潜り込んできた翡翠が、人型になると麗を優しく抱き締めた。
「置いて行かれたら護れ無い」
麗は“うん”と小さく呟くと翡翠を抱き締め返した。
「俺はあの時、一生お前を護るって決めたんだ…」
麗は涙が出そうなのをグッと堪えた。
「契約なんて関係無ぇ」
『うん…』
私達は契約に縛られてる──…
「一度堕ちようとも気高き身に変わりはない」
時を超える事も。
時空を超える事も。
一度死した妾には関係の無い事だ。
「あの子が救ったこの身は美しいし、妾の力は膨大だ」
捨て置く者には申し訳無いとは思うが、妾は眷属がいない。
この
「さあ、充分過ぎる条件であろう。有り難く受け取れ」
この身が削られても、この力が薄れようとも。
そんな事は関係無い。
全てを捧げよう。
「対価は妾だ」
=舞い込みし者=
「全く、こんな時間まで悪戯だなんて…子供なんだから」
「リリー、僕は…」
「黙りなさい、ジェームズ。私は麗が心配するのを見たく無いのよ」
「あぁ、それは困るね」
「あら、分かってるじゃない、リーマス。だったらやら無い事ね。第一、心配する麗をシーラが見たら…」
シーラは必ず怒り狂う。
談話室の暖炉の前で正座をし、後ろからの熱気に堪えながらシーラに怒鳴られ続ける……前にやられたそれを思い出した仕掛人の三人は冷や汗をかいた。
「今度から気を付けるよ」
「それが懸命ね。ジェームズとシリウスもよ?」
「あぁ、分かった」
「勿論だよリリー!!シーラの拷問に近い説教なんて二度とごめんさ!」
調子に乗ってリリーに抱き付こうとするジェームズの顔を不意にシリウスが押さえた。
「何するんだシリウス!」
「静かにしろ!何か来る…」
ジェームズが静かになりすっかり静まりかえった長い長い廊下の先の方を一瞬、素早く影が二つ動いた。
「何だい、あれ?」
「近付いて来るな…しかもかなり速い」
「リリー…」
リーマスとシリウスは杖を出し身構え、ジェームズはリリーを庇う様に抱き締めた。
近付いてきた影は…
『居た!!』
「「「「麗!?」」」」
麗だった。頭上を蒼が飛んでいる。
『全く…探したのよ?』
「ほらみなさい!麗に迷惑かけて!!大体、悪戯だなんて」
怒ったリリーが一気にそうまくし立て始め、麗は慌ててそれを止めた。
『リリー、ストップ!!今はそれ所じゃ無いのよ!』
黙って天井付近を飛んでいた蒼が、麗の肩に止まると口を開いた。
「麗、他の寮生の確認を…」
『分かってるわ、蒼』
「何があったんだい?」
「寮生の確認って何だ」
話さなそうな麗の手首を掴むと、リーマスも逆の手を握り締めた。
「本当に何があったんだい?まぁ、僕はリリーが無事なら良いけど」
「ちょっと黙ってなさい、ジェームズ」
リリーはニッコリと微笑むと口の減らないジェームズの頬を抓った。
「
『話すから手を離して…リーマス、シリウス』
シリウスはリーマスと顔を見合わせると、素直に麗の手を離した。
『校内に侵入者が居る』
「「「「侵入者?!」」」」
だから出歩いている生徒の確認をしているのか…
『さっき人間のものじゃない声がきこえたから、
「人間じゃないもの…」
『私は生徒の保護を続けるから、皆は早く寮に帰って』
「俺も行く」
麗を一人で行かせるつもりなど無かった。
『駄目よ』
「何でだよ!!」
俺が知らない所で麗が危険な目に遭うなんて絶対に嫌だ。
『シリウスは一人で…複数相手に戦えるの?』
「それは…」
目の前にいた麗が一瞬にして消え、シリウスは首に違和感を覚えた。首に指が絡み付いていたのだ。
