第1章 始マリノ謳
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14
「さぁ、麗…力を抜いて」
んー…困った事になった。
若いトムの性格が思ったよりも扱い辛い…きっと刺激しすぎると殺しにかかってくるだろう。
一応子供なんだから、もっと“控えめ”かと思った。
「ほら話して?僕に知ってる事を全部」
首元にチラつく獲物も、絡み付いて絞めあげようとする所も…
遠慮が無いし、あわよくば殺す気だし、本当に蛇の様だ。
「自分の事を全部…」
これはもう子供では無い。
大人でも無い。
これは狂気そのものだ。
「話して、麗」
=蛇の記憶=
顔を真っ赤に染めた麗は、黒い革張りの小さな手帳を手に寝室に飛び込んだ。そして続いて入って来ようとする蒼と七叉の鼻先で慌てて扉を閉めた。
嫁に貰ってやろうか──…
耳に残る蒼の声は、記憶に無い誰かの声と被っていた。頭の中で何度も繰り返される蒼の声に、恥ずかしさが込み上げる。
『軽々しく……からかいで言うものじゃないわ』
言い聞かせる様に自分を落ち着かせながら麗はベッドに腰掛け、日記を開いた。見た目は普通の日記帳…魔法で机の上の羽ペンとインク瓶を引き寄せ、インク瓶を宙に浮かせて羽ペンを手に取る。
『“今日は、トム・M・リドル”』
まだ手に慣れない羽ペンで少しぎこちなく文を書いていく。すると、日記に書かれた麗の文字が染み込む様に消え、代わりに麗の字では無い別の文字が日記に浮かび上がってきた。
───こんにちは…君は誰かな?
──私は、麗…ホグワーツの学生よ。
───麗、君は僕を知っているんだね?
食い付いてきた。
麗は嬉しそうに口角を少し上げて笑うと、続きを書き出した。
──えぇ、知っているわ。手帳に名前が書いてあるもの。
───何を知っているんだい?
──貴方が貴方だという事を。ダンブルドアに名前を聞いたことがあるだけよ。優秀だと。
───教えてくれないのか…
──何の事?
───まぁ、良い。君は僕がヴォルデモートだと知っている。それだけで充分だ。
──どういう事?
───君は知っている。嘘は良くないよ。
『あら、バレた…どうしようかしら』
まあ、バレても良いと思って書いていたのだから当たり前か。興味持たせる事が出来たのだから多少バレでも…
『な…』
瞬間、ペンを止めた私の返事を待たずに、日記には次の文が浮かび上がった。
───話し難い。こっちへおいで、麗…
『は…?』
瞬間、日記が白い光を放ち、麗は反射的に目を閉じた。
感じるのは引き込まれる感覚と眩しさだけだった。暫くして閉じていた目を開くと、見知った風景が目に飛び込んで来た。今日見たばかりの光景だ。
ここは…スリザリンの談話室…?
「やあ、麗…僕の記憶 へ、ようこそ」
佇むはスリザリン生の制服を身に纏った黒髪緋眼の青年……トム・M・リドル…
『確認も無しに引き寄せるだなんて…いきなり過ぎじゃないかしら?』
トムで良いよと言って微かに笑うトムは、思ったよりも柔らかいイメージだった。
「悪かったね…君と直接話したくて。それに君は書くのが面倒臭いだろうし」
『確かに面倒ね』
麗は羽ペンで何かを書くのが苦手だった。あの何とも言えない感覚…あれだったら筆の方がまだ書き易い。
「なら良いだろ」
トムに座るように勧められ、麗は大人しくソファーに腰掛けた。ここにいるとルシウスを思い出すが…仕方が無い。
『でも、私には貴方に直接会って話す事等無いのだけど?』
「僕が君に会いたかったから今で良いの」
良いのって…
『…話は何?』
トムはニッコリ微笑むと、わざわざ麗の隣へと腰掛けた。下手な笑顔だ。
「何で僕を知ってるの?」
『知らないわ』
「嘘はいけないと言ったろう?」
『答える必要は無いわ』
「それは困るな」
トムの腕が伸び、長い指が麗の首に触れ、徐々に徐々に絡みついてくる…
『記憶である貴方に何が出来るって言うの』
「“ヴォルデモート”に君の情報を送った」
麗は思わず目を見開いた。本当に日記にそんな事が出来るのだろうか?
