第1章 始マリノ謳
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1
深く暗い森の中…
梟の鳴き声が静かに木霊する。
星空には青みがかった満月が浮かび、遠くに小さく見える古城がその光を受けて幻想的に輝いていた。
ひんやりと冷たい森の中で、巨大な銀色の獣に抱かれて眠る少女は、小さく寝返りをうって…
一筋の涙を流した。
『──……み…ぉ……』
=満月の夜に=
今年の気温は変だ。
いや、気温だけでは無いのだから…もうこれは地球の問題であろう。もう暖かくても良い季節なのに、冬の様に着込んでも肌寒い。
『地球も終わりね』
「麗ちゃん、何か言った?」
私の独り言に、助手席に座った母様が後部座席に座る私の方へ振り向いた。
『何でもないよ、母さん』
そう返せば、子供の様に頬を膨らませた母様は、シートベルトをぐいぐい引いて器用に身体全体を後部座席に向けるとシートに抱き付いた。
「何それ…気になるじゃない」
『気にしなくて良いの』
危ないからちゃんと座っていて欲しい。
『母さん、危ないからちゃんと座って…』
「はいはい」
「ハハハ、どっちが子供か分からないな」
「何言ってるの、勿論私がママよ」
「どうだかな」
「まぁ、酷い」
『父さん、まだ着かない…?』
「まだまだ」
「うふふ、麗ちゃんは早く澪 ちゃんに会いたいのよね~」
『そんな事な…車内に飽きたんです!』
旅行の帰り道。山道を走る車はくねった道の所為で左右に揺れてばかりで、普段車を使わない麗は慣れない揺れに今にも酔いそうだった。
酔わない様に窓の外を見るが、窓から見える空はもう真っ暗でてんで酔い止めの効果は無い。
『ねぇ、翡翠…もう車の中飽きたよね』
麗は自分の膝に頭をあずけてシートに横になる狐にそう問い掛けた。
質の良い銀色の毛並みに翡翠色の瞳…私の膝の上で寛いでいた狐の翡翠 は、怠 そうに顔を上げると小さく頷いて見せた。
『翡翠も飽きたってよ?』
「またそんな事言って」
麗は長い前髪を掻き上げると、その緋色の瞳でバックミラーごしに父を見た。麗の美しい銀色の髪がサラリと流れる。
「我慢しなさい。近道を通ってるからもう少しで…ッ!!」
ここで終わると思わなかった。
ライトの光に白く照らされた瞬間…車ごと崖から落ちて、気付いた時には私と翡翠は投げ出されて地面に横たわっていた。
『な、ん…で……』
遠くで先程まで乗っていた車が炎上しているのが見えた。
父様と母様は無事だろうか?
無事でいてくれないと困る…
困る…困るよね…澪……
そうだ…
もう直ぐ帰るから…──……
そこで意識が途切れた。
最後に見たのは血…
燃え上がる炎…
赤、赤、赤、赤、赤──…
そして真ん丸の赤い月──……
深く暗い森の中…
梟の鳴き声が静かに木霊する。
星空には青みがかった満月が浮かび、遠くに小さく見える古城がその光を受けて幻想的に輝いていた。
ひんやりと冷たい森の中で、巨大な銀色の獣に抱かれて眠る少女は、小さく寝返りをうって…
一筋の涙を流した。
『──……み…ぉ……』
=満月の夜に=
今年の気温は変だ。
いや、気温だけでは無いのだから…もうこれは地球の問題であろう。もう暖かくても良い季節なのに、冬の様に着込んでも肌寒い。
『地球も終わりね』
「麗ちゃん、何か言った?」
私の独り言に、助手席に座った母様が後部座席に座る私の方へ振り向いた。
『何でもないよ、母さん』
そう返せば、子供の様に頬を膨らませた母様は、シートベルトをぐいぐい引いて器用に身体全体を後部座席に向けるとシートに抱き付いた。
「何それ…気になるじゃない」
『気にしなくて良いの』
危ないからちゃんと座っていて欲しい。
『母さん、危ないからちゃんと座って…』
「はいはい」
「ハハハ、どっちが子供か分からないな」
「何言ってるの、勿論私がママよ」
「どうだかな」
「まぁ、酷い」
『父さん、まだ着かない…?』
「まだまだ」
「うふふ、麗ちゃんは早く
『そんな事な…車内に飽きたんです!』
旅行の帰り道。山道を走る車はくねった道の所為で左右に揺れてばかりで、普段車を使わない麗は慣れない揺れに今にも酔いそうだった。
酔わない様に窓の外を見るが、窓から見える空はもう真っ暗でてんで酔い止めの効果は無い。
『ねぇ、翡翠…もう車の中飽きたよね』
麗は自分の膝に頭をあずけてシートに横になる狐にそう問い掛けた。
質の良い銀色の毛並みに翡翠色の瞳…私の膝の上で寛いでいた狐の
『翡翠も飽きたってよ?』
「またそんな事言って」
麗は長い前髪を掻き上げると、その緋色の瞳でバックミラーごしに父を見た。麗の美しい銀色の髪がサラリと流れる。
「我慢しなさい。近道を通ってるからもう少しで…ッ!!」
ここで終わると思わなかった。
ライトの光に白く照らされた瞬間…車ごと崖から落ちて、気付いた時には私と翡翠は投げ出されて地面に横たわっていた。
『な、ん…で……』
遠くで先程まで乗っていた車が炎上しているのが見えた。
父様と母様は無事だろうか?
無事でいてくれないと困る…
困る…困るよね…澪……
そうだ…
もう直ぐ帰るから…──……
そこで意識が途切れた。
最後に見たのは血…
燃え上がる炎…
赤、赤、赤、赤、赤──…
そして真ん丸の赤い月──……