背後で小さな溜め息が聞こえた。
『私が敵だったら……シリウス、貴方もう死んでるわ』
「ッ…」
麗はシリウスの首から手を離すと、肩に止まっている蒼に触れた。
『蒼、皆を寮に送り届けて』
「駄目だ」
『何でよ』
「翡翠と約束した」
そう言われて、麗は表情を歪めた。
『……分かったわ』
翡翠が心配になってきた。
私が連れて行かなかったのを周りに当たり散らして暴れていないだろうか……相手は子供だし大丈夫だとは思うけど…
『“楓”』
麗がそう呟くと、和服の青年が影から浮かび上がる様に現れた。長い黒髪を高い位置に結った狐目の青年だ。
「麗、どうしたんだ?」
青年は麗の手を取ると、ニッコリと笑ってそう問い掛けた。
『貴方に任せたい事があるの』
麗はシリウスの肩を掴むと自分の前に突き出した。
『生徒に化けて。服はこれと同じ物が良いわ』
「御意」
楓はニコリと笑うと煙に巻かれた。
青味がかった綺麗な煙だった。
「これで?」
『完璧よ、楓』
薄れる煙の中から姿を現したのはグリフィンドール生の制服を着た楓だった。
「麗…これが麗の秘密かい?」
麗の秘密…医務室でリーマスだけが教えてもらったものだ。
『まぁ、凄く大きく括るとそうよ……寮までは楓が警護するから。楓、この子達を宜しくね』
「御意に、麗」
麗は嬉しそうに微笑むと、楓と四人を残し、蒼と共に廊下の先へと消えて行った。
「行くぞ、童共」
急に楓の声が低くなり、ニコニコと閉じられていた目が開かれた。髪と揃いの漆黒の瞳だった。
さっさと歩き出す楓を、シリウス達は慌てて追い掛ける。
「お前、麗の前で猫被ってんのか」
「貴様等、人間の童如きに気を遣う必要ねぇだろ。麗は…特別だ」
どこか遠くを見ている様な楓の瞳を、ジェームズはそっと覗き込んだ。
「特別?」
「貴様等には関係無ぇだろ」
ジェームズから視線を逸らした楓は歩く速度を少しだけ上げた。
「何で麗といるんだい?君に有益な事でもあるの?」
「当り前だ、そうじゃなきゃ側にいない…そもそも……今となっては麗に使える事が高貴な事になっているのだからな」
高貴?そんなに偉い奴なのか、麗は…
困惑する俺達を見て、楓は馬鹿にした様に鼻で笑った。
「その様子だと何一つ聞いていないんだな」
麗の事が…知りたい。
「教えてくれ、楓」
「シリウス!!」
今まで黙っていたリリーがそう声を上げた。ジェームズは思い詰めた様に黙ったままだ。
「麗の事を勝手に詮索するのは止めなさいと言ったでしょ!!」
確かに言われたし、いけない事なのも分かっている。でも…
気になる。麗は不思議すぎる。
「リリー…麗は何かを隠してる。きっと俺等が知ったら嫌われると思っている何かを……でも俺は麗の力になりたいんだ。その為なら手段は選ばない」
「僕もだよ、シリウス」
「リーマス…」
「リリー、僕等は麗といたいんだ。足手纏いにならない様にちゃんとして…」
リーマスの言う通りだ。足手纏いはごめんだ…知ってさえいれば助かる事も…安心して待つ事も出来る。
瞬間、黙って聞いていた楓が声を上げて笑い出した。
「良いだろう。教えてやる」
「楓さん?!」
リリーは驚愕した。翡翠が否定した者を楓は受け入れようと言うのだ。
「でも翡翠は…!!翡翠の事は知ってますよね?」
「童女。リリーといったか」
「え…えぇ、そうよ」
楓はリリーに向き合うと、その切れ長の目を閉じて見せた。
きつい目付きな楓だが、閉じて口角を少し上げれば、ニコリと笑った様な優しい顔に見える。
だから麗の前で目を閉じているのか…?