「ヴォルデモートが君を迎えに来るよ」
『来るだけよ。私は貴方には捕まらないもの』
捕まらない自信があった。
「それはどうかな」
『絶対に捕まらないわ。私は独りではないし、ここはホグワーツよ』
「捕まらないと言うならね、麗」
トムの右手にナイフが現れ、トムはそれを麗の首元に突き付けると、耳に唇を寄せた。
「ここに閉じ込めて置くまでさ」
首に絡みつく指に力が入る。しかし麗が動じる事は無かった。
『私に脅しは効かない』
脅し等数え切れない程受けてきた。今更何をされたって何も感じ無い。瞬間、トムが何らかの呪文を唱えた。身体全体が徐々に痺れ出す。
「脅しでは無いよ…強制だ」
確かにこれは強制だ。しかし対抗すれば良いだけの話だ。さて…どうやって対抗しようか。
「その汚ない手を離せ」
声と共に一瞬辺りが光ったと思ったら、首元に当てられたナイフと絡みつく指の感触が無くなり、痺れていた身体の自由が利く様になった。“自由になった”と思ったが…ナイフの冷たい感覚の代りに、誰かの腕が私を包んでいた。
頬を掠める青い長髪…綺麗なそれは見覚えがあった。
『イアン…』
麗を抱き締めていたのはイアンだった。髪より深い綺麗な瞳が麗を捕える。
「大丈夫か、麗」
『ぁ…大丈夫、平気…』
イアンがこんな形で自分を助けたり、こんな風に言葉を掛けるとは思いもしなかった。久々に感じた高揚感が一気に冷める。
「…無茶をするな」
イアンの呆れた様な目が気不味くて、麗は目を背けた。
『む…無茶して無いよ』
「ほぅ?じゃあ、首にナイフ突き付けられてんのはどういう事だ?」
『これから挽回を…』
「力が麻痺してんのに?」
………あ…そうか、いつもの様に抵抗する事は出来無いのか。
「忘れてたろ」
『……忘れて何か』
「忘れてた上、記憶を甘く見てたろ?」
イアンの言う通りだ。
私は自分の力が麻痺しているのをすっかり忘れていた上、心のどこかで“相手は実体では無い、記憶だ”と甘く見ていた。我ながら何て間抜けな…いつからこんなに争うのが好きに…
「ねぇ、何でここに入れたのか知ら無いけどさ、麗を返してよ」
ソファーに腰掛け、大人しく麗達のやり取りを見ていたトムは、立ち上がるとイアンを睨み付けた。
「お前のじゃねぇだろ」
その通りだ。私はトムのモノじゃ無い。
「俺のだ」
……それも明らかに違う。
「違うよ、僕のだよ」
何とも言えぬ気を発しながら言い合ってる中、非常に話し掛け辛いのだが…一体何の争いをしてるの?
