My answer is...
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『あっ…!』
やっちゃった、そう思った時にはもう遅かった。
両手で抱えていた山積みの書類がふとした拍子にバランスを崩して、不規則な動きで舞い落ちた書類達は無惨にも廊下一面に散らばる。
その様子を半ば呆然としながら眺めた後、我に返った僕は慌てて回収作業を始めた。
くれぐれも慎重にと上司に言われていたにもかかわらず盛大にぶちまけてしまったことがバレたらどうしようと内心冷や汗を流しながらも、書類を一つ一つ手元に集めては向きを整えて積み重ねていく。
幸い順序が重要なものではなかったが、如何せん量が多いのですぐには終わらない。
こんなことになるならもっと注意して運べばよかった、と少し後悔しながら書類を拾い集めていると。
誰かが視界の端から僕に紙を差し出した。
通りかかった人か何かが、様子を見兼ねて手伝ってくれたらしい。
その書類を持つ手から辿って視線を上げると、見知った紫の瞳と目が合った。
『アヤナミ参謀!』
その瞳の持ち主の名を呼ぶと、随分派手にやったなと溜息混じりの声が降ってくる。
その言葉に、僕は苦笑いしか出てこなかった。
恐れ多くも参謀長官様に手伝ってもらったことにより、思ったより早く書類達は山積みの状態に戻った。
『ありがとうございました、アヤナミ参謀』
僕は参謀に頭を下げる。
「礼は要らぬ」
それより、と彼は言葉を続けた。
「……あの話、受ける気になったか?」
あの話、というのは、ブラックホークに入らないかという話だ。
僕の父は黒法術師で、僅かではあるが僕もまたその血を継いでいた。
それを知ってか、彼は幾度も僕を彼の部隊に誘う。
でも僕は、黒法術もほんの少ししか扱えないし、かと言って武術に秀でているわけでもなかった。
自分の実力は自分が一番良く分かっている。
そんな僕にでも、アヤナミ参謀が本当にすごい人なんだっていうことくらいは分かるから。
きっと足手まといにしかならない。
それに僕は、今の生活も気に入っている。
だから、首を縦には振れなかった。
もう何度目になるか分からない断りの文句を口にすると、アヤナミ参謀は「そうか……」と少し落胆したような声音で言う。
「次に会う時には、お前の気が変わっていれば良いのだがな」
最後にそう言い残して去って行った彼の背中を、僕は何も言えずに見送った。
* * *
「お疲れーアリスちゃん。重かったでしょ?ごめんねーそんなの頼んじゃって」
自らの部署に戻ると、そんな上司の声に出迎えられた。
『いやいや、大丈夫ですよこのくらい』
運んできた書類を机に置いて、大丈夫とは言ったもののやはりそれなりに疲れを訴えている両腕をぐぐぐっと伸ばす。
僕が今勤めているのは事務方専門の部署だ。
軍では珍しく、実際に戦地へ送り出されたり地域の治安維持に駆り出されたりすることは無い。
そのせいか、ここは女性軍人の割合が比較的高い部署だった。
今声を掛けてくれた上司も女の人だ。
「あーそうそう、今度はコレ届けに行ってきてくれない?」
思い出したようにそう言うと、彼女は数枚の紙の束をヒラヒラと振りながらこちらへ差し出してきた。
僕はまだまだ下っ端だから、上司や先輩方の集めた資料の運搬やコピー取り等の雑用が回ってくる。
こうして書類の配達を頼まれるのもよくあることだ。
無論断ることも無く、上下に揺れてしたそれを受け取る。
そして宛先を確認して、凍りついた。
――……参謀部宛って…。
『……何でこれを僕に…』
ついつい本音が出てしまった。
だって、さっき会ったばかりなのに…。
「ほら、アリスちゃんって何でか知らないけど参謀長官に目付けられてんじゃん?だからさ、丁度良いかなーと思って!」
丁度良くないです、と言いたかったが、よろしくぅ~と笑顔で手を振っている上司を見るともう諦めるしかなさそうだ。
内心で溜息を吐きながらも、僕は書類を持って目的地へ歩き出した。
* * *
「また会ったな」
『……そ、そうですね…』
参謀長官室に通されて、何だか高級そうな机越しにアヤナミ参謀と対面する。
彼は何やら楽しそうな笑みを浮かべているが、僕は何とも言えない気まずさを感じていた。
――ま、まあ、書類だけ渡してすぐ帰、
「まあ座れ」
……ろうと思っていたら、応接用と思われるこれまた高級そうなソファを勧められてしまった。
断れない雰囲気を醸し出している参謀殿の無言の圧力に負け、僕はふかふかのソファに不本意ながらも腰を下ろす。
するとアヤナミ参謀も僕の正面のソファに腰を下ろした。
「大体、お前は何故私の誘いを断るのだ」
長い足を組み、腕も組んで座った彼がそう訊く。
「悪い話ではないだろう?」
アヤナミ参謀は、すっと目を細めて僕を見据えた。
確かに、彼の言う通り悪い話ではない。
黒法術師界隈ではフェアローレンの生まれ変わりとまで称される彼に声を掛けてもらえるなんてとても光栄な事だし、そんな彼に仕えたいと思ったことだってもちろんある。
けれど……。
『だって……ほら、僕なんて全然戦力にならないと思いますし、アヤナミ参謀の役に立てるわけないですから……』
何とも悲しい現実ではあるが、それが事実なのだから仕方ない。
僕の言葉を聞くと、参謀は静かに息を吐いた。
これだけ何度も断っているのだから、さすがにもう諦めてくれるだろう。
そう思っていると、彼はおもむろにソファーから立ち上がり、僕の正面まで来るとそのしなやかな長い指で僕の顎を持ち上げた。
必然的に、彼の紫の瞳と視線が交わる。
そして彼は微笑みながらこう言うのだ。
「私は戦力が欲しいのではない。……お前が欲しいのだ、アリス」
――嗚呼、反則だ、こんなの。
My answer is...
(ほ、本日付けでブラックホーク配属になりましたアリスです!よろしくお願いしますっ)
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