「ではリリー、麗を気遣ってくれるのは嬉しい。だがな、麗には“知る者”が必要だ」
「貴方達がいるでしょう?第一、翡翠は私に同意したわ」
麗の言う事しか聞かない翡翠が何と言うだろうか。
「俺達は麗の“家族”だ…しかし“友”では無い。麗には家族は在っても友は無い。そろそろ友があっても良い筈だ…“全てを知り受け入れる”友が」
「知り受け入れる…」
「そうだ。そしてあの方が…翡翠がお前に同意したのは家族があれば十分だと思っているからだ。彼奴は心のどこかで麗の心が動くのではと思っている…そんな筈無ぇのにな」
「楓は何で人間である翡翠を麗に近付けたんだい?」
リーマスの言う通りだ。
翡翠は何で…麗の近くにいる事を許されたのか?
「少し違うが…教えてやろう」
「違う?」
「俺は誰よりも麗を知っている。誰も…麗さえ知らないがそれが事実だ。
その俺が翡翠が麗の側に居続ける事を許した理由は唯一つ…」
口では“許した”と言っている楓の表情は酷く歪んでいた。
「彼奴が麗だけを見ていて、尚且つ力も在るからだ」
「楓さん…」
「何だ、リリー」
「今の段階での麗の…本当の友達は翡翠だけでは駄目なの?」
「リリー、お前何言ってんだ!」
折角教えて貰える話になったのに!!
「私だって聞きたい…だけど私は麗から聞きたいのよ!」
「麗はきっと自分からは話さないだろう。だから俺が話すんだ」
楓はリリーの頭に手を添えると目を閉じて“有難う”と礼を言った。
楓は目を開くと仕掛人達を真っ直ぐ見据える。
「但し“御館様”に辿り着くヒントだけだがな」
「ヒント…」
「少しずつ秘密を知れば話さざるを得なくなるだろう。奥底までじゃなくても麗が異常だという事を知っていて離れないものが俺は欲しい」
ヒントだけ…でも無いよりはましだ。
「御館様って?」
黙っていたジェームズがふとそう口を開いた。
珍しくその表情は真剣そのものだった。
「怪異にも種族と階級がある。御館様は狐の妖かしの頭領だ」
「じゃあ楓さんも狐なのね」
「そうだ俺は狐の怪異“妖狐”だ。狐の中でも…まあ、下級なモノだと思え。そして現在、狐の妖かしを統べているのが“九尾”…御館様だ」
「きゅう…び…?」
聞いた事の無い言葉に首を傾げる。
“キュウビ”と言われても分からない。
「九本の尾を持つ巨大な狐の妖かしだ。天狐も空狐も上に立つ気は無いから九尾が取り仕切っている。まぁ、その所為で酷いもんだったがな…」
楓が硬く手を握り締めたのに、誰一人気付かなかった。
「ヒントって…?」
「御館様は常に麗の側にいる。詰りは御館様は貴様等の近くに入るって事だ」
「俺達の側に…?」
「これ以上は言えねぇ…文句言うなよ。ベラベラ喋っちまったら消される。いくらなんでも一族全員を相手に逃れる事は出来無い……お前等にとっても蛇の長がいないだけ良い話だ」
「蛇の長?」
「蛇系統の妖かしの長だ。攻撃と呪を得意とする…麗を溺愛しているからお前等の様な童が麗に手を出せば嬲り殺される」
シリウスとリーマスは思わず冷や汗をかいた。
なぶり殺されるって…
「蛇の長は出て来無い…来られ無いと思うから取り敢えずは狼の長に気を付けろ。
蛇の長と同じ様に麗を溺愛してるから手を出せば殺される。狼の長は姿を現す可能性がある上、拷問が好きだからな…危険だ」
拷問好きって…
麗も何でそんな変な奴等に好かれてるんだ。
「麗は様々な怪異、聖霊、精霊、獣、神々をも味方につけている。普通に考えて貴様等の力は必要ねぇな」