「俺の…」
『ねぇ、トム』
「……」
「何かな、麗」
『私、日記に魔力送ってあげるから部屋に遊びにおいでよ。…遊びによ?』
まあ、ルシウスに返すまでだけど…ここに来たり、連れ込まれるよりはマシな筈だ。
「お前…懲りてねぇな」
『平気よ。外には術具もあるし、皆も居る……どう、トム?』
「…良いよ、面白そうだ」
物分かりが良過ぎて気になる。何か裏がありそうだ。
『イアン、帰ろ』
日記から出る感覚は、入る時よりも違和感が無かった。反射的に閉じた目を開けば見慣れた自分の寝室だった。日記に魔力を送ると、トムは早速やって来た。
『と言う事で…えっと、トム・M・リドルよ』
麗は直ぐにリビングにトムを引っ張って行き、そう紹介した。
「よろしく」
トム…作り笑いで皆を威嚇しないで欲しい。ああ、イアンったらあんなに眉間に皺寄せちゃって……イアンは大目に見て元からだとしよう。今は何故か蒼や翡翠…更には温厚な七叉まで眉間に皺が寄っている。
「麗、正気か…?」
「少々無理があるのではと思うんじゃが…なぁ、兄者」
「あぁ、絶対に」
翡翠は何時もの事だが、七叉に蒼まで酷い言い草だ。
「青いのも気にくわねぇけど、それよりも胡散臭いコイツの方が今は問題だ」
「なんだと…」
『イアン、気にしないで…翡翠も止めて』
イアンにまで喧嘩を売らないで欲しい。
『大丈夫よ…多分』
「信用ないね、僕」
「当たり前だろ」
イアンまで…
『トム、イアン…部屋の中で喧嘩しないでくれる?』
二人の喧嘩を止めていると、何かが頭に引っ掛かった。私…何か忘れてる…
『………クィディッチ!!』
「あぁ、時間だな」
ゆっくりと時計を確認する翡翠の横を通って寝室に戻った麗は、ローブを手に持つと、リビングに戻って来た。
『蒼、行こ!!』
「はぁ?!麗、俺は?!」
『翡翠は御留守番!』
「麗、僕は」
『トムは問題外!七叉、悪いけど三人の事御願いね!』
「…御意に」
麗はローブを軽く羽織ると、鷹になった蒼を肩に乗せ、出て行った。それから部屋に残された者がどうなったかは不明だ…多分止める者が七叉だけになったので喧嘩三昧だろう。だが仕方無い。クィディッチのメンバーがメンバーなので、練習に出なきゃ恐ろしい事になる。
結局の所、喜んで日記を借りたのに、トムの性格以外に特に得るモノも無く。ルシウス、早く日記を取りに来て…何て願いもした。口には出さないけど。
自ら返しに行ったりなんかしたら後が怖いから…
そんなこんなでトムは麗の部屋に一週間近く住み付いた。
その間、皆は兎に角トムを威嚇し続けていた。特にイアン…あの滅多に出て来無い挙句、今度の事までに私と翡翠以外に姿を見せていなかったイアンが、一週間も部屋に居座って仕事そっちのけでトムを威嚇し続けていた。
蒼は一週間、部屋にいる間ピッタリくっついていて、その度に翡翠と喧嘩をした。七叉は常に私の影の中に待機してトムを見張ってるし、部屋以外では翡翠がピッタリくっついている。
最早、私に自由は無い。
ジェームズ達はいつも以上にピッタリな翡翠が気になるらしく色々聞いてくるが、答えられる筈が無い。適当に誤魔化すのが得策だ。
『疲れた…』
クィディッチの練習を終えた麗は、翡翠と蒼を無理矢理使いに出すと、リビングのソファーに腰を降ろし、盛大に溜め息を吐いた。
此の頃クィディッチの練習と喧嘩を止める事ばかりしている気がする。
「大丈夫かい?」
何処からか現れたトムは、麗の隣りに腰を降ろすと麗の頭を優しく撫でた。
『トム…貴方は疲れ無いの?喧嘩ばっかりして…』
「まあ、記憶だしね」
確かに記憶が疲れる等聞いた事が無い。
『私も日記…造ってみようかな』
「やってみれば?結構これはこれで楽しいよ。対価は必要だけど」
良く考えたら日記を造っておけば、何かあってもハリーを助けられるかもしれない。
『そうね、トム…考えておくわ』
記録を残すなんて、イアンが許すかどうか分からないけど…
