フライング×バースデイ
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『あっあのっ、ヒュウガ少佐!お誕生日おめでとうございますっ!』
「えっと、言いにくいんだけど…………オレの誕生日、明日だよ?」
その瞬間、私の頭は真っ白になりました。
『はぅぅ……』
ものすごく勇気を振り絞ったのに、こんなことになるとは思ってもみなかった。
先程の、少佐の衝撃的な発言を聞いた私は、あの場に居る事に堪えられずブラックホークの執務室を飛び出してきてしまった。
今居るのは、ホーブルグ要塞の屋上。
他に誰も居ないその場所で、落下防止用の柵の手摺りを握りながら、広大な第一区の風景を眺めていた。
……確かに、職場の同僚や友人からは「アリスちゃんはおっちょこちょいだよねー」とよく言われるが、正直、おっちょこちょいというより馬鹿なのだと思う。それも救いようのないくらい重度の。
だって、想い人の誕生日を間違えるなんて、おっちょこちょいで済むようなことではない。
かなり前からイメージトレーニングを積み重ねてたし、プレゼントもちゃんと準備していた。
そして……数日前から、夜もろくに眠れないくらいに緊張しまくって…………。
……多分その頃から正常な判断が出来なくなっていたのだろうが…。
『……何やってるんだろ……私の馬鹿…』
激しい自己嫌悪に見舞われて、手摺りに両手を乗せたまましゃがみ込む。
…………もう少佐に合わせる顔が無い。彼の職場であるブラックホークの執務室にも近寄れない。
むしろ誰とも会いたくない。
ああ…こうして引きこもりが出来上がるのかな…なんて思って、もう何回目かも分からない嘆息を漏らした。
「あー、やっぱりココに居たんだー」
ガチャリ、と、屋上への扉が開く音がした。
そして聞こえてきた声に身を固くしたが、振り返る勇気も無く、申し訳ないと思いながらも私は聞こえなかったフリをする。
心臓の音がまた煩くなってきた…。
「いやあ、さっきはびっくりしたよー。まさか今日おめでとうって言われるとは思ってなかったからさー」
私の心情を知ってか知らずか、彼はうずくまる私のすぐ近くの手摺りに寄り掛かってそんな事を言った。
私の傷口を目茶苦茶えぐっていることには気付いているのだろうか……。
『……。』
「まあまあ、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃない?誰にでも間違いはあるモノだよ」
『…………こんなの、間違いっていうレベルじゃないですよ…』
彼は慰めようとしているようだが、その言葉を受け入れることは出来ず、眼下のビル群に視線を遣りながらいじけたように呟く。
「別に、オレはそんな事を気にするほど器の小さい人間じゃないつもりだけど」
『……少佐が気にしなくても、私が気にするんです…』
だって、こんな大切な日を間違えるなんて。
これじゃあ……。
『これじゃあ、片想い失格です…』
その言葉は、無意識に声に出てしまっていたらしい。
「ふーん、アリスちゃんはオレに片想い中なんだ…」
少佐がそんな事を言ったのを聞いて、私は慌てふためいた。
『ななななっ、ち、違っ……あっ、違くないけどっ、でも違くてですね!今のは何と言いますか、冗談というか、戯れ言というか…っじゃなくて、あの、だからっ、その…っ』
気が動転している上に、否定も肯定も出来なくて、自分でも意味のよく分からない弁明をしてしまう。
そんな様子の私を見ながら少佐はニコニコ笑っていて、
『なっ何で笑うんですかっ!』
ちっとも面白くなんてないのに、と私は彼に抗議する。
すると、ごめんごめんと言いながらようやく笑うのを止めた。
そして、彼は冗談めかした口調で言った。
「じゃあさ、思い切って両想いになってみよっか」
『……ふぇ?』
突飛な発言に、一瞬意味を把握出来ず目を丸くする。
「ほら、ちょうど今日は七夕だし、どんなお願いだってきっと叶っちゃうよ」
数秒の間を置いて、ようやく彼が何を言ったかを理解して、
『い、いやいやいや!そっ、そんな簡単に両想いになれるわけないじゃないですかっ!』
またテンパる私。
「うーん、そうかなぁ?」
『そうですよっ、そうに決まってます!』
言って、はたと気付く。
…………何故私は想い人であるヒュウガ少佐とこんな話をしているのだろうか…。
「でも、オレはアリスちゃんの事好きだよ?」
聞き流してしまいそうなくらいあまりにもサラリと言うので、私はまた反応に遅れてしまった。
急な展開に着いて行けずにフリーズしている私に、彼はさらに言う。
「嘘じゃないよ。確かにさっきはびっくりしたけど……一番最初におめでとうって言ってくれたのがアリスちゃんで、すっごく嬉しかったし」
……心臓の鼓動が酷く煩い。
顔がどんどん熱くなっていく。
何か言いたい。でも言葉が上手く出て来ない。
心臓が耳のすぐ近くで動いているみたいに煩い。
こんなに煩いと、彼にもこの音が聞こえてしまいそうで。
何か、何か言わないと。
そう思って、声を絞り出す。
『あのっ………えと、その……』
彼の目を真っ直ぐ見れなくて、視線が中空を彷徨う。
途切れ途切れになっているけど、それでも言葉を探す。
私を見る彼の瞳が、あまりにも真剣で。
さっきまでの飄々とした雰囲気がいつの間にか無くなっていて。
だから、私も真剣に答えないといけないと思ったから。
『……わ、私も……………好き、です』
……言った。
言ってしまった…。
ずっと言いたかった言葉だからか、ずっと言えなかった言葉だからか、満足と後悔とその他諸々がごちゃまぜになったような気持ちが心を支配する。
少しの沈黙。
そして、少しだけ彼の表情を窺おうと視線を上げかけた時、私は少佐に抱き締められた。
「ありがと、…………大好きだよ、アリスちゃん」
彼の匂いと温かさに包まれて、今まで味わったこともないような幸福に満たされる。
彼の胸に顔を埋めると、私と同じくらいに早いリズムを刻む鼓動が伝わってきた。
少佐もドキドキしてたんだ…なんて思うと少し顔が綻んで、
私も彼の背中にそっと両手を回した。
フライング×バースデイ
(誰よりも早く、)
(貴方に“おめでとう”を)
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