皆の表情が歪んだ瞬間だった。
全く、一々頭にくる奴だ。
「だが…友が必要なのも事実だ」
楓が再び歩き出し、仕掛人とリリーは素直にそれに付いて行った。
麗までの距離が又遠くなった…強くなりたい。
俺達は麗を護りたいんだ…
暫く黙って歩いていたが、ふと楓が立ち止まり、俺達も足を止めた。
「どうした…?」
「何か来る…やたらと大きな妖気の奴がな」
「ヨウキ…?」
また聞いた事の無い言葉だ。
「お前等で言う所の魔力だな」
楓はリリーの腕を引き自分の後ろに隠すと、一歩前に出た。
「お前等、俺の後ろにいろ」
そう言う楓の言葉を無視する様にジェームズとリリーが杖を取り出し、シリウスとリーマスもそれに続いた。
「言っとくがお前等は邪魔だ。俺は人間が何千何万集まるよか強ぇんだ…手ぇ出されたら邪魔だ」
楓は開眼すると、先の廊下の角を見据えた。
「俺が引き付ける。その間に…お前等は逃げろ」
廊下の曲がり角から出てきたのは派手な女だった。
所々三つ編みの入ったサラサラの白く長い髪…東洋の姫君の様な金の髪飾り。
淡い色の派手な作りの着物…
「あれは…」
俯いて歩いている女は、こちらに気付くとふと顔を上げた。その顔は…
「「「「え…!?」」」」
麗にそっくり。寧ろ麗そのものだった。
「麗…?」
シリウスが思わずそう呟いた瞬間、女は嬉しそうに表情を和らげた。
「御主等、麗を知っておるのか?!今直ぐ、妾を麗の所に……何だ楓じゃないか!」
「何者だ…その姿、いる筈の無い者だ」
楓の目付きがいつも以上に鋭くなるが相手はそんなものは気にしていない。
「その様子じゃ麗は元気そうじゃのう」
「何者だと聞いているんだ」
「妾を疑うか、仔狐。愚か者めが」
女は見下した様な冷めた目で楓を見据えた。
その目は冷た過ぎて、自分に向けられているのでは無いと分かっていても、身体が震えた。
瞬間、何かに気付いた楓が頭を下げた。
「本物か…“外”に居た貴女がここに居るとは…麗の元へ案内しましょう」
「良い良い。御主は妾の古い知人じゃ、妖狐に成り下がろうと妾は言葉使い等気にせぬよ」
楽しそうに笑う女を前に、楓は困った様に眉を寄せた。
妖狐に成り下がった?
疑問を抱きながら女を加え、六人でグリフィンドール寮に向かう。
シリウスは冷たい廊下を歩きながら考えた。麗とこの女の関係を──…
「…そう言えば、何で麗といる事が“高貴”なんだ?」
シリウスはふと思った事を楓に問い掛けた。
「それは…」
「妾が話しても良いかの?」
楓の声を女が遮り、楓は“どうぞ”とだけ返事を返した。
「麗に何がついとるかは知っとるかの?」
「さっき楓から九尾と聞きました」
リーマスが答えると、女は“ふむ”と声を漏らした。
「第一にその九尾とは他者に…況してや人に従う等本来有り得無い者なんじゃ。彼奴は悪さが好きで人間が嫌いだ。
他にも他者を寄せ付けない大蛇や残虐非道な大狼や妾など…兎に角、本来他者に従う筈の無い者達が麗についたというだけで大事なのに、麗には元から放浪癖はあるが力がある烏や神々がついていたからの…
それに麗の家は古くからその道では有名な家でな。
名家の優秀な跡取り麗に従う事は身の安全を保障するものでもあり、強者の一員とも成れる。故に良い事だと思われとるのじゃ」
なるほどな…しかし引っ掛かる。
今の話では完璧にこの女も人では無い事になる…
「じゃあ…」