でも“保険”を掛けておくのは良い事だ──…
「さぁ、麗…力を抜いて」
んー…困った事になった。
若いトムの性格が思ったよりも扱い辛い…きっと刺激しすぎると殺しにかかってくるだろう。
一応子供なんだから、もっと“控えめ”かと思った。
「ほら話して?僕に知ってる事を全部」
首元にチラつく獲物も、絡み付いて絞めあげようとする所も…
遠慮が無いし、あわよくば殺す気だし、本当に蛇の様だ。
「自分の事を全部…」
これはもう子供では無い。
大人でも無い。
これは狂気そのものだ。
「話して、麗」
=蛇の記憶=
顔を真っ赤に染めた麗は、黒い革張りの小さな手帳を手に寝室に飛び込んだ。そして続いて入って来ようとする蒼と七叉の鼻先で慌てて扉を閉めた。
嫁に貰ってやろうか──…
耳に残る蒼の声は、記憶に無い誰かの声と被っていた。頭の中で何度も繰り返される蒼の声に、恥ずかしさが込み上げる。
『軽々しく……からかいで言うものじゃないわ』
言い聞かせる様に自分を落ち着かせながら麗はベッドに腰掛け、日記を開いた。見た目は普通の日記帳…魔法で机の上の羽ペンとインク瓶を引き寄せ、インク瓶を宙に浮かせて羽ペンを手に取る。
『“今日は、トム・M・リドル”』
まだ手に慣れない羽ペンで少しぎこちなく文を書いていく。すると、日記に書かれた麗の文字が染み込む様に消え、代わりに麗の字では無い別の文字が日記に浮かび上がってきた。
───こんにちは…君は誰かな?
──私は、麗…ホグワーツの学生よ。
───麗、君は僕を知っているんだね?
食い付いてきた。
麗は嬉しそうに口角を少し上げて笑うと、続きを書き出した。
──えぇ、知っているわ。手帳に名前が書いてあるもの。
───何を知っているんだい?
──貴方が貴方だという事を。ダンブルドアに名前を聞いたことがあるだけよ。優秀だと。
───教えてくれないのか…
──何の事?
───まぁ、良い。君は僕がヴォルデモートだと知っている。それだけで充分だ。
──どういう事?
───君は知っている。嘘は良くないよ。
『あら、バレた…どうしようかしら』
まあ、バレても良いと思って書いていたのだから当たり前か。興味持たせる事が出来たのだから多少バレでも…
『な…』
瞬間、ペンを止めた私の返事を待たずに、日記には次の文が浮かび上がった。
───話し難い。こっちへおいで、麗…
『は…?』
瞬間、日記が白い光を放ち、麗は反射的に目を閉じた。
感じるのは引き込まれる感覚と眩しさだけだった。暫くして閉じていた目を開くと、見知った風景が目に飛び込んで来た。今日見たばかりの光景だ。
ここは…スリザリンの談話室…?
「やあ、麗…僕の
佇むはスリザリン生の制服を身に纏った黒髪緋眼の青年……トム・M・リドル…
『確認も無しに引き寄せるだなんて…いきなり過ぎじゃないかしら?』
トムで良いよと言って微かに笑うトムは、思ったよりも柔らかいイメージだった。
「悪かったね…君と直接話したくて。それに君は書くのが面倒臭いだろうし」
『確かに面倒ね』
麗は羽ペンで何かを書くのが苦手だった。あの何とも言えない感覚…あれだったら筆の方がまだ書き易い。
「なら良いだろ」
トムに座るように勧められ、麗は大人しくソファーに腰掛けた。ここにいるとルシウスを思い出すが…仕方が無い。
『でも、私には貴方に直接会って話す事等無いのだけど?』
「僕が君に会いたかったから今で良いの」
良いのって…
『…話は何?』
トムはニッコリ微笑むと、わざわざ麗の隣へと腰掛けた。下手な笑顔だ。
「何で僕を知ってるの?」
『知らないわ』
「嘘はいけないと言ったろう?」
『答える必要は無いわ』
「それは困るな」
トムの腕が伸び、長い指が麗の首に触れ、徐々に徐々に絡みついてくる…
『記憶である貴方に何が出来るって言うの』
「“ヴォルデモート”に君の情報を送った」
麗は思わず目を見開いた。本当に日記にそんな事が出来るのだろうか?
