過去拍手その③
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この世界にも、魔法使いと呼ばれる人間は存在する。
彼等は、ザイフォン使いや黒法術師とはまた少し違った存在だ。
文字を媒介にしてエネルギーを変換し操作する、という点ではザイフォンと変わりは無い。
しかし、決定的な違いがある。
それは、ザイフォンが自身の内包する生命エネルギーを利用するのに対し、“魔法”は世界中に満ちている自然のエネルギー、いわば“外部のエネルギー”を使うのである。
魔法使いは文字を刻み、その文字が持つ力によって空間に散在するエネルギーを収束・変換し、利用する。
彼等は他力本願な者達だ。
そして、そうであるが故に、彼等は諸刃の剣を手にする…。
自身の力であれば、程度の差はあれ、限界と呼ばれるものがある。
しかし魔法では、それが自身の力の遠く及ばぬ所まで行ってしまうのだ。
彼等は莫大な力を手にすることができる。
そしてその反面、それを扱えぬ者は大きすぎる力で身を滅ぼしてゆく。
そんな彼等は、帝国軍から危険視されていた。
彼等の強すぎる力は帝国の脅威になりかねない、と。
軍は魔法使いの存在をひた隠しにしている。
そのため、大部分の人間はその存在を知らない。
しかし、この世界にも魔法使いと呼ばれる人間は存在する。
その一人が、ここに。
「何処へ行った?!」
「探せ!何としても探し出せ!!」
『まったく……何なのよ……』
物陰に潜み、息を殺してうずくまる少女。
「くそっ……何処行きやがったんだあのアマ!!」
「早く捕まえないと……オレ達、クビにされちまう…!」
一方、彼女を追うのは黒い服に黒い帽子の二人組。
街でも時々見掛けられる、帝国近衛兵だ。
『あいつら何でこんなにしつこいんだよ……。しつこい男は嫌われちゃうぞー』
近衛兵達の事情など知る由も無い少女は、そう呟きながら、腰のベルトに付いているポーチから白いチョークを取り出して地面に文字を書き始めた。
《翼無き者よ 空へ羽撃く力を授けん》
道幅いっぱいに、大きな落書きのように。
力強い文字が、地面にしっかりと刻まれた。
『よし、これでいいかな』
そして、満足げに頷く。
「居たぞ!!」
「もう逃がさねぇ!!」
『げ……もう来たよ…』
二人組の姿を視界の端に捉えた少女は嫌そうに呟き、すぐに踵を返して走り出す。
今度こそ逃がさないと鼻息が荒くなっている近衛兵達がその後を追う。
そして彼等は、先程少女が書いた文字を踏んだ。
無論、それがどんな効果を自分達に及ぼすかを彼等が知るはずも無い。
それを見て、少女は楽しそうな笑みを浮かべた。
次の瞬間、
バチッ!!
「「うわぁぁぁあああああっ!!!??」」
何かが爆ぜたような音がして、二人組の体は空に向かってポーンと飛んでいった。
『踏んだら50メートルは飛んじゃうからなー。お二人さん、ご愁傷様でーす』
立ち止まり、キラーンと空の彼方へ飛んでいった二人を見送ってから、少女は文字の書かれた場所へ戻る。
『一般人が踏んじゃったら大変だからね。私って偉ーい☆』
一人でそう言いながら、別のポーチから黒板消しのような物体を取り出して文字を消す。
『よし、これでオッケーだね』
原型がわからない程度に文字を消して、少女はその場を去ろうとした。
その時、
「つっかまーえた☆」
そんな声と共に、何者かに後ろから抱き締められた。
突然の事に少女は一瞬怯んだが、すぐに素早くポーチに手を突っ込んで紙で出来た札を取り出した。
《其方は我に近付く可からず》
振り返って、そう書かれた札を相手にペタリと貼り付ける。
すると、
「うわぁっ!?」
その人間は思いっきり後ろへ吹っ飛ばされた。
『な、何なんだよお前は!!三人目が居るなんて聞いてないぞ!!』
ぐはっ、という声を上げながらT字路の壁にぶつかった男に向かって少女が叫ぶ。
『まったく何なのよ今日は!!私はただハゲジジイのヅラを取っただけなのに何で軍人に追い掛け回されないといけないの?!』
「…………それはその“ハゲジジイ”が位の高い貴族だからだろう」
『っ!?』
またしても後ろから聞こえてきた、今し方吹っ飛んだ男のものとは違う低い声。
少女が反応するより早く、その声の主は彼女を背後から組み伏せた。
「あまり手間を掛けさせるな。…………ヒュウガ、何時までそこで寝ている」
『離せ!離せよこの野郎!!』
「だってさあ……いきなり吹っ飛ばされたらびっくりするじゃん……」
参った参った、と言いながら、ヒュウガと呼ばれた男は立ち上がって少女の方へ歩み寄る。
そしてあと数歩で辿り着くという所で、
「………………うわぁぁっ!!?」
またしても彼は吹っ飛んでいった。
『うわぁ、馬鹿だー』
「まったくだ」
そんなヒュウガを見て、組み伏せられている少女と組み伏せている男の意見が一致した。
「何!?何で!?どうなってるの!?」
「ヒュウガ、その札を取れ」
札?と不思議そうな顔をしたヒュウガだったが、自分の軍服に文字の書かれた札が貼り付いているのを発見したらしい。
「貴様が飛ばされたのは、それが原因だ。それを付けている限り貴様はこちらに近付けない」
「え!?こんなのが?」
『ちょっとー、バラさないてくださいよー。気付かずにエンドレスで吹っ飛ばされてれば良かったのに…』
「ちょ、君酷くない?」
ヒュウガが若干落ち込みながら言う。
『…………で、あんた達は私をどうしようと思ってるワケ?』
押さえつけられたままの少女が、不機嫌そうな声音で言った。
その言葉を聞いた男が答える。
「その事だが…………貴様の身柄は、これから我々ブラックホークが預かる事になった」
『は!?何言ってんのこのオッサン』
少女がそう言った瞬間、その場の空気が凍りついた。
「………………」
『痛い痛い痛い痛い!!ギブ!ギブだってば!!』
思い切り関節技をキメられて、少女が悲鳴を上げる。
仕舞いには死ぬ死ぬと叫びだしたのを見て、男は少し力を緩めてため息を吐いた。
「……ともかく、それが上層部の命令だ。我々はそのためにやって来た。まぁ、貴様が騒ぎを起こしてくれたおかげて探す手間は随分と省けたがな」
そう言うと、少女を無理矢理立ち上がらせて歩き出す。
彼等が向かう先には、近代的な建造物の中に鎮座するホーブルグ要塞。
少女はそれを見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。
これが、彼女とブラックホークの出会いである。
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