「貴女は何者なんですか?」
「妾か?妾は何千年も咲き誇った妖力を秘めた桜じゃ」
桜…あぁ、ややこしくなってきた。
マグルから見れば俺達は不思議なモノだろう。
だが俺達からすれば麗が一番不思議なモノだ…
結局、出歩いていたのはグリフィンドールの四人だけだった。
侵入していたのはトロールで、私が捕縛したのも含め、ミネルバと帰って来たアルバスが無事敷地外に出したらしい。
疲れたので直ぐに部屋に帰って寝ようとした所、リビングから懐かしい気を感じた。
部屋に入るとリビングのソファーでは、ジェームズ、リリー、シリウス、リーマス、翡翠、楓…そして自分そっくりな女性が一人、談笑しながら寛いでいた。
『嘘でしょ…』
蒼に紅茶を入れる様に頼んでいると、帰って来た事に気付いた翡翠が席を立って抱き付いてきた。
「御帰り…」
『ただいま、翡翠』
麗は翡翠を抱き締め返すと、その頭を優しく撫でた。
「もう置いてくなよ…」
『…分かった』
麗は翡翠を自分から離して代わりに手を繋ぐと、楓に向き合う。
『楓、御苦労様…有難ね』
「いえ、また何なりと」
『有難う…で、皆は何してるの?とっとと帰って寝なさい。明日もまた予定通り授業が…』
「麗、何じゃ覇気の無い。人間の様じゃ」
麗の話を遮り、女性はそう声を上げた。
『桜華、私は…』
「ちぃと力を出してみよ。早くしないとここにいる全員、妾の
女、桜華が本気だという事は直ぐに分かった。
彼女は分かりやす過ぎる…麗は一旦目を閉じ、そして直ぐにゆっくりと開いた。
『貴女はもう、あの地から動けぬと思っていたが…』
視界の端に顔色を悪くした仕掛人達が見えた。当然だ。
一気に空気が重くなり、吐き気や頭痛を催しただろう…
『もう良いかしら』
「あぁ、構わんよ。大分弱ってる様じゃな」
隠す様に戻すと、リリーが胸を撫で下ろした。
『どうやってこちらへ?そんな力を持った子は居なかったと思ったけど』
「イアンという奴に対価を払っての…妾の体を渡してきた」
『そんな…!』
「御主に会う為ならば安い代価じゃ」
シリウス達は“イアン”という名に首を傾げた。イアンとは誰なのだろうかと…
桜華は術でどこからともなく黒い扇を出すと麗に差し出した。
「妾の配下の者なんだが妾がこうなった以上、御主に従うと言うのでな…使ってやれ。後な、これは今の妾の本体じゃ」
桜華はそう言うと懐から木製の扇を出し、麗に手渡した。
「力はかなり落ちてしまったが…いつでも呼べ」
『待て…』
私には聞きたい事があった。
重なり過ぎた偶然は場合によっては不自然だ。
『トロールを中に入れたのはそなただろう?』
トロールが解らないらしいので特徴を説明してやると、桜華は思い出した様にポンッと手を叩いた。
「彼奴等の事か!!なに、門で中には入れないと言っておったからな、入れてやった!」
余計な事をして…
桜華は“ではな”と言うと消え去り、後には桜の花片が一枚だけ残った。
それを見届けた麗が、仕掛人とリリーを帰して、風呂に入って…床につく頃には既に夜中の二時を回っていた。
「麗…」
狐の姿で布団に潜り込んできた翡翠が、人型になると麗を優しく抱き締めた。
「置いて行かれたら護れ無い」
麗は“うん”と小さく呟くと翡翠を抱き締め返した。
「俺はあの時、一生お前を護るって決めたんだ…」
麗は涙が出そうなのをグッと堪えた。
「契約なんて関係無ぇ」
『うん…』
私達は契約に縛られてる──…