「ヴォルデモートが君を迎えに来るよ」
『来るだけよ。私は貴方には捕まらないもの』
捕まらない自信があった。
「それはどうかな」
『絶対に捕まらないわ。私は独りではないし、ここはホグワーツよ』
「捕まらないと言うならね、麗」
トムの右手にナイフが現れ、トムはそれを麗の首元に突き付けると、耳に唇を寄せた。
「ここに閉じ込めて置くまでさ」
首に絡みつく指に力が入る。しかし麗が動じる事は無かった。
『私に脅しは効かない』
脅し等数え切れない程受けてきた。今更何をされたって何も感じ無い。瞬間、トムが何らかの呪文を唱えた。身体全体が徐々に痺れ出す。
「脅しでは無いよ…強制だ」
確かにこれは強制だ。しかし対抗すれば良いだけの話だ。さて…どうやって対抗しようか。
「その汚ない手を離せ」
声と共に一瞬辺りが光ったと思ったら、首元に当てられたナイフと絡みつく指の感触が無くなり、痺れていた身体の自由が利く様になった。“自由になった”と思ったが…ナイフの冷たい感覚の代りに、誰かの腕が私を包んでいた。
頬を掠める青い長髪…綺麗なそれは見覚えがあった。
『イアン…』
麗を抱き締めていたのはイアンだった。髪より深い綺麗な瞳が麗を捕える。
「大丈夫か、麗」
『ぁ…大丈夫、平気…』
イアンがこんな形で自分を助けたり、こんな風に言葉を掛けるとは思いもしなかった。久々に感じた高揚感が一気に冷める。
「…無茶をするな」
イアンの呆れた様な目が気不味くて、麗は目を背けた。
『む…無茶して無いよ』
「ほぅ?じゃあ、首にナイフ突き付けられてんのはどういう事だ?」
『これから挽回を…』
「力が麻痺してんのに?」
………あ…そうか、いつもの様に抵抗する事は出来無いのか。
「忘れてたろ」
『……忘れて何か』
「忘れてた上、記憶を甘く見てたろ?」
イアンの言う通りだ。
私は自分の力が麻痺しているのをすっかり忘れていた上、心のどこかで“相手は実体では無い、記憶だ”と甘く見ていた。我ながら何て間抜けな…いつからこんなに争うのが好きに…
「ねぇ、何でここに入れたのか知ら無いけどさ、麗を返してよ」
ソファーに腰掛け、大人しく麗達のやり取りを見ていたトムは、立ち上がるとイアンを睨み付けた。
「お前のじゃねぇだろ」
その通りだ。私はトムのモノじゃ無い。
「俺のだ」
……それも明らかに違う。
「違うよ、僕のだよ」
何とも言えぬ気を発しながら言い合ってる中、非常に話し掛け辛いのだが…一体何の争いをしてるの?
「俺の…」
『ねぇ、トム』
「……」
「何かな、麗」
『私、日記に魔力送ってあげるから部屋に遊びにおいでよ。…遊びによ?』
まあ、ルシウスに返すまでだけど…ここに来たり、連れ込まれるよりはマシな筈だ。
「お前…懲りてねぇな」
『平気よ。外には術具もあるし、皆も居る……どう、トム?』
「…良いよ、面白そうだ」
物分かりが良過ぎて気になる。何か裏がありそうだ。
『イアン、帰ろ』
日記から出る感覚は、入る時よりも違和感が無かった。反射的に閉じた目を開けば見慣れた自分の寝室だった。日記に魔力を送ると、トムは早速やって来た。
『と言う事で…えっと、トム・M・リドルよ』
麗は直ぐにリビングにトムを引っ張って行き、そう紹介した。
「よろしく」
トム…作り笑いで皆を威嚇しないで欲しい。ああ、イアンったらあんなに眉間に皺寄せちゃって……イアンは大目に見て元からだとしよう。今は何故か蒼や翡翠…更には温厚な七叉まで眉間に皺が寄っている。
「麗、正気か…?」
「少々無理があるのではと思うんじゃが…なぁ、兄者」
「あぁ、絶対に」
翡翠は何時もの事だが、七叉に蒼まで酷い言い草だ。
「青いのも気にくわねぇけど、それよりも胡散臭いコイツの方が今は問題だ」
「なんだと…」
『イアン、気にしないで…翡翠も止めて』
イアンにまで喧嘩を売らないで欲しい。
『大丈夫よ…多分』
「信用ないね、僕」
「当たり前だろ」
イアンまで…
『トム、イアン…部屋の中で喧嘩しないでくれる?』
二人の喧嘩を止めていると、何かが頭に引っ掛かった。私…何か忘れてる…
『………クィディッチ!!』
「あぁ、時間だな」
ゆっくりと時計を確認する翡翠の横を通って寝室に戻った麗は、ローブを手に持つと、リビングに戻って来た。
『蒼、行こ!!』
「はぁ?!麗、俺は?!」
『翡翠は御留守番!』
「麗、僕は」
『トムは問題外!七叉、悪いけど三人の事御願いね!』
「…御意に」
麗はローブを軽く羽織ると、鷹になった蒼を肩に乗せ、出て行った。それから部屋に残された者がどうなったかは不明だ…多分止める者が七叉だけになったので喧嘩三昧だろう。だが仕方無い。クィディッチのメンバーがメンバーなので、練習に出なきゃ恐ろしい事になる。
結局の所、喜んで日記を借りたのに、トムの性格以外に特に得るモノも無く。ルシウス、早く日記を取りに来て…何て願いもした。口には出さないけど。
自ら返しに行ったりなんかしたら後が怖いから…
そんなこんなでトムは麗の部屋に一週間近く住み付いた。
その間、皆は兎に角トムを威嚇し続けていた。特にイアン…あの滅多に出て来無い挙句、今度の事までに私と翡翠以外に姿を見せていなかったイアンが、一週間も部屋に居座って仕事そっちのけでトムを威嚇し続けていた。
蒼は一週間、部屋にいる間ピッタリくっついていて、その度に翡翠と喧嘩をした。七叉は常に私の影の中に待機してトムを見張ってるし、部屋以外では翡翠がピッタリくっついている。
最早、私に自由は無い。
ジェームズ達はいつも以上にピッタリな翡翠が気になるらしく色々聞いてくるが、答えられる筈が無い。適当に誤魔化すのが得策だ。
『疲れた…』
クィディッチの練習を終えた麗は、翡翠と蒼を無理矢理使いに出すと、リビングのソファーに腰を降ろし、盛大に溜め息を吐いた。
此の頃クィディッチの練習と喧嘩を止める事ばかりしている気がする。
「大丈夫かい?」
何処からか現れたトムは、麗の隣りに腰を降ろすと麗の頭を優しく撫でた。
『トム…貴方は疲れ無いの?喧嘩ばっかりして…』
「まあ、記憶だしね」
確かに記憶が疲れる等聞いた事が無い。
『私も日記…造ってみようかな』
「やってみれば?結構これはこれで楽しいよ。対価は必要だけど」
良く考えたら日記を造っておけば、何かあってもハリーを助けられるかもしれない。
『そうね、トム…考えておくわ』
記録を残すなんて、イアンが許すかどうか分からないけど…
でも“保険”を掛けておくのは良い事だ──…